ウェディング・エラントリー 逆玉王

1994

『ウェディング・エラントリー 逆玉王』は1994年にPC98用として、グローサーから発売されました。

アリスのふみゃさんの代表作であるだけでなく、98時代のRPGのシナリオの中では屈指の出来でした。

<概要>

ゲームジャンルはダンジョン探索タイプのRPGになります。

アダルトゲームにおいてRPGの占める割合が最も高かったのは、おそらく90年か91年になるのでしょう。
しかし、名作として語られる作品の数で考えるならば、文句なしに94年となるように思います。
本作もまた、そんな94年のRPGの中の一つになります。

<感想>

軽くあらすじから入りますと、主人公のセス君は優柔不断で情けなく、当然ながら全く女性にもてません。
そんな彼はある時、王国の宝石と呼ばれるレムリア姫が花婿を公募していることを知ります。
そして実物を見てレムリア姫に惚れたセスは、花婿の条件である「いい男養成ダンジョン」の攻略に乗り出します。

ゲームの序盤はコメディ風というか、軽い展開が続きます。
この部分もとても楽しかったわけですが、これはセスの情けなさに起因するものなので不自然さもなく、自然と笑えてくるんですよね。

もっとも、ゲームが進行するにつれセスは様々な体験をし、そしていろんなことを知っていきます。
次第に展開は重くシリアスな方向に向かっていき、そこでの経験を得ることでセスもまた成長していきます。
最初は情けなかったセスが、最後には頼もしく格好良く見えるわけで、端的に言うならば逆玉王はセスの成長物語となるのでしょう。

このコメディ部分とシリアス部分の割合が絶妙だったんですね。、
さすがにふみゃさんと言った感じです。
ここで補足しておきますと、本作のライターは、当時は別名義を使用していたのですが、それが後のアリスのふみゃさんだったのです。

最近の作品である『闘神都市3』は、私は何だかんだで結構楽しめたのですが、ふみゃさんの過去作の良さを知っている人の間では厳しい意見も多く、少しやらかしちゃった感もあった作品でした。
それで少し評判が落ちたようにも思うものの、『アトラクナクア』の頃には非常に高く評価されていたライターであり、特に心理描写などが上手かったように思います。

知名度的には、大手のアリスから出た『アトラクナクア』辺りが有名でしょうが、ふみゃさんの上手さが一番活かされた作品としては、実は『逆玉王』あたりなんじゃないかなって思います。
セスが成長し周りのライバルらに認められていく過程、終盤で明かされる衝撃の事実やラスボスの動機、ハッピーながらも陰も含んだエンディング。
そのどれもが細部にわたり周到に計算され丁寧に描かれていたわけで、ストーリーという面に関してだけ見ればPC98時代でも屈指の作品であり、アダルトゲームを代表する成長譚なのだと思います。

ちなみに、昔のRPGは主人公が勇者であるとか、特別な存在ばかりでした。
ファンタジーの冒険もので、主人公が勇者でもなんでもなく、普通の存在から成長していく成長ものは、94年から増え始めたように思います。
そういう意味では本作は、時代の先端を行く、94年らしい作品でもあったのでしょう。

<ゲームデザイン>

逆玉王の良さとなるとストーリーがまっ先に挙がるのですが、優れていたのはストーリーだけではなく、ゲームデザインも同様に素晴らしかったです。

セスは中華鍋にお玉という、いかにも情けなさを体現したかのような初期装備で登場します。
しかも性質の悪いことに、食ってばかりだと太ってメタボ化していきます。

ここが本作の最大の特徴でもあるのですが、パラメーターにカロリーという概念があり、主人公は動かないと太るのです。
装備にはMやLといった複数のサイズが用意されていて、体形が変化すると、せっかく買った装備が着れなくなってしまいました。
だから動いたりカロリーを消費することで、体形を維持しなければならなかったわけですね。
つまり本作は、ダイエットRPGでもあったのです。

逆に何も食べないで空腹だったりすると、今度は攻撃力が落ちたりします。
直前に何を食べたかでも攻撃力が変わるくらいのこだわりようで、太らない程度に腹を満たすことでコンディションを常時整えるのが、ある意味レベル上げよりも大事だったりするわけで、この調整が難しくもあり面白くもあったのです。

RPGはどれもレベルが上昇することにより、能力上の成長は感じとれるものです。
しかし、見た目の成長・変化まで扱った作品は、非常に珍しかったですね。
EDで引き締まったセス君を見ていると、よくぞここまで成長したと思えてきますから。
(まぁ、デブのままでもEDは見れますし、それ用のCGもあるので、人は見た目ではないんだとの教訓も得られますけどね。)

主人公の成長をストーリーだけでなくシステムにまで連動させ、中身や能力だけでなく外見まで、全ての面で主人公の成長を扱った作品だったんですよね、逆玉王は。
ここまでやりきられると圧巻としか言いようがなく、読むだけでは得られない感動がここにはあるのだと思います。

そういうわけで、ストーリーやゲームデザインは文句なしで、この部分だけなら98ゲーの中でも最高峰クラスでしょう。
ただゲームはそれだけではないわけで、逆玉王の場合は狭義のゲーム性やシステムに問題があったのです。

そもそもインストールが不便でそこから躓いた人もいるでしょうが、戦闘も1対1で平凡でしたし、バランス的にも結構大味だったように思います。

操作性なども含めた総合的なゲーム部分の出来は実は結構悪い方で、水準を確実に下回るマイナスポントだったのです。
RPGですからね、ゲーム部分が弱いというのは、やっぱりちょっと痛いですよね。
逆玉王がマイナーで終わってしまったのは、メーカーのマイナーさも確かにありますが、それ以外にもこのシステム部分の弱さ抜きには語れないのでしょう。

<感想・総合>

総合では、ストーリー・キャラ・ゲームデザインなど、良い面だけ見れば文句なしに傑作クラスの出来と言えるでしょう。

ただ、同時に劣悪なシステムも有しており、その分のマイナスは否めませんので、名作ではあるけど点は伸びきれないってところでしょうか。
システム部分がもう少しマシなら伝説にもなりえた作品だけに、その点は今でも勿体無く思いますね。

当時はエルフ・アリス・アイデス系をやっとけば、特に初心者には間違いがなかったのですが、これは他ブランドのゲームに魅力がないというのではなく、魅力はあるけどシステム周りが貧弱すぎて、それで耐性がない人には勧められないというケースも多かったのです。
本作なんかは、まさにその典型例と言えるのでしょう。

最後に余談ですが、この水準で闘神3が作られていたら、きっと闘神シリーズの旧作ファンからも絶賛されていたと思うだけに、今になってもいろいろ思うところのある作品かもしれませんね。

ランク:A(名作)


Win3.1 CDソフト ウェディング・エラントリー 逆玉王

Last Updated on 2024-10-10 by katan

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