『神学校 -Noli me tangere-』は2011年にWIN用として、PIL/SLASHから発売されました。
ストーリーもボリュームも満足な作品で、BLゲーでは一番テキストを楽しめた作品かもしれませんね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
商品紹介・・・冒涜、背徳……そして、無垢な愛。
聖と邪の相克が辿り着いた彼岸のラブストーリー。
extremeなBLゲームブランドPIL/SLASHが、新たな心意気で放つ震撼の第3弾!
荘厳な神学校を舞台に描かれる耽美でピュアな少年愛の世界と、その裏に蠢く血も凍るホラーサスペンス。
神と悪魔を巡る練り込まれたストーリーを紡ぐのはシナリオ・草香祭(『薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク』)、繊細で儚い世界を描くのは原画・なつみ開(別名で漫画家)。
さらに、美しき悪夢の如きイメージ画は大石竜子が担当!
BLの枠を超えた超大作ドラマです。
また、感涙のHappyEndと戦慄のBadEndのギャップに定評のあるPIL/SLASH節には、ますます磨きがかかっております!
ういういしい初恋と極悪バッドの落差はまさにトラウマ級!!
さらに今回は怖ろしいホラーテイスト対策として、業界初のグロシーンON/OFFモードを搭載!
BLゲームの新たな扉を開く問題作です。
あらすじ・・・伝統ある全寮制神学校の学生マイケルは、学業優秀で敬虔な信徒だった。
しかし聖誕祭の夜、家族を悲惨な事故で失い、信仰のむなしさに絶望する。
現場で目にした奇怪な紋様を手がかりに、事件の真相を暴こうと決意するが……。
<感想>
本作は女性向けの、いわゆる18禁BLゲームになります。
ストーリー・シナリオ重視の作品であり、読んでいて、ただ単純に面白かったなと。
さて、肝心のストーリーなのですが、あらすじにもあるように、冒頭で主人公の家族が殺されてしまいます。
駆け付けた主人公が現場で見つけた紋様は、主人公の通う神学校にあるといわれる秘密結社の紋様と同じと判明。
そこで主人公は、事件の真相を暴こうと決意します。
本作は、まず最初にショッキングな事件が発生することで、主人公の目的となる行動の軸がハッキリと提示されます。
こういう最初から目的のハッキリしているタイプの作品は、PC98時代までは一杯ありました。
目的がハッキリしているからこそ、先を読み進めようって気にもなれますので、私は好きなんですけどね。
WIN以降で恋愛ゲーが中心になることで、目的もハッキリしない日常シーンが冒頭からだらだらと続き、ストーリーが動き出すのは後半からという作品が増えてしまいました。
まぁ完全に恋愛・萌えのみが目的の作品ならば、日常シーンの積み重ねってのも大事ですので、それでも構わないのですけどね。
問題はシナリオゲーとかいわれる類の作品、ストーリー重視の作品ですね。
ストーリーが第一のはずなのに、本筋と関係ないような日常を開始時からダラダラ続けられると、その時間が非常に無駄に感じられてしまうわけでして。
だからゼロ年代以降の男性向けエロゲのシナリオゲーは、楽しめない物も多いのです。
これは、ゼロ年代前半頃のシナリオゲーとかが、恋愛SLGからの派生ということが影響しているのでしょうね。
その点、本作は最初から目的がハッキリしていて、その目的のために主人公が行動していきますので、最初からストーリーに入っていくことができました。
事件発生から真相解明を決意するまでの序盤を受け、前半部分は表では学園生活、裏では事件の真相を暴くべく奔走するわけで、ミステリーものとしての緊張感を保ちながら進行します。
そして主人公は事件の真相を暴く過程で、自ら件の秘密結社に入ります。
その結社では黒ミサが行われ、その中で予言されたことが次々に現実化する一方で、予言の実現により幸福を手に入れたメンバーには災いも降りかかってきます。
真相を追うミステリーものでありつつも、その呪いの描写が、すなわちホラー要素が中盤以降では次第に中心になっていきます。
本作にはグロシーンON/OFFモードがあるのですが、これはグロに耐性があるかっていうよりも、むしろホラーに耐性があるか否かでしょうね。
呪いにより主人公らが蝕まれていく過程でホラーな展開にもなり、グラフィックだけでなく効果音も相まって、ドキっとする場面もありますから。
そのように驚かされる場面があるので、心臓の弱い方は注意って意味でのON/OFFモードなのでしょう。
