『嘘から始まる恋の夏』は2023年にWIN用として、LYCORISから発売されました。
とても丁寧に作られた、お手本のような百合ゲームでしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
選択肢や分岐はなく、完全に1本道の作品になります。
あらすじ・・・「恋心は、簡単に人を嘘つきにしてしまうんです」
丘の上から海が見える、港町の市立蒼波第一高校。
2年生の橘 薫はある夜、中学の頃の担任教師・霜月 深玲に決定的な失恋をする。
その様子を、薫は同じクラスの優等生・御凪 栞里に見られてしまう。
薫は半ばヤケになりながら、栞里に深玲との過去を打ち明ける。
栞里は静かに寄り添って薫の話を聞いた後、神妙な調子で問いかけた。
「橘さんは大切な人の記憶を上書きすることができると思いますか?」
「できるかはわかんないけど、しなくちゃいけないと思う」
すると栞里は突然、ある意外なお願いをしてくるのだった。
「――お兄ちゃんを、忘れさせてください」
それは、想い出の地を一緒に巡ることで、兄との記憶を上書きして欲しいというものだった。
これまでずっと優秀な兄のようになろうとし続けてきた栞里は進路調査票を目の前にした時、自分のことを自分で決められなくなっていたことに気づいたと言う。
「うん、いいよ。で、何するの?」
栞里の『想い出の地巡り』に付き合うことは、薫にとっても好都合だった。
薫も初恋の人??センセイのことを忘れたいと思っていたから。
そしてふたりの関係を、栞里に想いを寄せる同級生、猪ノ原 莉久も知ることになる。
時にドタバタ楽しくて、時にしっとり切ない恋の物語がいま、幕を開ける??
<感想>
本作は、いわゆる百合ゲーになります。
どのジャンルであっても、作品の雰囲気が良いに越したことはないのですが、百合ゲーに関しては、特に雰囲気が大事なように思います。
実際、雰囲気が良いと言えない百合ゲーの名作とか、ちょっと思い浮かばないですし。
その点、本作は、その雰囲気作りがしっかりしていたように思います。
丁寧に描写されたテキストはもちろんのこと、この雰囲気を作り出した大きな要因としては、やはりグラフィックにあるのでしょう。
一枚絵も、シーンがしっかり描けていて満足度高いですし、塗りにも作品の個性がしっかりみてとれるので、ここはポイントが高いです。
また、派手な演出こそないものの、立ち絵に目パチ口パクもあるわけでして。
こういう地味なところも丁寧に作られていることが、本作の雰囲気の良さにつながっていることは間違いないのでしょう。
キャラデザも、『FATAL TWELVE』までよりも、グッとあか抜けた印象を抱きました。
やや惜しかったのが、一枚絵での動きでしょうか。
本作の一枚絵は、厳密には目パチ口パクではないので、立ち絵も一枚絵も目パチ口パクありですと紹介することはできないのです。
まぁ、これは重箱の隅を楊枝でほじくるようなものでもありまして。
本作の場合、確かに一枚絵の目パチ口パクはないのですが、他の一般的なノベルゲーのように静止画ど~んで終わりではありません。
表情自体は細かくかわりますので、相対的には十分高水準といえるでしょう。
丁寧に描かれたストーリー、魅力的なキャラ、綺麗なグラフィック、それらにより高品質に仕上がった本作は、百合ゲーのお手本のような作品ともいえるでしょう。
百合ゲーをプレイしたいけれど、はずれを引きたくないというのであれば、本作は手堅く楽しめる鉄板だと思います。
だからほとんどの人は満足するだろうなと思いつつも、個人的には若干気になった点もありまして。
その最たるものが、ゲームデザインなのでしょう。
本作は、上記のとおり、1本道のノベルゲーです。
選択肢等、何かゲーム性が欲しいという人も当然いるでしょうが、最近がこういう1本道のノベルも増えてきていますので、これはこれで良しとしましょう。
ただね、1本道で完全に読ませる構造の作品なのだから、もっとストーリーの連続性を意識して構成した方が良かったのではないでしょうか。
何月何日のイベントというように、本作は、ぶつ切りのイベントの集合体のような構造になっています。
そういう構造も、例えば育成SLGとか、ゲームデザイン次第では有用だったりしますので、一概に否定されるものではありません。
過去の百合ゲーでも、複数のカップルが登場する群像劇スタイルの作品とかもありましたが、その作品では上手く機能していたと思いますし。
でも、本作は1本道の読み物でしょ。
だったら、もっと小説みたいに構成して良かったのでは。
ゲーム性が皆無なのに、ゲーム性がある作品のシナリオ構造だけ残すというのは、どうにも解せません。
そのせいで、没入感が削がれてしまったように感じました。
<評価>
総合では良作といえるでしょう。
上記のとおり、基本的にはお手本のような高品質の百合ゲーだと思います。
ただ、名作というためには、ストーリーでもう一つ何かインパクトが欲しかったのかなと。
本当に細かい話になってしまいますが、一枚絵が口パク完備にまでは至っていないこと、上記のようにストーリー構造に疑問が残ることから、本作のストーリーのままだと、やはりあと一押しが足りないと思うのですよ。
ちょっとしたことだけに、惜しい作品でした。
とはいえ、高品質な百合ゲーであることは間違いないので、百合好きであれば、安心して楽しめる作品だと思いますね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-10-14 by katan
コメント
大好きな作品です。
最近の商業ノベルゲームでは、本作より明確に高品質だと言い切れる作品が殆ど無いと思うくらいです。
私にとっては2023年の二大百合ゲーの一つで、個人的には、もう一つの作品のkatanさんの感想を楽しみにしています。
>yukimuraさん
steamでは百合ゲーが流行っているのか、妙に数が増えている印象ですよね。
その中でも、本作は抜き出ているように思います。
他の作品についても、そのうち掲載する機会はあると思いますので、もうちょっとお待ちください。