『クナド国記』は2021年にWIN用として、Purple softwareから発売されました。
今のエロゲの在り方を考える題材という意味でも、同年を象徴する作品といえるのではないでしょうか。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・西暦2034年。
“鉄鬼”という金属生命体が発生し、人類のほとんどが駆逐された。
金属製品も使用不可となり、文明や技術すら失われる。
鉄鬼の活動がゆるやかな“隙間”でのみ、人類は生き延びることが出来た。
それから1000年後。ひとりの英雄が、鉄鬼の中核たる存在のひとつを打倒した。
『人類の命運を賭けた戦いは、100日前に、終わりました』
『だからこれから始まる物語には“希望”や“幸せ”しか残されていません』
舞台となるのは「カント」と呼ばれる国。
総人口800人の能力者たちが暮らす、和風文明。戦いは終わった、が。
生き残るために戦い続けてきたカントの人々は、個性や文化を失っていた。
一般住民は皆、狐の面をかぶった「誰でもない者」でしかなかった。
「“希望”や“幸せ”って、なんですか?」
「わたしたちは、戦う以外になにをすればいいのか、全然、わからないのです」
そんな時、1000年前から冷凍睡眠されていた青年が発掘される。
青年――彼が、この物語の主人公となる。
彼は、冷凍睡眠の弊害ゆえか記憶喪失だった。
自分のことはわからなかったが、しかし、文明や文化などの知識は所持していた。
「わたしたちと、この世界に希望や幸せを生みだすと約束していただけますか?」
別世界のようなカントで目覚めてしまった主人公。
衣食住の保障と引き換えに、彼はカントに文化をもたらしてくれと頼まれる。
彼の物語は、人類の命運を賭けた戦いが終わったあとに始まる。
これは、珍妙な学園生活を謳歌する話であり。喫茶店と貨幣経済の話であり。
統治者に必要な資質と努力の話であり。
何者でもなかったひとりの少女が、夢を抱くまでの話である。
そして――“英雄”の死の真相と、“彼”の正体についての告白だ。
<概要>
パープルが今流行りの異世界系を作ったらこうなったという作品であり、率直な感想としては面白かったです。
グラフィック、サウンド、演出等、他の部分も及第点以上ですしね。
もともと演出には強いブランドですし、過去作からの大きな進化はないですが、それでも十分他所より一歩リードしているといえるでしょう。
他方で、これはと言えるような、突き抜けたものは存在せず、良作ではあるけれど、名作と言いきれるほどでもないという印象でしょうか。
ということで、通常であれば、面白いけれど感想は短くなるタイプの作品です。
ただ、私は通常、外野の意見には興味がないのですが、この作品を通して、いろいろ考えさせられたわけでして。
そのため、ここから先は、本作を通じて私が思ったことについて書くので、作品の内容について知りたいという方は、読む必要がないと思います。
さて、本作はストーリー重視の作品なのですが、エロが薄いということで批判されたみたいなんですよね。
それ自体が、私には理解ができなかったわけでして。
そもそもPC98時代までのアダルトゲームは、それこそエロさえ入っていれば、あとは何をしても許されるような寛容さがありました。
だから、制作側もいろいろ挑戦できたのでしょう。
歴史的な観点からお話しますと、80年代中盤までのアダルトソフトに対し、アダルトソフトとは異なる美少女ソフトという提案がなされました。
沙織事件等でアダルトソフトが槍玉に挙げられた時期も、当時の多くのブランドは、うちが作っているのはアダルトソフトではない、美少女ソフトだという表現をしていたんですよね。
そういう経緯もあってか、アイデスなんかは、メインヒロインにエロがないという作品もありましたしね。
ゼロ年代に入るころ、一部のユーザーの中に、エロゲにエロは要らないと言いだす人が一定数いました。
これ、言葉を額面通りに受け取ってしまうと、何言ってんだこいつと思うかもしれません。
まぁ、本気で額面通りに言っているような人もいたので、それはそれでおかしいのは間違いないのですけどね。
ただ、この言葉、一定の補足をするのであれば、私は決して否定派ではないのです。
つまり、(ストーリー重視の)エロゲに、(最低限のエロ以外の)エロは要らないということですね。
もちろん、ストーリーもエロも充実している方が良いのでしょうが、理想論ばかり唱えていても仕方ありません。
現実をみた場合、定価が決まっていて、コストも上限がある中、一作品で用意できるCGの枚数には限りがあります。
その限られた枚数をエロに割けば割くほど、ストーリー上のイベントシーンに割り当てられるCGが減ってしまいます。
