十次元立方体サイファー ~蒼き月の水底~

2004

『十次元立方体サイファー ~蒼き月の水底~』は2004年にWIN用として、AbelSoftwareから発売されました。

2004年といえば、『ミステリート』が発売された年でした。
同じ年に2本も菅野さんのゲームができるなんて、驚きでしたね。

<概要>

ゲームジャンルはリアルタイムコマンド選択式ADVになります。

あらすじ・・・
昭和の時代を色濃く残す館――「月光館」。
この館において、とある大企業の実験が行われることになった。
実験の目的は閉鎖空間における心理変化の観察……。
いくつかのルールを課せられ、その上で自由を許された被験者たち。
誰もが簡単で高額なアルバイトだと思っていた。
だが、一人、また一人と消えていくメンバーたち……。
そして無作為に選ばれたはずだった男女に、奇妙な共通点があることが判明していき……。

<感想>

本作は、ベースとなるのはADVなのですが、システムが若干変わっています。
基本はマップ上から移動場所を選び、キャラとの会話は変則的ですがコマンド選択式と言えるでしょう。
まぁ、見方によっては簡略化されたP&C式とも言えるでしょうが、いずれにしろ中間的な感じってことですね。
随所でアイテムを取得することができるので、それを適切な場所で使用させたり、暗号解読のような謎解きもすることでゲーム性を増しています。
もう一つ特徴的なことがあって、これらが全部リアルタイムで進行するんですね。
これによってリアリティの向上を図りつつ、制限によるゲーム性の上昇が図られているのです。

こういうシステムは、アダルトゲームでは初めてかもしれませんね。
だから新鮮に感じた人もいるでしょう。
まず言えることは、ノベルゲームとは構造も楽しみ方も違います。
戦略SLG好きが必ずしも経営SLG好きとは限らないように、ADVにだって幾つも細かいジャンルが存在します。
人によっては合う合わないはきっと出てくるでしょうから、合わないと思った人は手を出さない方が賢明でしょう。

では、合うとした場合はどうなのか。
先ほどアダルトゲームとしては初めてかもしれないと書きましたが、一般PCゲーでは多くはないですがそれなりにあるわけでして。
まぁ、多くは洋ゲーか、それの移植物ですけれど。

それらのゲームとの演出面も含めた比較で言いますと、既にフルボイスでキャラが動き回るゲームがあるのです。
本作の5年以上も前にそんなゲームが存在しやっているのに、今更動かないしゃべらないという同一形式のゲームを出されても、全く新鮮な感じはしないですよね。

また、同じ形式のゲームでも、当然謎解きの良し悪しは出てきます。
それらは、謎(パズル)の質や種類の豊富さ、それに難易度等から総合的に判断されるのでしょう。
質の比較の表現は難しい部分もありますけれど、パズルの種類が乏しいのと難易度がそんなに高くないことは、やった人なら同じような感想を抱くのではないでしょうか。
確かにアダルトゲームのユーザーは謎解きに慣れていない人も多いので、一概に難しいのが良いとは言えないでしょう。
だから多数派を意識したのであれば、難易度は本作くらいで構わないとしても、謎解きの質や種類の豊富さには少々物足りないものがありましたね。

他には、P&C式ADVとかでは自分で移動させますが、本作はマップ移動式です。
一見するとP&Cにも思えるシステムも、実質的にはコマンド選択式と変わらず、多くの面でPCゲーに比べると簡略化・簡素化が図られています。
これはアダルトゲーム、そしてストーリーを主に楽しませる観点に限って言うならば、適切な手段だったとは言えるでしょう。
しかし、同時にストーリー面にメインを譲るというだけで、ゲーム的な面白さを追求した変更ではありません。
つまり、決してマイナスではないのですが、プラスにもならないということですね。

総じて、ゲーム部分は特に目新しい部分もなく、かといって完成度が高いわけでもありません。
これだけだったら凡作、アダルトゲームでこれをやったことを考慮しても、佳作に届くか届かないかってとこでしょう。

しかし、洋物のPCゲーにはないものが本作にはあります。
つまり、菅野さんのストーリー・テキストですね。
システム面を簡略化したことも、ストーリーが良ければ良いほど活きてくるわけですし。

