『Figure ~奪われた放課後~』は1995年にPC98用として、シルキーズから発売されました。
当時としては珍しい鬱ゲーでしたね。
<感想>
本作は、当時勢いのあったシルキーズにしては比較的マイナーな印象でしたが、もし鬱ゲーブーム時だったらもっと評価されていたかもしれない、ちょっと出るのが早すぎた作品でした。
ゼロ年代前半に、鬱ゲーが流行ったことがありました。
好みは人それぞれと言ってしまえばそれまでなのですが、日々の生活にだっていろいろ憂鬱な要因はあるのに、何でゲームでまで鬱な気分にならなければいけないのかと、私なんかは思ってしまいますけどね。
鬱ゲーブームを知らない世代ですと、なんで流行ったのかと思う方もいると思うので、念のために補足しておきますと、99年頃から泣きゲーブームが到来しました。
様々なブランドが泣きゲーもどきを制作したのですが、作り手の力量によっては泣けない作品もいくつも出てきます。
泣けない泣きゲーなんて、ただの鬱ゲーであり、そういった辺りから、鬱ゲーと呼ばれる作品が増えていったわけでして。
そのため、本質的にはブームと呼べるか怪しいのですが、事実として鬱ゲーと分類される作品が増えていった時期ではあるのでしょう。
さて、そんな鬱ゲーですが、いざやってみると中には楽しめるものもあるわけでして。
例えば私は、降って湧いたような次々に理由なく不幸を重ねるタイプは、どうも苦手なみたいです。
そういうのって、さぁ鬱になって下さいと言わんばかりで、ライターの顔が見えてあざとく感じるからなのでしょうし、それも一種のご都合主義と言えるので苦手なのでしょう。
逆に、ちょっとしたすれ違いが次第に大きくなり、そして最後には取り返しがつかなくなるような、
ボタンの掛け違いタイプは好きなようです。
そういうタイプの方が流れに説得力を感じる気がしますし、読まされるノベル形式による結末と、仮に自分が行動できたとした場合の結末との間のずれが少ないことから、結果として違和感をあまり感じずに自然に受け入れられるからなのでしょう。
もっとも、鬱の分類はこれが全てではありません。
鬱ゲーの分類については、ここでは割愛しますが、とりあえず上記の2パターンは、外的要因によって鬱になるゲームです。
しかし専ら内的要因、すなわち主人公の性格故に鬱となるゲームもあるわけです。
そして『Figure』は、そんなゲームだったんですね。
ここで簡単なあらすじを説明しますと、主人公は大学時代の先輩である金持ちの御曹司に命令され、アダルトビデオに出演するための女の子を探すため、女子校に講師として行くことになります。
つまり大まかな流れとしては、女の子と仲良くなり先輩の下に連れて行き、その女の子は陵辱されてビデオに撮られてしまうというものになります。
よくある陵辱系は自分でやるのですが、本作は他人が陵辱するための準備を整えるわけで、今風に言えば寝取らせゲームに近いわけです。
もう、その時点で人を選んでしまいますよね。
このゲームはシルキーズにしてはマイナーな気がするのですが、マイナーで終わった要因の1つは、間違いなくこの自分でなく他人に寝取らせるという構造にあるのでしょう。
もっとも、ここまでなら、寝取らせ属性のない人は合わないかもで終わってしまうのですが、実は本作には、もう一癖あったんですね。
というのも、先輩に逆らえず嫌々やっている主人公が、とにかくマイナス思考であり、鬱々とした心情が最初から最後まで延々と続くのです。
そして、なまじその心理描写が上手くて優れているものだから、プレイしているこっちまで気がふさいできてしまうのです。
これが、この『Figure』の全てです。
あとはそれをどう捉えるのかはプレイヤー次第です。
こんな暗い主人公に感情移入してられるかと、主人公が合わないから嫌いという人もいるでしょう。
また、そもそもそれ以前に、現実だけでなくゲームでまで鬱になってられるかと、その時点でアウトな人もいるでしょう。
しかし、逆に鬱ゲーが好きならば、当時ここまでの鬱ゲーは他にほとんどなかっただけに、おそらく名作と思えるくらいに気に入ることができるでしょう。
実際、好みを除けばそれくらいの質は有していましたからね。
個人的には、鬱な物語としては、そしてテキストに関しては高品質で秀逸だと思いました。
他方で、ほとんどは主人公の性格に由来する鬱なだけに、主人公さえまともなら事態はいくらでも変わりうるわけで、個人的にはどうしても強いられている気にさせられ、その点でひっかかるものを感じてしまいました。
おそらくADVも主人公を自分で動かすものと認識する人には、このひっかかりは大きくなるでしょう。
今の私なら特に問題はないのでしょうが、当時はまだ自分で動かすという認識が強かっただけに、それでひっかかりが出てしまったのでしょうね。
逆にノベルで慣れ親しんだ世代だと、あまりひっかかりを感じないと思います。
ゲームシステムはコマンド選択式のADVですが、汎用のコマンドではなく場面に合わせた文章が表示され、見た目は選択肢を選んでいくノベル系に近いです。
また、マルチEDで分岐もしますので、選択式とノベル系の中間的な境界線上の位置にある作品と言えるのでしょうね。
そういうわけでストーリーには長所と言いうる特徴があるのですが、個人的には上記のひっかかりも大きいことから、長所とまでは感じられませんでした。
とは言え、十分に楽しめたし他に欠点もないので、良作とは言えるように思います。
まぁ、これは時代が早すぎたんでしょうね。
当時の情勢では、どう考えてもマイナーにならざるをえないでしょう。
仮に鬱ゲーの流行時に出されていたら、もっと多くの支持を得ていたように思います。
そういう意味では、非常に不遇な作品だったかもしれませんね。
ランク:B-(良作)
Last Updated on 2024-10-24 by katan
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