『リルヤとナツカの純白な嘘』は、2024年にWIN用として、FrontWingから発売されました。
百合+安楽椅子探偵といった、ちょっと変わったタイプの作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
選択肢や分岐はなく、完全に1本道となります。
あらすじ・・・
いつだって、あなたという光を通して世界は形を変え、あなたの抱く花で、世界は塗り替わる。
ネットを密やかに流れる噂がある。
正体不明の天才画家が、依頼者のためだけに素晴らしい絵を描いてくれる。
ただしその画家は気まぐれで偏屈、権力や金では決して動かず、気に入った依頼だけを受けるのだという。
そんな謎めいた基準で選ばれた依頼者の前に現れるのは、長い銀髪と宝石のような瞳を持つ、冬の妖精のような美少女画家――リルヤとリルヤの家に住み込みで働く元気いっぱいの助手の少女――夏夏(なつか)。
しかし、画家である少女の目は光を映さず、車椅子に乗っていた。
「大丈夫です。わたしがリルヤさんの新しい目と足になりますから!」
夏夏は、依頼者とリルヤのために奔走し、本能と直感でリルヤの求めるインスピレーションの源泉
――暗闇を切り裂き、世界を新たに照らす『光』を語る。
「なんかわかんないんですけど、そんな気がしたんです!」
「我が鳩は、橄欖(かんらん)の葉を携えり。あとは――私の仕事だ」
追憶の青、怪物の緑、殉教の赤――
リルヤは、夏夏から得た『光』を元に、依頼者が望む以上の絵を描き出す。
「お前の目を通して見る世界は、私の目で見ていた世界よりも美しい」
これは過去に痛みを抱く少女たちが、新しい未来を得て歩き出すまでの、喪失と再生の物語。
<グラフィック>
まずグラフィックについて。
主人公の1人であるリルヤが画家という設定であることから、本作の1枚絵も油絵風の塗りになっています。
ADVにおいて、水彩画風の塗りの作品は時々見かけますが、油絵風の作品はあまり見かけないように思います。
単純に珍しいタイプということもありますし、少なくとも本作の設定や雰囲気とはマッチしているので、この点は好印象でした。
<感想>
ストーリーはざっくり言ってしまうと、ラノベ風のライトなミステリーといった感じでしょうか。
ミステリー系のゲームに本格的なミステリーを期待する人がどれだけいるのか分かりませんが、仮に本格ミステリーを期待してしまうと、少し物足りなく感じてしまうでしょう。
むしろ端的に、百合+ミステリーのラノベ風だと思った方が良いかと思います。
少し気になったのは、リルヤが画家であり、解決にも彼女の描いた絵が使われているにもかかわらず、その絵がプレイヤーに示されていないことでしょう。
せっかく絵を題材にしているのですから、それをこちらに見せてくれないと。
それができていれば、格段に好印象となったでしょうに。
ここは本当に残念というか、もったいなかったです。
ところで、私は昔、ラノベや漫画のミステリーものに懐疑的でした。
それこそ、子供向けかと思っていたので、本格ミステリーばかり読んでいた時期もあります。
どこかでも書いたと思いますが、私は小学生の頃から海外のミステリー小説を読んでいましたので。
しかし、ラノベ等のミステリーにも、一般向けの本格ミステリーにはない魅力もあるわけでして。
よくある傾向としては、事件とその解決をとおして、キャラ同士の関係性を描き、掘り下げていくというものがあります。
むしろラノベである以上、ミステリーとしての質の追求よりも、キャラの掘り下げの方が大事なのでしょう。
男性と女性であれば恋愛関係となるのでしょうが、本作のように女性同士であれば、百合が連想されやすいかもしれません。
本作においても、各事件の当事者である百合カップルは出てきます。
もっとも、純粋に百合だけを扱った作品に比べると、1つ1つに割かれている分量は少なくなるわけですから、どうしても百合の描写としては薄くなりがちです。
そのため、ジャンルとして商業化された後の百合作品が好きな人で、そういう商業百合要素を求めてプレイすると、本作は少し物足りなく感じてしまうと思います。
他方で本作では、事件とその解決をとおして、リルヤとナツカの関係性も描かれていきます。
このリルヤとナツカの関係性については、恋愛という側面よりも、むしろ互いに信用し信頼しあっている心の絆という側面を強く感じました。
そこでふと思ったのです。
