『卒業写真/美姫』は1992年にPC98用として、カクテルソフトから発売されました。
「卒業写真」と「美姫」の2本の作品をカップリングし、当時まだ珍しかった恋愛(悲恋)を正面から扱った作品でした。
<概要>
本作は、タイトルにある「卒業写真」と「美姫」の2本がカップリングされた、いわゆるオムニバスゲームになっています。
前年の沙織事件の影響もあったのでしょうか。
1992年のカクテルソフトは、アダルト向けではない一般向けの作品を何作か発売しており、本作もその中の1本となります。
当時は本格的な恋愛もの、ないし悲恋ものと呼べる作品なんてほとんどなかった時代だけに、正面から扱った本作は希少な存在だったのです。
<卒業写真>
『卒業写真』と『美姫』のカップリングということで、まずは『卒業写真』を先に扱いたいと思います。
本作の主人公は、高校卒業を目前に控え、周囲も進学と就職に揺れ動く多感な時期にあります。
その、人生においても特殊な時期にあって、主人公は恋人である宏美とすれ違っていくようになり、そしてそこに由耶子も加わることで三角関係も描かれます。
『卒業写真』の物語上のジャンルは、いわゆる恋愛ものになります。
もっとも、主人公とヒロインは互いに想い合ってはいますが、結局、最後で2人が結ばれることはありません。
端的に言えば失恋もの、或いは悲恋ものということになるでしょうか。
このゲームが出たのが1992年。
それまでに正面からしっかりと恋愛を扱った作品があったかも怪しいのに、ハッピーエンドとは言い切れないような切ないストーリーですからね。
このインパクトは大きかったです。
泣きゲーと言うと、ニュアンスが少し変わってくるので違うかもしれませんが、胸が苦しくなるような切ない感動系の恋愛ものという意味では、『卒業写真』あたりが元祖になるのかもしれませんね。
ただ、私見ではあるものの、この作品は人を選びます。
いや、プレイする年齢によって印象が変わると言った方が良いでしょうか。
本作は全年齢対象の作品ですが、精神的に大人になってからじゃなきゃ、本当の意味では楽しめないかもしれません。
そういう意味では、18歳以上対象でも良かったような気がします。
私も、今でこそ本作が大好きで、かつ素晴らしい作品と断言できますが、プレイしてもしばらくの間は、本当の良さが分からなかったですからね。
それから段々、歳を経るにつれて良さが分かってきたって感じで。
今にしてみれば、アダルトゲームブランドの作る一般作としては、こういう路線を追求するのも良いのかなと思ったりしますね。
加えて近年は、セカイ系とかの影響も大きくて、主人公とヒロインの気持ちが全てを決定できる、すなわち二人の気持ち次第でどんな障害も何とでもなるというような作品が、比較的好まれる風潮もあります。
また、マルチシナリオでハッピーエンドがあるのが前提と思っている人も多いでしょうし。
そういう人には、たぶん本作のこの結末は受け入れられないでしょう。
でも、現実には当事者の気持ちだけではどうにもならないことも多いのです。
そうしたリアルな一面を扱った恋愛ものの1つの形として、本作はとても説得力があったし完成度も高かったと思います。
特にラストが秀逸でしたね。
素晴らしいサウンドと共に、名セリフが次々に出てきますから。
「時が過ぎれば・・・きっと・・・思い出に変わるわ・・・」なんて、とても切ない気持ちにさせられたものです。
もっとも、このセリフを素直に評価できるまでには、私は少々時間がかかりましたけどね。
他にも、改めてやり直すと、いろいろと感じるものがあるわけでして。
上のセリフを言った後にゲームは終わるのですが、もう一度OPから見直してみると、そもそもこのゲームは、ヒロインである宏美が思い出のアルバムを振り返る所から始まるのですよ。
ゲーム自体は主人公視点で話が進むものの、構造としては宏美の回想なのです。
あのセリフを言った宏美が、一体どんな気持ちで昔を思い出しているのか、もっともっといろいろ先が見てみたかったなと思った作品でした。
ということで、作品としては素晴らしかったのだけれど、こういう作品に果たして需要はあったのでしょうか?
