神無ノ鳥

2002

『神無ノ鳥』は2002年にWIN用として、すたじおみりすから発売されました。

BLゲー屈指の、非常に良質な泣きゲーでしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・『神無山』と呼ばれる場所がある。
生者の世界と、死して肉体から離れた魂が集う世界とを繋ぐ場所に。
そこには『神無ノ鳥』と呼ばれる者たちがいて、終焉を迎える魂たちを肉体から引き離し、死者の世界へと連れ行く役割を担っている。
老いも若きも皆一様に背負っている、避けられぬ運命の瞬間。
『死』という運命を人間にもたらすためだけに、彼らは存在している。
けれど、自らに与えられた運命をよしとせず、人の魂をその手に掴むことを忌み嫌う少年がいた。
彼は今まで一度として、人の魂を回収したことがない。
白き翼をはためかせる魂を、その手に掴んだことさえない。
人の死を見届ける彼の眼に映るのは、恐怖。畏怖。不快感。
そして頭を過ぎる、微かな記憶だけ。けれど、心の内に留まる『それ』が、イカルに人の魂を回収させないのだということは分かっていた。
そして、ある日。イカルは『神無山』の奥深くにある『常闇の間』へと呼び出される。纏わりつく不快な瘴気の感触と、一寸先すらも見えない闇の中でイカルが聞いた言葉は。『一月後の、六月一日に死亡する少年の魂を回収せよ』
『回収対象の名は、綿貫琉宇――』事実上の最後通告だった。
魂を回収出来ない『神無ノ鳥』には、存在理由が無い。
出来なければ、消される。『神無山』に、居場所は無くなってしまう。…命令拒否は、出来なかった。
地上に降りたイカルは、琉宇という名の少年と邂逅を果たす。
人を拒む少年と、彼を優しく見守る叔父と。
彼らと触れ合う日々を通し、イカルが学ぶもの、知る事は何なのか…今、物語が幕を開ける……。

<サウンド>

本作は18禁のBLゲームになります。
普段は機種・年代問わずに抜け目なくプレイしているつもりですが、発売当時、唯一全くと言えるくらいに手付かずだった分野です。
そのため購入時にはプレミアがついており、値段がとんでもないことになってました。
もっとも、私の懐には痛かったのですが、定価自体は安いので、むしろ良心的な価格としてプラスに評価すべきところでしょうね。

そんなBLに関心がなかった人間なので、BL的にどうよって視点では出来は図りかねます。
特に本作はショタゲーでもありますので、また違った部分もあるでしょうし。
まぁ、ストーリー重視の作品だし、アダルトゲームでもエロシーンを飛ばすことも多いので、いつも通りっちゃあ、いつも通りな気もしますけどね。

さて、そんな本作、まず良かったのはOPですね。
これは非常に秀逸でした。
最初からゲームの世界に引き込まれるということは、とても良いことです。

その後も、サウンドは常にレベルが高かったです。
サウンドの良さで引っ張る泣きゲーってことで、keyのゲームにも通じるところがあるかもしれません。

他方で、グラフィックは、質は高かったと思いますが、若干CGの量が少なめでした。
見た目が寂しい分、サウンドや声優さんの豪華さでカバーって感じでしたね。

<感想>

肝心の中身ですが、私が購入したのもストーリーの評判を聞いたからでして。
確かに、これは評判になるのも分かりますね。
ストーリー重視といいつつ終盤で駄目になるゲームが多い中で、稀にみるEDまで計算しつくされたストーリーです。

本作では、全ての個別EDを見終わった後に番外編が読めるのですが、実はその番外編こそが重要で、ここで物語の全部が繋がってきます。
この番外編が1番良かったですね。
それまではどちらかと言うと普通のゲームだな~って思ってたのが、番外編で一転しました。
張られた伏線は全て回収されるし、最後は泣けるような鳥肌が立つような感覚に襲われますし。
それで物語の最初につながっていくんですよね。
ラストでまたOP曲を持ってくるのも上手かったです。
これでOP曲を聴くたびにラストを思い出しますからね。
本作に対する評価のほとんどは、この番外編からEDにかけての部分で稼いだって言っても過言でないでしょう。

圧巻でした。
BLってことで躊躇している人もいるかとは思いますが、BLが苦手でもストーリー重視派ならやっておくべきと言える、そんな作品でしたね。

<ストーリー>

少し中身に入りますと、物語的には死神が主人公の話ですが、ラストのオチ的には転生物になるでしょうか。
そういう意味では、輪廻転生とかの題材が好きな人向けなのでしょう。

ただし、ここで若干注意すべき点があります。
輪廻転生の考え方は決して一義的なものではなく、おそらく一般にイメージされるであろうものと仏教的な考え方とでは、転生の意味する内容が異なります。
本作の場合は、一般的なイメージでの使われ方ではなく、仏教的な考え方が色濃く反映されていますので、一般的なイメージに凝り固まった人だと違和感があるかもしれません。
だから事前に違うのだと理解しておけば、物語の重みもより伝わってくるかもしれませんね。

ストーリーは非常に上手く纏まっており、特に起承転結の結の部分は上述のように文句なしでしょう。
何で本作がBLゲーとして発売されたのか、プレイ前は非常に不思議だったのですが、それも終わってみれば十分納得できますし。
このストーリーじゃ琉宇君を女の子にすることは出来ませんもん。
本作は、BLでしか成立しえない、まさにBLでなければ作れなかった物語ないし作品であり、そういう細かいところまでお見事でしたね。

