ミステリーの歩き方

2024

『ミステリーの歩き方』は2024年にswitch用として、イマジニアから発売されました。

アニメドラマを意識したような作品でしたね。

<概要>

詳細は後述しますが、基本的なゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
山鳴荘事件――
またの名を『鳴美沢風景画家殺人事件』
30年前、鳴美沢にある山鳴荘という館の敷地内で、著名画家・内田水龍が殺害された。
池のほとりで発見された死体は奇妙なものであった。
警察の捜査は進むも、被疑者死亡で事件は幕を閉じてしまう。
30年の歳月を経た山鳴荘に、犯罪心理学の若きエキスパートである皆戸彩芽准教授のゼミの個性的な面々が、研究課題として事件を調査するためにわざわざやってくる。
次第に明らかになる事実、浮かび上がる容疑者たち。
未解決事件の真相に迫っていく。
そして彼らの明るい振る舞いの裏に隠された 胸の内も明らかになっていく・・・

<感想>

本作はタイトルからも明らかなとおり、探偵推理ものになります。
探偵ゲーは久しぶりだなというのと、もともと私は探偵推理ADVが好きでADVにはまっていったことから、期待してプレイした作品でした。

簡単にいうと、本作はラノベ風のライトなミステリー作品になります。
別にゲームの探偵ものに本格的なミステリーを求めるわけではなく、たとえば、自分で推理できるゲームシステムがあるとか、魅力的なキャラや想いが描かれているとか、何かしらで、その足りない分を補充してくれるのであれば、それで十分なわけです。

そこで、まずグラフィックや演出について。
本作では、キャラに目パチ口パクがありますし、背景が一部動いている箇所もあったりします。
また、章仕立てになっており、各話の始まりと終わりには、OPとEDのムービーや、次回予告があります。
部分的に見ると、がんばって作っているようには見えます。
でもね、そういうことではないのです。
部分的な一場面だけを切り取っても意味がないわけで、作品全体として、トータルで何を描こうとしているのかが大事なのです。

本作の演出傾向を見ていると、どれもアニメドラマを意識したような演出ばかりです。
それに加えて、章仕立てにして、次回予告とか入れており、これらもアニメドラマを意識した演出といえます。
また、本作では地の文がなく、主人公の独白も音声で流れること、通常パートは1本道のノベルであることから、本作を最も快適にプレイする方法は、オートモードで見ているだけにする方法になります。
つまり、どれもこれもアニメドラマを想起させるものばかりなのです。
それでいて、現実にはアニメより格段に動きは乏しいわけで。
そのため、本作をプレイしても、動きの乏しい劣化アニメにしか感じられないのでしょう。

ゲームであること、あるいはノベルであることでも構いません。
そうした違う要素を意識させたところでアニメ的な演出も取り入れるからこそ効果的なのです。
『サクラ大戦』なんかは分かりやすい好例といえるでしょう。
繰り返しになりますが、本作も個々の要素を切り取ってみるとがんばっているように見えるのですが、どれもこれも方向性としてアニメの方を向いてしまっています。
制作者は、アニメドラマをイメージさせるように作ったのでしょうか。
それならそれで方向性はあっているのでしょうが、本作の作りでは、予算が少なくて動きがカクカクになった劣化アニメという印象しか抱けなくなってしまいます。
まったく動きのない作品に比べればマシなので、マイナス要素になるわけではありません。
ただ、部分的に見ると長所にもなりえるかもしれない要素が、その組み合わせのせいで長所たりえなくなってしまったということですね。

次に、キャラについて。
ラノベのミステリーの場合、ミステリー部分は本格的な作品と比べると劣るものの、そのかわりに、魅力的なキャラを用意したり、事件を通じてキャラ同士の人間関係を掘り下げていくことで独自の良さを生み出すことがあります。
分かりやすい例ですと、男女のホームズ役とワトソン役が、事件の解決をしていくことで、次第に恋愛関係になっていくというものが挙げられるでしょうか。

