魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編

2013

『魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編』は2013年にWIN用として、禁飼育から発売されました。

上げてから、おもいっきり下げる、実に禁飼育らしい作品でしたね。

<禁飼育>

同人サークルの禁飼育は、最初は男性向けの同人ノベルゲーを出していました。
『さくっとパンダ』シリーズは早々に入手困難になったこともあり、比較的多くの人がプレイできるようになって知名度が高くなったのは、『酷罪を受けるべき者』からになると思います。
その『酷罪を受けるべき者』については、過去に記事を掲載しておりますが、刺さる人には刺さる題材かなと思いつつも、私自身は、あまり楽しめませんでした。
原画とシナリオが同じ人で、あまり画が上手いというわけでもなかったことや、ゲームとしての作りもあまり良くなかったことが理由となります。

その後、禁飼育は、舞台を乙女ゲーに移します。
男性向けのエロゲを好むユーザーは、乙女ゲーになったというだけで、興味を失った人もいたかもしれません。
しかし、世の中には適材適所という言葉があるように、表現の場をかえることにより輝きが増すライターもいるわけでして。
男性向け作品の時にはそれほど目立っていなかったのに、女性向け作品を作ることにより、グッと輝きを増したライターも何人かいます。
本作を制作した画用紙さんもまた、その中の1人と言えるのでしょう。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
実質的に1本道の作品で、最初のシナリオを読み終えるとStart編が解放され、Start編を読み終えるとEndstart編が解放されます。

あらすじ・・・
パン屋で働く主人公やねこ。
周りの優しい人達に囲まれて平和に暮らしてるが、一方、都会では謎の疫病が流行っており、かかると死に至る恐ろしい病があるらしく、魔女の仕業ではないのかという疑惑が広まり近々、魔女狩りが始まるらしい。
そのことで、主人公は理不尽な理由により、父親を殺され、魔女になり復讐する事を誓う。

<感想>

本作について、公式では「乙女魔女ハートフル胸キュン復讐拷問中世ファンタジーノベル」と表記されています。
プレイ前に読むと、なんのこっちゃと思うかもしれません。
しかし、プレイ後に読むと、うん、確かにそうだよなと思えてくるわけでして。
本作を端的に表現するとなると、このような表現になるのでしょう。

上記のうち「乙女」というのは、本作が乙女ゲーということで意味が分かるでしょう。
「魔女」と「中世ファンタジーノベル」というのも、中世風ファンタジーを舞台にした世界観のノベルゲーということで問題ないと思います。
残るは、「ハートフル胸キュン」「復讐」「拷問」ですね。

ゲーム序盤は、乙女ゲーらしく、甘酸っぱい胸キュンな展開が続きます。
特に主人公のやねこですね、変顔・顔芸の得意な乙女って、1人の女の子としてどうなんって疑問はありますが、良い味を出しているのは間違いないのでしょう。
やねこの豊富な顔芸もあり、読んでいて楽しく、このまま乙女ゲーとして終わらせても十分面白い作品になりえたでしょう。

しかし、その乙女ゲーライクな甘い世界観は、突如としてぶち壊されます。
キュンキュンした雰囲気で上げるだけ上げておいて、一気に梯子を外してぶち落とす。
それが禁飼育の作風であり、サークルのファンであれば、やっぱりきた~となるのでしょうし、初見の人であれば、とても衝撃的に見えることでしょう。

本作では、最初のStart編で乙女ゲー的展開で楽しませ、その後のRestart編では、やねこは拷問を受ける等により、徹底した鬱展開が繰り広げられます。
この鬱展開が、「拷問」に該当するわけですね。

さらにその後のEndstart編では、「復讐」を誓ったやねこは、姿も名前もかえ、強者風な雰囲気をみせます。
普通の作品なら、これからはこっちのターンだとなるところでしょう。
実際、やねこは、新しい環境を得て、そこで新たな人間関係を築いていきます。
大切な友人も生まれ、準備を進め、ここからというときに、再度、落とされます。
つまり本作は、上げてから下げるというのを2回繰り返しているのです。

胸キュンな展開で、雰囲気を盛り上げることが上手い点については、何ら異論のないところかなと思います。
問題は、その上がったところでの下げ方、落とし方ですね。
これ、理不尽に不幸イベントを盛り込んでいるようでもありますが、そのような構造は、負の意味でのご都合主義ともいえますので、私は普段は評価していません。
他の鬱ゲーでも、似たようなことは何度も書いていると思います。

ただね、虚仮の一念~ではないですが、禁飼育はこれが作風であり、禁飼育ならではという形で、一つの表現方法として昇華しているわけでして。
こうなってくると、私が好きとか嫌いとか、評価するとかしないとか、もうそんな次元の話ではなくなります。
自身の作風を貫き通したその姿勢と勢いに、素直に凄いとしか言いようがないのでしょう。

具体的にいうならば、その梯子を外した後の描写ですね。
ゼロ年代前半の二流鬱ゲーとかだと、不幸なイベントを出して終わりってケースも少なからずありました。
しかし、本作の場合、やねこを追い詰める描写が変質的で粘着的で、良い意味で常軌を逸しているのですよ。
ライターに情熱と勢いがなければ、ここまではできないでしょう。
優れた同人ゲーに特有の突き抜けた情熱が本作には宿っており、落とすきっかけなんて、もはや霞んでしまって気にならなくなってしまいます。

<グラフィック>

本作のグラフィックについては、1枚絵は、やはりそれほど上手いとは思えません。
しかし、表情は上手かったと思いますし、その結果、狂気等の感情はこちらにひしひしと伝わってきましたので、少なくともマイナスにはならないのでしょう。

また、本作では、テキスト欄に主人公の顔が表示されます。
しかも、顔芸が豊富なので、コロコロと表情がかわります。
それに加えて、頭の中に思い浮かべたものが吹き出しっぽく表示されることもあり、画面全体を通じて、見ている人を楽しませようという意図が伝わってきます。

この辺は、男性向け作品を作っていた頃よりも進化したところであり、ただ単に面白いストーリーを提供すれば良いというのではなく、1本のゲームであることを意識するようになっていて、個人的にはとても好印象でした。

<評価>

散々上げておいて、一気に突き落とし、そこから希望を見せ上昇気流にのったかと思った矢先に、とどめを刺すように突き落とす。
言葉にするだけなら簡単なことかもしれません。
しかし、これを独自の作風にまで昇華しているのは、禁飼育さんくらいかもしれませんね。
そういう意味では、オンリーワンな魅力を持っているサークルといえるのでしょう。

なお、本作自体は前編にすぎず、本作単独では完結していません。
再度突き落とされ、絶望にあえぐやねこはどうなるのか、復讐はどうなるのかは、完結編となる後編に委ねらることとなるのです。
そのため、本作単独での評価は、あってないようなものかもしれません。
ただ、便宜上記載するならば、総合では良作といえるでしょう。

そもそも本作は、禁飼育が、完成したらゲーム作りを止めるとして出された作品です。
完成したら最終作となるだけに、禁飼育の集大成となるべき作品として生み出されました。
その集大成たる完結編の発売を待ち望むプレイヤーも、きっと多かったことでしょう。
しかし、実際に我々がその完結編を手にするのは、実に本作発売から10年後となるのです。。。

ランク:B(良作)

Last Updated on 2024-12-06 by katan

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