『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』は、2017年に発売されました。
オリジナルは2016年にsteamにて発売され、その後、Playismで日本語化され、PC版だけでなく、PlayStation Vitaからも発売されています。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
商品紹介・・・荒廃した世界にある、バー『VA-11 HALL-A(ヴァルハラ)』のバーテンダーとなり、様々な人々と交流していくビジュアルノベル。
主人公が住むディストピアの住民達は、権力の支配から逃れるためにヴァルハラにやってくる。
バーテンダーであるあなたは、この闇の世界の住民達にカクテルを提供して、様々な情報を入手していくことになる。
それらの情報から紡ぎだされるディストピアの日常とは…。
<ゲームジャンル>
まず、どうでも良いことなのかもしれないけれど、一つ気になることから。
ノベルゲームというのは、80年代から存在するわけで、その形式も細かく見るといろいろあります。
その中の一つとして、画面全体にテキストを表示させつつ、それでいて、キャラをシルエットで表示させないものを、ビジュアルノベルと呼んでいました。
したがって、画面下部にあるテキスト欄のテキストを読みつつ、選択肢を選ぶことで進む形式の作品は、広義ではノベルゲームにはなるのですが、ビジュアルノベルではありません。
ノベルゲームが最も多いのは、日本のエロゲですが、エロゲ市場において、画面全体をテキストで覆うタイプは現在はほとんどないことから、公式にもビジュアルノベルを称する作品はほとんどありません。
steamは海外が中心であることから、日本で発達したノベルゲーム事情に疎かったのでしょうね。
日本で発売されたノベルゲームは何でもかんでも、ビジュアルノベルみたいな表記がなされることが多いです。
さらには、日本産のRPGに対してJRPGと呼ぶように、日本のADV全般に対してビジュアルノベルと呼ぶことも、多く目にしています。
私は何でもかんでもビジュアルノベルという傾向には、当初とても抵抗がありました。
しかし、steamでゲームをする人が、日本におけるビジュアルノベルと使い方と海外でのそれとは違っているのだよと、海外では日本産のADVを「VN」と呼んでいるのだと言っていたのを見て、まぁそういうものかと納得したものでした。
しかし、本作は、ベネスエラのクリエイターによって製作された作品になります。
ベネズエラ産のVNとなると、上記の定義も崩れてしまいます。
なんかもう、VNという言葉の指すものがぶれすぎて、もはや言葉として持つ意味はなくなっているように思います。
だからどうしたと言われると、確かにゲームをするだけの人には関係はないのですけどね。
表記が何であれ、プレイする人にとって大事なのは、ゲームの中身なのですから。
ただ、ゲームの歴史とかを語る際には、注意が必要です。
言葉の持つ意味が変化しているということを、ろくに理解もせずに書かれている記事を、これまでにも一杯見てきましたからね。
当たり前のようにVNと使われても、その言葉が何を指すのかは、読み手によって全然違うのだと、この言葉を使う人は把握しておく必要があるのでしょう。
まぁ、海外でVNと使われている分には、もうあまり気にならなくなりましたが、日本の批評家が安易にVNとか使っているのを見ると、私はその時点で、その人の言うことが信用できなくなってしまいます。
<ゲームデザイン>
前置きが長くなってしまいましたが、本作は一部で高い人気を得ています。
その理由はなんなのかと考えると、究極的には、ゲームデザインにあるのでしょう。
本作の主人公はバーテンダーです。
バーテンダーのやることは、客と会話をしながら、客の要望に合わせて、カクテルを作ることです。
だから本作でプレイヤーがやることは、カクテルを作ることだけです。
でも、それで十分なのです。
上記の設定に従えば、ゲームにとって必要な要素は、カクテル作りであり、それが必須であると同時に、逆にそれ以外は不要であるともいえるのでしょう。
ここに無配慮に選択肢とかデカデカと画面に表示されたら、バーテンダーとして世界に溶け込んでいるプレイヤーを、現実に引き戻しかねないのであり、そうなると雰囲気は台無しです。
