『魔女の処刑日 ~最愛なる夜明けへ~ 後編』は2023年にWIN用として、禁飼育から発売されました。
乙女ゲー同人サークル禁飼育の最後の作品にして、集大成となる作品ですね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
前編では復讐の為、魔女になった主人公やねこの物語……
それとは別に、ある行動を起こす男がいた。
男の目的は、少女やねこを救う為だけの物語である
概要・・・
「魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編」から10年越しの続編!
前編を読んで頂いたことを条件に後編をお楽しみくださいませ。
前編を読まないとワケがわかりません。
今作で禁飼育、同人ゲーム最終作です。
<感想>
本作は、「魔女の処刑日 ~上弦の月は私を見下し~ 前編」の10年ぶりの続編であり、同時に禁飼育さんの同人ゲーとしては最後の作品になります。
禁飼育最後の作品にして、集大成。
本作について、私としてはこの一言にすべてが集約されているのであり、それ以上の感想はすべて蛇足ではないか、書く必要はないのではないかとすら思っております。
というのも、概要にもありますが、本作は後編であり、前編のプレイが必須となっています。
また、外伝の『異端審問官の愛寂』も、個人的にはプレイ必須と考えています。
つまり、本作が気になる人というのは、前編をプレイして、『異端審問官の愛寂』もプレイして、続きが気になる人だと思うところ、そういう人に対しては、禁飼育ゲーの集大成だとさえ伝えれば、もはやそれ以上の説明は不要ではないかと思うのです。
まぁ、未プレイの人の中には、最後の評価もみてから手を出したい人もいるかもだし、中には乙女ゲーという部分で手を出しにくく思っている人もいるかもしれません。
本作は、乙女ゲーを制作する同人サークルの乙女ゲーの続編であることは間違いないのですが、主人公はスモークフィルという渋いオッサンです。
ちなみに、このオッサン、誰とも結ばれません。
乙女ゲーとは、一般的に女性キャラを主人公として、男性キャラとの恋愛を描いた作品とされています。
そうなると、オッサンが主人公の乙女ゲーとは何ぞや?と、小難しいことを考え出すと、乙女ゲーの定義に一石を投じかねません。
でも、本作をプレイすると、まさにスモークフィルは主人公であり、オッサンの言動がこちらに刺さってくることは間違いないのでしょう。
もうこうなってくると、乙女ゲーとか男性向けとか、そういう変な小さい縛りで考えるべきではないのかもしれません。
禁飼育というストーリー重視な作品を作るサークルの最高傑作が本作なのだと、それくらいの認識の方が良いと思います。
さて、中身と関係ないところでいろいろ書いていますが、一応中身にも触れておきましょう。
基本的なストーリーの方向性としては、いかにも禁飼育らしいと思える内容になっていますので、過去作が好きであれば、間違いなく本作も楽しめるでしょう。
だからこその集大成なのです。
また、上げてから落とすというのが禁飼育作品の特徴と言えるところ、本作は上げて落とすだけでなく、敵だと思っていたら味方だったり、味方だと思っていたら敵だったりすることから、過去作以上に物語のアップダウンが激しくなっています。
この辺が、過去作を超え、禁飼育作品の最高傑作足らしめている要因といえるのでしょう。
本作には、前編や『異端審問官の愛寂』を通じて多数のキャラが登場し、それぞれに思惑や背景があります。
そうしたキャラ達に、それぞれの結末が待っていますので、前編や『異端審問官の愛寂』をプレイした人は本作もプレイした方が良いでしょう。
ちなみに、本作に音声はありませんが、基本CG170枚に差分814枚もあり、サークル最大規模であるだけでなく、フルプライスのエロゲ以上のCG枚数となっていますので、演出面でも十分満足できるでしょうね。
<評価>
総合で名作なのは間違いないでしょう。
そのうえで、傑作と判断するか否かについては、最後まで悩みました。
ストーリーの1点だけで判断するならば、直近5年間の中でも最高峰の作品といえるでしょうし、その観点からは傑作扱いで良いようにも思います。
また、この作品を傑作扱いしなければ、今後、ノベルゲーで傑作作品が出てくるのかとも思ってしまいます。
ただ、本作はすべてに決着をつけた作品として、プレイできて満足したことは間違いないのですが、他方で、プレイしていて、新たな衝撃、新たな発見というものが少し弱かったように思います。
それに10年という歳月は長すぎでした。
もう数年早く発売されていたら、傑作と判断したかもしれませんが、2023年の作品としては、もう少しプラスアルファが欲しかったかなということで、現時点では限りなく傑作に近い名作とします。
<禁飼育作品について>
最後に、禁飼育作品の構造について、ちょっとだけ触れて終わりにしたいと思います。
禁飼育のゲームは、すべてノベルゲームであるところ、近年のノベルゲーは、実質的に1本道の作品が多いです。
キャラゲーとかで、複数のエンドがある作品であっても、それはヒロインの数だけエンドが用意されているもので、単なるバッドエンドを除けば、各ヒロインについては、実質的に1つの物語しか用意されていないものがとても多いと思います。
