『Kasumisan# 真夏のリフレイン』は2001年にWIN用として、GASTROから発売されました。
この年を代表するループものになりますね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
主人公は7月31日に幼なじみを交通事故で失う。
突然の事に呆然とする主人公の前に「死神」を名乗る謎の人物が現れる。
混乱し、気絶した主人公が目を覚ますと、そこは再び7月31日の朝。
繰り返される時の中で、主人公は幼なじみを助けてこの世界から脱出できるのか?
<感想>
タイトルは「かすみさんしゃーぷ」と読みます。
このタイトルを初めて見た時、私はメインヒロインがカスミさんなのかと勝手に想像していたのですが、そうではなくてカスミは主人公の方でした。
「シャープ」といい、ちょっと風変わりなタイトルなので、それだけでも印象深くなりやすい作品でしたね。
本作はサブタイトルからも何となく想像できるように、いわゆる「ループもの」になります。
一般的にループゲーは全体で一つの纏まった作品になりやすいことや、それに伴い壮大で満足感の得やすい構造になりやすいこと、また終盤で大きな種明かしが待っていることでカタルシスを得やすいなど、ユーザーの心を掴みやすい要素が幾つか含まれています。
そのため、ある意味、非常に「初心者受け」しやすいジャンルでもありまして。
だからどうしても最初の方に出会った作品の思い入れが強くなりやすく、ADVを始めて初期の頃に出会ったループゲーがマイベストって人も、結構いるのではないでしょうか。
少し余談になるけれど、誰かのベストランキングとかを見た場合、そこでループゲーがトップに来ていたりすると、あぁ~この時期に始めたのかなとか思ったりしますし。
もっとも、最初の方は衝撃を受けていたとしても、似た作品を経験していくことで次第に驚かなくなり、やがてループゲーの欠点の方が気になりだして嫌になるケースもあります。
そういう意味では、プレイヤーのゲーム遍歴次第で、大きく印象の変わりうるジャンルでもあるのでしょう。
基本的にこういうことは書きたくないのだけれど、このジャンルに関してだけは、どうしても蓄積された知識・経験に大きく影響されてしまうものですから。
だから絶賛されていても安易に信用することができず、もし仮に褒めて布教したい作品があっても、まずは自分の立ち位置から説明すべきジャンルなのかなと思うのです。
実際、ゼロ年代前半のループゲーで、ゼロ年代前半にエロゲデビューした人の間では絶賛され、今では名作扱いされることが多いような作品であっても、古くからのユーザーにはマンネリに映り酷評されるケースもあります。
80年代からのゲーマーで私と交流のあった方も、ゼロ年代前半にループゲーを含んだオールクリア必須作品が増えたことで、それに嫌気がさしてエロゲをやめてしまわれましたからね。
以上を前提に本作を見ていきますと、本作が発売されたのは2001年になります。
私はループものは90年代から、似た構造のものを含めるなら80年代から経験しているわけで、ループゲーに出会って衝撃を受けるという時期は既に過ぎていました。
つまり新鮮に感じるという時期は過ぎ去り、完成度を求める時期に入っていたということですね。
ゼロ年代も半ばになると増えるループゲーに辟易し始め、長所より欠点の方が気になりだし、それに伴いループゲーに対する関心は、如何に欠点を回避する工夫がなされているかという点に移っていきます。
すなわち、一方で当時の初心者がループゲーすげぇと絶賛し、他方で古参の一部がマンネリつまらんと引退し始めていたなかで、私個人としては、問題点を解消する作品を幾つか知ったことから、そういう工夫のなされた作品を求める第3の立場にあったと言えるでしょう。
また、本格的にうんざりし始めるのは2003年頃からだったと思うし、少なくとも2001年の時点では初体験による衝撃の類はなくなっても、まだ飽きてくる前の段階であり、ある意味何の偏見もなく冷静に触れることのできた時期だったと思います。
さて、上記のように本作はループものであり、そのループの構造も他の作品と異なることから、今現在でも特徴のある作品とは言えるのでしょう。
ただ、その肝心の構造というかオチ自体は割としょぼいわけでして。
どちらかと言うと、何だそんなことかと、肩すかし気味に感じてしまう人の方が多いように思います。
また、ヒロインが一人ということもあり、日常シーンの幅も少なく、繰り返される31日という本題に入るまでは少し単調だったりします。
つまり起承転結でいうところの「起」と「結」という、肝心な最初と最後が物足りない作品なのです。
だから当時のループゲーのストーリー性に着目する人の目に止まらず、それで埋もれやすかったとも言えるのでしょう。
しかしながら、じゃあループゲーとして見所がないのかというと、必ずしもそうではありません。
本作は、ループゲー自体に衝撃を受けるような初心者には受けにくい作品でしたが、逆にループゲーに慣れて驚かなくなり始めた人、あるいは欠点が気になりだしたような人にとっては、そのストーリー性だけで初心者受けして名作扱いされた作品よりも、見所のある興味深い作品でもあったのです。
