『異端審問官の愛寂』は2014年にWIN用として、禁飼育から発売されました。
『魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編』の前日譚にあたる作品になります。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
沼地の城に住む主と出会ってはならない……出会ったら魂をとられてしまうからだ……
……そのような言い伝えがあった。バカバカしい。
横暴だが面白いと思った者に対して関心を示すクルイヌ男爵と、活発だがどんくさい修道院暮らしの修道女こぼね。
同じ目、髪、肌をした男女が出会い、共に生活するうちに惹かれあうが…?
<感想>
本作は、『魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編』の前日譚となりますので、できれば、先に『魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編』をプレイした方が良いと思います。
冒頭の画像から始まる本作。
おぉ~最初から良い感じで始まるけれど、この後どうなるんだ?と思ったら、いきなり少女が沼に沈んでいきます。
このギャップ、掴みは十分ですね、さすが禁飼育です。
もう最初から先が気になるというものです。
本作は乙女ゲーとされていますし、沼に沈んでいく少女の「こぼね」視点で語られることも多いのですが、物語上の本当の意味での主人公は「クルイヌ」ですね。
この作品は、クルイヌ男爵がこぼねという少女と出会い、自分にとってかけがえのない大切なものが出来た矢先、その幸せを失い、絶望に陥り、異端審問官の道を選ばざるをえなくなる物語です。
ハッキリ言うと、プロット自体は、よくあるものなのでしょう。
守るべきものがあり、幸せな生活を送っていたところ、その幸せや守るべきものを失った男が悪魔に魂を売り、復讐の道を進むというストーリー自体は、決して珍しくありません。
ある意味王道とも言えるストーリー展開を禁飼育風に仕上げたのが本作になります。
それにしても、よくあるストーリーなはずなのに、どうしてここまで面白いのか。
前半の、こぼねとクルイヌが出会い、信頼関係を築いていく過程は、いつもの禁飼育らしいノリで、読んでいて単純に面白いです。
テキストが面白いのは過去作もそうなのですが、過去作の場合、何点か気になった点もありました。
1つ目が、男性がクズばかりで、好感を抱けないキャラばかりということです。
キャラが立っていて良い味を出しているのは間違いないのですが、単純に好きにはなれないということですね。
他方で、本作のクルイヌは、とても好感が持てます。
使用人らからも慕われていますが、それが読んでいてこちらにも伝わってきますしね。
テキストの楽しさが過去作と同等であれば、好感の持てるキャラがいる作品の方が、トータルでは楽しめるに決まっています。
2つ目として、禁飼育といえば、上げてから落とす展開ですよね。
梯子を外した後の追い詰めていく様は、過去作でも見事だったのですが、その外し方が個人的には少し気になっていたのですが、本作では自然に感じられました。
そのため、違和感を覚えることもなく、すんなり読むことができました。
『魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編』の持つ魅力はそのままに、気になった部分がなくなったことで、より一層、楽しむことができたといえるでしょう。
クルイヌの決断は、見ていてスカッとする部分もありつつ、道を踏み外していく様子に何ともやるせない気持ちにもなったわけでして。
とはいえ、自分がクルイヌと同じ立場に立たされたら、やはり同じ決断をしていたかなぁと思いますね。
<グラフィック>
逆に、良い意味で気になったのがグラフィックでした。
禁飼育作品の場合、シナリオと原画が同じ人が担当しています。
もっとも、正直なところ、ストーリーとテキストの良さでもっているようなもので、グラフィックはいまいちという印象でした。
それが、前述のとおり、まずプレイ開始時から、今回はちょっと違うぞというインパクトを与えてきました。
キャラデザや原画のクオリティ自体は、過去作と比べても、それほど大差はないのかもしれません。
しかし、今作の場合、その魅せ方、演出が格段に進化したように思います。
こぼねが沼に沈んでいくCGのようなデフォルメした表現、表情のドアップを映す表現はこれまでにもありました。
それらに加え、冒頭の画像のように、人物を影として映し出す方法が、今作では効果的に使われていたように思います。
他にも、下の画像のように、かなり引いた遠景での表示方法ですね。
しかもこれは、背景画の中に、ぽつんとキャラをカットインとして入れているものになります。
この方法は、結局は使い方次第であり、プラスにもマイナスにもなりえます。
それをふまえて考えると、確かにこの場面、キャラの表情をドアップで映す必要はないのでしょう。
また、動きのある場面でもなく、そもそもキャラの表情を映す必要もありません。
ただ、この場面を効果的に魅せるのであれば、やはりこの方法が最適なのでしょう。
場面に合わせた表現方法を用いることで、テキストとCGの一体感が増したのが、本作の特徴のように思います。
最後の終わり方もグッとくるものがありましたし、プレイの最初と最後が良い作品は、やっぱり全体が締まってみえて良いですね。
価格がかなり安いことに加え、シナリオのボリューム自体は価格相当ということもあり、プレイ時間は短いです。
ただ、価格からすると、CGはかなり多めであり、その意味でのコスパはとても良かったと思います。
<評価>
総じて、小粒ではあるものの、テキストや演出に秀でた素晴らしい作品といえるでしょう。
『魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編』の前日譚で、ボリュームも減っていることから、評価も下がるのではという先入観を持ちがちだと思いますし、私もプレイ前はそう思っていました。
しかし、これまで気になっていた部分が解消され、従来の魅力は維持されているわけですからね。
総合でも名作といえるでしょう。
魔女の処刑日シリーズを堪能するという観点からも、やはり本作はプレイ必須な作品であり、ぜひともプレイしてもらいたいと思いますね。
ランク:A-(名作)

Last Updated on 2025-01-04 by katan
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