とても当たり前なことのようですが、それすらできていない作品が多い中で、本作は、必要なことをきちんとできていたということなのでしょう。
そして、バーには、様々な人がやってきます。
バーテンダーである主人公が望むもの、望まないものに限らず、様々な人がやってきて、様々な話や要望をしていきます。
違和感のない世界作りのためには、多彩な住民と物語が必要となります。
本作には、様々な客がきて、いろんな話をしていき、その客との交流が最大の醍醐味になっています。
つまり、必要なことがきちんとできていたということです。
残念ながら、今の日本のノベルゲームでは、主人公との恋愛を絡めたようなものばかりになり、主人公がバーテンダーであることを活かしたものは、なかなか出てこないと思いますし、そこが本作との違いなのでしょう。
私はADVにおいてゲームデザインを常に重視していますが、今の日本においては、重視されなくなってきています。
でも、ゲームにおいて最も重要な要素であることを、一見するとショボく見えるこの作品から、再認識することができるのではないでしょうか。
<感想>
ムードを生み出すサウンドを聞きながら、プレイヤーと個性的なキャラとのやりとりを楽しみ、その交流を邪魔せず、かつ促進するようなゲームデザイン。
本作にファンが生まれるのも、当然といえば当然なのでしょう。
ただ、本作が問題のない作品かというと、決してそうではありません。
まず、プレイヤーが行うカクテル作りですね。
ここが凝っていれば、バーテンダーシミュレーター的な楽しみ方もできたでしょう。
しかし、本作におけるカクテル作りは単調であり、作業と言われかねません。
この部分だけに注目してプレイすると、間違いなくガッカリすることでしょう。
また、本作では、このカクテル作りにより、ストーリーの分岐が発生します。
一般的な選択肢でない選択肢により分岐させることは、これまでにも幾つも例があります。
芸術を題材にした作品で、どの色を選ぶかにより分岐する作品とかもありましたしね。
そして、そのような構造の場合、分岐が分かりにくいと批判されることもあり、本作もそれを免れるだけの工夫はなされていません。
グラフィックについては、レトロゲーをリスペクトした作品ということで、昔のゲームのような雰囲気となっています。
まぁ、画面は見ればすぐわかりますので、俺は最新の美麗なグラフィックでなければだめという人は、最初からプレイしないでしょうからね。
だから特に問題も生じないのでしょうが、どうしても人を選ぶことは確かでしょうね。
私は、古いゲームの感想も多く書いていますが、基本的には現在進行形でプレイしているのであり、常にその時代の最新のものを求めています。
だから意図的に古くしたみたいな作品は、正直なところ、あまり好きではありません。
もっとも、一概に否定するつもりはなく、最新の技術を用いつつも8色で表現してやるぜとか、そういう制限の中でこだわりを見せて作るのであれば、それは十分にありだとは思うのですが、本作からそういうところは伝わってきません。
そもそも、本作は、PC98時代をリスペクトと言ってますが、そこに違和感があります。
本作のグラフィックを見ていると、PC88時代後期の作品を見ているようです。
もっと言うならば、80年代から90年頭にかけての、PCエンジンのADVのような感じですね。
PC88後期の優れたADVの演出は、本作よりもっと良かったわけであり、PC98に関しては、言わずもがなというやつです。
過去の時代をリスペクトするのは構わないけれど、それで過去の作品より明らかに劣っているのでは、そこに一体何の意味があるのか、疑問に思ってしまいます。
まぁ、グラフィックに関しては、レトロ風にしたのだということで、これはこれで良いとしても、問題はシステムです。
見た目をレトロ調にしたからといって、その中身までレトロに合わせる必要はないのであり、あくまでも現代の作品なのですから、現代的なシステム周りを構築すべきです。
まぁ、steamのADVとかしかプレイしていないと、あまり気にならないかもしれませんけどね。
それこそ、何年紙芝居ばっか続けているのかと揶揄される、現代のアダルトゲームのノベルゲーにおいても、システム周りは日々快適になるよう進化しているのです。
