『青い鳥 ~L’Oiseau Bleu~』は2001年にWIN用として、ぱんだはうすから発売されました。
電波ゲー、不思議ゲー、不条理ゲー、実験作、意欲作、様々な表現ができる興味深い作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
主人公河合コマスケは都会に住む、どこにでもいそうな青年だった。
ふとコマスケは仕事から逃げ出し、街を飛び出し、辿り着いた先は原磯市という地方都市だった。
そこでコマスケは幼なじみの女の子、本城凪と再会した。
「青い鳥」のチルチルとミチルのように夢の中を旅する二人。
そして、その先に見たものは…。
<感想>
本作は、ぱんだはうすのデビュー作になります。
もっとも、この言い方だと、少し誤解を招いてしまうかもしれません。
もともと、ぱんだはうすは、Cat’s Pro.とMelodyという2つのブランドにより、PC98時代から活動していたブランドでした。
過去の作品の中には話題作、名作、大作、いろんな作品がありました。
また、PC98後期の作品の中には、地味で話題にならなかった作品もありましたが、それらの多くは、単に初心者に良さが分かりにくかっただけであり、コアなADVファンなら良さが分かるような通好みの作品だったりしたわけでして。
リアルタイムでプレイしていた時は、なんかイマイチかなと思った作品でも、今になって冷静に分析してみると、興味深い試みがなされていたりして、知れば知るほど、奥が深いブランドだったなと思います。
※ざっくりとしたイメージでは、Cat’s Pro.は話題作や名作、大作が多くて、Melodyは地味だけど分かる人には分かる通好みな作品が多いイメージです。
私の中で悔いが残るとするならば、このブランドの奥の深さに、当時、なぜ気付けなかったのか、その1点に尽きるのでしょう。
そんな2つのブランドで活動していた、ぱんだはうすが、社名である、ぱんだはうす名義で最初に発売したのが本作になります。
そのため、レーベルとしてはデビュー作になるのですが、集大成的な意味合いもあったのかもしれません。
そんな本作、プレイをしてみると、何が何だかさっぱり意味が分かりません。
これを電波ゲーということもできるのでしょうが、どちらかというと、不思議ゲーとか、不条理ゲーと言った方が、より近いのかもしれません。
おそらく『ふしぎ電車』とかが好きな人は、本作も好きでしょう。
また、もっと端的に言うならば、ぱんだ系列の中では、名作である『SPARK!』の後継作と言えるように思います。
こういうわけの分からない作品は、好きな人は好きなのでしょうが、どうしても好き嫌いは分かれやすいのでしょう。
ちなみに、私は特に好きというわけでもないので、最初に本作をプレイした時、あまり面白いとは思えませんでした。
もちろん、私は『SPARK!』は高く評価しているのですが、『SPARK!』は、いわば「動」の作品であり、作中の動きと面白さが伝わりやすい作品だったのに対し、本作は、そのテーマとも絡んで、「静」の作品なのです。
そのため、本作の持っている本来の面白さが、直観的にこちらに伝わりにくかったのが大きかったのでしょう。
そんなわけで、本作に対する私の最初の印象は、あまり良くありませんでした。
しかし、今になっていろいろ思うこともありまして。
例えば、子供の頃に初めてピカソの絵をみたとき、下手だなとか、これなら自分にだって描けるって思った人が多いと思います。
でも、ピカソって、若い頃の絵は、素人目に見ても凄く上手いわけでして。
普通に上手くも描けるけれど、いろいろ試した結果、そのいきついた先が、わけのわからない変な絵柄ということなんですよね。
本作をみていると、それと似た様な匂いがしてくるのです。
ゲームの作り方を知らない新興ブランドが作品を作った場合、変な作品になることはあります。
電波ゲーとか不条理ゲーとか、その多くは経験の少ない新興ブランドの作品であり
逆にそれしか作れなかったともいえるのでしょう。
しかし、ぱんだはうすは、そうではなくて、長年の経験もありますし、通好みな良く出来た作品も幾つも作ってきたうえで、それにもかかわらず、あえてこんな作品を出してきたわけです。
