幽明境を異にする

2004

『幽明境を異にする』は2004年にWIN用として、美遊から発売されました。

ユーザーが求めるのはゲームの中身だけなのか、それともパッケージ全体なのか。
注目度が高まった美遊から出された本作は、販売方法でも挑戦してきました。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・図書館で偶然見つけた古い手紙の内容から、旧校舎で手に入れた古く小さな箱。
過去の在校生が残したメッセージから箱の中のカードを引き、軽い気持ちでその指示通りに行動していく主人公と“まどか”。
やがて、カードに書いてあることが現実で起こっているように感じ始めたころ、二人は意味深な言葉が綴られたカードを引いてしまう。
「これからこの場所は………私とあなただけの世界になる。もう……誰にも邪魔されない」
突然「別空間」に閉じ込められた二人。
この空間から脱出するには、カードの指示に従っていくしかないらしい。
しかし、カードの指示は凌辱じみた内容になり、どんどんエスカレートしていく。
更に、どんなに拒絶しても、不思議な力によってカードの内容を再現させられてしまい……。

<感想>

本作は、簡単に言ってしまえば閉鎖空間からの脱出ものになります。
あまり他の作品を例に出すのは好きではないのだけれど、今回はその方が分かりやすいかと思うので、少し他の作品の名前も出しますと、雰囲気的には『遺作』みたいなタイプですね。

まず良い点から挙げますと、昔のPC98時代の作品のような雰囲気を持つ本作は、本題に入るのも早いです。
PC98時代の作品は最初に目的や事件がバンと出される物が多いので、物語に入っていきやすかったわけでして。
それがWIN時代になってからは、意味があるんだかないんだか分らんような、日常シーンで時間を潰してしまい、なかなか本題に入らないようになりました。
何本もプレイすると、似たり寄ったりな序盤に嫌気がさすのだけれど、本作はすぐに本題に入りますので、物語に入っていきやすかったのです。

また、ゲームデザインというか、見せ方も良かったですね。
本作はノベルゲーであり、ノベルゲーには選択肢がつきものです。
それが当り前と全く違和感のない人は良いですが、せっかく物語に集中していても、急に工夫もなく選択肢を出されると、何だか味気なくて現実に引き戻されるようで、もう少し何とかならないのかと思ってしまいます。
本作は物語内でメッセージカードを引き、そのメッセージカードの指示に従って行動します。
時にはカードを2枚引き、その2枚のカードが画面内に表示され、どちらを選ぶかで物語が分岐するんですね。
物語内に出てくる物を利用して分岐が生じるわけで、これなら突然画面に表示される選択肢のような不自然さはないし、物語に集中したまま楽しむことができます。

以上から、ゲーム序盤の掴みは非常に良かったのです。
2004年にも幾つもの名作ADVがありましたし、私も高く評価した作品も何本もあります。
しかし序盤の掴みという部分だけならば、それら高く評価した作品よりも本作の方が上かもしれません。
それくらい、最初の印象は良かったです。

ただストーリーが、これは構成が悪かったのかな~
どうもネタばらしのタイミングの問題もあって、盛り上がりきらずに進めても尻すぼみみたいになってしまいました。

それと、上記の『遺作』は、ストーリージャンルは確かに脱出ものですが、ゲームジャンルはP&C式であり、そこに少しの分岐要素が加わっています。
似た作品で『慟哭』がありますが、あちらはP&Cの面白味が減りましたが、その代わりに分岐を強めて、合わせ技一本みたいな感じでした。
本作は完全なノベルゲーであり、選択肢による分岐だけなんですよね。
だったら過去の作品を上回るためには、クリック要素がなくなった分だけ分岐の多さでカバーしないと。
それなのに、最後でちょこっとヒロインを代えるだけで、大きな分岐はなかったんですね。
だから全体として、物足りなさも感じてしまうわけで。
その辺が、本作の弱いところなのでしょうね。

<パッケージ>

まぁ良いところもあれば悪いところもあるし、何だかんだで楽しめる作品でした。
これで普通のフルプライスなら、良作か佳作かで悩んだところなのですが、ここで問題となるのが本作の販売方法なのです。

これを読んでいる人には、ここで少し考えてもらいたいのですが、あなたがお金を払っているのは何に対してですか?
ゲームの中身だけですか、それとも箱や付属品も含めたパッケージ全体ですか?

