AQUA

2011

『AQUA』は2011年にWIN用として、SORAHANEから発売されました。

SORAHANEのデビュー作となった作品で、シナリオプレーヤーが便利でしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・西暦2056年――
質量をもったホログラムを生成することができるコンピュータ、アクアがパソコンに取って代わり8年が過ぎ、アクアが世界中で生活に根付いていた。
月ヶ浜はアクアを制御するルカと呼ばれるアンテナが水平線に立ち、アクア開発研究組織ECReD擁する科学技術都市として発展してきた。
鳴海颯太は母親の智恵と共に、7年ぶりにこの街に戻ってきた。
しかし颯太は、この街に戻ってくるのが嫌だった。
ここに来ると―――死んだ千紗のことを思い出してしまうから柊木なずなとの衝撃的(すぎる?)な出会い。
学園で出会う南凛や月代奈々璃といったクラスメイトたち。
そして颯太は学園で、びしょ濡れ姿の一人の少女と再会する。

<感想>

時代はアクアと呼ばれる、PCと携帯の進化版のようなものが存在する近未来。
それでいて直接の舞台は田舎でもあり、一見すると相反するかのようですが、これが絶妙なラインで上手く調和していたように思います。
そんな世界で繰り広げられる、科学の力に翻弄させられた者たちのヒューマンドラマ。
大雑把にはそんなところでしょうか。
クローンとかSFとしてはわりと王道なところを突きながらも、独自の世界観は構築できており、土台はしっかりしていたように思います。
その土台を前提に家族や絆といったものが語られますので、テーマや題材単独では珍しくもないとしても、組み合わせの妙で結構新鮮な感覚でプレイすることができました。
特に印象が良かったのはラストですね。
案外端折られがちな部分までしっかりと書ききったものだから、とても印象の良いものとなりました。

ストーリーは「Wind」「Lunks」「Aqua」からなり、厳密には「Wind」で3種のEDがあります。
それらを見た後に「Lunks」、その後に「Aqua」と続きます。
「Wind」の1つのEDの続きが「Lunks」以降になり、他のルートも設定的に関連してきます。
まぁ、昔の『AIR』みたいな構成と言えば早いかもしれませんが、いずれにしろ無駄のない構成で、実質的には全体で1本のストーリーと言えるでしょう。

ラストの展開はとても良かったのですが、最初の「Wind」では日常が少しだれる感じもあり、それでいて肝心の設定の説明が不足気味であります。
個人的な印象ではありますが、「Wind」だけなら佳作、「Lunks」は良作、「Aqua」は名作レベルの内容でしょう。
ラストさえ良ければそれで良しって人ほど、全体の評価も高くなるように思います。
私は全体で評価しますので、必ずしも終わりよければすべて良しとは考えません。
終盤が凄く良かっただけに、序盤のチグハグさが目だってしまいます。
もう少し序盤が改善されてあれば、ストーリー全体も大きなプラスとなりえただけに、ちょっと勿体無かったですね。

ストーリーに関しては基本的には私の好みとするところでしたが、若干の注意は必要かもしれませんね。
まず、一見すると萌えゲーなのですが、本作は完全にストーリー主導のゲームです。
ヒロインの皆とハッピーなEDを迎えたいと言う人には、間違いなく本作は向いていないでしょう。
そういう意味では、完全に萌えゲーとは路線を異にします。

それとも関連しますが、このゲームは結構鬱な作品です。
それも降って湧いたような局地的な鬱描写ではなく、やりきれないような割り切れないような後味の悪いタイプです。
そういうのがヒロインの個別EDにもありますし、グランドルートであってもそういう要素が多分にあります。
いや、当人たちはテーマ的な側面からは爽やかに終わっているので、表向きにはとても爽やかなんですよね。
でも、それとはずれる枝葉の部分には問題は残っているわけで、全部見てきたプレイヤーはもやもやってした気にさせられるのです。
本作のようなリアリティのある後味の悪いタイプは、私自身は非常に好みとするところです。
しかし局地的な鬱なら評価されやすい傾向にあると思いますが、本作のようなタイプはたぶん、世間の今の主流層に受ける路線ではないと思います。
そのため、こういう後味の悪い作品が苦手って人は、少し注意が必要でしょうね。

それと、主人公が空気っぽいゲームが苦手な人も合わないでしょう。
本作ではあまり活躍しませんからね。
ただ、私自身はあまり気になりませんでした。
その理由は、1つは無駄にウジウジされるよりは、鬱陶しくない分だけましだっていうことです。
もう1つは、実質的な主人公が他にいるっていうことです。
プレイすれば分かるのですが、主人公の母である智恵さんとなずな先生が、実質的に主役でありメインヒロインだったりします。
EDを迎えると、なずなさんの物語だなとか、なずなさんが全部持っていったように感じます。
ゲームの中には突然脇役が全部持っていって、それでかえってゲンナリするものもあります。
しかし本作は、序盤から智恵さんとなずなさんがフルに活躍しますし、その2人が最後も締めてくれるわけですから、そうした不満は生じませんでした。
つまり主人公はプレイヤーと同じで、大人たちによる物語の傍観者ってわけで、私はこれはこれでありなんだと思います。
そう捉えれば何ら問題なく楽しめるのですが、とにかく主人公のママンと先生が目立ちまくるゲームですからね、ちょっと普通のゲームとは趣を異にしますよね。
私はそれすら新鮮に感じられたので良かったですが、男の主人公がヒロインと結ばれることが前提と捉える人には、違和感の方が勝るかもしれません。
そういう人は注意が必要でしょうね。

