『EVE ghost enemies』は2022年にSwitch及びPS4用として、El Diaから発売されました。
2019年に発売された『EVE rebirth terror』の続編となります。
<概要>
・原作原画家の復活!
今作では、初代「EVE burst error」でキャラデザを担当した田島直氏が再び今作の原画・キャラクターデザインを担当。
また、シナリオは「EVE rebirth terror」のさかき傘氏が引き続き担当します。
・懐かしさと新しさの融合
EVEシリーズの特徴でもあるキャラクターのかけ合いや魅力も引き続きしっかり描写し、古き良きADVテイストも残しながら、新作として制作。
メインキャスト陣も前作からほぼ変更無く、そこに今人気の若手や実力派、更にはベテランも加え、懐かしくも新しい厚みのある世界観を形成しています。
・操作性の向上
今作では操作性を見直し、スティックでの直感的な操作を中心に片手プレイも見越したボタン配置に整理。
また演出面でもアニメーション演出やムービー演出を強化します。
・「DESIRE remaster ver.」「EVE burst error名場面集」収録
<感想・ストーリー>
『EVE burst error』は、1995年に発売された傑作ADVです。
もっとも、EVEシリーズの続編は、どの作品も初代と別のライターが担当しており、いわば公式の二次創作のようなものでした。
また、その多くが低い評価を受けていました。
それでも続編が作り続けられるあたり、それだけ初代には魅力が詰まっていたということなのでしょう。
そんな中、2019年に発売された『EVE rebirth terror』は、続編の中では珍しく高評価を得た作品だったと思いますし、だからこそ本作にも関心を抱いた人も多かったことでしょう。
本作は『EVE rebirth terror』の続編となりますので、初代と『EVE rebirth terror』の2作品については、事前にプレイしておいた方が良いでしょう。
まぁ、『EVE rebirth terror』については、未プレイでも何とかなりますが、初代を知らないと、本作の魅力は大幅に損なわれると思います。
さて、そんな本作、端的に言うと、面白かったです。
特に近年の二次元のノベルゲーは、恋愛ものとか感動ものとかが多く、サスペンスものは非常に少なくなっていますからね。
テンポ良く進んでいくサスペンスものってだけでも好印象になりやすいですし、多数のキャラがそれぞれの信念に従い行動する作品も今では珍しいですし、そこに初代ファンや剣乃作品ファンならニヤリとできるシーンが加わることで、最近の恋愛ゲーとかが肌に合わないような昔のADVファンとかには、
たまらない仕上がりになっているのではないでしょうか。
これらの要素があるだけでも、プレイして満足です。
とはいえ、では絶賛できるのかとなると、少し疑問も残るのかなと思います。
まず、これは事前に分かっていることではあるのですが、本作はどうしても初代ありきの作品なんですよね。
エルディアの物語は、そもそも初代で完結していると思います。
百歩譲って、補完的な作品を出すとしても、その役割は『rebirth terror』が担っていたのであり、
『rebirth terror』も綺麗に完結しています。
それなのに、あえてまたほじくり返す必要があったのでしょうか。
賛否分かれうるポイントかもしれませんが、私自身は、何でもかんでもエルディアにつなげる姿勢については、少し否定的な立場といえます。
また、少なくとも本作は、初代に依拠した面白さであることから、ストーリーをあまり高くは評価しにくいかなと思います。
ところで、本作の後半は、サスペンスとして盛り上がって終わるため、プレイ直後は満足感が高めになります。
ただ、初代の魅力って、サスペンスとしての良さだけでなく、感動ものとしての良さもあったと思うわけでして。
本作はサスペンス面に関しては良く出来ていましたが、感動的な要素については、少し弱かったように思います。
この点に限っていうならば、本作よりも、前作『rebirth terror』の方が上だといえるでしょう。
そのため、本作は面白くはあったけれど、1年後とかにストーリーを聞かれても、おそらく私は思い出せないように思います。
面白くはあるけれど、ある意味、印象に残りにくいストーリーということなのでしょう。
この辺は、キャラの魅力とも密接に関連しているかもしれませんね。
たとえば、剣乃作品の場合、女性キャラの何気ない一言に、グッと惹かれるような深みがあり、深い印象を受けることがあります。
