『FANATICA -ファナティカ-』は2004年にWIN用として、COREから発売されました。
雰囲気の良い作品であるだけでなく、随所に工夫が凝らされ、良く出来たノベルゲーでしたね。
<概要>
詳細は後述しますが、ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
過去の記憶を失っている主人公アーシルは、想い人でもあり、たった一人の知人でもあり家族でもあるカーティスとヨーロッパを転々としていた。
ある日、二人は思い掛けなく友人ロドニーの好意によって豪華客船に招待されることになる。
『………まだ何も思い出さない?このままだとゲームは失敗だよ?………それとも君はまだ、自分を本当に愛してくれる人を……見付けられてないのかい?』船で出会った謎めいた男が残した言葉。
そして月の光に姿を現す、銀色の髪と紅い瞳を持つ『アーシル』ではない『アーシル』。
自分の存在の不確かさに翻弄されるアーシルを、船に乗り合わせた男達がそれぞれの想いを持って手に入れようとする。
やがて航海最後の夜、アーシルは意識を失ったまま誘拐され、満ち潮により外界から遮断された島の宮殿で目覚める。
そこで彼が思い出すのは自分が犯した過去の罪と、忌まわしい血脈の秘密、そして──────ある男への深い愛。
永い時間の中で姿を歪めた想いの鎖。痛みの中に存在する真実。
抗えない淫靡な情欲の温度。──────皆既月食の夜、永遠が始まる。
<感想>
本作は女性向けの、いわゆる18禁BLゲームになります。
本作にはリメイクされたPS2版があるのですが、そちらは『銀のエクリプス』というタイトルに変更されています。
検討している人は、一応気を付けた方が良いでしょう。
ストーリーは豪華客船を舞台に、運命に翻弄された主人公たちの切ない物語ってところでしょうか。
結構規模が大きくなりますし、時系列も複雑な作品で、言うなれば完全にストーリー重視と呼べる作品でしょうね。
ボリュームが多い上に時系列が複雑なため、結構ストーリーが分かりにくい部分もあり、文句なしに面白いとまでは言えないのですが、グラフィック等の相乗効果もあり、非常に雰囲気の良い作品になっています。
最初から雰囲気ゲーと割り切っていれば、まず誰でも楽しめるのではないでしょうか。
ストーリーに関しては、一応主人公はいるものの、視点が様々なキャラに代わりますし、基本的に第三者視点の作品と考えた方が良いのでしょう。
他のノベルゲー以上に、かなり小説に近い構造になっていますので、小説に馴染みのある人ほど作品に入っていきやすいと思います。
ここはね、個人的には、これで良いと思うのですよ。
ADVにおける主人公は、昔はプレイヤーの分身であり、プレイヤーの望む行動を可能な限り反映させてくれました。
しかし、特に男性向けエロゲにおいて、構造面でノベルゲーが増えるのに従い、主人公とプレイヤーの分離化が進み、プレイヤーの望む行動をとらないような主人公も増えました。
それはそれで完全に読みものとして主人公とプレイヤーを切り離すのなら、特に問題はないのでしょう。
中途半端にADVの構造を利用するものだから、何とも歪な構造のノベルゲーばかり増えてしまったわけで。
本作は、そんな男性向け作品の歪な構造なぞ馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、スッパリと割り切って、読むことを主としたノベルである点を示しており、ADVのしがらみを断ち切っている点で好印象でした。
また、PC98時代までのADVは、ストーリーが主にあり、その派生でキャラと結ばれたりする作品が多く、作品のメインがストーリーだからストーリー重視って言えたと思うわけでして。
それがWIN用の恋愛ADVが増えることにより、ヒロインを攻略するということが大前提になり、ストーリーがヒロインに従属する構造へと変化しました。
90年代後半からシナリオ重視の時代になったなどと、PC98時代を知らない一部の人がそんな虚言を吐いたりもしていますが、私からすれば、ストーリーがキャラに従属するようになった時点で、逆にストーリー重視の作品は滅びたのだとすら思ってしまいます。
そんなキャラにストーリーが従属する構造が定着した頃に、BLゲーが出始めたからでしょうか。
BLゲーって、主人公が対象となるキャラを攻略するという構造の作品ばかりでした。
そんなキャラ重視というような作品ばかりだった中で、主人公がキャラを攻略するという構造ではない本作は、当時のBLゲーとしては非常に珍しくもあり、構造面でまさにストーリー重視と呼べるのでしょう。
ストーリーの好き嫌いはどうしても人それぞれになってしまうけれど、こうした作品が出てきたことは、業界にとっても、一つの進歩だったように思います。
<ゲームデザイン・システム>
本作は読ませることを主とした作品であるところ、文体面でもかなり小説に近い構造の作品です。
テキストによる情報量を増やす観点から、本作は基本的に画面全体をテキストが覆うタイプになります。
もっとも、上下は全体を覆っているのですが、左右はキャラの立ち絵の分のスペースが確保されており、その左右の空いたスペースにキャラの立ち絵が表示されています。
シンプルな構造ではありますが、テキスト量を確保しつつも、キャラの表情の変化にテキストが被ることもないですし、このデザインは他の一般的なノベルゲーより良いと思います。
もちろん、このキャラはここに立たなければ駄目とか、位置関係を重視する作品であれば無理なデザインとはいえます。
そのため、すべてのノベルゲーに妥当しうるシステムではないのかもしれません。