ついでにキャラについてみてみますと、いわゆる主人公やメインヒロインと紹介されているキャラは、嫌味なところもないけれど印象も濃くなかったりします。
まぁ、おもいっきりロリ系がいますので、そういう意味では印象は強いかもしれませんけどね。

どちらかというとサブと紹介された人物の方が、実はメインだったりするわけで、特に大人たちは魅力的なキャラが多かったですし、作中でも大活躍します。
ヤッホーヨーグルトな沙織さんのいじらしいウザさも、個人的にはツボでしたしね。
惜しむらくは智恵さんとなずなさんに、Hシーンがなかったことでしょうか。
立ち絵全裸にはできるのですが、やっぱりHシーンが欲しかったですね~
それがあればキャラの項目も長所となりえたのですが、非常に残念でした。

他にも主人公の友人の男性やペットキャラとかもいますし、キャラにも幅はあって不足は感じないでしょう。
しかし、地のテキストは格別上手いわけでもなく、たまにだれて感じてしまうので、テキスト全般は普通って思えてくるのです。
キャラが良いだけに冗長な部分を削れば長所足りえたわけで、ここもちょっと惜しかったですね。

<グラフィック>

キャラの表現という意味ではグラフィックが重要になってきますが、あっさりした感じで個人的には好きな絵柄です。
でも、一部変なところもありますし、好き嫌いは分かれるかもしれません。

それでも背景はとても綺麗ですし、カットインとかもありますので、グラフィック全般は良好な部類に属するのではないでしょうか。
ただ、ノベルゲームのわりに要求スペックが非常に高いので、動きの部分がかえってテンポの悪化につながる場合もあります。
低スペックのPCの人は、その点は注意が必要かもしれませんね。

<ゲームデザイン・システム>

ノベルゲーなのですが、ゲーム部分は選択肢が1個あるだけです。
完全に読ませるタイプの作品ですね。
下手にややこしいよりは良いのですが、気になる人は注意が必要かもしれません。

それとシステム面では、シナリオプレイヤーが大きな特徴と言えるでしょう。
これは任意の地点に自由に戻れるもので、使いこなせればかなり便利になるでしょうね。
フローチャートでもこれでもどれでも構いませんが、こういうシステムはどんどん普及してもらいたいものです。

これは場合によっては長所として扱えたのでしょうが、本作は選択肢が1個しかなかったことから、あまり活用できない感じでした。
いくら搭載されていても、使わなければ意味はないですからね。
本作に関しては長所と言いきれないのが残念でした。
もっと分岐の激しいゲームなら威力が発揮できるでしょうから、これは今後のお楽しみっていう感じでしょうね。

ちなみに、このシナリオプレイヤーは過去に戻れるだけでなく、そのエピソードの残りの把握やCGまでの時間の目安にもなります。
本作に関して言えば、その使い方の方が多かったですね。
時間の余っているときはあまり意味を見出せいかもしれませんが、プレイ時間の限られている今では個人的にはとても役立ちました。

あとは、立ち絵を全裸にできる点は単純に好きなので、特典ではなく標準装備で今後も続けて欲しいです。

<評価>

総じて、よく出来た作品だったのではないでしょうか。
特に大きな欠点はないですし、致命的欠点を減点していく方式であれば、かなり高い点にもなりえるように思います。

まぁ細かい部分での粗はありますが、光る部分は本当に光る作品でしたからね。
特に大人が大人らしく振舞い活躍するゲームは、今のアダルトゲームには非常に少ないこともあり、非常に印象深かったですし、この点だけならば傑作級の良さだったと思います。
それらを考慮し、総合でも名作とします。

本作は同人上がりの新規ブランド作品とのことですが、だからでしょうかね。
作りたいものを作ったんだな~って感じられて、個人的には好印象でした。
でも、ストーリー重視の構成や後味の悪さの方向性とか、今の売れ線と異なるようにも思うわけで、特に奇抜な設定でもないはずなのに、結果的に冒険した作品にも見えました。
まぁ、一見するとストレートのようでいて、中々に癖球ですからね。
テンプレゲーが好きな人には合わないでしょうね。
逆にまきいづみ時空に陥っている人ならば、名作に感じられる可能性もぐっと上がりますので、とてもオススメでしょうね。

ランク:A(名作)


AQUA
駿河屋
DVDソフトAQUA
ダウンロード版
AQUA dl

Last Updated on 2024-12-15 by katan

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