私も、何でいまだにエロゲをやっているのかとか、たまに言われたりもしますが、そこは一人の現役ユーザーとして、今のアダルトゲームの良いところは、しっかりと主張させてもらいます。
本作は現代のノベルゲームである以上、現代の他のノベルゲームと比較されても、それは仕方のないことでしょう。
そして本作は、今の日本の商業ノベルゲーと比べて、システム周りは非常に弱いですし、同人ゲームのそれと比べても弱いです。
私はノベルゲームのシステム周りには、あまり煩くない方ですが、ノベルゲーマーの中にはこだわる人もいます。
日本の最新のノベルゲームをプレイし続けている人が、本作をプレイすると、ストレスを感じてしまうおそれは十分にあります。
本作は、違和感なくその世界に没頭できるというのが、生命線だと思うだけに、システム面から生じるストレスは、人によっては致命傷になりかねません。
レトロゲームをリスペクトするのは構いませんが、現代の作品である以上、現代の良いところは素直に取り入れるべきなのです。
違和感がなくプレイできることが生命線という点では、洋ゲーの場合、翻訳も大事になります。
翻訳に関しては、不満もちらほら見かけますが、本作の翻訳者とは一応面識があるので、指摘だけにとどめておきます。
あとは、個人的な感想になってしまいますが。
様々な人との交流を楽しむ作品って、私は実はかなり好きなんですよね。
私の記事を良く読んでいる人は、わかるかなとも思いますけど、90年代半ば頃には、結構そうした作品があって、その中で高く評価した作品も多いです。
だから好きなんだけれど、どうしても、90年代半ばの優れた作品を想起してしまいます。
また、本作の世界観はサイバーパンクをベースにしていますが、90年代半ばのPCゲーって、サイバーパンクを題材にした作品が多かったです。
むしろ食傷気味になって、もうこういうの要らないよと思ったくらいです。
それに加えて、本作のグラフィックもレトロ風ですからね。そうなると、昔にあったような内容を昔風に表現し、全部が昔風となってしまうと、どうしても当時を思い出し比較してしまうし、今更本作に何の価値があるのかなと、疑問に思ってしまいます。
これが最先端の美麗なグラフィックのもと、こういう内容の作品であったならば、過去にあったような作品を現代的に再表現したということで、単純に評価できたと思うのですけどね。
<評価>
ゲームにおいて一番大事な部分がしっかりしていたので、総合では良作と言って良いと思います。
根幹となる部分はしっかりしているのだけれど、細部が大雑把な作品という感じですね。
そこがインディーズらしいといえばらしいのかもですが、改善すべき点も多いことから、完成度が高いとは言えないでしょう。
まぁアイデア先行でも、それが突き抜けていれば、それで十分名作足りうるし、むしろ私の好むところではあるのですけどね。
過去の作品をリスペクトするのは構わないけれど、その影響下で小さくまとまってしまっているというか、好きな作品を真似た範疇でおさまってしまっていて、もう一つ個性が発揮しきれていないのかなと。
ただ、良作ではあるのだけれど、昔の作風ををありがたがる懐古と呼ばれそうな人でありつつ、それでいて昔のPCゲームには案外疎いような人で、しかも最新のノベルゲームとか知らないような人でないと、心底は楽しむことはできないようにも思いますし、その点で人を選ぶ作品ではあるのでしょう。
まぁ、どれかに該当すればそれなりに楽しめるでしょうし、steamのゲーマーには多そうなので、市場には合致しているのかもしれませんけどね。
(PSVitaだと、またユーザー層が異なるうえに、移植の兼ね合いもあるので、少し微妙ですが・・・)
いずれにしろ、今の日本のノベルゲーのクリエイターも、この作品から学ぶことはありますが、海外のインディーズのクリエイターも、日本のノベルゲーから学ぶことも多いなと思うわけでして。
今のエロゲには閉塞感が漂っているけれど、本作が絶賛される時点で、steam系には違った意味で閉塞感を感じてしまったのは、少し残念ではありました。
ランク:B-(良作)
Last Updated on 2024-08-17 by katan


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