本作のキャラは、今時珍しいくらいに、記号化されたテンプレなキャラばかりです。
一部キャラは、音声の中の人の演技に難があるのか、それともあえて誇張して演技したのか分かりませんが、正直聞いていてウザく感じたこともありました。
記号化されたテンプレなキャラたちによる会話のノリは、年配ユーザーには安心感を与えるのかもしれませんが、若いユーザーには古臭いという印象を与えるのではないかと懸念してしまします。
まぁ、その辺は主観的な要素でもあり、単なる好みの範疇に含まれるので、構わないとしましょう。
問題なのは、本作は全3作を予定しているからか、日常的な会話に終始しており、キャラたちの掘り下げがありません。
確かに、読んでいる分には、普通に楽しめはするのです。
しかし、結局のところテンプレな記号化された最初のイメージから脱却したキャラは誰もいなかったです。

それから、ゲームデザインについて。
本作は、基本的にはノベルゲームになります。
ノベル部分は、たまに選択肢はあるものの一本道です。
主人公は、過去視といって、他の人物の過去を見ることがあるのですが、その場面ではコマンド選択式になります。
過去から戻ってくると、またノベルモードになりますが、ここは尋問パートとして選択肢の連続になります。

コマンド選択式の部分については、コマンドを選んだり、怪しい場所をクリックしたりすることになりますが、簡易的な作りになります。
今どき、コマンド選択式としてのやり応えを求めるようなプレイヤーがいるか分かりませんが、昔のミステリーADVが好きだったという人だと、そういう人もいるかもしれません。
しかし、本作のコマンド選択は、あくまでも補助的なものであり、決してメインではないので、ここに期待はしないでください。

本作で特徴足りえる可能性があったとすれば、それは尋問パートなのでしょう。
ミステリーものとして、自分で考える要素を作中に組み込みやすいのは、ここでしょうからね。
ただ、これは本作の構造的な問題でもあるのでしょうが、本作の主人公って、過去に行って正解を見て知っているのですよ。
しかし、その過去視できることを周囲に黙っているものだから、自分で過去を見てきましたとは言えません。
そのため、他の人が推理したという体にしなければならず、尋問パートというのも、誰かを既に知っている正解に向けて誘導していくというものになります。
なお、本作は全11話+αという構成ですが、扱っている事件は1つだけです。
したがって、各話に尋問パートはあるものの、最後の真相解明時以外は、見てきた正解を確認しているにすぎません。
つまり、知っている正解を選ぶだけともいえ、やっていることは間違い探しと変わらないのです。

たとえば、自分で推理する要素に力を入れている作品とかだと、1作品の中で複数個の事件を扱っている作品もあります。
複数の事件を盛り込むと、1つ1つのシナリオのボリュームは減りますが、自分で真相を推理できる場面が事件の数だけ用意されることになります。
そうした作品と比べると、本作の場合、客観的な量としても、推理できる場面は少ないということになります。
当然のことながら、その分だけ謎解きの満足度は下がります。

1つの事件しか扱わないとしても、その分、濃密なストーリーがあれば構わないのでしょう。
ただ、本作に関しては、導入からして弱いと感じてしまいます。
多くの探偵ものの場合、当事者という当該事件に一番想い入れの強い人から依頼されたり、あるいは自分自身が事件に遭遇して当事者になってしまうケースもありますが、いずれにしても、その事件を解明しなければならないという強い端緒があるケースが多いです。

本作の場合、事件は30年前に終わったとされるものですし、別に当事者から依頼されたわけでもなく、大学のミステリーサークル仲間が、顧問に相当する准教授から指示されて現地に行くというものになります。
そのため、この事件を解決しなければならないというハッキリした理由がなく、それは主人公らの言動にも反映されています。
これでは、興味本位からの野次馬根性ともみえかねませんし、作品の導入として、あまりに弱すぎます。
なお、本作で扱う事件自体は本作で終わるわけですし、准教授から最後に何らかの説明があれば、少しは納得もしうるのでしょうが、准教授は結局姿を現さず、本件を調べようとした真意は分かりません。

