『虚ノ少女』は2013年にWIN用として、Innocent Greyから発売されました。
同じ読み方の『殻ノ少女』に続く、シリーズ第2弾になります。
<概要>
商品紹介によるあらすじは以下の通り。
日本が戦争への道を歩み始めた、所謂前線と呼ばれた時代。
北陸の雪深い山中に人形(ヒトガタ)と云う集落があった。
ヒンナサマと云う土人形を祀る奇妙な風習が残る此の地にて、祭の夜にひとりの女が殺されていた。
村の者は口々にヒンナサマの祟りだと口にした。
正統ではない者がヒンナサマを祀ったが故に祟りに遭って殺されたと。
昭和三十二年、十二月。
朽木冬子が病室より攫われてから、およそ二年の歳月が過ぎていた。
時坂玲人の妹紫は、自殺を図ろうとしていた男を助ける。
この男こそ現在の黄泉帰った‘ヒンナサマの祟り’の被疑者であった――
戦時を跨いで続く妄執を断ち切る為に時坂玲人は動く。
その胸の内に冬子への妄執を引き摺りながら――
同時期に動きを見せ始めた、六年前に解散した筈の宗教団体は果たして何を画策しているのか――
祟りを為すのが天であろうとも、手を下すのは人である。
<感想>
萌えや恋愛が中心でないミステリーものは、現在は非常に少ない状況になっています。
もともと私は、推理ものでADVにはまっていった80年代からのゲーマーだけに、推理ものの元気がないと寂しく感じてしまうのですよ。
古い考えかもしれませんが、ADVの王道は推理ものだろって思ってしまいますから。
それだけに、こういうブランドは存在自体は応援したくもあるのですが、前作はストーリーが露骨に某小説に似すぎており、パクリ云々は置いておくにしても、プレイしていて劣化コピーを読まされているようで、興醒めしてしまったものです。
その点、今回は違っていましたので、素直に楽しめたのかなと。
ただ、山中の集落に古くからの因習など、路線自体は非常に好みであるものの、狂気を含めた全体的な印象は前作より地味になったように思います。
私の場合は前作のストーリーはマイナス評価でしたので、今作の方が点は高くなります。
しかし、マイナスがゼロになっただけでもあり、何も知らない人が前作と今作をプレイしたのならば、前作の方にインパクトを感じるのではないかなと思います。
なお、本作からのプレイでも大丈夫とは言えるかもしれませんが、本当に全体を理解したいのであれば、先に『殻ノ少女』をプレイすべきでしょう。
<ゲームデザイン>
基本ジャンルはノベル系ADVになります。
そこに探索パート、操作パート、推理パートが加わります。
推理パートは、やっていること自体は選択肢から選択するものです。
探索パートは、ADVによくある移動場所を選ぶものですね。
ここら辺までは、纏めてノベル系の範囲に含まれるのでしょう。
通常のノベルゲームと異なるとすれば、それは操作パートの存在であり、これは画面クリックにより必要な物を探すことになります。
言わばポイント&クリック(P&C)式ADVの要素を加えたわけですが、ここの出来は極めて悪かったです。
必要なところに必要なシステムを入れろというのは普段からの私の主張であり、必要な部分にP&Cの要素を入れたという姿勢自体は好印象です。
しかし、肝心の入れた物の出来が、他の同系統の作品と比べ劣っています。
いつも思うのですが、このブランドは単なるノベルでなく、何か加えようとすることも多いです。
それは良いのですが、その加える要素につき他のゲームの研究とかしないのでしょうか。
P&C式が好きで、だけどアダルトゲームではほとんどなくなったから、アダルトゲームから離れた人も結構いると思います。
たぶん本作は、既存のノベルゲー好きだけを狙ったのではなく、そういう層も潜在的には視野に入れていると思うのです。
圧倒的主流のノベルゲー好きだけを相手にするのであれば、普通のノベルゲーを出せば良いわけですからね。
そうしなかったのは、やっぱり対象ユーザーを増やしたいという意図があるのでしょう。
しかし肝心の出来が芳しくないので、これではP&C要素が好きなユーザーを満足させることができないのです。
もう少し何とかならなかったのかと、勿体無く思ってしまいますね。
なお、これらゲーム部分の難易度は前作より下げられています。
難易度が高い方が良いという人には、少し物足りなく感じるかもしれません。
まぁ前作は面白みもないのに、無駄に難しくしてストレスを与えるだけでしたからね。
どうせ面白みにつなげられないのであれば、難易度を下げてストレスを軽減させるのは、個人的には手法としてありだと思います。
それと、これは個別のシステムの話でもありますが、本作はスキップが非常に遅いです。
しかも1周目ではクリアできず、2週目以降で真のEDを見るために、ほぼ最初からやり直すことになります。
この構造的な問題にスキップの遅さが加わることもあって、非常にスキップ時間が長くなり、その分だけ退屈な時間が増えてしまいます。
制作者は、このゲームを通してプレイしたのでしょうか。
それで本当にこれで満足してもらえると思ったのでしょうか。
私は古くからゲームをプレイしてきたこともあり、難解なコマンド入力にも総当りさせられるタイプのゲームにも、ロード時間の長いゲームにも対応してきました。
しかし、近年のノベルゲーにみられるような、数十分にも及ぶスキップのあるゲームだけは、慣れそうにありません。
暇な時代だったらまだしも、社会人などはプレイ時間も限られています。
帰宅して限られた時間で進めようとしたら、本日のプレイの半分はスキップでしたとか、ガッカリ以外の何者でもありません。
アダルトゲームは必然的にプレイヤーの年齢が高くなりますから、本来はこういう部分にこそ細心の注意がなされるべきだと思うのですけどね。
<評価>
基本的には前作のファン向けのゲームなのでしょう。
続編ということもありますが、前作が好きなら楽しめる可能性は高いし、そうでないなら楽しめる可能性は低くなると思います。
グラフィックやサウンドから来る雰囲気の良さも相変わらずですし、ストーリーのマイナス部分も払拭されましたので、ストーリー・グラフィック・サウンドという部分だけを見るならば、ギリギリ良作扱いでも良いように思います。
あまり本文で褒めてないようにも思いますが、こういう路線は基本的に好きですからね。
絵が良くて露骨な流用がなければ楽しめてしまうのですよ。
もっとも、ゲームデザイン・システム部分のマイナスは無視できないものであり、総合では佳作としておきます。
好きな路線で雰囲気は良いので毎回期待したくなってしまうのですが、今作も「ゲームとしての」総合的な完成度は低いと言わざるをえないのでしょう。
また、私の場合はマイナス分がなくなったことで前作より高く評価しているものの、全体的にマイナス要因も減ったけれどプラス要因も減ったようでもあり、ぶっちゃけ特徴の乏しい方向になったわけでして。
3部作で次作を控えているのですが、興味が薄れたことの方が問題かもしれませんね。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2024-11-04 by katan
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