恋と、ギターと、青い空。

2015

『恋と、ギターと、青い空。』は、2015年にWIN用として、Cosmillicaから発売されました。

レズとロードムービーが融合し、他にはない魅力を伴った異色のノベルゲームでしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
NYの広告代理店に勤める隠れレズビアンのアマンダは、ある不運から、担当した大きな案件をしくじってしまい、休暇を言い渡される。
仕事一筋で遊びを知らぬ身に、突然訪れた空白の時間。
旅をして人間について学んで来いという、上司の言葉。
アマンダは、ラジオから偶然流れたカントリーソングに導かれ、独りナッシュビルへ。
音楽と色彩に満ちた町で、先の人生を憂い溜息をついていると、ふいに、天使が耳元で囁いた。
「ハロー、ナッシュビル。恋の予感の歌を聴きたい?」

<総論>

Cosmillicaは同人サークルであり、いくつもノベルゲーを制作していますが、よくあるエロゲとは雰囲気の異なる作品が多いです。
最初の方の作品はボリュームも少なかったので、その辺での物足りなさもあったけれど、次第にボリュームも増えていき、それに伴い内容も充実していき、総合的な意味で最も充実していたのが、2015年頃だと思います。

その2015年には、2本の作品を発売しており、1つが本作で、もう一つが『亡国のクルティザンヌ』になります。
『亡国のクルティザンヌ』は、エロゲでは珍しい歴史ものでして。
史実に沿いつつも、歴史の表に出てこない部分を上手く表現することに成功した、ストーリーの優れた作品でした。
キャラとかの造形からもシナリオの展開の仕方からも、おそらく一般的なエロゲユーザーにとっては、同サークルの作品の中では、『亡国のクルティザンヌ』が一番楽しめるのではないかと個人的には思っています。
まぁ、とりあえず、歴史系作品が好きならば、是が非でもやっておけとは言いたくなりますけどね。

そういう意味では、本作の方が、題材的にも作風的にも、好みが分かれる作品だと思うのですが、でも、だからこそ、個人的にはこの作品を推したいのです。

<感想>

上記のとおり、本作は、NYで仕事一筋でがんばってきたヒスパニック系のアマンダが、仕事のミスを機に、休暇と旅を言い渡されます。
突然のことで、全然あてもなかったアマンダですが、向かったナッシュビルの酒場で、ギターと歌で町を渡り歩くジュリエッタと出会い、酔った勢いで関係をもってしまいます。
その後、二人は、一緒にアメリカを旅することになります。

本作のジャンル名には、純愛レズビアン・ロードノベルとあります。
純愛レズビアンと言われると、言葉だけだと何だか違和感もあるのですが、いざプレイしてみると、なるほど、確かにこれは純愛レズビアンだなと思わされます。

80年代から90年代前半のエロゲは、女性二人が関係を持つと、何でもかんでもレズと記す傾向がありました。
それが近年は、逆に何でもかんでも百合と表現するようになり、これはレズだろというものであっても、百合作品として紹介されることが多いです。
百合とレズは本来は異なるものだと思うし、片方が好きであっても、もう片方も好きとは限らないわけで、百合は好きだけどレズは合わない人もいれば、その逆も然りです。
しかし、その使い分けが凄く適当になっていることから、合わない作品を購入して文句をいうといった、作品にもユーザーにも不幸な現象が生じているのが、近年のノベルゲー事情なのでしょう。

さて、百合とレズの違いについては、語りだすとそれだけで長くなるかもしれないので、これ以上は割愛しますが、端的にいうならば、精神的欲求から始まるのが百合であり、肉体的欲求から始まるのがレズなのだと思います。
誤解を覚悟でひらたくいうならば、男性向けでいうところの純愛ゲーが百合に相当し、ナンパゲーがレズに相当するのでしょう。
そういう意味では、本作は、恋愛感情抜きに、まず肉体関係から始まるため、レズ作品となるのでしょう。
ただ、百合であってもその後に肉体関係に発展することもあるように、レズであっても、そこからプラトニックな関係が深まることも十分にあるわけです。

