『Everlasting Flowers – Where there is a will, there is a way』は、2024年にspriteから発売されました。
400枚にも及ぶ一枚絵を用いたことで注目されたFILMIC NOVELの第1弾になります。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
知らない街への引っ越しを機に、有名女子校に進学した坂下深菜。
お嬢様ばかりのクラスに馴染めず、一年前に不登校になり部屋に籠っていた。
ゆっくりと進む時間。永遠のような一日。窒息しそうな日々。
部屋の中でドライフラワーを見つめながら、『私の居場所はここしかない、ずっとこの部屋にいるしかないんだ』と、深菜は自分に言い聞かせた。
星野蘭は恵まれた家に生まれ、両親に敷かれたレールの上を歩んできた。
しかし、幸せな生活は徐々に壊れていき、自分が誰にも愛されていないと思い知る。
そんな二人がとあるペンションで出会い、夏の一ヶ月を一緒に過ごすことになった。
楽しい時間、癒される心。
誰も信じない、裏切られてもいいと思えるような人にはもう出会えないと思っていたのに。
柳瀬美智子、成瀬陽毬たちと共に、ずっとここにいたいと思い始める。
しかし橘紗波は、それは自分が本当に向かわなければならない場所から目を背け、逃げているだけだと指摘する。
本音で話すことから逃げてきた。
学校からも逃げて、友達からも逃げて、自分のことを好きな人なんて誰もいないと思っていた。
駄目な自分に向き合うのが辛い。
あの部屋に帰りたくない、昔の自分に戻るのが怖い。
時間が少なくなる中で、最後まで自分の居場所を探そうとする深菜に、蘭は――。
FILMIC NOVELとは・・・
FILMIC NOVELは、以下のコンセプトに準拠した新しいノベルゲーム作品です。
・長さよりもクオリティ・多彩なCGによる演出を重視
・フィルミックな構図を中心としたビジュアル
・ストーリー・ビジュアル・音楽を融合させた映画的作品
長い作品をプレイする時間がないという方が多い今の時代に合わせ、劇場版のように短く凝縮した上で、イラストをふんだんに使い演出に力を入れてクオリティを高めています。
<感想>
まずはじめに、フィルミックノベルの理念については、大いに賛同するところです。
汎用の立ち絵でその場をしのぐなんてのは、お金も技術もないブランドが、それでも物語を伝えるために代替手段として用いて発展したものにすぎません。
その場面、その場面に適した一枚絵が都度用意されているのであれば、その方が良いに決まっています。
だから私は一枚絵の多い作品は基本的に好きですし、本作でも400枚ほどの一枚絵が用意されていることについては、好印象といえます。
もっとも、当然のことながら、一枚絵の数さえ多ければ良いという単純な話ではすみません。
一枚絵の使い方次第では、動きの乏しい劣化アニメにしかならない場合もあるからです。
では、具体的に本作についてみてみましょう。
本作をプレイした率直な感想としては、致命的に演出が弱いというものでした。
これ、立ち絵の動きはとても少ないですよね。
もっとも、本作の場合、メインは一枚絵であり、立ち絵は従的なものなので、大きな問題ではないとしても、問題は肝心な一枚絵部分での演出です。
最近の優れた作品は、一枚絵の中に動きを取り入れたりするものもあります。
技術的にそこまでいかなくても、一枚絵や立ち絵に目パチ口パクを丁寧に入れる作品もあります。
しかし、本作には、そうした動きがありません。
単純に一枚絵の連続表示という物量で押し切ろうとしているだけであり、何か効果的なエフェクトを入れるということもなければ、カットインを入れるということもありません。
ただ単に一枚絵を連続させているだけでは、演出としては単調と言わざるをえませんし、プレイをしていての意外性もありません。
枚数だけは一杯あるはずなのに、プレイしていて、ここでこの演出を入れてくるかと唸らされるような場面はありませんでした。
少なくとも、数年前のminori作品等よりも上回っているとはいえないでしょう。
後述するように、本作はストーリー上の意外性もないですし、分岐等のゲーム性もないことから、何らかの意外性や変化を出すには、演出しかなかったと思います。
その演出が単調であることから、ゲーム全体に意外性が欠けている印象を抱いてしまうのです。