本作の女性キャラは、活発に動いている印象は受けますが、こちらの心を揺さぶってくるようなセリフはなかったかなと思います。
総じて、女性キャラは、一見派手そうに見えつつも、ストーリーに踊らされているだけであり、掘り下げが足りない印象を受けました。
まぁ、女性キャラ限定ではなく、キャラ全体にも言えますかね。
本作は、多くのキャラに活躍の場面を与えていることから、行動という点ではキャラを描けているとは思うのです。
問題はそれ以外の部分であり、端的に言えば、セリフに深みや重みを感じることができなかったと。
なんか薄いんですよね。
だからEVEシリーズのファンならまだしも、コアな剣乃作品のファンだと、もの足りなく感じてしまうのではないでしょうか。
本作にもSF要素があり、その壮大なハッタリが、作品の魅力にもつながっています。
ただ、ストーリー内のハッタリの要素って、他の部分がしっかりしているからこそ活きてくるものといえます。
全部が嘘とかだと、いい加減な内容に見えてしまいますからね。
リアルな部分とか何気ない描写がきちんと描かれているからこそ、ハッタリ部分にもリアリティが生まれてくるというものです。
細かい部分を挙げだすと、重箱の隅をつつくみたいになるので、それはあまりしたくないのですが、行政書士が法律相談所と名乗るなよとか、興醒めしかねない甘さが時々垣間見えるので、その辺はライターの課題点といえるのでしょうね。
それから、マルチサイトシステムですね。
これはゲームデザインとも関連するので、そもそもマルチサイトとあえていう必要があるかという問題もありますが、それは一旦置いておいておくとしましょう。
本作でも、小次郎とまりなの二つの視点で物語が進行するのですが、本作のマルチサイトの使い方は、極めて出来が悪いです。
プレイをしていて、どうも噛み合わせが悪く、その時点から本作は出来が悪いなと思っていたら、案の定、時間軸が違うとか。。。
同じ時間軸で、本来なら同時に見ることのできないものを、同時に見られるようにしたのがマルチサイトの特徴かつ醍醐味であり、時間軸が異なってしまえば無価値になりかねません。
時間や場所をかえて規模を大きくしてなんてのは、つい安易に考えがちなのですが、そう簡単な話ではないのです。
なお、異なる時間軸でのマルチサイトという点では、菅野さんが既に『エクソダスギルティー』(1998)で試していますが、完全には成功したとは言えないのでしょう。
また、そもそも異なる時間軸でのザッピングという観点では、傑作『Maniac Mansion: Day of the Tentacle』(1993)が存在します。
また、本作の異なる時間軸であることを伏して進めることに対し、どうせ叙述トリックとか言い出す人がいるのでしょうが、こんなの単に伏せているだけで叙述トリックとは言えないですし、言えたとしてもアンフェアなだけで同系統の中でも最低の部類に属します。
こんな安直なものを、このシリーズでやってほしくなかったなと思いますし、印象もかなり悪くなってしまいます。
総じて、後半の畳み掛けるような展開等、サスペンスとしては十分に面白い作品でしたが、ストーリー構成や細かい描写やキャラの掘り下げ等に、もの足りなさを感じる作品でした。
サスペンスとしてのプラス部分を、ストーリー構成の不味さで帳消しにし、結局可もなく不可もなくとなるでしょうか。
ただ、小次郎やまりなにまた会えたという想い出補正で、若干プラスという感じになるかなと思います。
<グラフィック>
原作原画家の復活ということで、田島直氏が原画を担当しています。
初代の絵が好きだったので、期待を込めて、私は限定版を購入しました。
ただ、キャラデザに関していうならば、絵柄がかわったようで、私は昔の絵柄の方が好きだったかなと思います。
好みの問題と言われればそれまでですけどね。
そんなわけで、キャラデザに関しては、あまりピンと来なかったのですが、一枚のCGとして見た場合、きちんと場面が描かれており、やはりそこは実力のある原画家さんだなとしみじみ思いました。
要所要所では、部分的にアニメもあり、グラフィックについては、大きなプラスとまではいえないものの、普通の二次元のノベルゲーよりはずっと優れていると思います。
<ゲームデザイン>
本作は、基本的にはコマンド選択式ADVになります。
もっとも、終盤の方は、ほとんど一本道のノベルゲー状態になっていますので、コマンド選択式+ノベルと言った方が良いでしょうか。
なお、Switch版は画面をタッチしてプレイできるので、私はSwitch版でプレイしました。