その理由の一つ目は、上記のオチの部分ですね。
先程はしょぼいと書きましたし、内容自体は凄いというものでもないのですが、着眼点に対して、なるほどと考えさせられる部分がありまして。
本作での評価自体は賛否分かれると思うし、なんなら私は否定的ですらあるのですが、ここはこうした方が良かったんじゃないかとか、この発想をもう少し上手く活用すれば新境地が切り開けないかとか、一つの論点として議論のネタにはなるのですよ。
だからループゲーをある程度プレイした人の方が、本作が面白いかは別として、新たな何かを得るという観点から楽しみやすいのです。
二つ目としては、ループゲーって同じことの繰り返しですから、見ていて飽きやすいんですよね。
だから重複する部分を上手く削ったり、飽きを上回るような新たな魅力を混ぜてみたりと、何らかの工夫が欲しくなるのです。
そして本作は、その辺の工夫が上手かったんですね。
つまり起承転結の「承」と「転」に該当する部分が良かった作品といえるのです。
本作における最大の評価ポイントを挙げるとするならば、やっぱりここになるのでしょうね。
そういう工夫を求める欲求は経験数が増えるほど強くなると思うので、ある程度ループゲーを知っている人の方が得るものが多いのです。
まぁ、ここの飽きさせない工夫というのが諸刃の剣でもあり、ループものとして受け入れられないという人も出てくるかなとは思いますけどね。
それと、三つ目はループゲーというよりも、むしろノベルゲー全般に対するものになるでしょうか。
2000年頃からエロゲがノベルゲーばかりになって、それが嫌でやめていった人も多いです。
個人的には今でもやっているくらいですから、ノベルゲー自体は好きなんですよね。
ただ、基本は読み進めるノベルで構わないのだとしても、作品全てが「読むだけ」に終始する必要はないよなと思うわけでして。
読むだけの紙芝居でフルプライスは高いと思う人も多いですが、だったらそう感じさせないようなプラスアルファをすれば良いのです。
本作はオマケで、ヒロインに対する調教ゲームがあります。
これがまた結構楽しめる内容になっていて、しかもエロも十分に補充できます。
ストーリー性を重視したノベルゲーの場合、どうしてもエロが薄くなりがちですし、エロ薄・ゲーム性薄・ボリューム薄という問題を抱えるおそれがあります。
無理にエロを増やすと展開が不自然になりますし、ボリューム増やせと水増しされても読むのがだるくなるだけですし、シナリオゲーで中途半端にゲーム性を加えられても、読むことへの邪魔にしかなりません。
だったら無理に本編の中に盛り込むのではなく、本編に匹敵するくらいの出来のオマケで対処すると言う本作の方向性も、必ずしもこれがベストとは言いませんが、一つの方向性として十分にありだと思うのです。
その他の部分として、グラフィックについて、本作はキャラの表情変化は豊富なのですが、テキスト欄内のフェイスウインドゥで完結してしまい、グラフィック全体が活かされないことも多いという問題もあります。
<評価>
本作は、ストーリーも最初と最後が賛否分かれうると思いますし、ヒロインは性格が良くて万人受けするタイプなので杞憂だとは思うものの、一人しかいないだけに、万が一合わない場合には、プレイ進行自体が苦痛になるおそれもあります。
そのため、決して欠点のない完全な作品とは言えないのでしょう。
たぶん、普通の人がプレイしても、普通に楽しめたくらいの印象しか持てないと思います。
その辺もふまえて、総合では佳作とします。
ただね、世の中にはループものにこだわってしまう方もいるでしょう。
つまり、うどんを食べ飽きたのなら食べるのをやめれば良いのに、生醤油をかけてでもうどんを食べることにこだわるような人たちってことですね。
そういう人たち、ループゲーやノベルゲーの新たな可能性を見てみたいとか、当該ジャンルの欠点が気になり出したような人がプレイした場合に、こういう切り口や解決方法もありえるんだねと、何かしら得るものがあるんじゃないかと思うわけでして。
つまり本作は初心者が凄いと絶賛するタイプの作品ではないのだけれど、なるほどなと考えさせることの多い玄人受けするタイプの作品なのでしょう。
まぁ本作が発売されてからも10年以上経っていますから、本作の提示した問題点とその解決方法も、後の何かしらで経験してしまった人もいるかもしれませんけどね。
総じて、低い評価をする人がいても理解できる一方で、ベテランゲーマーの方が高い評価をするタイプの作品だと思います。
まぁ私は素人っぽい好みなので、上記のとおり佳作としておきますけどね。
とりあえずループもののノベルゲーが好きな人であれば、考え方の幅を広げるという意味でも何かしら得るものがると思いますし、プレイして損のない作品だと思いますね。
ランク:C(佳作)
Last Updated on 2025-02-24 by katan
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