一体、どういう心境だったのかと、聞いてみたくなります。
選択肢を選んでいけば、そのうちクリアできると、本作の説明書だかに確か書いてあったように思います。
本作は、選択肢が一杯出てくるノベルゲーですが、攻略情報とかあまり何も考えずに、本能のまま読み進めていくことが、一番の楽しみ方だと思っています。
それは、PC98時代の同級生系作品のような、攻略情報必須の高難易度作品に対するアンチテーゼにも見えてきます。
他方、本作はノベルゲーでありつつも、ストーリーというストーリーがありません。
舞台も時系列もよくわからず、今描かれているのが現実なのか、それとも虚構なのかも、あまりよくわかりません。
なんだかよく分からない、ふわふわしたような感じで始まり、そのまま終わっていきます。
これがPC98時代に発売されたのであれば、まだ分からなくもないですが、本作が発売されたのは2001年ですからね。
ストーリー重視のノベルゲーが支持を得られやすい時代になったことは、エロゲ関係者であれば誰でも分かるはずです。
そうした中で、実績のあるブランドが、あえて本作を出すなんてのは、ストーリー偏重時代に入った業界に対するアンチテーゼともいえるでしょう。
それくらい本作は、考えれば考えるほど異端なのです。
繰り返しになりますが、本作は新興ブランドがたまたま作ったのではなく、これまでにも意欲的な作品を作ってきたブランドが、あえてそんな作品を作ってきたからこそ、興味深いのです。
もう昔のことなので、細かい部分を忘れてしまったのが残念なのですが、疑似的な無限ループの表現であるとか、物語の構造であるとか、細かく分析してみると本作は、物語の表現方法として、細かな試みがいくつもなされていたように思います。
ただ、問題なのは、その意欲的な試みが、如何せん直感的な楽しさにつながっていないわけでして。
そのため、結局のところ本作は、Melody系列の作品にありがちな、素人受けしないけれど、分かる人だけには分かるような、通好みの作品に仕上がってしまったということなのでしょう。
・・・何でこれ、ぱんだはうす名義で出したんですかね。
新ブランドで新規ユーザーを獲得しにいくというなら分かりますが、『SPARK!』系の作品なのだから、Cat’s Pro.名義で良かったのではと、個人的には思ってしまいます。
まぁ、そもそも『SPARK!』がCat’s Pro.というのも違和感があるので、見た目はCat’s Pro.、中身はMelodyってことで、併せてぱんだはうすとなるんですかね。。。
作品の構造部分にばかり注目してしまいましたが、ぱんだはうすは、もともとはアイデスから独立したブランドで、サウンド担当はPANDA氏になります。
PANDA氏の曲は定評がありますが、本作のOP曲には根強いファンもいますし、男性も含めてフルボイスになっている等、サウンドに関しては充実した作りになっています。
<評価>
本作においても、様々な意欲的な試みがなされており、ADVマニアには、本作をプレイして分析してもらいたいなと思うわけでして。
電波ゲー、不思議ゲー、不条理ゲーは他にもありますが、過去の実績をふまえて、意図的にそう仕上げてきた作品なんてのは、滅多にあるわけではなく、そう考えると本作はオンリーワンなんですね。
また、こういう作品を作れるのも、このブランドしかないのでしょう。
そのため、本作は、高く評価されて然るべきなのでしょうが、他方で、初めてプレイした時の印象、直観的な楽しさという点では、佳作相当どころか凡作もありうるくらいの作品かなというのがあり、なかなか高く評価しづらいものもあります。
そして、どうしても『SPARK!』よりは下かなというのもありますので、その辺も加味して、総合ではギリギリ良作とします。
誰でもすぐに分かる楽しさを求めるのであれば、本作をあえてプレイする必要はないのでしょう。
しかし、本作の位置付けや、その特殊性に価値を見出せるならば、ぜひともプレイしてもらいたいと思いますね。
Last Updated on 2025-03-01 by katan