そもそも、百合が属性として定着し、商業化される前の百合の名作とされる漫画や小説って、必ずしも女性同士の恋愛が描かれているわけでもありませんでした。
むしろ女の子同士の信頼関係や友情とかが描かれているものも多く、本作から、特にリルヤとナツカから感じたのは、そういう商業化される前の百合作品の匂いでした。
私は百合作品が好きで、これまでにも一杯プレイしてきました。
レズゲーも好きだったので、恋愛要素も肉体関係も否定はしません。
ただ、本質的な部分で私が好きなのは、女の子たちの心の深いつながりであり、それは必ずしも恋愛である必要はないのです。
最近の百合系の作品は、どれもこれも安易に恋愛に結び付けてしまい、往年の商業化される前の百合作品のようなタイプがかえって少なくなってしまいました。
今は少なくなっているだけに、久しぶりにこういう作品にふれたようで、なんだか懐かしい気持ちになれました。
また、本作をプレイする前までは、フロントウイングから百合ゲーを出すのであれば、なんで18禁で出さないのだろうと不思議でした。
しかし、この疑問も、実際にプレイすることで解消されました。
リルヤとナツカの信頼関係に重点を置くのであれば、確かに18禁にすべきではないのでしょう。
これを18禁にして、リルヤとナツカの絡みを入れてしまうと、本作が描こうとしていたものがぼやけてしまい、プレイヤーに伝わらなくなっていたと思いますからね。
さて、本作を楽しめるかを考えた場合、もしかしたら一番大事かもしれないのが、ナツカというキャラを気に入ることができるかということなのでしょう。
本作は、ある意味ナツカゲーであり、ナツカに対する印象が作品の印象を大きく左右しうる最重要ポイントになりうると思います。
というのも、本作は基本的にナツカ視点で進む作品になります。
また、リルヤが盲目であることから、通常の作品であれば地の文として説明されそうな部分も、ナツカの説明セリフとして表現されることが多いです。
つまり、本作の場合、リルヤとナツカの会話シーンが多いだけでなく、そこにナツカの心の声やら説明やらが加わってくることで、ナツカの声を聞いている割合が結構多いわけでして。
だからナツカというキャラが合わないと、本作を全然楽しめない可能性も出てくると思います。
この辺はもう、合う合わないはプレイヤー次第なので、印象はばらばらなのでしょう。
とはいえ、個人的には、ナツカというキャラが好きでした。
こういうキャラは、エロゲとかだと白雉系のちょっと足りないキャラにされがちです。
リルヤがホームズだとすると、ナツカはワトソン役です。
エロゲのノベルゲーでありがちなのは、主人公がホームズ役で、ワトソン役は道化に徹すると。
そして、ワトソン役が抜けていれば抜けているほど、ホームズ役の優秀さも際立ちます。
そういう作品は、これまでに何度も見てきたし、もし本作がそうなっていたら、おそらくうんざりしていたでしょう。
リルヤは、頭脳面では優秀だけれど、目が見えず思うようには動けない安楽椅子探偵のポジションです。
そのリルヤをメインに据えるのではなく、行動力のあるナツカをメイン主人公として描き、頭脳面では優秀ではないにしても、リルヤの手足として自分のできることを懸命に頑張る姿が、私には眩しくみえたんですよね。
<評価>
本作については、本格ミステリーを求める観点からも、恋愛要素のある商業百合的な観点からも、物足りない作品とはいえるのでしょう。
だから事前にジャンル名をみて、上記の要素だけを求めてプレイすると、楽しめなくなる可能性は十分にあります。
しかし、そもそも本作でメインに描かれているのは、そういうものではないのだから、ないものを勝手に期待するのはナンセンスでしかないのでしょう。
本作で描かれたもの、すなわち最近珍しくなった商業化される前の懐かしい百合作品テイストに浸れたこと、ワトソン役を主人公にし、その描写が良かったこと等から、他ではなかなか得られないタイプの作品ということで、総合でも良作とします。
個人的には、気持ち良くプレイできて良かったです。
あとはもう、くどいかもしれませんが、これで解決シーンでバーンと絵を見せつけてくれたら、もっと評価は伸びて名作もありえたと思うだけに、つくづくもったいなかったですね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2025-01-09 by katan
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