『奴隷市場』は2000年にWIN用として、rufから発売されました。
凄く作りこまれた歴史系の恋愛作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
17世紀、地中海の覇権をかけて争っていた劣勢のロンバルディア同盟は全面戦争を回避すべく、神聖アイマール帝国に全権大使を向かわせた。
主人公キャシアス・ジレは、その全権大使の一員として同行する一人の青年貴族だった。
主人公は、任期中の身の回りの世話をさせるための奴隷を買うために市場へと向かった。
そこで売られていた女の子たちは三人、人形のように可憐な美少女のビアンカ、小さな妹を連れている器用なフローラ、帝国の下層民で、喉を切られて喋れなくされているミア。
そして、限られた任期中のあいだ、彼女たちのうち一人と一緒に暮らすことになった。
同盟と帝国の間に戦火が開かれ、主人公を含む大使達は逃げるようにして帝都をあとにすることになった。
これが奴隷たちとの別れの時。その時、主人公は少女たちに何を残してゆくのか?
愛情か、憎悪か、希望、絶望、あるいはもっと別の何かか…。
<感想>
良い意味ではありますが、いわゆる看板に偽りあり?って感じの作品でして。
奴隷市場なんてタイトルみたら、ほとんどが調教系か鬼畜系のゲームを想像しちゃうと思います。
でも、いざ蓋を開いてみたら、非常に良質な恋愛・悲劇系のストーリーだったわけですね。
でも、ライターを見たらそれも納得するってものです。
奴隷市場のライターは菅沼恭司さんなのですが、この人は過去に『イーリス亭小夜曲』を手がけた人なのです。
『イーリス亭小夜曲』が1992年のゲームで、本作が2000年。
厳密には本作の前にも2作品ほどありますが、いずれも2000年の作品です。
その間、一体何をやってたんでしょう?
それとも私が知らないだけで、他にも何か手がけていたのでしょうか。
あれ、フォアフラッシュ(93年)もそうだったかな。
いずれにしろ98時代は活躍していたものの、あまりwindows以降は見かけなかったように思うのですが。。。
まぁ、それはここでは直接には関係ないので、ひとまず置いといて。
菅沼さんは良く調べ、徹底的に世界設定を作り上げ、それに則して物語を積み上げていく傾向があります。
ここで大事なのは、世界設定が細かいという部分ではありません。
設定が細かいってだけなら、自称裏設定にこだわるライターってのが、この業界には一杯いますから。
むしろ重要なのは「良く調べ」っていう部分で、つまり単なる妄想の産物を羅列しているのではなく、史実などリアリティを伴った基礎がしっかりしているのです。
この部分は、実は今のアダルトゲームのライターに、最も欠けている部分なんじゃないかって思うのです。
今のライターの多くは小手先のテクニックのある人は増えているのですが、基礎となる知識や常識、考え方等が不足している人が多いです。
だから知っている人ほど楽しめない作品や、とてもあやふやな基盤の上に成り立ってる作品が多いのです。
菅沼さんは、そうした業界の他のライターにないものを持っています。
まぁ、一般小説なら当たり前なのかもしれませんが、この業界ではとても貴重なんですよね。
そういう点も考慮しますと、本物が分かる人、玄人好みなライターなのかもしれません。
そしてどっしりとした土台から丁寧に織り成される物語は秀逸で、これだけでも満足する人は多いでしょう。
加えて背景設定が深いものだから、ゲームが終わった後でも、こんなこともあるんじゃないか、あんなこともあるんじゃないかって、いろいろ想像したくなるような感じなんですよね。
まぁここは、実は賛否分かれる面もあるかもしれませんけどね。
というのも、近年のゲームは5くらいの内容を10にも20にも水増しし、ボリュームほどの内容を伴っていないものも多いです。
しかし菅沼さんのゲームはその逆で、10や20作れそうな程の膨大な世界設定を構築しておきながら、メイン部分では5かそれ以下しか表現しないんですね。
だから妄想の余地も大きくなりえるのですが、若干描写が足りなく感じる部分もあるだけに、だったらもっと盛り込んでくれよとも思ってしまいますから。
さて、ここまでだと基本的に絶賛に見えてしまうのですが、問題がないわけではありません。
他の人に欠けている物も持っているのですが、売れてるライターが持ってるものが逆に足らなかったりするわけでして。
つまり、売れてるライターってのは、多少矛盾してようが知識が欠けてようが破綻していようが、そんなの関係ねぇってくらいの何かしらの勢いを持ってるわけでして。
何か理屈ぬきに楽しめちゃうんですよね。
そういうのが、本作にはないように思います。
もしかしたら単に私に合わないだけかもしれませんけどね。
凄いよな、良く頑張ったよなって頭の冷静な部分では思うのですが、それがそのまま面白いなって感覚につながらないのですよ。
これ、今の流行路線が好きな人なんかだと、余計にも地味な作品に見えてしまうのではないでしょうか。
先ほど玄人好みと言いましたが、良い意味でも悪い意味でもそういう作品ってことですね。
<評価>
総合では、ストーリーは秀逸であるものの、やっぱりボリューム的な物足りなさもあるだけに、結局は良作ってところでしょうか。
翌年に加筆したリメイクの『奴隷市場 Renaissance』があるわけで、最初からそれを出していれば名作だったんでしょうけどね。
そういうわけで、今からプレイするのであれば、『奴隷市場 Renaissance』の方をオススメします。
Last Updated on 2025-01-17 by katan
コメント