古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~

2012

『古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~』は2012年にWIN用として、Yatagarasu(八咫鴉)から発売されました。
考えながら遊べるADVをノベルの中で表現しようとした、新しさと懐かしさの同居した作品でした。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・閑静な住宅街の一角に佇む喫茶店 『紅茶館・童話の森』。
絵本や童話、壁掛けオルゴールなどが並ぶアンティークな店内。
紅茶の優しい香りと、俗世離れした女性店主が訪れる客を迎える。
主人公・名波行人は不思議な既視感に誘われるまま、喫茶店でアルバイトを始め―― その日、店に大きな木箱が届く。
木箱に入っていたのは、大量のウサギのぬいぐるみ…… そして、銀色の髪に紅い瞳をした不思議な少女だった。
サキと名乗った少女は行人に伝える。『“運命の輪” が狂っていること』
『一週間後、行人には “死” が約束されていること』
『行人に近しい人間には “不幸” が訪れること』
サキの言葉通り、行人を中心に次々と不幸が訪れる。
半信半疑ながらも、行人は彼女を信じるようになっていく。
『助かる方法は、狂った “運命の輪” を元に戻すこと』
そんな彼らに残された日は、たった一週間。「あえて言わせてもらうならば――“悲劇” へようこそ、だ」

<ストーリー>

まずストーリーとしては、SF系のループものとなるのでしょう。
製作者自身が某作品のオマージュというか、意識して作ったそうなので、その作品の名が挙げられることは必然ではあるのでしょう。
そこまでなら全然構わないのですが、何故かSF系の作品って、すぐに他の作品の名もいろいろ挙げられる場合が多いです。
でもこの手のジャンルが登場する度に思うのですが、結局のところいつも、いたちごっこなんですよね。
若い人が斬新だとか新鮮だとか言い、ちょっと古い人が別の「何々」と似ているだの何だのと言い出す。
でも、もっと古参の人から言えば、その「何々」にあたる作品だって、別のもっと古い何かと似ているだろうにと思ってしまうわけでして。
仮にその点を指摘すると、その「何々」は独自に昇華しているとか言い出すのですが、それを言うなら新作であるこの作品だってそうでしょとなるわけで。
昇華か模倣で終わったかなんてのも読み手次第で異なりうるし、少し古いノベルを褒めつつ新作のノベルを褒めない場合は、結局自分が最初に触れたものを何とか褒めたいだけの屁理屈に終始し、実質的には何も有益なことを語っていないことが多いわけでして。
それにそもそもジャンルなんてのはある程度似た部分もあるわけで、いちいち文句を言っていたら学園恋愛ものなども成り立たなくなってしまいます。
だからこういう作品が出ると決まって出てくる何々に似ている系の発言は、個人的にはどれも阿呆臭いの一言で終わってしまうのです。
だから個別の作品名を挙げることには懐疑的なのですが、それでも個人的に思うところも幾つかありまして。

まず、『古色迷宮輪舞曲』を好意的に見るならば、様々に張り巡らせた伏線をきちんと回収していくあたりはしっかり纏まっており、基本的に全体の構造は良くできていたのだと思います。
その時点で本作は、少なくとも単なる模倣には終わっていないのでしょう。
だから私は、好意的に見ることができるのです。

もっとも、個別具体的な作品名を出さないにしても、この手のジャンルとして良く見かけるようなシナリオ上の要素が多分にあり、これは新しいなと思える要素がなかったことも確かです。

つまり、しっかりまとめているので確実に及第点以上ではあるし、ストーリーに関して、作品としての全体の構成の観点からは十分なのですが、個々の部分で、他にはない本作ならではと呼べるほどの長所が少ないこともまた、確かなのかなと思うのです。

