飢えた子羊

2024

『飢えた子羊』は2024年にWIN用として、ZerocreationGameから発売されました。

中国のブランドによる明朝末期の中国を舞台にした作品であり、外国産のノベルゲーもここまできたかと思わされた作品でしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
明朝末期崇禎五年(1632年)、盗賊良とその仲間は人買い業者からの依頼を受けました。
良は4人の少女を華州城から洛陽城まで運ばなければなりません。
千里に及ぶ旅路で、一行は華州、ブン郷、陝州を経由し、最終的に洛陽に到達します。
当初、良は自分が運んでいる少女たちが裕福な家に養女として売られるのだと思っていました。
しかし、旅の途中で「穂」という名の少女が良にこの運送の「真相」を明かします。
実は、少女たちを買ったのは千年以上も修行してきた豚妖という存在だったのです。
豚妖は少女を食べることを楽しみとしており、毎年の誕生日になると陝の地から少女を集めて食していました。
穂の姉も、そのために命を落としたのです。
穂は、良に運送を中止し、できれば彼女と一緒に豚妖を暗殺し、姉や長年命を奪われた少女たちの復讐を果たしてほしいと願っています。
良は、穂の話を完全には信じていません。
なぜなら、穂には多くの謎が隠されているように見えるからです。
良は旅の中で情報を集め、真相を解き明かし、最終的な選択を行います。

背景・・・「歳は大飢饉、人が人を食らう。」(明史 巻二三三 列伝第一二一)
物語の背景は明朝末期、崇禎元年から崇禎14年にかけて展開されます。
物語の主な舞台は陝、晋、そして中原です。
当時、耕地整理が深刻化し、国内外で問題が多発しており、さらに多くの災害が発生していました。
長年の大災害のあと、朝廷は過酷な政策を変えることなく、最終的に人々は飢餓で死に、反乱軍が各地で蜂起しました。

<感想>

本作は中国のブランドが制作した作品であり、明朝末期を舞台として、史実に沿った世界観の作品になっています。
食人文化も残っていた頃という、本来であれば、あまり扱いたくないような分野に対し、中国のブランド自らが目を背けず積極的に挑んだことに、まずは敬意を表したいと思います。

私は日本人ですし、歴史が好きということもあり、日本の歴史については、それなりに詳しいつもりではいます。
しかし、中国の、しかも明朝末期の状況や文化については、全然知りません。
自分の馴染みのない分野を、ノベルゲームという形を借りて触れることができたというが、個人的には良かったです。
steamの普及により、様々なメリットが生まれたと思いますが、世界中のADVがプレイしやすくなったこと、それにより他国の文化や思想に触れられる機会も増えたことが、個人的には大きいなと思います。
私は、昔から海外のADVにも手を出していただけに、本当に良い時代になったなと、つくづく感じます。

さて、物語は、良や穂らの旅を中心に描かれます。
当時の中国の文化に触れつつも、物語全体のジャンルとしては復讐劇になるのでしょう。
当初の目的どおり復讐を成し遂げるのか、それとも、別の選択をするのか。
良や穂の気持ちの移り変わりを追いながら、その選択を見極めることになります。

復讐劇というストーリージャンルに本作の時代背景も加わり、本作は終始、陰鬱な雰囲気で進んでいきます。
貴重なジャンルというのもありますし、ストーリーは全般的に良かったですね。
また、物語は章仕立てで構成されているところ、その構成の仕方も上手かったと思います。
翻訳の関係もあるので、テキストにとてもうるさい人だと、少し抵抗があるかもしれませんが、明らかに違和感を覚えるようなところもないですし、私は十分楽しむことができました。

グラフィックやサウンドも良かったです。
グラフィックは、立ち絵を細かく動かすタイプではなく、インパクトのある1枚絵を多数用意し、量と質で勝負といったタイプになります。