しかし、キャラの位置関係まで配慮したノベルゲーなんて、実際にはごく少数でしかありません。
すなわち、ほとんどのノベルゲーでは、本作のシステムは活きるといえるでしょう。
いわゆるビジュアルノベルと呼ばれる作品の多くは、意味なく立ち絵の上にテキストを被せる作品が多く、その無神経さが私は嫌いだったのであり、ぶっちゃけ馬鹿なんじゃないのって思うことも多かったですからね。
そして被るのが問題であるならば、両者を重ねなければ良いのですよ。
ノベルゲーに染まりきった人は、あまり違和感を覚えないのでしょうが、傍から見れば不自然な部分が従来のビジュアルノベルには多々ありまして。
本作は、やっていることはシンプルなのだけれど、表現方法やデザイン面において、従来のビジュアルノベルの変なしがらみに囚われることなく、作品として最適と呼べるような構造を採っているんですよね。
こういうのは、製作者が業界に染まっていない素人に近く、ノベル系ADVの不自然なセオリーを知らずに、それが功を奏したか、或いは逆にとことん熟知していたかのどちらかなんでしょうね。
中途半端にノベルゲーを知っている人だと、こういうデザインはあまり出て来ないでしょうから。
また小説だったら、今自分が全体のどの辺を読んでいるかも分るし、好きな時に好きな場面を読み返すことができます。
ノベルゲーの大半の欠点は、それができないことであり、MYST系とか他のADVならまだしも、ノベルゲーはこういう部分こそ、まっ先にシステムを揃えるべきだと思うのですけどね。
未だに標準化されていないのが不思議で仕方ないわけで。
普通の人が不思議に思いそうな部分にしっかり対応している本作は、当然この点にも対処していまして。
具体的にはチャートでプレイヤーの軌跡を示しつつ、一度見たイベントは何時でも見ることができるようになっています。
ところで、ノベルゲーというと、選択肢の存在も当然とされています。
確かに、ゲーム性を増す観点からは分岐があった方が良いとしても、分岐の方法が選択肢である必要はないのでしょう。
読んでいて突然選択肢が出てくることも不自然ですし、そもそも選択肢の意味が分からん作品、すなわち、それを選んだことがどう影響するのかの方向性も定かでない、意味不明な選択肢の作品もありますしね。
これも、ある意味ノベルゲーの不自然なところなのでしょう。
だからか、本作では選択肢が存在しません。
代わりに、随所にジャッジポイントというのがあり、そこで蜘蛛と蝶のどちらのアイコンで物語を進めているかにより、展開が変わっていきます。
蜘蛛は運命に従うというか肯定的な印象であり、蝶は運命に抗うというような否定的な印象のアイコンです。
通常のノベルゲーに染まっていると、最初は違和感があるでしょうが、プレイヤーの意思をダイレクトに表現する手段の一つとして、これは十分にありだと思います。
まぁ中には、三択より二択の方がゲーム性があると言いだしている人も、ごく稀にですがいるようですからね。
そんな考え方の人には、本作のシステムは合うでしょうね。
私は、選択肢の数は多い方が良いだろと思う方なのだけれど、それでも選択肢の意味合いがプレイヤーに分かりにくい作品よりは、イエスノーをきっちり表現できる方が好みではありますね。
さらに本作は、画面内のテキストが多いことから、一画面内に会話文が複数表示されることもあります。
もっとも、誰が話したかによって色を分けていますので、誰が話しているかもきちんと把握できます。
この点も、PC88とかPC98時代には、きちんと色分けしている作品もあったんですけどね。
なぜかゼロ年代前半の男性向けノベルゲーって、中途半端に読ませる方向にシフトしつつも、ライターの力不足とグラフィックのフォロー不足もあって、誰がしゃべっているか分らないような作品も多かったです。
そういう分かりにくい作品は、最近は減ったように思うので、自分の中で一番多いと思ったのは、やっぱりゼロ年代前半ですね。
誰が話しているのか分かりにくい可能性があるのならば、だったら色分けをしようと。
当時のノベルゲーの不自然なところに、いたって当たり前の対処で応えたあたりも、本作らしいと言えるでしょうね。
<評価>
ノベルゲーに染まって、今自分がプレイしているのが当り前と思う人には、たぶん分らない感覚かもしれませんが、男性向けを中心とするノベル系ADVには多々不自然な点があるわけでして。
そうした不自然な点に対し、複雑なシステムや構造ではなく、凄くシンプルなのだけれど的確に対処してきた本作は、ノベルゲーとして非常に優れた構造の作品だったと思います。
必ずしも目新しいことをしたわけでもないし、ストーリーが特別優れているってわけでもないので、中々点数の伸びにくい作品でもあり、総合では良作としておきますけどね。
どちらかと言うと、斬新なことをやって大幅加点を狙うというよりも、最小限の動きで減点ポイントをことごとくかわしていったようなイメージですし。
まぁストーリーが自分に合わなかったと言えばそれまでなのだけれど、それでも良作と言える作品ですので、ストーリーが合う人ならば名作と感じられるでしょう。
それだけのポテンシャルを持った作品だと思います。
あぁ~でも、2004年が特徴の強い作品が多かったというのもあるので、もし本作の発売が一年でも早ければ、私も名作扱いしていたでしょうね。
それくらい名作に近い作品であり、良く出来た作品でした。
いずれにしても、あらすじやサンプルCGなどで興味を持てた人には、オススメな作品と言えますね。
Last Updated on 2026-02-07 by katan



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