ノベルゲーが登場したのは80年代と、その歴史も長くなっているところ、選択肢による分岐によりエンドが複数ある作品について、マルチエンドはライターの主張が薄まって弱くなるのではないかという問題提起が昔からなされてきました。
それもあってか、メッセージ性の強い作品ほど、1本道構造になりがちともいえました。
このマルチエンドによって薄まるという問題は、ストーリーだけに該当するものではありません。
主人公とヒロインとの関係性を描いたような作品の場合、複数のルートが存在するということは、ルートによって役割が異なってくることもあるため、キャラの性格や言動がかわりうることにつながります。
ノベルゲーの多いアダルトゲームにおいて、長く重要視されてきた「萌え」は、言い換えるとキャラの記号化でもあるところ、ルートによりキャラの性格や言動がかわりうることは、記号化の正反対ともいえ、著しく相性が悪いということになります。
他方で、選択肢による分岐は、ゲームブック的な楽しみ方、つまり分岐により物語の展開がかわっていくという楽しみがあります。
つまり、このゲームとしての楽しみを強調すると、ストーリーにおけるメッセージ性やキャラクター性が薄まり、1本道にしてストーリー性やキャラクター性を維持しようとすると、ゲームとしての楽しみが減ってしまうという、ある種の矛盾関係にあるのです。
禁飼育作品は、攻略対象となるキャラが1人であることが多いです。
他方、ゲームシステムとしては、マルチエンドとなっています。
すなわち、同じキャラであっても、あるルートでは破滅したり、あるルートでは幸せになったりと、役割が異なることが少なからず存在します。
同じキャラを用いつつ、ifの世界を見せ、様々な物語の可能性を模索していたのが、禁飼育作品の特徴なのでしょう。
様々な角度から人物を捉え、描くというのは、文学的な観点からは大事であるものの、上記のとおり、(萌え)キャラを描くという観点からはマイナスになりかねません。
文学と萌えは、その意味で対極に位置する存在であり、優劣の問題ではなく、ジャンルが異なるのです。
実際、マルチエンドの作品でキャラに様々な役割を担わせたストーリー重視な作品は、他にも存在はするものの、そのほとんどがうまくいっていません。
このようなタイプで高い評価を得た作品は、ほとんど存在しないのでしょう。
禁飼育作品は、そこに挑戦し、そして一般的にも一定の高い評価を得ているわけで、そこが実は他と異なる異質なところなのかもしれません。
禁飼育作品は、決して文学的なアプローチをしているわけではありません。
何なら、一見すると記号化されたキャラのように見える設定を用意しつつ、そこから様々な側面を見せてくるのです。
これ、萌えの中に文学的な視点を盛り込むというか、もう少し分かりやすく例えると、漫才の中にコントを取り入れたコント漫才のようなものなのです。
漫才とコントの違いも分からない人だと、見て単純に楽しめれば良いって思う人もいるでしょう。
しかし、両者に詳しくきっちり区別する人ほど、例えば漫才の大会にコントを混ぜたようなコント漫才をやられると、違和感を覚えてしまいます。
それと似たような感じで、禁飼育作品についても、何も分からず単純に楽しんだという人も、少なからずいるでしょう。
しかし、文学とは何ぞや、萌えとは何ぞやと強いこだわりを持つような人には、禁飼育作品のような構造の作品は、違和感がつきまといかねません。
一部で高い評価を得つつも、サークルとして頂点に立ったとは言えない状況は、こうした点にも理由があるように思います。
ここはもう、価値観の問題になってくるので、どれだけ素晴らしい作品であったとしても、受け入れられない人は受け入れられないのだと思います。
とはいえ、コント漫才が漫才の大会で簡単に受け入れられないとしても、そこに圧倒的な実力と差があれば、全員ではなくても多くの人に高く評価されるようになりますし、それはゲームでも同じことです。
禁飼育は、ある意味いばらの道を選択したとも言えるのでしょう。
しかし、過去の作品をみれば分かるとおり、禁飼育は作品を出すごとに進化していきました。
キャラに様々な役割を与え、下手するとストーリーやキャラが薄くなりがちなところ、全部ひっくるめて禁飼育らしいなと思えるほどの作風に昇華できたというのは、地味だけど、実は難しいことだし、凄いことなのでしょう。
この分野で成功している例がほとんどないだけに、余計に際立ちます。
禁飼育作品の特徴として、上げて落とす展開については、よく挙げられることが多いと思いますし、目につきやすいのもその点なのでしょう。
しかし、それだけであれば、次第に飽きられるでしょうし、他所との大きな違いにまではつながらないように思います。
一見すると目立ちにくいけれど、本当の意味で禁飼育作品が異質だったのは、実はこの構造で作風と言えるほどに昇華できたところにあったように思います。
その意味で、やはりオンリーワンなサークルだったといえるのでしょうね。
ランク:A(名作)
Last Updated on 2025-05-04 by katan
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