かように事件を発端にミステリーとして始まりつつ、中盤でホラー要素も加わっていき、終盤では捜査過程で親密になった各キャラとのBL展開もなされるわけで、ボリュームが多いにもかかわらず、最初から最後まで非常に楽しかったです。
起承転結という、物語における一番の基礎がしっかりしているのでしょうね。
大概のノベルゲーは、どこかしらで不満が生じるものなのだけれど、本作は一貫した方向性を有しつつ起承転結がしっかりしていたので、安心して楽しめたのでしょう。
テキストも描写が丁寧で、それでいて変な癖がなく読みやすいですしね。
ここは、個人的には非常に大きかったなぁ。
本作はボリュームも非常に多い作品なのだけれど、最近はボリュームの多い作品は途中でだれたり眠くなるケースが多くてね。
そう言うと、単にお前が歳をとっただけだろと思う人もいるかもしれませんが、そうじゃないのですよ。
作品さえ面白ければ今でも何時間でも没頭できるのだと、そのことを再認識させてくれた作品でした。
テキストを読んでいる最中のハマり具合だけで言うならば、これまでにプレイした女性向けゲームの中でも一番かもしれませんし、本作プレイ後に本作並に楽しめたフルプライスの男性向けノベルは、まだ一本もありません。
それくらい、読んでいて面白かったです。
というか、ある意味やばいよな、コレ。
これやっちゃうと、他のノベルゲーのほとんどが、面白く感じられなくなってしまう危険性すら有していますから。
そもそもライターの草香祭さんは、『薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク』(2003)の時点で既に高い評価を得ていました。
ストーリーの尖り具合という点では、『薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク』の方が上なのかもしれません。
しかしゲームシステムの関係もあって、『薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク』では連続したストーリーではなく、シーン単位でブツ切りでしたからね。
もちろん、あのゲームとしては、それで間違いではないのだけれど、作品全体の良し悪しという観点でなく、純粋にライターの魅力を引き出しているかという観点だけで考えるならば、本作の様な読み進めるタイプのノベルの方がライターに合っているのでしょう。
そのため、草香祭さんの作品の中でも本作が一番楽しめました。
ちなみに、個別ルートは対象キャラにまつわる物語というのではなく、主人公と当該キャラの視点からみた本件事件になります。
マルチサイトではないですが、一つの事件を多角的に見ることにより、全員をクリアすることで事件の真相の全容が分るようになります。
そしてたぶんここが、長所にして短所なのかな・・・
いや、全く気にしない人もいると思うので、単に好みの問題かもしれませんけどね。
物語を多角的に捉えることで、シナリオを読むほどに物語に深みは増します。
だからここは長所でもあるのでしょう。
でも、本作はボリュームが非常に多いので、何人かクリアしている時(その時点で既に数十時間プレイしていますが)、その段階では非常に楽しく感じているのだけれど、最後のシナリオをクリアする頃には大体の事情は把握していますし、クリアにより充実した満足感を得つつも、それでいて同時に、やっと終わったよという気になったのも確かでして。
最後のひと伸びがなかったのが、ほぼ完璧な本作において唯一もの足りなかったところでしょうか。
ところで、ここでBLゲーを扱うことは少ないので、読んでいる方にもBLゲーは馴染みのない人も結構いるかもしれません。
いくら面白いと言われても、BLって言われるだけで躊躇う人もいるでしょうし。
しかし本作は、数十時間と大ボリュームでプレイ時間がかなり長い一方で、Hシーンの数は少なめな完全なストーリー重視の作品でして。
そのHシーンも後半に集中していますし、そもそもBLな恋愛中心の物語ではなく、サスペンスホラーとしての物語が主となりますので、BLゲーに抵抗のある人でもストーリー重視な人であれば、十分に楽しめるでしょう。
そもそも私自身、プレイ開始から10時間以上、これがBLゲーであることを忘れてストーリーにのめり込んでいましたからね。
なお、こう書くと、今度はエロ薄かよと勘違いされそうですが、あくまでも最初のエロまでが長いってだけにすぎません。
まぁ何を重視するかってのもあるのでしょうが、私なんかは当該場面だけマニアックで激しいシチュだったとしても、それが良いとは感じられないわけでして。