本作は、二人が旅をする過程で、次第にその絆が深まっていくわけでして。
その光景は、まさしく純愛なのでしょう。
だからプレイしてみると、純愛レズビアンという表現がしっくりくるのです。

ところで、本作は、純愛レズビアンのほかに、ロードノベルという表現が用いられています。
本作は二人がアメリカを旅する物語であり、ロードムービー的な手法が用いられています。
ロードムービーも映画では一つのジャンルなのですが、ノベルゲーではレズよりもマイナージャンルですよね。
本作の場合、そこに音楽も絡んでくるわけですから、アメリカを旅する気分に浸りながら、終始新鮮な気持ちで楽しむことができました。

レズと音楽とロードムービー。
それぞれの要素自体、程度の差はあれ、どれもマイナージャンルであるのに、これらの要素を組み合わせた作品となると、もうノベルゲーでは他にはないのではと思われるくらい、非常に珍しいと思います。
ただ、プレイしていて思ったのですが、単にマイナージャンルを組み合わせただけではなく、もっと本質的な部分で本作と他のエロゲとの間には、違いがあるようにも思います。
そしてその答えは、製作者自身のインタビューにありました。

少し話がそれますが、私は、クリエイターのコメントとか、あまり見ない方だと思います。
まぁ、ものにもよるのかもしれませんが、特にエロゲの場合、ライターがあれこれ解説しているのを見ると、かえって幻滅してしまうことの方が圧倒的に多いからです。
作品は確かに素晴らしいけれど、そのクリエイターの知識や認識は誤りだらけだったりとかして、底の浅さを感じ、今後への期待が持てなくなるのです。
よくクリエイターにインタビューをして、記事とかにする人もいますし、聞いたことを持論につなげて書く人もいますが、ことノベルゲーに関しては、私にはその多くが無価値に見えてしまうんですよね。
もっとも、中には例外もあるわけで、本作へのインタビューもその例外の一つになります。

原文を見ないでこれを書いているので、少し曖昧になっていますが、確か、映画を意識して本作を作ったと書いてあったはずです。
今のエロゲは、ラノベ的というか、私はときどきエロゲ臭が漂うという表現も使いますが、何かそういう構造や雰囲気がありまして。
本作もエロがあるので、エロゲではあるのですが、一般映画を意識して作られていることもあり、多くのエロゲにあるエロゲ臭がないのです。
だからジャンルの組み合わせだけでなく、もっと本質的な部分において、本作はその構造自体が大多数のエロゲと異なり、異色な存在なのです。
そうであるがゆえに、一般的なエロゲユーザーにとっては、好き嫌いの分かれる作品となるのかもしれませんが、でも、だからこそ、その異質さを私は推したいんですよね。

はじめに書いた部分の繰り返しというか、捕捉になりますが、『亡国のクルティザンヌ』の方が本作よりも、ストーリーは優れているのかもしれません。
本作は、終盤が少しアッサリでしたしね。
しかし、『亡国のクルティザンヌ』は、エロゲ的文法に則っているというか、私的にいうところのエロゲ臭が少しあるので、そういう点も影響して、個人的にはこっちの方が印象に残ったというところでしょうか。

<評価>

総合では名作といえるでしょう。

残念なのは、今この作品を日本語版でプレイするのが、少し難しくなっていることと、今後の新作が望めない可能性が高いことでしょうか(日本語音声入り英語字幕の英語版は、steamで購入できるみたいです)。

本作のジャンル名の表現一つをとってみても、インタビューをみてみても、作品をプレイしてみても、本作のライターは本当に良く知っているし、良く調べているなと思います。
傑作評価した作品のライターであっても、う~んと首を傾げたくなる場合もある中、作品の評価以上に、この人の次の作品を見てみたいとか、この人は凄いなと思えるケースは少ないだけに、できれば、また新作を出してほしいものですね。

ランク:A-(名作)


Last Updated on 2024-09-28 by katan

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