月の女、河の天使、神めくとき。

2023

『月の女、河の天使、神めくとき。』は2023年にWIN用として、サキュレントから発売されました。

ある意味、山野さんらしい作品ではあるのでしょう。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

概要・・・「月の女、河の天使、神めくとき。」は、女性主人公・ひだりの一人称で進行する、現代日本を舞台にした18禁ノベルゲームです。
病気で孤独な女の悩み、生まれて初めての理解者たる青年との恋、その破滅の末に生まれる神性を覗きたい方におすすめです。

あらすじ・・・「俺が君を本物にする」
病気の父親と、その介護を苦に自殺した母親の元から離れ、親戚と福祉の援助を頼りに都会のはずれでひとり暮らしをする女――鷹凪ひだり。
彼女は役者兼脚本家志望だが、ひとりよがりな舞台を望むゆえに誰からも見いだされず、脳内でもうひとりの自分と対話する日々を送っていた。
世間を震撼させているのは連続猟奇殺●事件だった。
主に独居の老人や女性を狙ったもので、残忍なやりくちから同一犯と思われ、ニュースサイトやSNSは連日その話題でにぎわっていた。
そんな中、ひだりは深夜のコンビニ帰りに公園の片隅で座り込む青年を見つける。
浮世離れした美しい容姿なわりに気さくな彼は、すぐにひだりに懐き、ひだりも心を許し、ふたりは男女の仲になっていく。
――美しい彼は、ひだりには一言も告げなかったが、世を騒がせる殺●鬼だった。

<感想>

本作は、病気と孤独を抱え、いわゆる社会の中で上手く生きていくことのできていない主人公と、その主人公の初めての理解者となる青年の、2人の物語になります。

こういう主人公の闇や負の部分を描いた作品というのは、似た経験をした人から共感を得られやすいのか、ゼロ年代以降のノベルゲーの中でもたまに存在していたように思います。
こういった作品の場合、主人公やテーマに共感できるかが評価につながりやすいところ、境遇やら思想やらに私は共感できることがない場合が多く、正直なところ、あまり良さの理解しにくい分野だと思っています。
ただ、昔から、こういう作品が存在すること、そして刺さる人には刺さりうるということで、少数ではあっても一定の需要はあるのだろうなと思っていましたし、それによって救われる人もいるのだろうなと思っていました。

ただ、いわゆるシナリオゲーと呼ばれる類の商業作品が減ることにより、次第に商業エロゲでは見かけることが期待できなくなっていきました。
そうした状況下で、ユーザーの受け皿となっていったのが、山野さんの作品なのかなと思います。
したがって、私自身の好みはともかくとして、こういった方向性の作品として内容が伴っているのであれば、それはそれで評価されて然るべきなのでしょう。

では、本作はどうなのか。
本作は、とても小粒な作品です。
選択肢もなく、単純に読み進めるだけですし、たぶん2時間程度で読み終わるのではないでしょうか。
その中にHシーンも含まれているので、実質的なストーリー部分はもう少し短くなります。
そのボリュームの中で、描かれているのは、ほぼ2人の会話となります。
そのため、2人の会話が楽しめないと、本作も全然楽しめなくなってしまいます。
もっとも、その点については、山野さんのテキストが良いので、おそらくほとんどの人は問題なく楽しめるのでしょう。
ただ、こういう構造とボリュームですからね、本作はメッセージ性は強いものの、ストーリーがないようなものとも言えるわけでして。
伝えたいメッセージがあることは分かるよ、でも、それだけならエッセイでも書けば良いのであって、物語としては物足りないなって思ってしまいます。

山野作品が刺さる人には刺さるというのは、初期の作品からそうでした。
私が初期の山野作品をあまり評価していなかったのは、メッセージ性ばかりで、そこにキャラやストーリーの肉付けが伴っていなかったからです。
もっとも、その後の作品の中で、良いなと思える作品が出てきて、近年は注目し期待するライターになっていきました。
それらの作品が初期の作品と何が違うのかというと、初期の作品と異なり、キャラやストーリーの肉付けがきちんとなされていたからです。
本作も、序盤の会話は楽しかったですし、このまま期待できるかとも思いました。
しかし、結局抽象論のような感じで、物語への落とし込みが足りず、メッセージ性は高いかもしれないけれど、ストーリー性は低いという、初期の作品に戻ってしまったようにみえました。
もう少し具体的なエピソードとまじえることができていたら、また違った印象になったと思うだけに、ちょっと残念でした。

また、本作は低価格作品であることをふまえても、プレイ時間もCG枚数も少なく、客観的な数値の部分でも物足りない内容でした。
ゲーム性がなく、CG枚数も少ないとなると、テキストが合わなければ全然楽しめなくなってしまうタイプの作品といえるでしょう。

<評価>

テキストは楽しめることから、決してプレイしていてつまらないわけではありません。
ただ、客観的な分量等が不足していることは否定できないですし、内容的にも特に目新しい要素もないなか、また初期の頃に戻ってしまったようで、個人的には物足りなさの方が上回った作品でした。

山野作品は、これまでは知る人ぞ知る的な印象でしたが、本作はsteamでも発売されたことで、認知度は過去作より高まったのでしょう。
そうなると本作で初めて山野作品に触れた人も少なからずいるでしょうし、こういうタイプの作品に触れてこなければ、新鮮に見えたかもしれません。
ただ、過去作も似たようなことをやっているわけですし、それも踏まえると、あえて本作をプレイする必要もなかったかなということで、総合でも凡作とします。

山野作品は未プレイの人は一度プレイしてみてもらいたいところでもありますが、楽しみたいということであれば、『とも鳴りの舟』が現時点では一番良いと思いますし、個人的には『痴者の夢』も個性があって好きでしたので、その辺りをオススメしますね。

ランク:D-(凡作)

Last Updated on 2025-01-07 by katan

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