『マリオネットマインド』は1993年にPC98用として、スタジオみるくから発売されました。
人形と人形遣いによる物語。
雰囲気の良さだけでなく、構造面でも見所の多い印象深い作品でした。
<概要>
本作はスタークラフトのアダルトゲーム制作ブランドである、スタジオみるくの作品になります。
ちなみに、スタークラフトは最近だと知らない人も増えているかもだけど、PC88時代には海外の名作ソフトを数多く移植していたブランドで、PC88ゲーマーなら知らない人はいないだろってくらい有名なところでした。
スタジオみるくは、ADV以外の比率が高いブランドでしたが、これまでの作品を見てみると、SLGの定価が9800円で、テーブルゲーム系が7800円だったのに対し、本作は6800円だったはずです。
一般にはADVよりテーブルゲームの方が安いイメージなのだけれど、ここはADVの方が安いんですよね。
ゲームジャンルは、一応はオムニバスのコマンド選択式ADVになります。
もっとも、少し変則的なので、詳細は後述します。
内容的には、人形と人形を使うものたちとの物語になります。
<ストーリー>
最初にオムニバス形式で3つのシナリオがあり、好きな順で楽しめます。
一つ目は「からくりの館」。
フィギュアが趣味のオタクが、美少女の人形をいじっていると、その人形が実体となって登場。
そのヒロインとの触れ合いを通じて、主人公が立ち直る話になります。
そういや意識したことなかったけれど、どうなんだろ?
ゼロ年代以降にはオタクを主人公にした漫画とか増えていきますが、本作は93年ですからね。
こういう主人公が正面から扱われるのって、非常に珍しいのではないでしょうか。
二つ目は「人形使い」。
舞台となるのは、人形劇をやっている劇場。
もっとも、運営が上手くいかなくて困っているところに、リオと名乗る一つ目のシナリオと同じ外見のヒロインが登場し、主人公と共に劇場を再興させようというものになります。
三つ目は「くぐつ師」。
街で女性を襲い、好き放題にやっている傀儡師の前にリオが登場。
対決を経て、傀儡師を更生させるものになります。
アクションシーンがあって少し派手めで、加えてHシーンもちょっと陵辱路線っぽいですし、前の2本とは少し雰囲気が異なりますね。
どれも人形から実体化したリオが、人生でちょっと上手くいっていない主人公の前に現れ、良い方向に導いていくって感じの、「ちょっと良い話」系の作品になります。
そして、これらのシナリオをクリアすると、「Mind」という4つ目のシナリオが登場します。
「Mind」はリオという少女の視点から、これまでの3つのシナリオを振り返ることになります。
<ゲームデザイン>
上記の3つのシナリオは、それぞれはつながりがないので、この3つだけだと普通のオムニバス作品となるのでしょう。
しかし、そこに「Mind」が加わり、リオというキャラの視点から再構成されて語られることで、全体が一つのストーリーとして完成するのです。
ところで、今ではヒロインないし各シナリオをクリア後に、まとめとなる、いわゆるトゥルーエンドとかグランドエンドが追加される作品も、ごく普通に存在します。
本作は、当時の書籍とかでは「連作」という表現が用いられていましたので、トゥルーエンドとかグランドエンドという言葉自体は用いられていません。
まぁ、私は最初にその言葉を用いたかなんて形式的な点は、何の意味もないと思っています。
そんなのにこだわってどうするのって思いますし。
もっとも、そうした言葉を最初に使い出したか否かという、「形式」にこだわる人たちもいるみたいなんでね。
そういう意味では、本作は、字面だけならトゥルーエンドではないのでしょう。
しかし、もっと実質的に捉えた場合、つまり、いくつかのシナリオをクリアして、その後に全体を纏めるシナリオが登場する作品と考えたならば、本作は、まさに実質的にトゥルーエンドないしグランドエンドのある作品となるのでしょう。
また、4つ目のシナリオは、3つのシナリオを別角度から見たものでもあり、物語を多角的に見るという意味では、マルチサイトの作品となります。
マルチサイトで有名な作品に『DESIRE』(1994)がありますが、本作は、それより先ということになりますね。
なお、『DESIRE』は同じ時間上の二つの物語を同時に進めていきますので、いくつかのつながりのないシナリオを個別にクリアした後のトゥルーエンドないしグランドエンドという、今のノベルゲーの一般的構造とは少し異なります。
