first complex

2012

『first complex』は2012年にWIN用として、TetraScopeから発売されました。

最近では『私のリアルは充実しすぎている』が話題になった、同サークルの最初の作品になります。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・ここは来良瑞学園――。
ここが私のこれからの生活の要。そして、新しい人生の幕開け。

両親の都合で新しく来良瑞学園に転校してきた神坂実幸(主人公)。
両親も家に滅多に帰ってこない。友達もいるかいないかわからない。
心のよりどころは可愛がっていた猫のハヤテだけだった。
前髪でいつも自分の顔を隠して、慎ましやかに、かつ地味に……
そう暮らして行くのがなによりも安心が出来た。
それが、自分を守る唯一の城壁だった。
しかし転校初日に、校則違反としらず、髪型に関して注意をしてくれた人の手を思い切り振り払ってしまう。
その人は実は、冷酷無比と名高い生徒会長で……!?
内向的な少女が送る、引っ張られるような疾走純愛ラブストーリー!

<感想>

本作は女性向けの、いわゆる乙女ゲームになります。
同人の、しかも一般向け作品なので、女性プレイヤーでもチェックしきれない場合もあるでしょうし、ましてや男性プレイヤーには一番縁遠い分野なのでしょう。
もっとも、同サークルの後の作品、例えば『私のリアルは充実しすぎている』等が無料で公開され、それでサークルの知名度が上がってきましたからね。
遡って本作に辿り着いたという人も、結構いるのではないでしょうか。

さて、本作は顔にコンプレックスを持ち、前髪でカーテンを作っている女の子が主人公の恋愛ものになります。
まぁ本人が勝手に思い込んでいるだけで、実は美少女なんですけどね。
ストーリーとしては楽しい日常シーンから始まり、後半は切なかったり鬱なシリアスに転じていくものの、基本的には王道の恋愛ものと考えて良いのでしょう。

私の場合、普通の恋愛ものは飽きてきているし、王道路線より何か刺激のある作品の方が好きなわけでして。
本作の主人公が最初は好きになれなかったこともあり、また内容のわりに少し長すぎるように感じたこともあって、ストーリー自体は普通に楽しいかなって程度の印象でした。

まぁ、この辺は個人の好みの問題でしかないですからね。
本作は心理描写とか非常に丁寧に描かれていますし、もしオーソドックスな乙女ゲーを求めているならば、十分満足させられるだけの内容はあると思います。

そもそも男性向けのノベルゲーに比べ、女性向け作品は絶対数が少ないです。
それでいて、最近の女性向け作品には、典型的な乙女ゲーとは異なる変化球のような作品が増えていまして。
その普通から外れた部分が私には好ましいのですが、私が好んでプレイしているということは、同時に王道な恋愛ものを求める人には望ましくない状況なのでしょう。
絶対数が少ないだけに選べる作品の選択肢も少ないですから、内容の優れた典型的な乙女ゲーというのが慢性的に足りない状況と言えます。
そこに本作が出てきたということは、普通の恋愛をしっかり丁寧に描いた作品を求める人にとって、待ち望んだ作品と言えるのでしょう。

ところで、本作は同人ゲーということもあり、音声がありません。
知り合いの腐女子の方は、顔よりも声、何よりも声という人でしたし、一般的に男性よりも女性プレイヤーの方が、音声にこだわる人も多いように思います。
したがって、音声のない本作は、女性プレイヤーに対し、一般受けするとまでは言えないのかもしれません。
しかしゲームのボリュームはへたなフルプライス作品並にありますし、CGも差分抜きで70枚前後もあり、少なくとも平均的なミドルプライス作品以上はあります。
それでいて1500円程度の低価格ですからね。
音声にこだわりのない人ならば、満足度は高くなるでしょう。
ちなみに私は、音声にこだわらない方なので、このボリュームとCGの多さは凄いよなと単純に感心しました。

本作の良いところは上記のように丁寧なシナリオであるとか、客観的な分量の多さが挙げられますが、他にもありまして。
キャラの表情もとても良く変化しますし、服装とかもこまめに変化するんですね。
こういう配慮はありがたいです。
また、キャラをアップにした時に背景を少しぼかしたり、遠くに焦点を当てる場合にはその逆にしたりと、画面内の遠近も意識している場面があり、演出面も良かったです。
全体的に地味で他所が手を抜きそうなところを丁寧に処理している感じであり、作り手の作品に対する愛情が伝わってくるようで、プレイヤーとしても作品に入っていきやすいと思います。
さらに本作は、上記のように音声こそないものの、EDではキャラごとのボーカル入り曲が用意されていますので、ラストは一層盛り上がる感じになっています。

<評価>

本作は一般の女性向けの恋愛ものであり、しかも音声もエロもないんだよということで、その時点で一定数のプレイヤーをふるいにかけてしまう点は否めないでしょう。
だから他人に無理に薦めたくなるタイプの作品ではないのでしょうが、本作の傾向を把握した上で興味を持った人なら、その人をきっちり満足させられるだけの内容は伴っています。
ボリュームがありつつも、細かい部分まで配慮された作品ですので、非常に良質な恋愛ものとして、ファンのつきやすい作品だと思いますね。

ランク:B-(良作)

Last Updated on 2024-11-30 by katan

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