『LULU (ルル)』は1995年にWIN&MAC用として発売されました。
オリジナルは海外のゲームで、本作はその日本語版になります。
ノベルゲームの一つ進化した姿がここにある。
こういうゲームが、もっとあっても良いと思うのですけどね。
<概要>
本作のオリジナル版は、1995年にPC用として発売されました。
なお、元々は洋ゲーであり、その日本語版がPC用として移植されたのですが、日本語版の正確な発売時期は失念してしまいました。
インタラクティブムービー系のADVが盛んに移植された時期でもあり、おそらく本作もオリジナルと同じ95年に移植されたと思うので、一応95年の発売として扱っておきます。
ちなみに、PC日本語版の後にPSやSSにも移植されているのですが、そのPS版及びSS版は96年の発売になります。
簡単なあらすじとしては、主人公は宮殿に住む王女様のルルになります。
ルルは王女様として何不自由なく暮らしていましたが、友達がいません。
ある時ルルは、UFOでやってきたロボットと出会います。
そして二人は、「暖かさ」を求めて旅にでます。
本作は、そんな絵本の中に描かれた彼女たちの冒険を、読み進める作品になります。
<ゲームデザイン>
広義のジャンルとしては、ADVになります。
本作が本の中の世界であることや、元が洋ゲーであることなどから、MYST系ADVとも雰囲気が似ています。
他方、グラフィックに特徴があることから、インタラクティブムービーに近い紹介のされ方も多かったように思います。
当時の私も、インタラクティブムービーの亜種として認識していました。
もっとも、本作は、ムービーを見ることを主とした作品ではないですし、パズルが主でもないのでMYST系でもありません。
基本的には画面に表示された文章を読み進める作品ですので、ノベルゲームの一種と考えるべきなのでしょう。
少し具体的に説明しますと、トップの画像にあるように、本作では画面上に本が映し出されます。
後述するように挿絵の比率が結構高いので、絵本に近い感じですね。
そして本作は、その本のページを読み進めていく作品であり、基本はそれだけなんですね。
だから、基本はノベルゲーとなるのでしょう。
しかし、本作の特徴は、それだけではありません。
画像にもあるように、本のページをめくると、半分は文章が占めているものの、残り半分は挿絵となっています。
また、本の上をキャラが動いたりしています。
したがって、小説というよりも、むしろ文章の多い絵本と言った方が正しいかもしれません。
この挿絵の部分なのですが、挿絵内のオブジェクトをマウスでクリックすると動き出すのです。
出てくる人物やオブジェクト、いろんなものが動き出します。
このあたりの感覚は、伝統的なポイント&クリック式ADVであるとか、あるいはMYST系ADVの画面クリックに通じるものがあるでしょう。
クリックすることで映像やサウンドで返事が返ってくるのですから、インタラクティブムービー的とも言えるでしょうね。
そのため、画面クリックの面白さに着目しP&C式ADVだと言う人がいたり、あるいはクリックに対する反応が専らムービーやサウンドであることに着目し、本作をインタラクティブムービーと言う人がいても、それ自体は何ら不思議ではないと思います。
どこに着目するかで説明が変わりうるので、あえて断定する必要もないのでしょうが、読み進める行為は不可欠であるのに対し、画面クリックはゲームの進行の観点からは不可欠ではないので、個人的にはノベルゲーにプラスアルファされたという認識となったわけです。
いずれにしろ音や絵を重視し文字を廃したインタラクティブムービーと、文字を重視したノベル系ADVの融合ということで、ありそうでなかった新鮮な感覚でしたね。
一見すると単純なのですが、ADVの分類的にはかなり特殊な部類に属するように思います。
ところで、上記のように本作には画面クリックの要素があるものの、ゲームの攻略という観点からは、画面クリックは不要となります。
本作は一冊の絵本であり読み物ですので、普通にページをめくるだけでENDに辿り着けます。
だからストーリーの先だけが気になる人は、ページだけめくっていれば、ストレスなく先に進められるでしょう。
しかしユーザーが求めるものは、ストーリーだけとは限りません。
ただ読んでいるだけでは小説や絵本と変わらない、せっかくのゲームなのだから何か干渉していきたい、いろんな反応を見てみたいと思う人もいるはず。
まぁノベルゲー好きは前者でしょうし、古くからのADV好きは後者になりやすいでしょうか。
そして、そんなクリックして反応を楽しみたいという人向けに、画面クリックの要素があるわけですね。
ゲーム性というと、ときおり制限を加える方向でばかり考える人もいますが、制限を加えるだけなら、プレイヤーが自分で縛りプレイをすることもできます。