Hシーンに至るまでの過程・流れが良くないと、楽しめないのですよ。
本作はストーリー重視であり、その過程でキャラも十分に掘り下げつつ、キャラ同士の距離が縮まっていく過程も十分ですし、Hな展開になる流れが自然なんですね。
登場人物らも美少年ばかりで耽美な雰囲気も漂いますし、しかも「神学校に通う美少年」という思想上の禁忌・背徳感も相まって、こんなことをしてはいけないって思っていたキャラの思考と、こちらの感情が次第にシンクロしていきまして、そのドキドキ感から、これまでBLに興味がなくてもBLに目覚めてしまうような良さがありました。
他にも一枚絵も良くて十分長所と言える出来だし、サウンドも効果音も含めて良かったですしね。
また本作は、主人公にも声のあるタイプの作品ですので、声を聴く回数が最も多いのも必然的に主人公になります。
その主人公を含め声優がマッチしていたのも、読んでいる時の面白さに間違いなく大きく貢献しているでしょうね。
そのボイスの良さを更に堪能させようというのがボイスセーブ機能で、これはほぼ女性向けゲーム特有の機能ですね。
声にこだわる人の多い女性向け作品だからこその機能かもしれませんが、音声が付いた段階で発展が止まったような男性向けとの、ここが大きな違いでもあるのでしょう。
かように、システム面でも良かったです。
<評価>
というわけで本作は、どこか一点に秀でたというよりも、複数の秀でた長所を有しつつ、全体を通じて高品質で完成度の高い作品でした。
総合でも文句なしに名作といえるでしょう。
それにしても、草香祭さんは幾つか男性向けも出しているけれど、女性向け作品の方が水を得た魚のように格段に良くなるわけでして。
本作のレベルの男性向け作品が出てきてくれると、個人的には嬉しいのですけどね。
まぁ向き不向きもあるので、こればっかりは仕方ないかもしれませんが。
とりあえず、女性向け作品を作ることで本領発揮できる方なのでしょう。
だから草香さんの男性向けの作品の方をプレイしていて、このライターはこんな感じかと決めつけ、それで女性向けの作品の方をプレイしていないのであれば、絶対に損していますので、そんな偏見は捨てて欲しいかなと思います。
本作より高い点を付けた女性向け作品はありますが、(ストーリーではなく)ことテキストに限って言うならば、本作が女性向け作品の中でも一番のように思います。
もっとも、そのほぼ完璧とも言えるような本作に対し、最初は傑作とは判断していませんでした。
その理由はストーリーにあり、上でも書きましたが物語を多角的に見る類の作品だけに、何周もすると深みも増すのだけれど、最後の方は予想もつきやすく驚きや衝撃が減ってしまうのです。
楽しさのピークが最後にやってこないので、ホント不満らしき不満はそこだけですね。
まぁ本作がある意味、今の一つの基準になっていまして。
ストーリー重視のノベルゲーム、すなわちストーリー・シナリオで大半のポイントを稼ぐノベルゲーは、フルプライス作品の場合には、この作品を超えたら傑作と考えたのですが・・・
評価ポイントの異なる作品は別として、フルプライスのノベルゲーでは以後、傑作と思える作品が出て来ないわけでして。
ちょっと高すぎるハードルになってしまったかもしれませんね。
したがって、BLゲーが好きな人に強くオススメできるのはもちろんのこと、そうでない人にも、特にストーリー重視という人には、本作は強くオススメできる作品だと思いますね。
ランク:AA-(傑作)
Last Updated on 2024-12-20 by katan
コメント
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この作品はすごいのめりこみました。
個人的にも近年の名作の指標の一つとなる作品でした。
ここ数年で、男性向け作品も含めて、
この作品より面白いものを探すほうが難しいですね。
世間的にも、というかBL界隈では、
この作品や「ラッキードッグ1」辺りが特に人気なんではないでしょうか。
最近は本当に女性向け作品をプレイするのが楽しくてしょうがないです。
なかなか良い作品を探すのが難しいので、
katanさんのレビューにはすごく助けられてます。
他にも、直近10年のベストの記事も上がってますが、
まだ知らない面白そうな作品がたくさんあって嬉しい悲鳴ですw
個人的にも、乙女ゲーの「華アワセ」がすごい気になってたので、
早速購入してみようと思います。
