『真説 大江戸探偵 神谷右京』は1994年にPC98用として、アルテシアから発売されました。
同人版から始まった神谷右京シリーズですが、この作品から真説として仕切り直し。
セミフィクションとしての新たな道を切り開きます。
<概要>
ゲームジャンルはコマンド選択式ADVになります。
細かい説明は過去に何度かしているので、その繰り返しになってしまいますが、元々TAKERU専売の同人ソフトとして、『大江戸探偵 神谷右京』シリーズが2作発売されていました。
したがって、神谷右京シリーズ全体という意味では本作は3作目なのですが、仕切り直した「真説」としては本作が最初の作品になります。
では「真説」とは何なのか。
シリーズのシナリオを手がけた藤堂信昭氏は当時現役の弁護士であり、自身が携わった実際の事件を守秘義務に反しない範囲で題材としゲーム化したのが、このシリーズの特徴になります。
それでも最初のTAKERU版はほとんどフィクションだったのですが、この「真説」はセミフィクションとして、ノンフィクションとフィクションの混ざった形式を採用しており、より一層リアリティが増したのです。
すなわち、本シリーズだけが持つ魅力を前面に打ち出したのが「真説」であり、「真説」のデビュー作となった本作により、神谷右京シリーズは本格的に始まったと言えるのでしょう。
<感想>
実際の事件をベースにしたような特異さという意味では、TAKERU版2でもその片鱗を見せています。
しかし、だからこそと言うのか、TAKERU版の2では、事件自体は結構地味だったりします。
ちなみに、本作の次の『真説神谷右京2』も、債務整理がどうのという話題が続きますからね。
一般的な推理ゲーより地味に見えます。
それらと比べた場合、本作は目立つと言うか、インパクトがあって毛色が少し異なって見えるように思います。
本作は、いきなりお嬢様女子大の女学生のHシーンと、その殺害シーン、そして斬首された生首のシーンから始まります。
これはシリーズ過去作と比べても異色ですが、当時のADVとしても異色と言えるのでしょう。
本作が発売されたのは1994年。
この年、私は覚えている限りでは、ゲーム内で2回、生首シーンを見ています。
一本は『サークルメイト』であり、一本が本作になります。
アダルトゲームと言っても、作品の流行だけでなく、規制との駆け引きもありますし、その表現は時代により変わってきます。
例えば、ソフ倫が発足した92年頃は、テキスト上は暗くても、CGなんかはソフトに控えたものばかりでしたからね。
ほとぼりが冷めた93年には過激なエロCGが出始めましたが、アングラな雰囲気であるとか、陰惨なCGであるとか、エロ以外の過激なCGが目に見えて増えてくるのは、94年くらいからだったように思います。
生首CGなんてのも、その一つの象徴なのでしょう。
だから単にインパクトがあるというだけではなく、この時代になってようやく出てきた、この時代らしさをも感じさせるCGということで、一定の意義も有しているように思うのです。
というわけで、女子大生の惨殺事件から始まる本作。
債務整理がどうのというシリーズの他作品とは毛色が異なりますが、PC98の推理ゲー全体という観点からは、時代の先端を行った、この時期らしい作品とも言えるのでしょう。
ストーリーに関しては、後は好み次第なのかなと。
TAKERU版からのファンだと、もしかしたら毛色が変わったのが嫌と感じる人もいたかもしれないし、逆に地味さが抜けてインパクトが増したので、これで良かったという人もいるでしょうから。
その辺は、どっちの意見もありえると思います。
個人的には好意的な立場であり、ストーリーに関しては良かったと思います。
<グラフィック>
このシリーズ、私は何本か名作と評していますが、それらと比べても本作のストーリーは、勝るとも劣ることはないのでしょう。
本作の場合、問題があるとすれば、それは他の部分になります。
まずグラフィックですね。
セミフィクションということでリアリティが増し、それに対応させようとしたのか、本作では背景が実写を加工したものになっています。
背景が実写になっただけなら問題はないのですが、これによりTAKERU版にあったような画面内でのミニアニメがなくなり、演出が退化してしまいました。
TAKERU版は細かく動いており、それはエルフのADVのようでもありました。
私はその演出が好きだっただけに、本作での退化は残念に思ったものです。
それと、ここは好みの問題でもあるのですけどね。
本作は背景は実写で、キャラは普通のアニメ絵です。
真説2以降は、背景に合わせてキャラも少し劇画っぽくなっていきます。
背景とキャラのマッチという観点からは、真説2以降の方が良いのですが、美少女ゲームとしては致命的に地味で可愛くないのですよ。
本作は普通のアニメ絵ですので、キャラは可愛いままでして。
だから美少女ゲーとしてはOKなのだけれど、まぁ背景とはあまりマッチしていないとは言えるのでしょう。
美少女ゲームであることと、作品としての統一性のどちらを選ぶのか、結論は人によって変わると思うし、正解もないのでしょう。
本作にしても、次作以降よりは画面の統一性はないけれど、キャラは次作以降より可愛いということですね。
<ゲームデザイン>
本作における一番の問題となると、それはおそらく狭義のゲーム性になるのでしょう。
次作の真説2ではノベルゲームになりますが、TAKERU版と本作までの3本はコマンド選択式でした。
ただ、TAKERU版のコマンド選択は易しめであり、比較的サクサクとシナリオを堪能することができました。
他方で本作は、同じコマンド選択式ではあるのですが、とにかく面倒だったのです。
いわゆるコマンド総当たりと言われてしまいそうな、もう同じコマンドを何度も何度も選び、それを何周もして、何がどうフラグになったのかも分からないまま、しつこく選択しているうちに次に進めるみたいな。
私は古くからのゲーマーですが、だからと言ってコマンド選択式を一律に肯定も否定もしません。
コマンド選択式にだって良し悪しがあり、ピンからキリまであるのです。
そして同じコマンドを何度も何度も選ぶ必要があるタイプには、私は昔から否定的です。
TAKERU版までなら問題はなかったのですが、本作はさすがにストレスの方が上回ってしまいまして。
それで大きな減点となってしまいました。
余談ですが、シリーズの現時点での最終作も、ジャンルはノベルゲームであるものの、異常な難易度の高さで自力クリアが困難な作品でした。
ストーリーは最高なのに、ゲーム部分で足を引っ張ることが多いのが、このシリーズの特徴とも言えるのでしょうね。
<感想・総合>
セミフィクション第一弾であり、生首CGなどインパクトもある作品であり、基本的には私好みの作品と言えるのでしょう。
ただ、本作に関してはマイナス要素もそれなりに大きいということで、総合では良作としてあります。
非常に長短のハッキリした作品ですので、真説一作目とはいえ、シリーズの初心者にはすすめにくい作品ではあります。
もっとも、良い意味でも悪い意味でも、シリーズの中で存在感のある作品ですから、できればファンには一度はやってもらいたい作品ですね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-10-10 by katan
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