仮に恋愛ゲー市場が成熟した後ならば、一つの発展形として受け入れられやすいとも思えるのですが、本作発売時は、まだ恋愛ゲー市場が成熟するどころか、そもそも存在するかも怪しい時期だっただけに、ユーザーには先鋭すぎて理解されにくかったかもしれません。
まさに早すぎた名作なのでしょう。
泣きゲーどころか感動系という言葉もない時代でしたので、ここまで切なく胸を締め付けられた作品は他になく、それだけに非常に印象深い作品でした。
また、グラフィックについても、水彩画風の塗りが珍しかったうえに、作品の雰囲気にマッチしていて良かったです。
サウンドも良く、特に終盤に至るほど、どんどん良くなっていきました。
ところで、こういう作品の性質上、どうしても主人公と宏美と由耶子の三角関係に目がいきがちですが、プレイしていると、他のキャラや全体の雰囲気もとても良かったことに気付かされます。
ゲームの舞台となるのが高校3年の卒業間近という時期で、その時期特有の独特な雰囲気が上手く表現されていて、こういうのは近年のゲームを含めても、ほとんどないような気がします。
その象徴的な存在が、幼馴染の乙女丸と恋人の春子なのでしょう。
彼らは、主人公の物語という観点からは、直接には関係ないのかもしれません。
しかし、就職で離れ離れになることも受け入れるのか、それとも就職の話を蹴ってでも一緒にいつづけるのか・・・
その狭間で悩むことになる二人の姿は実に印象的で、青臭い悩みかもしれませんが、この時期特有のものと考えるとむしろそれすら眩しく見えてきます。
私の場合は、周りも皆大学に進んだので、このような経験はしなかったのですが、普通の高3なら受験・就職・恋愛・友情等いろいろあるんだろうなと、もう1度高校生活があるならこういうのも良いよな~って、プレイし直す度に思ったものです。
総じて、ストーリー・絵・音と、文句なしでしたね。
主観的には、満点に近いものがあるでしょう。
ただ、如何せんボリュームが少なかったです。
「美姫」とセットなので、2本合わせて判断すべきですが、本作だけなら数時間もあればクリアしてしまうでしょう。
2本あわせても、分量はたかがしれています。
まぁ、当時のADVはボリュームの少ない作品も多かったので、当時の水準で相対的に考えると、それほど少ないというわけでもないのですが、普段ADVをプレイしない人は、コスパが悪く感じたでしょう。
システム的にもごく普通のコマンド選択式ADVで、特に優れた要素はなかったですしね。
そう考えると主観的には最高であっても、ランク的には傑作にはしにくいと思ったりも。
逆を言えば、ボリュームがなさ過ぎる作品は普段は全然評価しないのに、それでも本作はここまで評価したくなった作品とも言えるわけでして。
それだけ強烈な印象を持った作品だったのです。
<PCエンジン リメイク版>
最後に補足ですが、本作はPCエンジンにも移植されています。
移植にあたり動きが増え、演出面は派手になっていると思うのですが、オリジナルの持つ繊細さとPCエンジン版の大雑把な派手さは、あまり相性が良くないように思います。
それとPC-E版は、マルチエンドに変更されています。
正直、これは頂けなかったです。
最近はマルチエンドでなければ駄目な風潮もありますが、1本のストーリーだからこそ伝えられるメッセージってのもあるわけでして。
本作のような作品をマルチエンドにしてしまっては、作品の持つテーマという1番重要な部分が全部消されてしまうのです。
これだけは、本当にやってはいけなかった。
これでは本作の良さが微塵も伝わりませんよ。
PC98版は褒める人が多いのに、PCエンジン版を褒める人が出てこない。
それはこうした点に理由があるのではないでしょうか。
<美姫>
ここまでカップリングされた2本のうちの『卒業写真』についてだったので、ここからは残りの「美姫」についてです。
大雑把なあらすじとしては、主人公の住む町には、大昔に仲を裂かれた男女の悲恋物語が伝承として残されています。
しかしこの伝承が、過去にタイムスリップした主人公らの行動によって、ハッピーエンドに変えられることになります。
『卒業写真』が完全に現代ものであるのに対し、『美姫』はタイムスリップものです。
もっとも、両方とも恋愛を主に扱った作品という点で共通しており、その対比もまた特徴的と言えるのでしょう。