では、ストーリーはどうだったのかですが、まず注意してもらいたいのことは、本作には2つのルートがあるということです。
通称赤ルートと青ルートと呼ばれるのですが、最初は開始時に勝手に決まります。
タイトル画面が夜であれば青ルートで、夕方なら赤ルートです。
そして、青は端的に言えばSFルートで、赤はミステリールートになります。

つまり1つの舞台・ストーリーで2種類の展開ということになるわけです。
そのこと自体は、全然構わないのでしょう。
むしろ意外性が出てきて、楽しみの幅が広がるケースもありますし。

ただ、本作に関しては、食い合わせが悪かったですね。
ミステリーと推理物は、基本的に相性が凄く悪いです。
もちろん、SFとミステリーを融合させた名作小説はあります。
その場合はSF部分を最初に説明しつつ、そこからミステリーを構築させていましたが、何れにしろそれはレアケースで、ほとんどは上手くいきません。
本作のような、結末を迎える段階でミステリーとSFに分かれるなんてのは、それを聞いただけでもまともに機能しないのが目に見えています。

加えて、煽り文句が問題でした。
絶対予測不可能と銘打ったミステリーADV。
当然、こちらもその心構えでいるわけです。
そこでSFをやられては、全てが台無しになりかねません。
仮にSF部分自体が凄く良かったとしても、全体としては素直に評価出来ないでしょう。
どうしてもミステリー的には反則に感じてしまいますしね。

2種類の展開という発想自体は悪くなかったのですが、とにかくジャンル的な食い合わせが悪かったです。
これだったら、どっちか1本に集中した方が良かったと思います。

本作は、プレイすると感じるのですが、メインは赤のミステリールートです。
ゼロ年代に入ってからの菅野さんは、何故かミステリーにこだわっているのですが、私には分からないんですよね。
昔からの菅野さんのファンは今でも結構いると思いますが、菅野さんに本格的なミステリーを望んでいる人はいるのでしょうか?
菅野さんの真骨頂は、ときに派手なはったりも利かせた、SF的な部分にこそあると思います。
一応探偵物の代表作で『EVEバーストエラー』がありますが、あれだって純粋なミステリー部分で評価されたわけではないでしょうに。
何故に得意分野を捨てて、得意でない分野で勝負したがるのでしょう?

赤ルートも基本的には良いですし、ストーリーも普通に楽しめます。
ただ、それ以上でもないんですよね。
十分楽しかったけれども、菅野さんにしては・・・って感じです。

他方の青ルート。
本来なら、こちらの方が得意分野だと思います。
しかし、2つの点で少し失敗しました。
1つ目はサブ的な位置にあることから、若干中途半端なんですね。
こちらの方が、テキストとかも楽しげな印象だし、菅野さんらしさもよく出ているのですが、少し完成度が伴いませんでした。
ってか、ぶっちゃけ昔の焼き直しのような・・・

そのため、赤と青のどっちが良く出来ているかと聞かれたら、どうしても赤と答えちゃうでしょう。
でも、仮にどちらか1本に集中しても、赤はあまりのびしろはないでしょう。
2つの比較では劣る青ですが、青に集中していれば、こっちの方が化ける可能性はあったと思います。
制作期間をもう少しとって、青1本に集中していれば化けたかもと思うと、つくづく勿体無いですね。

あ、それと、赤メインで青がサブというスタンスですので、青はポ~ンと飛躍してしまいます。
それ故、いきなり青をやると、何だこれはってなりかねません。
まずは赤をやって普通に楽しみつつ、青でifの世界を堪能する。
それが正しい楽しみ方だと思います。
そういう意味では、プレイ順は固定してくれた方が良かったのではないかと。
これじゃ下手すれば、もう一つのルートに気付かない人も出てくるでしょうし。

<評価>

まぁ、菅野さんの作品ということで期待値も高いですからね、それにしては・・・ってことで、若干辛口な表現になりました。
とは言うものの、随所で菅野節のようならしさは出ていますし、基本的には楽しかったし満足も出来ました。
そのため、総合的には佳作といったところでしょうか。

コンフィグで出来る細かいシステム面が貧弱なことや、音声がないことから他の不満もあることはありますけどね。
しかし、ノベルゲームしかない時代に、きちんとADVを作ろうとした意欲は評価したいし、遊ぼうとしても他に選択肢もないですしね。
そこら辺も考慮すれば、やっぱり佳作でいいかと思いますね。

ランク:C(佳作)


saifa

Last Updated on 2026-01-22 by katan

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