初代EVEの場合、ゲームデザインに斬新な部分があっただけでなく、そのゲームデザインがストーリーと有機的に結合したからこそ、高い評価を得たともいえます。
前作『rebirth terror』もそうですが、本作にも目新しい部分はなく、その点は残念でした。
とはいえ、目新しさがなくとも、完成度を高めていれば、それはそれで問題ありません。
ただ、菅野さんは、ゲームデザインを先に考え、そこからストーリーを考えることが多かったと思いますが、仮に先にストーリーありだったとしても、おそらく本作のストーリーに対して、本作のようなゲームデザインにはしなかっただろうなと、そんなことを考えながらプレイしました。
本作のストーリーをコマンド選択式にする意味を感じられなかったですし、実際、後半ではほとんどノベルゲーになっています。
もともと本作のライターは、普段はノベルゲーを書いているわけですし、このストーリーに関していうならば、ノベルゲーをベースに作って良かったんじゃないかなぁ。
ここ、語りだすと長くなってしまうので割愛しますけれど、初代の場合は、ストーリーとザッピングの融合という肝があって、ザッピングを活かすためにはマルチサイトにする必要があって、それを効果的に見せるためにはコマンド選択式にするのが最適だったのです。
まぁ、因果を逆に説明していくことも可能なので、卵が先か鶏が先かみたいな話にもなりかねないですが、それくらい密接に関連していたのです。
本作にはそのような関係性がないわけですから、コマンド選択式にこだわる必要はないのです。
コマンド選択式にすれば良いとか、マルチサイトにすれば良いとか、そういう単純な話ではないし、そこが肝ではないのです。
ごちゃごちゃ書きましたが、本作のストーリーから判断すると、本作のゲームデザインが最適だったとは到底思えません。
表面だけ初代EVEを真似ているようで、プレイしていて違和感を覚えました
(まぁ、ノベルゲーは楽しめない、コマンド選択式こそ最高と考える人なら、コマンド選択式の本作は堪能できるでしょうけどね。ただその場合、後半のノベルゲー部分に不満を感じるのでしょうが。)。
<評価>
ストーリーにしろ、ゲームデザインにしろ、どこか引っかかりのある作品ですが、全体的には高水準の作品だと思いますし、総合では良作と言えるでしょう。
最近は、良作だと良いところだけ強調して記事を終えることも多いです。
しかし、本作の場合は、初代や前作があることから、どうしても気になった点の記載が多くなりました。
そのため、辛口に見えてしまうかもしれませんが、トータルでみれば、今年のノベルゲーの中ではトップクラスなのは間違いないのでしょう。
何より、この手の作品がほとんどなくなっている現状においては、初代を知っていて、初代が楽しめたという人ならば、プレイして損はないと思います。
とはいえ、前作よりインパクトは劣るかなと思いますので、前作よりワンランク下げた評価としておきます。
最後に、今作までは楽しめましたが、更なる続編を作るにしても、エルディアを絡めるのは、もうやめた方が良いと思いますね。
ランク:B-(良作)
駿河屋
Last Updated on 2024-04-20 by katan
コメント
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面白い作品でしたが、さすがに細かい部分では剣乃氏とさかき氏のライター・クリエイターとしての実力の差が浮き彫りになりますね。
まあ歴代トップクラスの方と比較するのも可哀想ですが…。
私としても、例の時系列はやりすぎと思い、何が何でもエルディアに絡めようとするのは、もはやお話の為のお話になってる感がありました。
それでも最後まで楽しめ、満足度は高かったですね。
話変わって、現在『ゼノブレイド3』をプレイ中、第4話の途中まで来ました。
最初こそグラフィックなど不満がありましたが、いざやり始めるとかなり楽しんでますね。
シリーズ3作目(『クロス』も含めれば4作目)ともなれば、さすがに新味は薄れますが、多人数での戦闘、ウロボロス合体など面白いです。
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度々コメントすみません。
『ゼノブレイド3』クリアしました。
前半は勢いで楽しめましたが、後半はさすがにダレてきました。
最終的には、シリーズの集大成として完成度の高い部分もありボリュームもありますが、個性・新味が薄かったことから、個人的評価は☆3です。
