冬は幻の鏡

2003

『冬は幻の鏡』は2003年にWIN用として、半端マニアソフトから発売されました。
渡辺僚一氏のデビュー作となる同人ゲーでしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
ノベルゲーの中でも、画面全体をテキストが覆うタイプの、いわゆるビジュアルノベルと呼ばれるタイプになります。

あらすじ・・・真っ白な雪に包まれた世界にもし鏡が落ちていたとして、さわらずに、自分を写さずに、その鏡を見つけることができる?
もし、できるならその方法をおしえて。たしかめたいことがあるの。
北海道の東側にある野別市の野別市立南陽高校では、四年前からある噂が流れていた。それは、四階の女子トイレに交通事故で死んだ留学生の幽霊が出るというものだった。
留学生の幽霊、というのが珍しいと言えば珍しいが、どこの学校にもあるような噂の一つでしかない、とみんなが思っていた。
北海道の長い冬がやっと終わりに近づいた三月の終わり。
冬の最後のあがきのように朝から大粒の雪がゆっくりと降っていた日の放課後、御堂道明は廃屋を隠れ家にしている登校拒否児の長池小月の頭を撫でていた。
和泉和歌奈は友人の立花鈴夫と一緒に幽霊を探しに夜の校舎に忍びこむ準備をしていた。
田之上小太郎は風俗の割引チケットを持って風俗店「フェランス革命」の前に立っていた。
それぞれが、これから出会うことを知らずに。
今は静かに眠っている虚ろな存在の浸食に、彼らはまだ気づいていない。
ゆっくりと回転しながら沈んでいく、誰かの夢をまだ知らない。
七人の主人公たちが織りなす、冬の終わりの、七つで一つの物語。

<感想>

99年に同人から商業デビューするブランドが相次ぎ、2000年末に発売された『月姫』が2001年にヒットしたことで、シナリオ重視のユーザーたちの間では、これからは同人ゲーも要注目だという風潮になっていきました。

シナリオ重視という言葉は、どのようにも解釈できることから、近年では非常に曖昧な概念となってしまっていますが、元々は、俺はこのライターの文体が好きなんだということで、テキスト重視、ひいてはそのテキストを書いているライター重視という、そういう意味合いだったんですよね。
つまり同じようなストーリーでも構わず、とにかくそのテキストが合うかを最優先する考えなわけで、少なくとも90年代後半におけるシナリオ重視という言葉は、そういう意味合いで使われていました。

余談ですが、そういうテキスト重視の方からすれば、無料で同じようなストーリーや設定の中から、自分にあったテキストを探せる「なろう系」は、理想の媒体でもあり、初期のシナリオ重視ユーザーが、次第になろう系に移ったのも理解できるというものです。

2004年、これはショップ主導な側面もありましたが、『ひぐらしのなく頃に』がヒットしました。
そうした中、同人ゲーマニアの中で、次にくると言われていたのが、半端マニアソフトでした。
だから2005年の『空の上のおもちゃ』に対しては、コアなユーザーは結構注目していたと思います。
そして、そうした注目を集めた原因となったのは、デビュー作である本作の存在といえるのでしょう。

冬の田舎を舞台にし、幽霊騒動を複数の視点から描いた本作。
読ませるテキストであることから、確かにこれは、並の同人ゲーとは一線を画す出来だなと思わされます。
ライターは渡辺僚一氏。
当時は当然無名でしたが、その後の活躍は言うまでもないでしょう。
渡辺氏の原点が、ここにあるというわけですね。
まぁ、この方の場合、一般受けはしないけど熱烈なファンも生むというのが、基本的な傾向なんですよね。
もっとも、『蒼の彼方のフォーリズム』のような、濃くないけど一般受けするような作品も作れる方なので、本当は幅広くいろんな作品が作れるのでしょうが。

本作をプレイして、癖は強いので、確かにファンは生まれるなと思いましたが、正直なところ、私はそれほどハマりませんでした。
というのも、本作の場合、何の工夫もないビジュアルノベルスタイルであり、ゲームデザイン部分にも見るべき点はありません。
グラフィックも、いかにも同人って感じで、貧弱でしたしね。
だから、シナリオ重視というテキストしか興味のないユーザーなら楽しめても、作品全体として評価するとなると、なかなか厳しい部分もあるわけでして。
まぁ、そうした足りない部分を打ち消してしまうほどに、テキストに魅力を感じることができたら話は別なのでしょうが、私はそこまでの魅力を感じることができなかったということなのでしょう。

<評価>

総合では、少し甘いかなとも思いますが、佳作としておきます。

同人ゲーの歴史を追うという観点からも、渡辺氏の原点に遡るという観点からも意味のある作品であり、今となっては資料的価値の方が高いといえるでしょうか。

ランク:C(佳作)

Last Updated on 2024-04-18 by katan

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