『平グモちゃん -戦国下克上物語-』は2012年にWIN用として、Liar Softから発売されました。
松永久秀を主人公にした、戦国パロディになります。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
少し変則的なのですが、詳しくは後述します。
あらすじは以下の通り。
時は戦国。商業都市・堺。
前妻に逃げられてやる気をなくした行商人・久ちゃんは日々を寝て過ごしていた。
行く末を心配する兄貴分の道さんと弟の長頼は一計を案じ、名士の紹鴎さんの娘とのお見合いを設定する。
二人の顔を立ててお見合いの場へ臨む久ちゃん。
しかしそこにいた平グモちゃんに一目惚れし、晴れて結婚までこぎ着ける。
新しい生活が始まったものの、やる気を無くしていた期間が原因で商人としての信用はなくなっており、仕事が見つからない。
兄の困窮を見かねた長頼は自分が臣従している三好長慶への仕官を勧める。
長慶に気に入られて侍になった久ちゃんは、果たして戦国時代を生きていけるのであろうか!?
<感想>
戦国時代を含め歴史をモチーフにした作品は近年増えており、その多くが男性の女体化を伴っていたりもしますが、本作における松永久秀はちゃんと男です。
そもそもライアーソフトの出世作は、デビューから2作目の『行殺☆新選組』でした。
ですから歴史物を面白おかしくパロディにするのは、いわばライアーの原点みたいなものでして。
プレイしていて、何だか無性に懐かしくなりましたね。
ここ数年のライアーはスチームパンクシリーズの印象が強いために、本作の様な路線が変わり種っぽく見えてしまうのですが、やっていて、むしろこっちがライアーの本流だよなと思いだした感じです。
ライアーの作品は近年の他の作品も好きなのが多いのですが、たまには初心に戻って原点回帰も良いかなと思ったものです。
さて、後述するように選択により物語が枝分かれしていくタイプですので、プレイヤーは松永久秀となり、ifの世界を楽しむことになります。
物語は様々な可能性を秘めているのですが、一応は正史に沿うのが目的となるでしょうか。
もっとも、ストーリーそのものを楽しむというのではなく、個性的なキャラの言動を楽しんだり、様々に展開が変化するのを楽しむという作品になるのでしょう。
構造的には、キャラごとのルートに入る今のノベルゲーではなく、どちらかと言うと昔のPC98時代のノベルゲーに近いわけで、そういう意味でも懐かしさを感じたものです。
ところで、様々に展開が変わっていく歴史ものというのは、例えば『高2→将軍』のように異常にはじけた作品が既にありますので、あれ以上の物は出ないだろうなとさえ思っています。
だから本作が出たばかりの頃は、あまり興味が持てなかったんですね。
でも評判が良いのでやってみるかと思ったのですが、結果的にはプレイして良かったです。
事前の予想通り展開の幅やはじけ具合は『高2→将軍』に及ばないのですが、その代わりに『高2→将軍』にはない別の魅力がありました。
それがキャラの魅力になります。
タイトルになっている「平グモちゃん」。
主人公は松永久秀とされていますが、実質的な主人公は平グモちゃんでしょう。
彼女のはっちゃけぶりは、本当に最高でした。
このゲームの魅力の大半は彼女にあるのであり、キャラ性の薄い『高2→将軍』との最大の違いにもなり、また違ったタイプの作品として楽しめたのです。
彼女を気に入るか否かで作品に対する印象が変わりうることから、合わない人には面白くなくなる可能性もあるのですけどね。
個人的にはかなり気に入りましたね。
<グラフィック>
この平グモちゃんのはじけっぷりをはじめとしたキャラの魅力は、グラフィックの存在も大きく貢献していたのでしょう。
いわゆる立ち絵と呼ばれる半身を表示するタイプではなく、フェイスウインドウを多数表示させ、その表情を細かく変化させる手法を用いています。
ライアーは今でも比較的良く使っている方法ですが、PC98時代のカクテルソフトなども一時期こういう手法を好んでいて、それでまた妙に懐かしくもなったのですが、この手法は少なくとも本作には非常にマッチしていましたね。
私は、馬鹿みたいに右倣えで、皆が同じ手法を採る必要はないと思います。
作品ごとに相応しい構造は違うのですから。
(裏を返せば、汎用のノベル形式で全部済んでしまう作品というものは、それだけでたかが知れているとも思えてしまいます。)
本作で用いられた手法も、これが全てのADVに最善というものではないでしょうが、多数のキャラが登場し、はじけたユニークなキャラが多く、その感情の変化が激しいタイプの作品には合っていると思うのですよ。
だから武将らが多数同時に登場し、平グモちゃんのような活発でユニークなキャラの魅力を存分に引き出すには、通常の立ち絵よりもこういう手法の方が向いていると思うのです。
<ゲームデザイン・システム>
というわけで、グラフィックの力も加味されたことで、キャラの楽しさは十分に伝わってきました。
問題があるとすれば、それはゲームデザイン部分なのでしょうね。
ジャンルはノベル系のADVで、近年にしては多めの選択肢が登場し、選択することによって展開がその都度変わっていきます。
中には開始後すぐにバッドエンディングになる場合もあり、そういった部分も含めてPC98時代っぽい構造でしたね。
こういう構造のノベルは今は減っていますし、今はもう流行らないのかもしれませんが、プレイヤーの選択により結果が変わりますので、私は基本的に好きなのです。
個人的にはもっと増えてほしいのですけどね。
ただ、厄介なのはここからでして。
本作にはSLGのような軍備や内政といった数値もあり、この数値が分岐にも大きく関わってきます。
しかし、どの数値をどれだけ満たしていれば良いかが分からないので、とにかく攻略が難しいのです。
こういう構造なので、選択肢総当りなんかも無理に近いですしね。攻略サイトのお世話になれば別なのでしょうが、自力でプレイしている場合には、最初こそ面白く感じるものの、次第に飽きて作業に感じてしまうおそれがあります。
普通のノベルにしておいても、特に問題はなかったと思うのですけどね、何でこんな面倒な作りにしてしまったのか。
・・・まぁそれでもね、本作に正解はありません、プレイヤーの好きに生きてくださいってノベルならば、こういう構造もありなのかもしれません。
しかし本作の場合は、一応目的となるゴールがあるわけでしょ。
それでこの構造を採る必要性はなかったんじゃないかと思います。
<評価>
1週目・・・は、すぐにエンディングを迎えたので別の表現が良いか。
とりあえず一通り済ませる分には非常に楽しいゲームです。
十分に名作級のインパクトを持っています。
ただ、クリアを目指したり完クリを目指しだすと、結構苦痛になってくるゲームだと思います。
長短それぞれありますので、総合では名作に近い良作ってところでしょうか。
面倒な部分も大きかったので名作には及びませんでしたが、こういう系統の作品は好きなので、もっと増えて欲しいものですね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-11-28 by katan
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