というのも、『卒業写真』が鬱ゲーや泣きゲーのような切ない物語・悲恋ものだったのに対し、一転してこちらはハッピーエンドな仕上がりになっているからです。
ハッピーエンドなんでね、初プレイ時は、主観的にはこっちの『美姫』の方が好きでした。
グラフィックも綺麗だし、サウンドも雰囲気にマッチしていましたしね。
ただ、個人的な好みの問題を別にするならば、『卒業写真』は素晴らしい作品でした。
他方の『美姫』は、個人的には好きではありますが、それはあくまでも好みの話であり、物語的にはごく普通なんですよね。
出来自体としては、佳作か良く見ても良作止まりだったと思います。
だから作品としては、『卒業写真』こそがメインなのでしょう。
それでは、『美姫』の方はあえてやる必要もないのかと言うと、決してそうは思えません。
『卒業写真』では、時間を戻せないがために、一見バッドエンドにも見える厳しい結末になっています。
逆に『美姫』では、過去に戻って結末を変えちゃうわけですからね。
ストーリーとしては両者は全く別物で繋がってはいませんが、対比という点からは、このカップリングはマッチしていたのでしょう。
また、『卒業写真』は完成度こそ高いものの、やっぱりこの類の話は読んでいて凹みますからね。
そうなると今度は、多少ご都合主義でも構わないから、ハッピーな作品もやりたくなるものでして。
『卒業写真』で受けた衝撃を『美姫』で癒す。
『卒業写真』がメインディッシュなら、『美姫』は食後のデザートのような存在でもあるわけで、そういう意味でも『美姫』の価値はあったんじゃないかなって思います。
以上から、本作をプレイする場合、タイトル通り必ず『卒業写真』から先にやって下さい。
どちらを先にやるかでも、この作品への印象は変わってくるでしょうから。
さて、最後にゲーム部分について補足しておきます。
本作のシステムはコマンド選択式のADVですが、必要なコマンド量が少なめなので、『卒業写真』よりもテンポ良く進みます。
もっとも、『美姫』の方はマルチエンドでゲームオーバーもあるので、漫然と選んでいたら最後で泣きをみちゃいます。
そこだけは要注意でしょうね。
ゲームオーバーになるポイントは2箇所だけなので、ついでに一番下に攻略も載せておきます。
ボリュームは、やっぱりかなり少なめ。
2本あわせても少なめでしょう。
ただ、この辺は生活環境で感覚が変わってくるんですよね。
私も昔は、とにかくボリュームの多い大作が好きでした。
言葉は悪いですが、ボリュームの少ない作品ってだけで、少し低く見ていた感もありましたね。
しかし、忙しくなってくると、そのボリュームの多さが逆にネックになってきてしまいます。
もちろん、中身が詰まったうえでの大ボリュームなら歓迎しますが、近年のノベルなんてボリュームは凄く多いものの、その半分以上が削っても支障のない日常会話で占められてますからね。
やってて疲れるし、時間が勿体無くて。
そうなると、例え本作のように短くとも、必要なことだけがキッチリ纏まっている作品の方がありがたいのです。
上の方で本作のゲーム内容に対し、ある程度年を取ってからの方が楽しめそうだと書きましたが、これはボリュームに関しても当てはまるかと思います。
そう考えると本作は、学生時代よりも社会人になってから、しかも学生時代を思い出として振り返られる頃になってからの方が楽しめる、そんな作品と言えるのかもしれませんね。
<評価>
よく、この時期にこのような作品を出せたものです。
また、『卒業写真』だけの、単独での発売もありえたなか、あえて『美姫』をカップリングしてきたことの意味も含め、トータルでのパッケージとして考慮し、総合でも傑作といえるでしょう。
この作品に出会えて良かったと心から思える、非常に好きな作品でした。
ランク:AA-(傑作)
<攻略>
・あゆみと水車小屋から納屋へ行った後、
ここを出るか寝るかの選択があります。
「出る」を選ぶとゲームオーバーに繋がるので、「寝る」を選んでください。
・その後捕まって地下牢に入れられますが、そこで無理やり牢から出るか篤の話を聞くかの選択があります。
牢から出るとゲームオーバーに繋がりますので、最後まで話を聞いてください。
Last Updated on 2024-09-15 by katan
コメント