そうなると、ストーリー上の大事な場面でCGがないという状況も考えられ、作品の盛り上がりに欠けてしまうことが考えられます。
だからストーリー重視の作品においては、エロCGが増えるということは、デメリットにもつながりうるのです。
本作の制作陣が本作をストーリー重視の作品にしようとしたことは、プレイしてみれば一目瞭然です。
エロが皆無というのであれば、叩かれても仕方ないのかもしれませんが、本作は決してそうではないですからね。
これで叩かれてしまうようでは、今後の商業エロゲ市場においては、ストーリー重視の作品は生まれることができないのではと思ってしまいます。
次に、ノベルゲーの分岐構造には、様々なタイプが存在します。
その中の一つに、途中下車方式(脱落方式)が存在します。
主に、核となるメインストーリーが存在するような、ストリー重視作品に用いられることが多いタイプになります。
過去作で、パープルがこの構造をわざわざ説明しているのを見た時、私なんかは、何でいちいちこんなことを説明しているのかと思ったものですが、時代がかわってユーザー層がかわることにより、こうした説明が必要になってきたということなのでしょうね。
私の他の記事を読んでくれている方なら分かると思いますが、90年代末頃からのエロゲというのは、ストーリーがヒロインに従属した形式の作品ばかりであると、私はそういう表現をずっとしてきたと思います。
適切な言葉がなかったので、こういう長い説明になっていましたが、近年ようやく出てきた言葉に置き換えるのであれば、キャラゲーといえるのでしょう。
アダルトゲームにおけるストーリー重視の作品というのは、90年代後半頃に廃れてしまい、それ以降のエロゲの歴史というのは、キャラゲーが浸透し定着していった歴史ともいえるのです。
そして、若いユーザーの中には、キャラゲーの構造しか知らない、それが当たり前というユーザーが増えてきたということなのでしょうね。
キャラゲーが浸透し増えていくことについては、良い点も悪い点もあります。
それこそゼロ年代前半は、キャラゲーとストーリーゲーが混ざりあい、どっちつかずな作品も多数ありました。
欲張っていろいろいれた結果、ボリュームだけ増えていき、良く言えば大作なのでしょうが、反面、それが嫌で離れていったユーザーも多かったというエロゲバブル崩壊の一因ともなりました。
ゼロ年代後半以降、キャラゲーにはキャラゲーの魅力があると、そう吹っ切れることで生まれた良作もあるわけで、そういう存在が認められたこと自体は良いことだと思います。
ただね、キャラゲーばかりになり、キャラゲーの構造が当然みたいに受け取られると、それはそれで別の問題が生まれてしまいます。
その一つとして、ストーリーがヒロインに従属した形式が当然と思われると、個別ルートでは当該ヒロインを中心とした内容にしていない場合、ユーザーに叩かれかねないということが挙げられます。
本作の場合、メインヒロインかと思われた春姫ルートにおいて、春姫の存在感が薄いということが批判の対象として挙げられやすいです。
確かに、春姫の物語を期待し、その観点で考えたならば、このルートは弱くみえてしまうのかもしれません。
しかし、作品紹介において、パープルは、“英雄”の死の真相と、“彼”の正体についての告白だと記載しており、それが春姫ルートで描かれているわけですね。
その点が描かれたルートなのだとすれば、決して弱いとはいえません。
主人公のストーリーとして、このような形で締めることは、私は悪くないと思っています。
パープルが失敗したとすれば、せっかく作品紹介において、「これは、珍妙な学園生活を謳歌する話であり。喫茶店と貨幣経済の話であり。統治者に必要な資質と努力の話であり。何者でもなかったひとりの少女が、夢を抱くまでの話である。
そして――“英雄”の死の真相と、“彼”の正体についての告白だ。」
と丁寧に説明しているのに、作品内において、安易に〇〇(ヒロイン名)ルートという誤解を招く分け方をしたことでしょう。
せっかく公式サイトで丁寧にいろいろ説明しているのに、肝心の作品内で何でこんな安易で雑な区分けをしてしまったのか、本当にもったいないです。
これは主人公の物語なのだ、その中で、珍妙な学園生活を謳歌する話もあるよ、喫茶店と貨幣経済の話もあるよ・・・という形をもっと徹底できれば、もう少し誤解を招かずに済んだんじゃないかなと思います。
<評価>
上記のとおり、総合では良作と考えます。
もっとも、2021年の商業エロゲの中では一番楽しめた作品でしたし、いろんな意味で2021年を象徴する作品だったと思います。
それにしても、最近のパープルを見ていると、一体何と闘っているのだろうと、そんな風に思ってしまうのは私だけでしょうか?
