『花の野に咲くうたかたの』は2015年にWIN用として、あっぷりけから発売されました。
『黄昏のシンセミア』から約5年ぶりの作品であり、期待した人も多かったのではないでしょうか。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・世界は『色』で満ちている。
新堂道隆は人の痕跡が視えてしまう体質を持っていた。
人の辿った道筋、物に残る気配を視るのはたまに便利ではあっても、煩わしい事も多かった。
一人暮らしに憧れる日々に、従姉妹が管理する『桜花荘』への誘いを受ける。
人の住まない古い建物。誰にも気がねする事のない、新しい生活。
新天地に心躍らせる道隆を待っていたのは、『色』を持たない一人の少女だった。
『はじめまして。あなたが新しい住人なのですね?』
人間なら誰しも見えるはずの『色』を持たない少女の存在。
『私は……あなた方の言葉で言うなら、幽霊というモノです』
桜花と名乗る少女との出会い。
幼馴染の親友に従姉妹達。学園の先輩後輩も巻き込んで、春の季節を舞台に、生涯忘れられない賑やかな日々が、今、幕をあげる。
<感想>
あっぷりけの、原画:オダワラハコネ&シナリオ:桐月コンビの作品は、一時期は最も期待していた組み合わせでした。
具体的には『コンチェルトノート』(2008)から、『黄昏のシンセミア』(2010)の辺りですね。
次はどんな面白い作品が出てくるのかと期待していたのだけれど、『黄昏のシンセミア』から5年近くも経ってしまったのか・・・
年が過ぎるのって、本当に早いものです。
この制作陣の作品ということで、今回も過去作にあったようなフローチャートが完備されています。
他にも月日が経った分だけのシステム周りの進化もあり、システム全般に関しては非常に快適になっています。
ここの作品は内容的なものから初心者向けと言われることも多いけれど、誰がプレイしても全くストレスを感じることがないという意味で、万人向けという言葉こそが相応しいのでしょう。
さすがにフローチャートだけでは、今では大きな長所とまでは言えなくなりましたが、他も含めたシステム周り全般の快適さという観点からは、他所のゲームよりも一歩先に進んでいるままだと言えるでしょうね。
ストーリーに関しては広い意味では伝奇であり、過去作とも似た方向性と言えるのでしょう。
桐月さんの作品は、キャラの魅力の追求だけを目的とした、いわゆるキャラゲーや萌えゲーとは異なります。
基本となるストーリーがあるということで、大雑把にはシナリオゲーと分類されやすいのでしょう。
厄介なのはここからで、作品の傾向はシナリオゲーである、そして過去作の中には名作と名高い作品もあるとなると、未プレイの詳しく知らない人なんかは、名作と評されるほどストーリーが優れているのかと思うでしょう。
それで過度に期待してプレイすると、何だ言われるほどストーリーが良くないじゃんって肩すかしに感じると。
通常の場合、シナリオゲーはストーリーが主であり、そのストーリーを盛り上げるためにキャラが従的に後押しするのですが、桐月作品は違うと思うわけでして。
キャラの魅力が主であり、そのキャラの魅力を更に引き出すために、従的にストーリーがあるのだと思います。
だからストーリーだけを切り出してみると、それ程優れているってわけでもないけれど、キャラも含めた全体的な印象はとても強くなるのです。
萌えゲーの作り方とは異なり、シナリオゲーとしての構造でありつつ、キャラの魅力が第一ということで、典型的なキャラゲーとシナリオゲーの両方の枠からはみ出た、ちょっと特殊な存在が桐月さんの作品なのだと思います。
そのため、イチャラブや萌えしかない作品が好きでない私なんかでも、楽しめてしまうわけですね。
ストーリーの細かい部分に関しては割愛しますが、大体の方向性としては今作も同様と言えるでしょう。
ストーリー自体も楽しめるけれど、かと言って、この点だけをもって絶賛するほどではなく、名作と感じるか否かはキャラへの思い入れであるとか、全体の雰囲気にかかってくると思います。
その肝心の部分なのですが、雰囲気もキャラも良いことは確かなのです。
桐月作品の特徴でもありますが、キャラの精神年齢が相応であり、歳相応に思えないキャラが蔓延するアダルトゲームの中では、高めと感じられやすいでしょう。
そのため安心してプレイできますし、不快に感じることもありません。
ただ、『コンチェルトノート』における莉都の圧倒的存在感であるとか、幼女から熟女まで幅広く揃えた『黄昏のシンセミア』のような過去作と異なり、今作はパンチに欠けたように思います。
まったりと楽しめるのは良いけれど、こちらの魂を震わせるような一押しが足りなかったため、全体としての印象が薄れてしまった感じですね。
<評価>
誰がプレイしても標準以上に楽しめる作品と言えるでしょう。
ただ、過去作と同系統の作品であり、それでいてインパクトが劣ることから、総合としては佳作としておきます。
まぁ今回は、またこのコンビの作品がプレイできただけでも御の字であり、これを機にまた作品を作り続けて欲しいなと思いますね。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2024-09-25 by katan