『After…』は2003年にWIN用として、Cielから発売されました。
結果論ではありますが、Cielの代表作、原画のTonyさんの代表作となると、この作品辺りになるのでしょうか。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
祐一、鉱太郎、慶生の男だけのワンダーフォーゲル部に入部してきたのは、祐一の幼馴染の香奈美と妹の渚、そして鉱太郎の幼馴染である陽子。
6人となったワンダーフォーゲル部は、学生生活最後の登山として冬の日本アルプス、穂高縦走を目標に動き出す。
そして季節は夏から秋、秋から冬へ。
祐一にとって霧ヶ杜学園最後の一年が過ぎていく…。
<グラフィック>
当時、Tony伝説と呼ばれたように、原画のTonyさんの関わる作品は、グラフィックは良いのに、他の部分が酷すぎる作品が多いということで、有名でもありました。
私も、初めてTonyさんの絵を見た時は、とても衝撃を受けた記憶があります。
ただ、その後については、最初に受けたインパクトと比べると、それほど良いと思えなかったりもしたわけでして。
キャラの描き分けとか、そういった部分で、後発の作品になるほど、次第に魅力を感じなくなっていったのでしょう。
もっとも、グラフィックはキャラだけではありません。
最近は場面をきちんと描けていない原画も増えている中、本作は要所要所できちんと場面を描けていたように思います。
下の画像も、最初はアップで、その次がこの画像で、そこから更に引きの画像でといった感じになっていて、とても良かったと思います。
立ち絵が良いわけでもないし、キャラも以前ほど魅力に感じられないし、派手なエフェクト等があるわけでもないのですが、1枚絵の魅せ方に関しては、さすがTonyさんと思えますし、それだけでも満足度は高くなります。
<感想>
さて、Tony作品の場合、問題となるのは、ストーリー等のその他の部分なのでしょう。
本作についても、一見すると、前半で楽しい学生生活が描かれつつ、後半では、多少鬱っぽくもあるけれど、感動的な物語が描かれているようにもみえます。
ただ、この作品、端的に言うと、当時のエロゲユーザーに受けないのは、ある意味当然なのでしょう。
いつもであれば、私には中途半端にみえたという感じで、省略して書いてしまうことも多いのですが、今回はちょっとだけ詳しく書いていこうと思います。
本作は2部構成になっています。
1部では楽しい学生生活が描かれ、そこに大きな事故が発生します。
そして、その後の2部では感動要素混じりの鬱展開が描かれることになります。
この流れ、大枠としては『君が望む永遠』路線といえるわけでして。
『君が望む永遠』以降、似たような流れの作品が増えたので、当時のユーザーとしては、二番煎じに感じてしまうでしょうし、またこのタイプかと、食傷気味の人もいたと思います。
何か新しい要素があるか、或いは『君が望む永遠』を超えてこない限り、どうしても支持は得られないのでしょう。
では、本作には何かプラスアルファはあるのか。
本作は、ベースとしては恋愛系の作品になるところ、現実路線の作品であり、いわゆる萌えキャラはいません。
しかし、当時は口癖を伴う萌えキャラの存在が重視されていました。
萌えではない現実路線の恋愛ゲーも、少しはあるのですが、どうしても埋もれがちであり、萌えキャラがいないというだけで、支持を得にくい状況でした。
当時の同系統の作品は、ストーリーでの差別化は難しいとしても、様々な萌えキャラを生み出すことで、そこで差別化を図っていたわけです。
それができないとなると、どうしても埋もれやすくなるのでしょう。
ちなみに、この点については、私は特に萌えキャラがいなくても構わないので、当時の多数派には受けにくいだろうなというだけで、私自身には特に影響はありません。
次に、本作の特徴として、2部でファンタジー要素が出てくることが挙げられます。
問題はここでして。
ハイファンタジー作品の多かった90年代前半と異なり、90年代後半はローファンタジーであったり、エブリデイマジックの作品が増えていきます。
つまり、日常の中にファンタジー要素を交えた作品が支持を得ていったわけですね。
もっとも、あるジャンルが流行るということは、良い作品が生まれやすいという良い面もありますが、逆に欠点も浮き上がりやすくなります。
作品内にファンタジー要素を入れることは、はじめのうちはインパクトを生み出すことに成功していましたが、作中で上手く表現できないと、何でもありの印象を持たれかねません。
日常と非日常の融合を如何に図るのか、それが恋愛系泣きゲーブームの到来していたエロゲ業界が迎えるべき問題でもあったのでしょう。
その日常と非日常の融合について、マジックリアリズムの観点から一つの可能性を導き出したのが、keyの『AIR』でした。