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PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 個人的にも近年の名作の指標の一つとなる作品でした。
> ここ数年で、男性向け作品も含めて、
> この作品より面白いものを探すほうが難しいですね。
これなんですよね。ノベルゲーとして多くの点で優れているから、
指標となりやすいのです。
で、本作の点を厳しめにしてしまうと、後の作品が皆低くなりかねないと。
ストーリー以外の複数の要素で勝負できる作品なら良いのですが、
ストーリーだけがうりの作品だと、本作がある以上、
傑作と呼べる作品はほとんど出て来ないように思えてしまいます。
> 世間的にも、というかBL界隈では、
> この作品や「ラッキードッグ1」辺りが特に人気なんではないでしょうか。
個人的な評価に限って言うならば、ここ10年ではその2本がトップ2ですね。
BLではキラル作品が多く発売されてて固定ファンもいるようですが、
代表作を何本かプレイしたものの、どうも自分にはピンとこなくて。
世間的には、更にごく最近に限って言えば、『大正メビウスライン』とか、
『NO,THANK YOU!!!』なんかもあるでしょうか。
『NO,THANK YOU!!!』は自分の評価は高くないのだけれど、
あれはツボにきた人なら最高傑作に感じることもありえそうだし。
時々優れた同人ゲーをやることで商業フルプライスが馬鹿馬鹿しくなる、
そんな商業キラーな作品があります。
『NO,THANK YOU!!!』はその逆で、全ての同人ゲーを無価値とさせるような、
同人キラーとなりかねない作品だと思いますからね。
> 最近は本当に女性向け作品をプレイするのが楽しくてしょうがないです。
自分も凄く楽しんでプレイしていますね。
どっか足りないような荒削りの作品も多いけれど、
今の男性向けにない刺激が一杯ある感じで。
他人には辛口に見えることもあるようですが、自分では結構甘いと思うし、
ストーリーとか破綻していても名作認定する場合も結構ありますしね。
何かしら目を引くポイントや刺激があればそれで十分で、
女性向けの方が刺激を得られることが今は多いんですよね。
> なかなか良い作品を探すのが難しいので、
これはホント苦労します。
女性向けとしては斬新でも男性向けも含めると珍しくなかったり、
女性向けオンリーのユーザーとどうしても認識のズレはありますし。
また女性ユーザーに嫌われたり賛否分かれるポイントが、
意外とこちらは何でもなかったりしますから。
むしろ嫌われるポイントにこそ、こちらの望む物があったりしますからね。
なので記事では、そういう部分を中心に書きたいなと。
まぁ女性ユーザーは熱い方が多いので、ストーリーやキャラの良い点は、
既にあるのより濃いのを書く気になれないってのも大きいですがw
その辺は、適時他所で補ってもらえればと。
まぁ他では役立たずなAMAZONレビューが、女性向けPCゲーに関してだけは、
他に語る場があまりないからか、わりと参考にもなることもあるように思います。
> 他にも、直近10年のベストの記事も上がってますが、
必ずしも世間で絶賛されている作品ばかりでもないので、
じゃあ自分はどこを見て評価したのかと、
できるだけ早く全作品の記事を掲載すべきなのでしょうけどね。
一言感想だけでも入れようかと思ったのですが、
その一言だけで判断されてもなと思うし、
聞かれたら個別に答えることでも対応できるかと思い、結局やめました。
でも、入れた方が良かったのか、今でも悩んでいます。
> 個人的にも、乙女ゲーの「華アワセ」がすごい気になってたので、
> 早速購入してみようと思います。
多少の順位の変動は自分もしょっちゅう変わるので、
あってないようなものですから、単純に挙げたタイトルが何かの参考になれば、
こちらも嬉しいですね。
華アワセシリーズは女性向けではあるものの、
『神学校』とはある意味対極的な存在だと思います。
評価とか点数を稼ぐポイントが全然異なる感じで。
まぁ全く違うからこそ逆に、点が伸びたみたいなとこもありますし。
非常にセンスが良いと感じた、美的というか芸術的というかそういう部分で、
もろに自分のツボにきたので高得点につながった作品でして。
感性が異なると楽しめない可能性もあるのですけどね。
まぁ世間での評判も良い作品だし、自分の印象もずれてはいないと思いますが。
何より遊べる作品でもありますので、最低でも価格分は楽しめるかと思います。