また、一枚絵自体についてですが、塗りは特徴的ですよね。
同系色でまとめる手法は、PC98時代とか昔の方が多い印象であり、何となく懐かしい印象を抱きました。
この塗りが今後一般的になるとも思わないし、若干好き嫌いは分かれるかもしれませんが、私は結構好きですし、何より作風に合っていると思うので、本作に関していえば、とても良かったと思います。
問題は構図です。
繰り返すように、本作のCGの枚数は多いですし、それを何度も使うことから、カットの切り替えは多いです。
ただ、一つ一つのCGを見てみますと、顔等の一部をアップにした構図(便宜上、「近景」とします。)と、表情も見えないほどに引いた構図(便宜上、「遠景」とします。)ばかりなのです。
近景と遠景の繰り返しのため、演出も単調になってしまっていますし、何より、大事なキャラの表情を描きつつ、その場面、そのシーンがきちんと描かれた中景が、かなり不足しているように思います。
だからCGの枚数は多いはずなのに、いまいちその場面がプレイヤーに伝わってこないのです。
これ、アニメでいえば、絵コンテが悪いという感じになるでしょうか。
本作をプレイして、一枚絵が多いはずなのに、昔プレイした好きな作品のような印象深い場面がないと感じた人もいると思います。
その方は思い出してみてください。
その好きな作品の名場面は、きちんとキャラの表情が描かれつつ、どこで何をしているかも一枚の絵の中に描かれていませんでしたか。
本作の一枚絵は、表情と情景が切り離されてしまっていて、絵の中の情報量が少ないのです。
一枚で描写しきれないから、近景と遠景を交互に表示させて補完しているようでもあり、言い方をかえれば、クオリティを下げて量でごまかしているともとられかねません。
400枚という枚数や特徴的な塗りでごまかされそうですが、冷静に考えると、本作のCGの質が良いとは思えないのです。
ちなみに、一枚絵の数にしても、本作以上の作品は存在しており、本作が一番というわけではありません。
ただ、仮にCGの枚数が倍になったとしても、本作のグラフィックの問題は解決されないのでしょう。
近景と遠景を繰り返しているだけでは、抜本的な解決にはなりませんからね。
本作のストーリーは、それぞれに問題を抱えた少女たちが、ペンションで夏の一か月を過ごし、成長していくというものになります。
派手さはないですが、グラフィックの塗りやサウンド等と相まって、雰囲気は良かったですし、プレイしてじんわりくるような、プレイして良かったと思える内容でした。
少女たちの成長を描き切るには、若干ボリュームが不足している感も否めませんが、十分許容範囲内でしょう。
結局のところ、本作は雰囲気ゲーともいえるように思えますので、その雰囲気に酔ったまま楽しむのが、ある意味一番良いのかもしれません。
細かく考え出すとね、グラフィックや演出については、上記のような不満がでてきます。
他にもね、本作は地の文も結構多いのですが、それが妙に説明的でして。
適切なグラフィックを用意できているのであれば、場面を説明するテキストはむしろ減って然るべきです。
場面を説明するテキストが必要になってくるのだとしたら、グラフィックがきちんと対応していないってことなんですよね。
本作のテキストを読んでいると、グラフィックとテキストが適切に融合しているとは思えないのです。
少なくとも本作の理念である、ストーリー・ビジュアル・音楽を融合というのは、あまり実現できていないのでしょう。
<評価>
総合では佳作といえるでしょう。
繰り返しになりますが、フィルミックノベルの理念は応援したいところです。
本作のように、一枚絵の数が多い作品が増えることは大歓迎です。
また、本作の持つ雰囲気やキャラは結構好きなので、楽しんでプレイすることはできました。
ただ、落ち着いて考えてみると、上記のとおり、いろいろ課題の多い作品だとも思うわけで、本当は褒めたいのに、結果的に否定的な内容が多くなってしまいました。
まぁ、ゲームでの見せ方とアニメ等の見せ方は異なるわけで、私が褒める作品は、ゲームとしての見せ方が上手い作品です。
アニメ的な見せ方を追求しても、結局のところ、劣化アニメにしかならないですしね。
本作のような作品も、少し見せ方を考えないと劣化アニメになってしまいますし、本作の内容では、ボリュームの少ない劣化minori作品になりかねないので、フィルミックノベルを続けるのであれば、もう一工夫欲しいですね。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2024-11-16 by katan