また、本作において、特徴といえるのは過去視なのでしょう。
とはいえ、実はミステリー系のADVにおいて、対象の過去を視るというのは少なからず存在します。
その多くは、対象の心の中に潜り込み、深層心理に潜んでいる過去を視ることで、事件を解明し、対象の心の闇に迫っていくというものになります。
本作では、過去視できる理由は明らかにされていません。
異世界転生ファンタジー、しかもゲームの世界に飛ばされた系の作品が好まれるご時世ですからね。
過去視できる理由が何なのかは、あまり興味を持たれない時代なのかもしれませんし、絶対に過去視できる理由を事前に提示しなければならないというものでもないのでしょう。
しかし、たとえば、心の中に潜り込むのであれば、過去を視ることにより、その対象キャラの心理面を解明し暴くことによって問題の抜本的解決を図れるのであり、ストーリーに厚みをもたせることができます。
本作には、そうしたものがないので、よく分かんないけれど単に過去を視てきて事実を知ったというだけの薄っぺらいものにみえてしまうのです。

主人公って、犯罪心理学を扱うゼミの一員なわけでしょ。
なんでこれ、主人公は対象の心の中に潜れるとか、それを周囲のゼミ仲間だけは知っているとかって設定にしなかったのでしょう?
もっとキャラの心理に迫るという側面を掘り下げれば、本作ならではの特徴も生み出せたでしょうに。
なんとも解せません。
仲間にも内緒にしているから、見てきたことを誰かに勘付いてもらうように頭を使い続けるという、苦しい展開が続いてしまうわけですし。
プロット段階でおかしいのではと思ってしまいます。

ストーリーとグラフィックの双方にかかる話ではありますが、本作では、過去視をしている際、グラフィックがファミコン時代のドット絵のような画面になります。
現在と過去の違いを示すため、何らかの表現方法の違いを取り入れることは効果的なのでしょう。
よくあるのは、セピア調の色にしたり、曖昧な記憶をみるのであれば、輪郭をぼやけさせたりと、方法はいろいろあります。
一般論として何が正解と決まっているわけではなく、その作品の流れに合っているかが大事なのだと思います。
だから本作でも、主人公が重度のゲーマーで何事もゲーム的に把握するとか、何らかの理由があれば、ドット絵のような表現もすんなりと納得できたのでしょう。
しかし、そういうものもないので、なんか、ミステリーADV好きって、ファミコン時代のADVを好むようなオッサンやオバサンばっかでしょ、だったらファミコン風のドット絵にしておけば、昔懐かしいとか言って勝手に持ち上げてくれるでしょという安易な気持ちで作られたようで、気分的にもスッキリしません。

それから、基本的なところで、民事裁判とかリコールとか、言葉の意味を知っているのかと疑問に思ってしまう箇所がありました。
このライターは、よく調べずに書いてしまうのかもしれませんが、また、それをチェックする体制も整っていないということなのでしょう。
細かい部分かもしれませんが、こういうところからなんか適当に作っているように見えてしまいますし、少なくともライターに基本的な能力が不足しているとしか見えず、次回作以降に期待できなくなってしまいます。

<評価>

部分的に切り取ってみると、がんばっているようには見えるのです。
基本的にオートモードで勝手に進んでいきますから、プレイして苦になることもないでしょう。
普通には楽しめると思います。
ただ、この作品を通じて何をやりたかったかが、全然伝わってきませんでした。
そのため、あえてプレイすることもなかったかなということ、続きにも期待できないということから、総合でも凡作とします。

ランク:D(凡作)

mystery no arukikata

Last Updated on 2024-12-28 by katan

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