それと、私は、この手の作品を散々プレイしてきましたので、読んでいて特に違和感もなくプレイすることができました。
しかし、クリアしてから気付いたのですが、この手のジャンルに免疫のない人には、用語などに分かりにくい部分も結構あったのではないかと思うわけでして。
本作は考察云々といった複雑な類の作品ではないはずなのですが、もしそう思ってしまう人が出てくるのだとすれば、それは単にライター側で説明不足だったのでしょう。
以上から、トータルでは良い部分も少し物足りない部分もありますので、ストーリー全体としても十分に及第点以上ではあるものの、大きな長所とまでは言えないのかなと。

次に、キャラは、一部ストーリーの流れに動かされているような部分もありましたが、基本的に好きなキャラも多かったのかなと思います。
個人的には、古宮舞がかなりツボでした。
それだけでも個人的には大満足です。

<ゲームデザイン>

もっとも、『古色迷宮輪舞曲』に関しては、むしろストーリーやキャラよりも、ストーリーと後述するゲームシステムの融合を狙った点を評価すべきなのでしょう。

物語には、それぞれ適したゲームシステムがあるはずであり、それを実現できるのがゲームならではの特権なのです。
だから本来ならば、物語の数だけゲームシステムも異なりうるはずなのですが、現実には、今のノベルゲーは同じ構造の読み物ばかりですからね。
そんな中で本作は、単に読み物に終わらせず工夫を加え、それも取ってつけたようなミニゲームではなく、ストーリーに密接不可分なシステムをつけようとしたということで、この姿勢は非常に応援したいところであります。
昔はこういうブランドが一杯あったのですが、今はほとんどないですからね。
それだけにいつも以上に応援したくもなるのです。

ただ、問題は、その肝心の中身なのです。
細かい操作性に難があるなどの問題もありますが、それは一旦置いておくとして。
『古色迷宮輪舞曲』は基本は読み進めるノベル系のADVなのですが、そこに幾つかのシステムが導入されています。
その1つが「キーワード」であり、これはプレイ中のテキスト内に登場するキーワードを収集し、それを別の場面でアイテムのように使用するというものです。
ノベル形式でこれをやったという点ではやや新しくも見えるのですが、基本的には得たアイテムを利用するという、インベントリーを用いた伝統的なADVと同様のシステムと言えるのでしょう。
すなわち、伝統的なADVが「物」を使用して先に進んでいたのに対し、その物が「言葉」に代わったというだけに過ぎません。
だから見せ方やニュアンスという意味では新しそうに見えつつも、基本的には昔から多くあったタイプと同じなのでしょう。
もちろん、その見せ方やニュアンスの差別化を評価することはできるでしょうから、斬新とまでは言えないにしても一定の評価はされて然るべきだと思います。

しかし、問題はその完成度なのかもしれません。
ゲームとしての理想を言うならば、序盤は易しくしつつ、次第に複雑かつ高難度にもっていくべきなのだと思います。
ADV作りの上手さというのはこういう部分に現れるもので、上手い人はきちんと段階を踏んで作っているのです。
しかし、本作の場合は、序盤の紅茶の入れ方が最も歯応えのある部分でもあり、その後はあまり有意義に使われていません。
その意味では、ちょっと企画倒れのような感じでもあり、端的に言えば練り込みが足りないわけですね。
まぁ、それでも単に読むだけよりはよっぽど楽しめるので、このシステム自体は一応ありなのだと思います。

また、別のシステムとしては、「運命量」というシステムがります。
これは何か行動をすると運命量が減ってしまい、なくなるとゲームオーバーでやり直しになってしまうというものになります。
つまり無駄な動きをしないよう、じっくり考えて行動しろという内容のシステムなわけですね。
作品の内容に応じて「運命量」という言葉にアレンジしていますが、基本的には行動に制約を加えるタイプのシステムであり、これまた昔の80年代のPCのADVに多く見られた方向と言えるでしょう。
総当りを防ぎつつしっかり考えさせるということで、このシステム自体もありなのだと思います。