コメント
自分の記事を読み直すと、ある程度問題点を指摘してるけど評価が甘すぎたので、ワンランク下げました。
元々katanさんが新作の感想を書くまでの繋ぎが出来ればいいと思ってたし、こんな間違いが続くようなら、私はもうブログは引退していいでしょう。
>yukimuraさん
yukimuraさんが引退してしまうと、少なくとも私は困ってしまいますので、引退しないでほしいです。
作品をどう感じるかは人によってかわりうるところ、内容の是非はともかくとして、語るに値する作品ってあると思います。
そうした作品を嗅ぎつけるyukimuraさんの嗅覚とアンテナは凄いと思いますし、私もyukimuraさんの紹介で知った作品もいくつもあり感謝しております。
そういう人、他にもいると思いますので、続けていただければと思います。
私は、もともと新作の感想はもうやめると言った身です。
今年は、予定外に移転作業なんてものをする羽目になり、移転だけだと検索に認識してもらえないかと思い、新記事の更新があると見せるために新作の感想を再開したにすぎません。
したがって、早ければ半年後くらいの過去記事の移転が終わるタイミングでやめるかもしれないし、遅くとも、私は5年区切りで考えていることもあり、2025年の新作までで新作の扱いは止めると思います。
>yukimuraさん
はじめまして。
randomというブログを最近始めましたメガドラと申すものです。
部外者の私が発言するのも躊躇いました。
傍観者でいること、それが一番楽な立場だと思いますが、言葉にして伝えたくて。
まずは、katanさんのブログが大変だった頃に、常に新作ゲームやアニメの記事などを書かれていて私たち読み手にとって、とてもありがたい存在でした。
今、私がはまっている三国志で例えるなら、諸葛亮孔明が動けない時に、姜維が孤軍奮闘している様でありました。
ちなみに、私は武将や文官ではなく農民ですね。
私は最新ゲームは金欠もあって最近の作品やこの作品も触っていません。
ですが、ゲームに関して細かく分析しても人それぞれ、見えるものや受ける印象は違ってくると思います。
もちろん、知識があって完璧なものを求めているから、自分に厳しくなってしまわれるのでしょうね。
同一人物ではないので、作品に対してkatanさんにしか見抜けないものもあると思います。
けれども、yukimuraさんが作品を通じて感じたことは、あなたにしか言葉として残せないし、あなたの真似はできません。
私が言いたいことは、例えばお二人が作品に対して、長所や短所、評価も全く同じであればそういう場合もあるかと思いますが、ずっと同じ感想を持つと言う事はありえませんし、読者としても、それぞれの見方に違いがあった方が、人間的だと思えるのです。
要は全く同じ様な文章も見ても、面白味に欠けると思うのです。
何か偉そうなことを言っているようで申し訳ありません。
私はyukimaraさんのブログは旧ブログの時から読ませて頂いて、自分の知らない数多くのことを学ばしてもらいました。
katanさんとは別の切り口で考えられた、アニメや映画、文学などの記事も良かったです。
旧ブログで書かれていた、懐かしのゲームの記事を読むのも好きでした。
そして、私の大好きな『セハガール』をレビューで高評価を付けて頂いた時は、分かってくれる人がいるんだと何より嬉しかったです。
ブログを引退するなんて言わないでください。
yukimuraさんの様に、今の時代にブログを続けて、読み応えがあって知識を得られる、そんなサイトがなくなってしまうことは悲しいです。
私はkatanさんだけでなく、あなたのブログを見て、自分もSNSではなくブログで何かを残したいという気持ちになったのですから。
katanさん、そして初めましてのメガドラさん、お二人とも、励ましの言葉を本当にありがとうございます。
私の軽はずみな発言で御迷惑をお掛けしたことを深くお詫びします。
他人様のブログでこれ以上語るのも御迷惑と思い、この機会に自身のブログで、今回のお詫びと自分の考えをある程度文章化した一つの記事を作ろうと思います。
今バタバタしていて遅れてしまうと思いますが、もうちょっとお待ちください。
お二人の温かい言葉に救われました。
本当にありがとうございます。