思わず魅入ってしまうような綺麗な1枚絵が何枚もあり、ここまで1枚絵に惹かれたのも久しぶりなように思います。
これは、水彩画のような塗りが作品の雰囲気にマッチしていたこともありますが、それ以上に、きちんとシーンを描いていたことが大きいのでしょう。


国産のエロゲとかだと、ヒロインだけドアップで描いて終わりみたいなCGもよく見かけますが、本作はヒロインを描くのではなく、物語上効果的な場面で、そのシーンをきちんと描いているので、1枚のCGに対する想い入れも強くなってくるのです。

日本語版の穂の声は、釘宮理恵さんが担当していて、とても良かったです。
ただ、私は日本語版の音声で楽しみましたが、オリジナル版の音声も凄く良いという評判なので、オリジナル版の音声で楽しんでみるのも良いかもしれません。

さて、本作をプレイしていて、考えされられたというか、再認識させられたのがゲームデザイン部分でして。
上記のとおり、本作はノベルゲームになります。
その構造自体には、特に目新しい要素はありません。
途中で何か所か選択肢があり、間違った選択をするとバッドエンドになります。
ノーマルエンドもいくつかありますが、最終的なTRUEエンドは2つです。

ここ最近、国内のストーリー重視のノベルゲーは、実質1本道の作品が増えていますし、選択肢すらない作品も増えています。
それでいて、価格は上昇傾向にあります。

選択肢が攻略の妨げにしかなっていない作品も多数ありますので、それだったらいっそのこと選択肢をなくしてしまえというのも、理にかなっていると思います。
また、国産ノベルゲーにおいては、選択肢のない1本道にすることで、これまでのノベルゲーの変なしがらみからようやく解放され、それによって構成的にも洗練された作品が登場し始めており、これはこれで一定のメリットはあったのでしょう。
また、マルチエンドはライターの伝えたいことを薄めてしまうので、メッセージ性が強い作品ほど、1本道の方が適しているとの考え方もあり、私も一理あるなとも思ったりもしていました。

本作は、そういう状況下で発売された作品になります。
そして本作をプレイして思ったことは、上記の1本道の利点なんてものは、ただの言い訳にすぎないということでした。

本作の選択肢は、数は多くないものの、そのかわり選択によってハッキリ展開が分かるようになっています。
これによりプレイヤーは、自分の選択の結果をきちんと感じ取ることができます。
つまり、選択肢が攻略の妨げにはならず、ゲーム性の向上につながっているのです。

また、本作は最後のTRUEエンドも2つあり、最後までその選択をプレイヤーに委ねています。
しかしながら、エンドが2つになったからと言って、決してメッセージ性は損なわれていないのです。
本作の伝えたかったメッセージやテーマは、TRUEエンドが2つあることにより薄まるどころか、むしろ濃くなっているとすら感じます。
これ、マルチエンドの持つ意味合いを正確に捉え、効果的に利用できたということですから、簡単に一言で表すならば、ADV作りが上手かったということになるのでしょう。
近年の他のノベルゲーができていないことだけに、相対的に本作の凄さが浮かび上がってきますし、私にとっては、最近の1本道のストーリー重視ゲーとの間に大きな差が生まれることとなりました。

<評価>

総合でも文句なしに名作といえるでしょう。

ストーリーが良く、穂が可愛く、ノベルゲームとしての作り方も上手いうえに、1枚絵も上質で、サウンドも良い。
しかもそれを、たったの1200円という高コスパで提供しているわけですからね。
これはもう凄いとしか言えません。

ノベルゲームにおいて、ほぼすべての項目で優れた作品も久しぶりですね。
この作品に出会えて本当に良かったですし、穂と出会えて良かったです。

また、今後は海外のノベルゲーも看過できない時代になったなと、つくづく感じた作品でした。
どうやら続編が出るようなので、続編にも期待したいものですね。

ランク:AA-(傑作)

Last Updated on 2025-06-01 by katan

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