『AIR』という作品は、掘り下げれば掘り下げる程、実に良く出来た作品であり、一つの到達点とも言える作品だったと思います。
ただ、あの作品にとって不幸なことがあったとすれば、それは売れすぎたことなのでしょう。
『AIR』は難解な作品でもあり、プレイしたユーザーの一定数は理解しきれていない言わざるをえません。
あれは、一部のユーザーにカルト的支持を得るタイプの作品であり、決して年間トップ売上で万人受けなんてタイプの作品ではなかったと思います。
以後のkey、というか麻枝さんは、同じような題材をやさしくかみ砕いて、かみ砕いて、誰でも理解できるような作品作りを模索しているようにしか見えません。
万人受けを狙うのであれば、それはそれで正解なのかもしれませんが、麻枝さんの強烈な癖と個性に魅了された私には、そのぬるま湯で薄めたような新作の内容が物足りず、だから後のオリジナルアニメ作品の方は楽しめなかったのでしょう。
話がそれたので戻します。
マジックリアリズム方面でのエロゲの進化という可能性もゼロではなかったのでしょうが、そのような作品を実際にきちんと作れるブランドは皆無に近いと思います。
他方で、ゼロ年代に入り、PCが安くなって買いやすくなり、PCゲーをする壁が低くなり、あまり知識がなくてもPCゲーに手を出せる時代になりました。
そうした新規ユーザーには、難解な作品はますます受けなくなっていきました。
実際、ファンタジー要素を現実世界に入れることに対し、ネガティブな印象を持つユーザーが増え始めたことから、ゼロ年代の恋愛ゲーは、ファンタジー性を排する方向に舵を切っていくことになります。
上記のとおり本作は、ベースとしては『君が望む永遠』路線でありながら、2部に入ると90年代的なファンタジー路線を取り入れています。
そのため、プレイをしているこちらとしては、反90年代後半的な流行り路線で行くのかと思いきや、あれ、なんか90年代後半的な古い要素を入れてきたぞと思ってしまうのです。
当時のユーザーの好みを取り入れるのであれば、時代の先端を目指して行くというのであれば、ファンタジー要素は入れるべきではなかったのでしょう。
逆に、ファンタジー要素を入れるのが本作の肝というのであれば、もっと1部のうちから、ファンタジー要素を上手く混ぜこんでおくべきだったように思います。
それができていないから、出来の悪い泣きゲーの多くに見られた、何でもありのような印象になってしまうのだと思います。
少なくとも、2部での説明は急展開すぎると思いますし、いくつもある同時期の同系統の作品との差別化を生み出せたとまではいえないでしょう。
本作が、あと4年早く発売されていたら、これでも良しとされていたでしょうが、後発な分だけ、どうしても厳しくなってしまいます。
まとめると、大枠としては当時の流行り路線を真似た作品でありつつ、本作の独自要素として入れたものが、一つ前の流行り作品の欠点部分をそのまま入れてきたような感じなんですね。
そのため私も、この作品が一体どっちを向いて何をしたかったのかが、いまいち伝わってこなかったです。
本作の扱いの難しいところは、そこなのです。
確かに、1部の日常シーンはそれなりに楽しいです。
なお、本作の特徴としてワンダーフォーゲル部に着目していることも挙げられますが、ここは山に詳しい人ほど評判が良くないようなので、その方向性では推さない方が良いのでしょう。
そこは一旦おいておいたとしたら、それなりに楽しいし、ラストもどれもバッドエンド気味ではありますが、感動的とも言えるでしょう。
ただ、当時のエロゲをリアルタイムで多くプレイしていればしているほど、感動系の鬱ゲーは食傷気味になっており、既視感や違和感がつきまとってしまい、そこに過去のTony伝説も加わることで、Tony作品だから絵だけゲーだねという結論に至りやすいのかもしれません。
そういう意味では、ゼロ年代の作品を知らない方が楽しめるかもですね。
本作には、もう1点、当時のユーザーに受けないだろうなという要素があります。
事故により、本作の1部の主人公は、2部では他の人の体に乗り移ります。
つまり、2部では中身は同じなものの、体は別人なのです。
これの何が問題かというと、まず、ヒロインは、1部で主人公とHをします。
次に、2部に入り、最初は主人公と気がつかないのですが、主人公が別人の体に乗り移っていると気が付いた後に、その別人の体とHをします。
しかも、本作は、男性向けエロゲとしては比較的少数派な、男の体も描かれているタイプの作品でした。
したがって、ビジュアル的には、ヒロインは複数の男性と肉体関係を持っているように見えるわけで、変則的なNTRゲーとも言えるのです。
当時は、NTRゲーに対する風当たりが急激に強まった時期ですので、これでは支持を得られないのも当然なのでしょう。
とはいえ、個人的には、あの当時のNTR叩きには嫌悪感しかないですし、NTRゲーも好きなので、他人はともかくとして、私が一番関心を抱いたのも、実はこの部分だったりします。