でも、ゲーム内でプレイヤーのできることっていうのは、事前に設定された内容に限られてしまうのです。
私はプレイヤーの自由度を奪うことが、必ずしもゲーム性の向上につながるとは思っていませんし、優れたゲームであるとも思っていません。
ユーザーのできることを増やし、楽しみ方をプレイヤーに委ね、プレイヤー個々人が好きに楽しめることが私は大事なんだと思います。
本作は読み進めたい人は読み進めれば良く、脇道にそれながらも世界をじっくり堪能したい人は、あちこちクリックしながら楽しめば良いのです。
ノベルゲーでもTIPSとか、テキストをクリックすると説明が加わったりするのもありますが、その対象をテキストだけでなくキャラや背景など、もっと対象を拡大しても良いと思いますし、それを実現したのが本作なのでしょう。
ノベルゲーはシステムとして完成しているという人もいますが、私は全然そうは思いません。
少なくとも最近の一般的なノベルゲーよりも、本作の構造の方がよっぽど進んでいますし、優れていると思いますからね。
<感想>
ただ、そうは言うものの、実は当時の私は、本作を素直に評価できませんでした。
1つ目の理由は、ボリュームが少なすぎることにあります。
確かにADVとしての構造面には見るべき点があるものの、それはあくまでも構造面の話にすぎません。
本作はゲームとして遊べる絶対的ボリュームが非常に少ないので、この1点を以て批判する人がいても不思議でないでしょう。
そういう意味では、本作はゲーム機に移植されているものの、ゲーム機のユーザーはコスパを求める人も多いだけに、あまりゲーム機向きの作品ではないのでしょう。
例え僅かな時間でも他では得られない刺激を求めるような人、当時ならMACで洋ゲーに手を出すような人に向いた作品とも言え、その意味で人を選ぶのは避けられないのだと思います。
今の私はボリュームを重視しませんが、当時の私は今よりはボリュームも望んでいたので、
本作のボリュームの少なさには不満の方が大きくなってしまったのです。
2つ目は、本作の童話ちっくな物語が、いかにもお子様向けっぽく感じられ、それで素直になれなかったことにあります。
子供向けの童話という観点からは良くできた内容だと思うし、親として子供にPCゲーに触れさせるのであれば、こういう作品こそが良いのだとも思います。
ただ、当時はそういう割り切りができなかったんですよね。
PC98とかでエグい内容のADVを好んでプレイしていた頃だったので、どうしても子供向けな内容を一段低く見てしまったのです。
まぁ、この辺は好みの問題と言えばそれまでなのでしょうけどね。
3つ目は、当時の私はMYST系ADVにどっぷりはまっており、言い換えればクリアが困難とも言えるような、高難度のADVを好んでいました。
本作は上記のようにクリアするだけなら読み進めるだけで良く、誰でも絶対にクリアできるわけでして。
そのため、こんなの、ちっとも歯応えがないじゃんって思ってしまい、それで不当に低く評価していたのです。
もっとも、後になって、こういう方向性もありだよねと思うようになってきました。
また、画面クリック時の反応など難易度以外の点を総合的に捉えるようになり、それで再評価して今に至るということになります。
<評価>
この作品自体には問題点もいくつもありますし、必ずしも大絶賛というわけにもいかないのかもしれません。
私自身も、トータルでは名作と思っていませんが、それでも、上記のように再評価すべき点がいくつもあることから、総合では良作としておきます。
本作は、古いノベルゲームではありますが、やっていること、技術的なことでは、むしろ最近のノベルゲームより高度なのでは、とすら思います。
ノベル系ADVが大半を占める今だからこそ、こういう形式のゲームが復活してきても面白いのではないでしょうか。
ノベルゲーが大好きな人は、これを読んでも何言っているか理解できないかもしれません。
しかしノベルゲーを嫌う人の中には、ただ読むだけの行為に、小説や漫画以上のお金を費やす必要性を感じない人も多いです。
ただ読むだけでなく、そこに何かしらの付加価値を付ければ、今の読むだけのノベルゲーに懐疑的な人の幾らかでも、新規ユーザーとして取り込めるかもしれません。
必ずしも本作そのものを絶賛するのではないのですが、本作の有する方向性を更に発展させれば、やがて凄い作品も出てくるかもしれないのであり、ノベルゲーの更なる進化の形として、見どころのある作品だと思いますね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-07-02 by katan
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