時を越えた手紙

1994

『時を越えた手紙』は1994年にWIN用として、シンキングラビットから発売されました。

名作『カサブランカに愛を』のリメイク作であり、リメイクの難しさを学んだ作品でした。

<概要>

普段はリメイク作品をプレイしないことも多いし、仮にプレイしても、ここで扱うことはほとんどありません。
しかし、タイトルまで変わってしまうと混乱する人もいるかもしれないので、一応別物として扱ってみました。
あと、一つ思うところもあったのでね・・・

本作は86年に発売された、『カサブランカに愛を』のリメイク作品になります。
『カサブランカに愛を』は、発売時にはコマンド入力式のADVであり、画面がモノクロという特徴を有していました。

その後、88年のMSX2版では画面がセピア調に変更され、89年のX68000版ではフルカラーになり、FM音源のBGMも追加されました。
そして94年に『時を越えた手紙』と名を変えた、3DO版及びWIN版が発売されたのです。

『カサブランカに愛を』については以前に扱っているので、ここでは細かい部分については省略します。
大雑把に説明すると、SF要素も含んだミステリーとして、世間でも特にそのストーリーの良さが高く評価され、PC88時代を代表する名作ADVの一つとして名を遺した作品でした。

<感想>

さて、微妙にばつが悪いと言いますか、自分はこの作品のここに痺れたのだよって言っていたのに、その部分を本家があっさり変更してしまうと、拍子抜けしてしまいますよね。

80年代後半を迎えるにあたり、ADVにも高水準なグラフィック・演出を求める波がやってきました。
例えばエニックスの『ジーザス』であるとか、コナミの『スナッチャー』であるとか、80年代後半に有名になったADVは高いグラフィック技術を有し、優れた演出を行っていました。
そういう演出重視の派手な作品を肯定的に捉えるかはともかくとして、グラフィック・演出重視の波が来ていたことは否定できないのでしょう。

そんな中で、まるで時代の流れに反抗するかのように、あえてモノクロ画面で発売されたのが『カサブランカに愛を』でした。
一応補足しておきますが、決してカラー化の技術がないとか、そもそもグラフィック軽視だったというわけではありません。
シンキングラビットも、『カサブランカに愛を』より古い作品では、非常に綺麗なグラフィックの作品もありましたからね。
高水準なグラフィックのADVも作れるにもかかわらず、あえて『カサブランカに愛を』はモノクロで勝負したのです。
だからこそ、見た目偏重の時代に向かいつつある中で、あくまでも内容で勝負するのだという意気込みが伝わってくるようで、その心意気に非常に感心したものです。

ところが、88年のMSX2版ではセピア調になり、そのくらいならまだ良いですが、X68000版ではフルカラーに変更となると、あれ?最初のモノクロって何だったのと思ってしまいます。
そういう意味では、個人的には少々複雑な思いもあったのですが、やっぱり綺麗なものは綺麗ですからね。
この3DO版も綺麗なイラストが使用されており、これはこれで良いものだなと思ってしまいます。

まぁ、あらためて考え直してみると、別にモノクロにこだわった作品なのではなく、「グラフィック偏重のあの時代」にモノクロで出すことで、「内容で勝負する」ことを印象付けることに意義があるのであって、時代が変わってモノクロで出すことの意義が失われたのならば、時代に合わせてグラフィックも変えるよということなのでしょう。

名作はいつの時代でも通じるというのは、部分的には正しいのかもしれませんが、全面的に正しいとは言えないのでしょう。
少なくとも、その作品が出た当時の状況を把握しないことには、その作品の本当の価値は理解できないのだと思います。

そういうわけでグラフィックは良いとしても、本作の場合、他にも変更点があり、具体的には、ゲームシステムがコマンド入力式からコマンド選択式へと変更され、移動可能な場所も広がりました。
そして、そこが駄目な部分でもあったのです。
この点についても、上記のように絵を今風に変えたのだから、システムも当時の主流のコマンド選択式に変えたということなのでしょう。
今ならば、過去の名作をノベルゲーにするようなものですね。

しかし、ゲームジャンルというものは、ゲームの根幹部分であるだけに扱いが難しかったのでしょう。
ADV内における同じシステムであっても、作る人により雲泥の差が生じます。
過去作のところでも説明しているので、ここでは省略しますが、シンキングラビットは「コマンド入力式ADV」の作り方が上手かったのです。
でも、「コマンド入力式」の作り方が上手いからといって、必ずしも「コマンド選択式」の作り方が上手いとは限りません。
両者は似て非なるものであり、面白くするために求められる要素は異なるのです。
時代の流れやゲーム機への移植などの事情から、もうコマンド入力式で作ることは無理なのも分かります。
しかし、事情は何であれ、コマンド選択式に変更されることで、シンキングラビットの持つ最大の魅力の1つが消えてしまったのです。

また、コマンド選択式にすることでボリューム不足になることを避けるため、上記のように本作では移動できる箇所が増えています。
しかし、行動範囲が広がったにもかかわらずストーリーの方は変更しないことから、大半は本筋にかかわらない時間稼ぎにすぎず、ボリュームを確保するかわりに、オリジナルの持つ「ストーリーの濃密さ」が失われてしまいました。

従来のファンの中にはその出来に憤る人もいるでしょうし、適当に脳内変換しつつ楽しめた人もいるでしょう。
まぁグラフィックが良いというような本作ならではの要素もありますし、タイトルが変更されたのと同じように、これは別物と思ってプレイするのが、楽しもうって観点からは一番なのでしょう。

ただハッキリ言えることは、オリジナル版の持つ魅力を、このリメイク版から感じることはできないということなのです。

ランク:C(佳作)

<最後に>

最後に余談ですが、ユーザーが過去の名作に興味を持つこと、それ自体は喜ばしいことなのでしょう。
しかし、以前、リメイク作品ばかりプレイして、その作品を知った気になっている人と交流したことがありまして。
しかもその人は、オリジナル版をプレイしていないにもかかわらず、リメイク作品の方が今風に進化されているから、絶対にオリジナルより面白くなっていると言い切っていたんですね。

絵も今風にしました、システムも今風にしました(今だったらADVはどれもノベルゲーにされそうですね)、それで面白くなるのかというと、決してそうではないのです。
それどころか、そもそもオリジナル版の持つ本質的魅力すらも、感じられないケースもあるわけでして。
ゲームを構成する根幹部分を下手にいじると、その作品の本来の魅力を損なってしまうのです。

ストーリーだけとか一点にしか長所のない作品ならまだしも、名作として本当に高く評価される作品ほど、多くの特徴・長所と言えるポイントを有しているものです。
そしてその特徴が多ければ多いほど、オリジナル版の評価された要素を損なわずに移植するのは難しくなります。
もちろん、本人がリメイクしても上手くいかないことがざらにありますから、他人が勝手にリメイクするのなら尚更でしょう。
リメイク作品というのは、それだけ難しいものなのです。

あの作品がリメイクされるよ~って話題が出ることで、盛り上がれることは悪くはないのでしょうけどね。
ADVに関して言うならば、リメイクされて良くなったケースがほとんどないだけに、リメイク版が出るという話題はいつも複雑に感じてしまいますね。


時を越えた手紙
CDソフト時を超えた手紙

Last Updated on 2024-10-09 by katan

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