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なんとすでに発売していましたか
EVEシリーズは初代がすでに完成形でストーリーも完ぺきに締めくくられてるから
たぶん剣乃さんが続編を作っても蛇足感は出ると思うんですよね
それでもリバーステラーはキャラに色々微妙な感じは出たものの
サターン版からの続編と考えるといい感じだったんで今作は期待してたんですけど
またエルディア絡みっすか
流石にEVEからつながるネタはもうないと思うんですけどね
評価は辛口気味だけどやっぱり気になるなぁ、買っちゃうか
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> yukimuraさん
この作品は、勢いで一気にプレイすると楽しいのですが、細かく分析しようとすればするほど評価が下がってしまうタイプと言えるでしょうね。
何も考えないでプレイした方が良いのでしょう。
『ゼノブレイド3』はそうだったんですね。
まだ購入もできていないですが、少し様子見で、時間に余裕ができてからでも良さそうですね。
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> uzukiさん
そうですね、キャラだけ一緒でストーリーが全く別なら良いのでしょうが、エルディアを絡めてしまうと、剣乃さんが作ったとしても蛇足感は出るでしょうね。
本作は、プレイしてつまらない作品ではないですが、初代が好きな人であればあるほど、別にプレイしなくても良いかなとも思います。
初代の遺産を切り売りしているみたいにも思えてしまいかねないですからね。
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買いました!そしてクリアしました!
感想はとりあえず「こんなもんを叙述トリックとは言わせねぇ!」ですね
気付いた時には驚きよりも苛立ちが来ましたね
本文でも言及があるようにマルチサイトはそういう風に使うもんじゃねぇだろと
だから叙述トリック(w)部分の謎とき編である????編はひたすら苛立ちに苛まれ
謎解きの度に「小賢しい」ってぼやいてました
んで、時系列が同じになってもほんとサイト変更の意味がない
特に2クリックでサイトチェンジとか頭イかれてんのかと
緊迫感出したいのか知らんけど白けて不快になるだけですわ
それより最悪なのがエンディングの最後のアレですかね
あれ今後EVEシリーズ作るとしても全作品に影響を与え兼ねない棘ですよ
脚本家が次のEVEでも仕事もらおうと仕込んだんじゃねぇか?って勘ぐってしまいましたよ
究極の原作レイプであるLOST ONEよりも脚本の出来がいいだけに
なおいら立つというね
個人的にはシナリオの面白さに関係なくEVEの歴史に組み込みたくない
それぐらいこのゲームは受け付けません
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> uzukiさん
購入されたんですね。
ご指摘の点は、まさにその通りで、本作は、冷静になって考えれば考えるほど、評価が下がっていくタイプの作品のように思います。
クリア直後に書いた記事なので、今は良作にしていますが、後で下方修正するかもしれません。
> それより最悪なのがエンディングの最後のアレですかね
すみません、これはどれを指しているのでしょうか。
なんかもう、既に細かい内容を忘れてしまったので(それはそれでどうかという話ではあるのですが。。。)、教えていただけると幸いです。
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>すみません、これはどれを指しているのでしょうか。
20年後=現在にネットに流出したブレインの中身が自己を確立した的な事を言っていた奴ですね
まあ冷静になった今考えるに続編作るにしてもスルーすればいいだけなんですけどね
今回みたいに無理やり絡めるみたいなマネしないとも限りませんけど
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> uzukiさん
あ、なるほどですね。
私はエルディアの方に意識がいきすぎて、そっちはあまり深く考えていませんでしたが、確かに、それを前提にした続編はプレイしたくないですね。
ライターさんは、キャラの魅力は引き出せていると思うのですが、何でもかんでも無理やり絡めるようなことは、もうやめてほしいかなと思います。