ノルティア

1993

『ノルティア』は1993年にPC98用として、FLATから発売されました。

マルチサイトシステムを採用した作品としては、これが最初の作品になるかもしれませんね。

<概要>

本作は以下の3本のシナリオが収録された、オムニバスタイプのコマンド選択式ADVになります。

1)営業屋さん
2)輝けっ! 投稿写真同好会
3)しろいこいびと

<感想>

FLATというブランド名を言われても、おそらく知らない人が大半かと思います。
でもメイビーソフトを知っているかと聞かれれば、かなりの人がイエスと答えるのではないでしょうか。
まぁメイビーソフトも、初期と現在とでは会社組織も中の人も異なっており、初期メイビーの色を濃く受け継いでいるのは、むしろコンプリーツになるのでしょうけどね。
その初期のメイビーソフトがデビューしたのが93年なのですが、あくまでもメイビーソフトというブランドでのデビューがという話であり、それ以前にもFLAT名義で作品を出していたのです。
本作は93年の発売であり、FLAT名義としては最後の作品であり、以後はメイビーソフト名義での発売になります。
FLAT名義での作品は結局、本作を含め2作品しかなかったので、知名度はどうしても低くなってしまうのでしょう。

さて、メイビーソフトの作品と言えば、どこかぶっ飛んだ内容の作品が思い浮かびやすいのかなと思いますが、その方向性に関しては、初期と近年とでは異なっているように思います。
具体的には、近年は内容面で特徴があるのに対し、初期メイビーは内容面で特徴がある場合もあるけれど、むしろゲームデザインで特徴のある作品もあり、その点で少し違っているのでしょう。
本作の場合は、主にゲームデザインに特徴があり、その辺に後のメイビーらしさを感じられるように思います。

個別的に見てみますと、「輝けっ! 投稿写真同好会」は、指示された女生徒の全裸を撮ろうとするもので、これなんかはノリ的にもメイビーらしいって言えるかもですね。

「営業屋さん」は新人の死神として奔走する話と、天使として行動する話の2本が収録されています。
直接のつながりはないのですが、死に導こうとする立場と助けようとする立場を対比させることで、他ゲームとの違いを示そうとしているのでしょう。

そして「しろいこいびと」では、マルチサイトシステムが導入されています。
女子高生の美和は、栄治を兄のように慕っていたのですが、栄治は実は本当に兄だったという設定でして。
美和視点を選ぶと、栄治に兄妹であることを告白しようとするも、なかなか切り出せない美和の気持ちが描かれます。
逆に栄治視点だと、不審な行動をとる美和に対する、栄治の気持ちが描かれます。

近年では、ザッピングシステムとマルチサイトシステムが併用されることが多く、そのために混同したり勘違いして理解している人も増えていますが、本来は両者は異なるものです。
そしてマルチサイトを伴わない純粋なザッピングに関しては、80年代から幾つか作品が存在しました。
他方で純粋なマルチサイトとなると、こちらは90年代での登場になるのです。

ちなみに、この手のシステムの第一人者というと、どうしても菅野(剣乃)さんの存在が大きいですし、そこで知ったという人も多いと思います。
そして菅野さんの作品ではマルチサイトが先に登場したことから、PC98時代の剣乃作品で知った人とかだと、マルチサイトが先で、そこから進化したのがザッピングと連想しがちですが、歴史的には実は逆なんですね。

まぁマルチサイトと言っても定義次第で範囲が変わってきますので、厳密に判断するのが難しいのも確かです。
ただ、境界線上の作品を順に見ていくと、初期の方は一つの出来事を「異なる」2か所から、多角的に見ていくという感じでありました。
他方で「同じ」場面における、複数のキャラの内面を描くという意味でのマルチサイトは、おそらく本作が最初になるのかなと。
その点で、歴史的にも意義があるように思います。

まぁメイビー系の作品は発想は良いのだけれど、中身が伴っていないことも多かったですからね。
本作も、同じ場所において美和視点と栄治視点の両方があり、確かに初のマルチサイトとは言えても、全体的に読んでいても面白いわけでもなく、だからどうしたと言われればそれまででもありました。

剣乃作品の場合は、システムがどうのとかシナリオがどうのとか、そういう個別な観点から現在では語られることが多いのだけれど、本当に一番凄かったのはシナリオとシステムの融合性であり、その結果システムとシナリオの相乗効果で多くの人の記憶に残ったわけで、そこが有名になれなかった本作との違いなのでしょうね。

ちなみに、上記のように本作のゲームシステムはコマンド選択式ADVでした。
マルチサイトはノベルゲーでは何の意味もなく、主人公とプレイヤーを同化させるコマンド選択式でこそ意味をなすのです。
この辺の説明は何回もしているので、今回は省略します。

<評価>

総じて、後のメイビーにつながるというか、メイビーらしさを随所に見せた作品であると共に、実験作の多かった93年らしい作品とも言えるのでしょう。

私は最近でこそ独自性を重視するような言い方が増えていますが、それはそこそこ完成度の整った作品が増えた一方で、逆に独自性のある作品が少ないからこそであって、何だかんだで完成度とかもみていますからね。
だからPC98のエロゲーでも94年~96年頃の作品の方が好きなのだけれど、当時リアルタイムでプレイしていたような人の話を聞いていると、93年こそ黄金期って言う人も結構多いのです。
この辺は以前にコラムとかでも書いているのですが、93年のアダルトゲームって中身は薄いけれど斬新って物が多く、新しいものが次々に出てきたという観点からは一番かもしれません。
オムニバスというのも93年頃の流行でしたし、荒削りで完成度は低いけど新しいということで、本作も実に93年らしさを感じる作品でした。

ランク:C-(佳作)

Last Updated on 2024-09-19 by katan

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