もちろん、答えは人それぞれなのでしょう。
私は付属品の豪華な作品も好きですし、その場合には点数に反映させることもあります。
昔ほど、パッケージ全体を買うという意識が強かったですかね。
しかし、ゲームの感想を書く人なんかでも、ほとんどは中身の話だけであり、パッケージ全体の評価という観点で話す人はあまり見かけないですよね。
大事なのはゲームの中身であり、余計な付属品はいらんって人も結構いると思います。
実際、そういう発想から、ゲーム本体の中身だけを安く提供しようとしたのが、かつて自販機でエロゲを販売したTAKERUなんでしょうし。

この問題に正解なんかないのですが、じゃあ美遊はどうしたかというと、本作で2種類のパッケージを発売したのです。
一つは普通のフルプライス作品で、こちらは付属品なども立派な構成になっています。
もう一つは簡易パッケージ版で、ケース等を徹底的に簡素化して、余計な物を一切省いたんですね。
凄いのはその価格で、通常版は税抜き8800円なのに対して、簡易パッケージ版は税抜き5800円だったのです。
つまり、ゲームの中身以外の関係ない部分を削ることによって、新作が3000円も安くなったのです。

豪華な限定版を作って通常価格より高いバージョンを出すことはあっても、パッケージ作品でその逆の値下げ方向に踏み切る発想はなかったですからね。
当時の私は、パッケージ全体にお金を出すという意識が強く、ついつい高くても豪華な方を、と思ってしまいがちだったのですが、ゲームで大事なのは何より中身だよと考える人には、これはありがたかったでしょうね。

私は、店ごとに異なる特典商法とかは大嫌いですが、こういうのはありだと思います。
ファンの人向けには豪華版を、これはもう信者向けに、そしてグッズコレクターも視野に入れて、フルプライスより高くてもとことん豪華にすると。
他方で、中身だけで十分という人に対しては、徹底的に簡素化した安い商品を売ると。

今はダウンロード版が同時販売されるケースも増えたけれど、最近の作品は、パッケージ版とあまり価格が変わらない作品が増えています。
簡易とはいえパッケージ付きで本作が5800円だったことを考えると、最近のDL版はもう少し何とかならないのかなとは思いますね。
いずれにしろ、今でも低価格DL版の同時販売が定着しない中で、10年以上前に簡易パッケージ版で3000円下げてきたことは驚きであり、凄く攻めてきたなという印象を受けたものです。

<評価>

総じて、中身だけで判断するのならば、フルプライス級の作品をミドルプライスの価格で楽しめるわけですから、非常にお得な作品と言えるでしょう。
その点も加味して、総合では良作としておきます。

私は最初、美遊ってミンク内の一つのレーベルかと勘違いしていたのですが、実際は、ミンクの一部スタッフが独立したブランドだったんですね。
デビュー当初は、それほど目立った印象はなかったのですが、2003年の『喪失郷』でプレイヤーの名を音声で読んでくれるということで、これが結構話題になりまして。
それから話題作を連発した印象が強いですね。
2004年には『蒼色輪廻』も発売され、ますます勢いが出てきたところでの本作でしたから、『蒼色輪廻』で内容面で攻めて、本作で販売方法で攻めてと、とにかく攻めてきたなと思ったものでした。
だからまぁ、2004年の時点では株が最も上がった、要注目になったブランドだったんですよね。
でも、何が理由か知りませんが、その後作品が出なかったわけで、期待していただけに残念であり、もう一本くらい作品を見たかったですね。

ランク:B-(良作)

Last Updated on 2026-02-05 by katan

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