はじめは、随分と丁寧に書いているのだなと、好感がもてるブランドだなくらいに思っていたのですが、どうも違うように見えます。
エロゲの多様性が失われ、一部のユーザーの思い込みが強まり、その結果、キャラゲーの枠からはみ出る作品を作ろうとした場合、一からきちんと説明しないと通じない時代になったのでしょう。
その一部のユーザーというのが、若い新規参入層なのか、そうでないのか、その辺は私には分からないため、それで一体何と闘っているのかよく分からんとなるのですけどね。
いずれにしても、パープルの一連の苦労を見ていると、キャラゲー思想が根付きすぎた今のエロゲ市場においては、本当の意味でストーリー重視の作品を発売し、それが正当に評価されるということは、非常に困難なようにみえます。
まぁ、先が明るいとは言えないですが、エロゲ市場の将来のためにも、パープルには我が道を進んでもらいたいと思いますね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-06-15 by katan
コメント
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あくまで表に出てる情報のみで考えると……というところで。
>それにしても、最近のパープルを見ていると、一体何と闘っているのだろうと、
そんな風に思ってしまうのは私だけでしょうか?
パープルソフトウェアさんの歴史的に、丁寧な説明が始まったのが「アマツツミ」からなんですよね。
この作品はこうで、ああで、こういう構造になっている点をご了承ください、的な。
そこから派生して、ライターコメントなどを詳しく載せるようになり次作「アオイトリ」でも同様に詳しく説明(アマツツミと比較した作品である点を刷り込むような紹介の仕方)していて、個人的にはメーカー側が説明をし始めたのではなく、企画・ライターの御影氏がこのようにしているのかなと思っております。
企画者であり、アイデアマンなため、企画を説明するのはまぁ筋としてはアリなのかもしれませんが、それって結局、メーカーにプレゼンするときに言えばいいだけの話であって、表で言わなくてもいいよねとは思っていました。
efのときもそうでしたが、御影氏は自作企画作品において説明しがちな点があり、また、パープルソフトウェアさんで仕事する際に、広報に関しても意見を言っていたと、過去ツイートされていたので、それの影響なのかなぁと。
後、エロシーン少ないことへの文句云々は、メーカーに求めるものを「大きく」「過剰に」言うファン(ファンじゃない人も含む)の影響が強く出たんじゃないかなぁと。
最初から説明してるので、正直、作品がこういう作品なんだから買わなきゃいいのにね、で済むはずなんですけどね。
個人的に作品を見てるのではなく、会社の代表者が嫌いだから叩き材を探す、みたいな流れになってるので文句が目立ったのかもしれません。
本質じゃない、どーでもいい問題なんですが……ここら辺、なんとかしないと作品が玩具にされて、そういう面でしか目立たなくなってしまうのではないかなぁと思っております。
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> 匿名な人さん
説明すること自体は良いことなのだと思います。
最近のブランドは、一体どういうゲームなのか、説明が少なすぎるところが多すぎます。
だからパープルソフトウェアにしても、御影氏にしても、その姿勢は私は正しいと思います。
不思議なのは、叩いている人って、そういう説明とか見ないのかなってことなんですよね。
私には理解できません。
雑音で潰れていったブランドもあるだけに、パープルソフトウェアにはそうならないことを願いたいものですね。