本作は3つの別個のシナリオをクリアした後に4つ目が出現となるので、個別ルート後のまとめという点では、本作の方が今のノベルゲーに近い構造をしています。
ゲームジャンルとしては、一応はコマンド選択式ADVとなります。
もっとも、「みる」「きく」という汎用のコマンドは存在しません。
上の画面にあるように、状況に応じた個別の選択肢が登場します。
そのため、見た目は今のノベルゲーと違いがありません。
個別の選択肢の中から選ぶということから、本作をノベルゲーと言うことも可能かもしれません。
ただ、例えば選択肢が3つ出てきた場合に、その3つ全てを実行する必要がある場合もあることから、これはコマンド選択式ADVであると判断しました。
まぁ今のノベルゲーでも、演出として全部の選択肢を試させる場合もあるので、この辺は本当に微妙なんですけどね。
だから本作をノベルゲーと言う人がいても不思議ではないし、分かりやすく言えば典型的なコマンド選択式と、ノベルゲーとの中間的な存在となるのでしょう。
この手の中間的な形式のADVは、この時期のPCゲーでは、中小ブランドの作品を中心に見かけることが多かったです。
昔ながらのコマンド選択式の場合は、頻繁にコマンドを選択する必要がありますが、本作はたまにしか選択肢が登場しません。
だから読み進める感覚が強いですし、あまりコマンド選択式って感じはしなかったです。
そういう意味でも、雰囲気的にはノベルゲーに近いわけでして。
少なくとも総当たりと揶揄され面倒くさがられるような構造ではなく、プレイはしやすかったですね。
細かいシステム面では、CGモード、ミュージックモード、エンディングを回想できるエンディングモードなどが完備。
まぁ今では当たり前のものなのだけれど、エンディングを見られるのも含め、ここまで整備されているのは、当時はまだ当り前ではなかっただけに、しっかりした印象を受けます。
・・・ただ、これだけ揃っていてエンディングの回想もあるのに、Hシーンの回想モードはないわけでして。
制作側としてはHシーン以外のところを見てもらいたいのだと、いわゆるシナリオ重視的な感覚で作っていたということなのでしょうね。
<感想>
本作に含まれているシステムや構造は、今では当たり前になっている要素が多いので、今の観点で評価する人には、本作の特徴や異質性は理解しにくいように思います。
ただ、マルチサイトのトゥルーエンドないしグランドエンドという構造は、本作以前に存在したのかなと。
仮に存在しても、非常に本作が珍しいのは間違いがなく、この時期にこんな作品があったのかという、構造面での新鮮さを感じさせてくれる作品でした。
本作の本当の価値や異質さというのは、当時の状況を把握していないと理解できないと思います。
今のストーリー重視のノベルゲーないしシナリオゲーの一般的な構造はいつから存在するのか、それを遡っていくと、本作に行く着くのではないでしょうか。
今のシナリオゲーに通じる要素をここまで含んでいる作品も珍しいですし、よくよく考えてみると、かなり興味深い作品だったなと思います。
その他の点としては、単純にヒロインが可愛くて好きでしたね。
画像を数点あげておきましたが、CGの構図も良かったです。
ストーリーも、特別秀でているほどではないにしても、こういう系統の作品自体が珍しかったこともあり、個人的には結構好きでした。
<評価>
物語的には結構好きでしたし、構造的にも見所の多い作品でしたが、如何せんボリュームは少なく小粒な作品でした。
そのため、総合でも良作としておきます。
『マンホール』のアダルトゲーム版とも言える『美少女ギャラリー』であるとか、『壮陽佳肴』(1994)など、この時期のスタジオみるくのADVは、作品数こそ少ないのですが、何かしら他とは異なった特徴のある作品が多かったわけでして。
その時の流行路線だけを追いかけたい人は、スタジオみるくの作品をプレイする必要はないかもしれませんが、ADVの歴史そのものに興味があるような人や個性的な作品が好きな人は、スタジオみるくの作品は知っておくべきだと思いますね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-09-15 by katan
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