ブルートレイン殺人事件

1989

『西村京太郎ミステリー ブルートレイン殺人事件』は1989年にFC用として、アイレムから発売されました。

マルチサイトの元祖とでも言いましょうか。
複数の視点から物語を進め、それが最後に合流する。
『ブルートレイン殺人事件』殺人事件は、そうした試みのなされた初めての作品だったかと思います。

<概要>

西村京太郎トラベルミステリーは、ミステリーファンなら誰でも知っているでしょう。
小説を読んだことがなくても、かなりの数がTVで放送されていましたから。

その西村京太郎トラベルミステリーは何作かゲーム化されており、最近の携帯ゲーム機のは、ちょっと出来の疑わしいのもありますが、少なくとも90年代までのコンソールのはアタリばかりでした。
本作は、そんなゲーム化された西村作品の最初の作品になります。

<感想>

当時、西村京太郎トラベルミステリーは火曜サスペンスと、土曜ワイドの両方でシリーズ化され放送されていました。
主要人物は同じでも、俳優は当然違いますし、構成も少し違っていたりします。

私は土曜ワイドの方が好きで良く見ていたのですが、土曜ワイド版を上手にゲーム化した感じってのが、本作に対する率直な感想でしょう。

<ゲームデザイン>

土曜ワイドだと、一方で亀さんが調査を進め、他方で西本とかが調査を進めています。
そして、それが終盤に合流することが多いです。
こうした流れが、ゲームにもそのまま採用されたんですよね。

本作はコマンド選択式のADVを基礎としつつも、亀さん視点と西本視点を交互に進めますので、任意に切り替えることができることからザッピングゲーとも言えます。
ただ、あまり切り替える楽しみを味わう作品ではなかったですからね。
二つの方向性から物語を楽しみ、それが最後に合流するということで、紹介としては、マルチサイトだよってところで留めとくべきかなと。

原作やドラマの影響という点は、それだけではありません。
西村京太郎トラベルミステリーといえば、何といってもあの時刻表トリックでしょう。
毎回毎回よく考えつくなと思いつつ、自分でも挑戦してみたいって思ったことのある人は結構多いのではないかと。

本作でも、もちろん時刻表トリックが登場します。
そして当然ながら、ゲームである以上自分で解かなければなりません。
システム的には単純なんだろうけど、やっぱり盛り上がるんですよね。
何せ一番の山場ですし、今まで見ているだけだった時刻表トリックを自分で解くというのは快感でした。

加えて、本作では指紋照合も登場します。
これまた内容的には、ちょっとしたミニゲームの類にすぎないのでしょう。
でもストーリーと密接に関連するミニゲームってのは、やっていて楽しいですし没入感が全然違ってきますよね。
やることに必然性があるというのは、熱中度にとても影響しますしから。

他の媒体の作品のゲーム化というのは、安易な作りの作品も多いです。
そんな中で、本作は実に上手くゲーム化に成功した、その代表例とも呼べるのではないでしょうか。

<グラフィック>

オリジナル版のゲーム化として、成功例の代表とも言える本作。
それはグラフィックにも該当します。

私は土曜ワイドの西村京太郎トラベルミステリーが大好きでして。
西村京太郎作品のドラマのあのOPがすっごく好きなんですよ。
ぞくぞく~って鳥肌がたつくらいに。
そして本作のキャラは、土曜ワイドに出てくる俳優さんたちをモデルにしています。
おお~これは亀さんに間違いないって一人で悦に入ってましたし。
土曜ワイド派の人は、間違いなく満足したでしょう。
しょぼいFCで、よくここまで再現できたものです。

<評価>

優れた演出面に斬新なゲームデザインと、ADVの名作に必要な要素はほとんど詰まっています。

ただね、この時期のADVの多く特に顕著にみられる欠点。
それだけは克服できなかったですね。
それがこのゲームでも、最大かつ致命的な欠点として重くのしかかってます。

それは何かというと、ボリュームなんですよね。
コマンド入力式からコマンド選択式に主流が移行する中で、クリアにかかる時間は大幅に減りました。
そこで何度も同じコマンドを選択させることなどにより、この問題を解決しようとする作品も増えました。
でも、そんなのはプレイヤーにとっては苦痛でしかないわけです。
その反省からか、80年代も末期のこの時期になると、選択式でも必要な物しか出てこないという作品までありました。
そうなると、ほとんど今のノベルゲーと同じ感覚です。
それでいてストーリー自体のボリュームは全く増やしてないものだから、クリアにかかる時間は一段と少なくなるわけです。
同時期のRPGやSLGのボリュームがどんどん増えていくのと比べると、実に対照的でしたね。
ここら辺が、その後家庭用機でADVが衰退した最大の要因なんでしょう。

本作は他の同時期の凡作と比べると、ゲーム性には非常に拘っていました。
しかしストーリー自体のボリュームはむしろ他作品より少なく、言い換えれば土曜ワイド並でしかなかったのです。
結局クリアにかかる時間は、TVでドラマを見てる時間と大して違いがありませんでした。
時刻表トリックで何回か失敗しても、それでも数時間で解けてしまいますからね。
コストパフォーマンスの異常なまでの悪さ。
ゲームに一定のボリュームも求める人には、これは致命的でした。

本作の持つ魅力と欠点、それをどう評価するのか。
当時の私は一定のボリュームも求めていましたので、当初はその分をマイナスとして、総合では良作と考えていましたが、今は再評価し、長所の方が上回るとして、総合でも名作と考えます。

一定のボリュームがないと駄目な人には合わないでしょうが、短いながらにもADVのエッセンスが詰まった作品であり、ADVファンにはプレイして欲しい作品ではありますね。

ランク:A-(名作)


Last Updated on 2025-05-14 by katan

コメント

  1. SECRET: 0
    PASS: e52fe37ea5341b2b239bb2edc72e3a02
    >>やることに必然性がある
    これは結構重要ですよねえ。
    ある時期からアドベンチャーゲームにミニゲームはあって当然の如く組み込まれていますが、なんだかよくわからない数字パズルをいきなりやらされたりするのはなんとも興醒めです。
    うまくゲーム世界に溶け込ませて欲しいですよね。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    >>マスター栄者さん
    やっぱりシステムあっての物語、物語りあってのシステムですからね。
    やるべき事に必然性があるゲームは、それだけでも高く評価したいものです。
    数字パズルといえば…
    『スキズム』というADVでは、連立方程式を解かされましたっけ。
    『クルセード』の文系パズルも驚きでしたが、
    個人的に一番嫌なタイプは絶対音感を要するタイプですかね。

タイトルとURLをコピーしました