一つ一つはどれも十分にありだと言えるのですが、厄介なのは、その組み合わせなのです。
それこそ、例えばポイント&クリック式のADVには、インベントリーを用いてアイテムを使用させる形がセットになることが多いです。
あちこち画面内をクリックをするのはトライアル&エラーの精神であり、どのアイテムを使うべきかを試行錯誤するのもまた、トライアル&エラーの精神であり、両者は方向性が同じなのです。
方向性が一緒で組合わせても相性が良いから、セットで用いられやすいわけですね。
本作でいえば「キーワード」システムがこれに該当するわけで、基本的な楽しみ方の方向性はいろいろ試すことにあるのでしょう。
優れた作品というのは、そのトライアル&エラーにおける失敗の過程に、プレイヤーを飽きさせない試みや次につながる何かを加えているものなのです。
他方で、「運命量」は、80年代のPCのADVに多く見られたような、行動を制限することで総当りを防ぐような方向性を有しています。
これはこれで一つの方向性なので、十分面白くなる可能性はあります。
しかし、「キーワード」システムの持つ方向性と、「運命量」システムの持つ方向性とは異なるわけで、つまりベクトルが反対なのです。
自由に繰り返すことで本領が発揮できるシステムと、制約することで考えさせるシステムは正反対とも言えるのですから、基本的に相性が悪いのです。
本来なら食い合わせの悪いはずの組み合わせだけに、美味しく感じさせるには相性の良い物同士の組み合わせ以上に、より繊細で緻密な調整が必要となるのです。
相性の良い組み合わせ同士なら、多少適当でも何とかなるんですけどね、
そうじゃない場合は、どうしてもセンスや経験でもろに差が出てしまうのですよ。
理屈は分かっているけれど実際の調整が難しいことから、昔のADV、特に洋ゲーのADVなんかも一見すると似ているような作品であっても、実際にプレイすると良いのから悪いのまでいろいろ分かれてしまうわけですね。

本作の場合、結果的に「運命量」の調整が主になってしまい、「キーワード」の方の魅力が十分に発揮できませんでした。
また、なまじ「キーワード」システムがあるものだから、「運命量」調整ゲーとしての魅力に関しても、若干足を引っ張られた感じになってしまいました。
いろいそな要素を欲張らずに、むしろどっちか一本に絞った方が、結果的には面白くなったかもしれませんね。
システムは、ただ詰め込めば良いのではなく、組合わせも大事なのです。
組み合わせの相性に逆らい、あえて茨の道を歩む場合、もちろんこちらの予想を超える化学反応を生み出せれば、なるほどこういう方法があったかと絶賛されるでしょう。
しかし、失敗してしまうと、二兎を追う者は一兎をも得ずというったように、どちらのシステムも死ぬ危険があることも覚悟すべきであり、だからこそ余計にもバランスに気を配る必要があったのでしょう。
本作にあるフローチャートについても、変にいじろうとしてかえって分かりにくかったり、全体的にとりあえず考えられる物を詰め込んでいろいろいじってはみたものの、トータル面での配慮に欠けた作品という感じになってしまったのかなと。
難易度をどう感じるかはその人の経験次第で感じ方も変わると思うので、個人的にはあまり興味のない話なんですけどね。
もっと本質的なトータルデザインの部分で、未熟さを感じてしまったというところでしょうか。

<評価>

個人的には、読むだけの紙芝居しかないという状況は飽き飽きしています。
ADVであっても、もっといろいろ工夫する作品があっても良いはずです。
そして『古色迷宮輪舞曲』は、単に読むだけには終わらせないよという姿勢を明確に打ち出しているわけでして。
肝心の中身については上記のようにいろいろ思うところもあり、私には大絶賛するということまではできません。
できないのですが、実際、本作は、問題点はあれども、それでも単なる読み物の大半よりはずっと楽しかったです。
そして何より、久しぶりにアダルトゲームでADVをプレイしたって気になれたことは、素直に嬉しいことだなと思いますし、こういう形態の作品はもっともっと増えて欲しいと思います。
したがって、総合でも名作に近い良作ということにしておきます。

ランク:B(良作)

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古色迷宮輪舞曲DL

Last Updated on 2024-04-18 by katan

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