ただ、日常部分は少し冗長すぎましたかね。
出だしはわりと楽しめたのですが、あまりに長くて次第に飽きてくるんです。
これでは挫折しかねないですよ。
ボリュームを半分に削ったら、もっと素晴らしい作品になったでしょうね。
本作の一番駄目なところでもあり、勿体無いところでもありました。
まぁ、この当時のノベルゲーらしい傾向でもあるので、当時としては大してマイナスにはなりませんけどね。

<キャラ>

キャラは何と言っても、数少ない女の子である紗(うすぎぬ)ですね。
若干ネタバレがあるので、嫌な人は次の段落を一つ飛ばしてください。

紗はとにかく可愛くて、それでいて可哀相すぎでした。
そして最後のセリフです「(…でしたら 斑鳩さま)(子を産めぬ… 男として生まれてくれば……)(もう1度あなたに、お会いできますか?)(…ねえ、斑鳩さま……)」。

このセリフとともにOP曲が流れてきた時は、もう涙が止まらなくなりましたね。

なお、本作にとって紗の存在は不可欠ですし、彼女の存在があったからこそ私は高く評価しているのですが、見方をかえると、BLとは異なってくることを意味しますので、そういう意味では、BLゲーとしては変則的な作品ともいえるのでしょう。

他のキャラに関しては、琉宇君が可愛かったです。
ショタに目覚めてしまうのでは?と思うくらい、やばかったです。
BL属性があればもっと楽しめたんでしょうね、きっと。
属性のない私は主観的にははまりきれない面もありますが、攻めと受けを選べるなどユーザーへの配慮もなされていますし、到る所で丁寧に作られていて良かったと思います。

<評価>

総合でも文句なしに名作といえるでしょう。

確かに、途中が少し冗長という部分もあり、今から初めてプレイする人は、そこが少し気になるかもしれません。
しかし、上記のとおり、この当時のノベルゲーは程度の差はあれ、そういう傾向はありましたから、本作だけ特別に大幅減点というものでもないのでしょう。

他方で、何度も言うようにラストの展開は最高なんですよね。
泣きゲーと呼ばれる作品は幾つかありますが、その中でも破壊力、最大風速は最強かもしれません。
これだけだと、ちょっと抽象論にきこえるかもしれませんが、単に感情に訴えかけるだけの作品ではなく、張られた伏線を回収し纏め上げながら、ストーリーに説得力をもたせながら同時に感動的な展開にもっていっているわけで、ここまでの作品はノベルゲー全体でも皆無に近いでしょう。

また、私は、単純に中身だけでなく、その作品をその媒体で発売する意味があったのかとか、そのジャンルで発売する意味があったのかという点も非常に気にします。
本作は、当時まだ良作と呼べるような作品すら少ない、BLゲーというジャンルから発売されました。
BLに興味はないけれど、ストーリーの良い作品と言われると気になってしまう私は、なんでBLゲーで発売したんだとプレイ前は思っていましたが、上記のとおり、本作はBLゲーであることにまで意味を持たせてきました。
これはもう脱帽としか言えませんし、私としては当然ながら、ここは大幅な高得点につながってきます。

長所だけなら間違いなく傑作といえるところ、上記のマイナス部分もあるので、その分、1ランク下げることも最初は検討しました。
しかし、本作の場合、評価するにあたっては、その発売時期や背景も考慮すべきなのでしょう。
90年代末頃からBLゲーは登場していますが、当初はネタゲーのような作品や、完成度の低い作品ばかりでした。
ギャルゲーが当初は揶揄され低くみられていたように、BLゲーも一段低く見られ、まだ市民権を得ていないような状態だったと思います。
そんな時代に出てきたのが本作であり、エロゲでは泣きゲーや鬱ゲーが流行っていたところ、そうした泣きゲーのメインストリームたる男性向けエロゲを凌駕する作品がBLゲーから出てきたことは、BLゲー市場にとって、非常に大きな意義があったといえるのでしょう。
当時存在していたシナリオ重視とかいうプレイヤーたちの中には、エロゲにはエロはいらないとすら言う人もおり、何よりストーリーの良さだけを求めているようなプレイヤーも少なからず存在しました。
そうしたプレイヤーからすると、本作の登場により、今後はBLゲーもチェックしていかなければならないという意識を植え付けられることになりました。
BLゲーがその後発展し、受け入れられ、浸透していく背景には、本作のような作品があったという事実は看過できないのであり、その点は評価されて然るべきだと思います。
そうした本作の持つ歴史的な意義を再評価し、傑作と判断しました。

プレイヤーの感情に訴えかける主観的な部分と、緻密に練られた構成という客観的な部分での秀逸さの、両方が見事に両立し融合した本作。
アダルトゲームでストーリー重視作品が好きならば、本作は絶対にプレイすべきと言っても過言でない、実に素晴らしい作品でした。

ランク:AA(傑作)


Last Updated on 2025-03-24 by katan

コメント

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    katan氏、こんにちは
    神無ノ鳥に目をつけられるなんてさすがです。
    BL系ではこれを超える作品はないと言う人もいる名作・・・
    今となっては入手困難なのがおしいですね
    それと、このジャンルゆえに多くの人の手にとってもらえないのも。
    ・・・katan氏がBL系もプレイしてることが嬉しいような悲しいような

  2. SECRET: 0
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    >>もげさん
    こんばんは。
    入手困難なのは勿体無いですよね。
    該当部分を少し削って家庭用ゲーム機に移植しても良いと思うのですけど。
    ゲーム購入に際しては、偏見は持たないようにしてますので。
    ストーリーの良さに一般もアダルトもBLも同人も関係ないですからね。
    今後も、良さそうだなって思ったら何でも手を出すと思いますね。

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