本作はストーリー重視の作品に分類されるのでしょうが、ストーリー重視ではなく、エロ重視にしていたら、もしかしたら化けたのではないでしょうか。
心は同じでも体は別の場合、それはNTRになるのか、ヒロインの心の葛藤とかをもっと掘り下げていたら、格段に面白くなりえたかと思うと、もったいないなと思ってしまいます。
<評価>
発売時における今風の作品にするのかと思えばそうではなく、かつての流行路線を持ち出すにしては課題を解決しようとする姿勢も見せない。
題材的に同じ年に発売された『タナトスの恋』のようにテーマをシリアスに突き詰める方向性もありえたのにそこまで掘り下げるでもなく、NTR的には面白そうな題材を扱っているにもかかわらずその方向性に舵を切ることもできておらず、そのため、ちょっと中途半端な印象を抱きました。
あえてプレイするまでもないかなという意味では内容的には凡作もありえたのですが、CGの良さと、NTR方面では新鮮さもあるかなということで、総合では佳作とします。
ランク:C-(佳作)

Last Updated on 2025-10-28 by katan


コメント
katanさん、まずはお忙しい中、私のリクエストにこんなに早く応えて頂けたこと、また、丁寧かつ分かりやすいレビューをして頂きありがとうございました。
katanさんがおっしゃっていることについて、自分の思ったことを書いていきたいと思います。
まずは私のアダルトゲームの経験のなさがこの作品の高評価に繋がったのかなと思います。
ADVGAMER様のブログに出会う前は、本当に自分の直感で好きな属性やキャラクターの絵で作品を選んでいたため、ライターなどは調べなかったことや流行作品に触れてこなかった過去があります。
『君が望む永遠』も当時購入しようか迷ったけれど、結局やらずにいましたね。
おそらく、何か一つの物が流行ると、それに似た構成の作品が増え、何本もゲームプレイしている方だと「また、この路線か…」という感情を抱いてしまうのだと思います。
記事の中で触れられていましたが、私は現実路線の作品に惹かれる様です。
つまり変な口癖や、萌えキャラに引いてしまうことがあり、作品の良し悪しは関係なしにそれだけで、マイナススタートとなってしまうのでしょう。
これは私の固定観念によるもので、AIRを含めkey作品や、他の萌えを扱った作品にも言えることですが、自分自身の作品への見方を変えていく他ないと感じています。
ただ、人間ですので好みがありますから、作品への評価に対して与えるものは変えられない部分もあるかと思います。
マジックリアリズムに関しては、以前もお話させて頂いた様に私には知識が不足してしていて、そこについては上手く取り入れている作品に何作かあたって勉強したいですね。
katanさんがおっしゃるのだから「AIR」という作品は難解でありつつ、上手く落とし込めている作品で、分析しがいがある作品なのでしょう。
私も話がそれてきたので元に戻します。
発売年次において、評価するという視点が私には欠けているところですね。
ただ、どうなんでしょう、この作品に序盤からファンタジー要素を上手く混ぜ込むことは、逆に不自然に思えたりもします。
主人公に不運が起こってしまったから、分かる要素で作中の説明でも十分に個人的に納得できたんです。
まあ、何でもありのファンタジーになってしまうと、白けてしまう場合もあると思うのですが、この作品に関しては特にそんなこともなかったのかとも。
NTRゲー特化も確かに興味深いところもありますが、高校生というピュアな部分もあり、エロさはありつつ、もう少し改善の余地が見受けられますね。
菅野作品でも『タナトスの恋』はまだ、プレイしていないので一度プレイして、本作と比較してみます。
貴重なお時間を私のために割いてくださり、本当にありがとうございました。
>メガドラさん
『君が望む永遠』をプレイしていないのであれば、メガドラさんの好み的にも、プレイしてみた方が良いかなと思います。
良くも悪くも、当時を象徴する作品ではあると思いますし、『君が望む永遠』抜きには、ゼロ年代前半を語れない部分もあるかなと思います。
もちろん、そのうえで、好き嫌いはどちらもあって良いと思いますけどね。
ちなみに、アージュに関していえば、個人的には『化石の歌』が一番好きです。
>この作品に序盤からファンタジー要素を上手く混ぜ込むことは、逆に不自然に思えたりもします。
私個人の意見で言うならば、ご指摘のとおりだと思います。
この作品の魅力は何かと考えた場合、現実路線の前半にあると思いますので。
ファンタジー要素を入れるのであれば、もっと徹底して序盤から伏線をはれというだけであり、この作品の最適解を考えるならば、私はファンタジー要素を完全に排した方向で作るべきだったかなと思いますね。