『Diary』は2011年にWIN用として、Operettaから発売されました。
Operettaのデビュー作ですね。
ヤンデレキャラでも有名な、恋愛サスペンスものでした。
<概要>
Operettaのデビュー作になります。
イベントによる先行販売は2010年で、正式な発売が2011年ということですね。
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・父親の転勤により多福町に引越しが決まった綾子。
その引越し当日、探検がてら散歩をしていた彼女は苛められている『美少女』を見つける。
とっさの行動で助けた後、彼女達は仲良くなるが・・・・・・
――それが幼馴染であり、誰もが振り返る『美少年』花島零との出会いだった。
幸せな毎日。綴られていく平凡で平和な、日記の中。
少しずつ、密やかに『 』が織り交ぜられていく……
この日記が 赤 で綴られることがないよう、私はアナタに語り続ける。
<感想>
本作は女性向けの、いわゆる乙女ゲーになります。
もっとも、後述するように、典型的な乙女ゲーとは異なりますからね。
一般向けですし、構造的には男性向けとも言えるので、あまり男性向けだの女性向けだのってのは関係ないのかもしれません。
典型的な乙女ゲームは、複数攻略対象キャラがいて、自分の選んだキャラとの恋愛に陥る作品を言います。
しかし本作には攻略対象が零の一人しかいませんので、主人公に自分を投影させて、自分が男性を好きになれるかという観点で考えると、零を好きになれなかったらそれまでの作品になってしまいます。
本作は、綾子と零という一組の男女の関係を描いたストーリー重視作品なんですよね。
その点は、最初に理解しておいた方が良いのかなと。
零はかなりのヤンデレさんで結構腹黒いところもあるので、私は零が好みじゃないって人もいるだろうけれど、それだと、そもそもあんた何でこれやったんだとなりかねないですから。
ストーリーに関しては、本作は綾子の日記を通して、子供の時の零との出会いから、小学校時代、中学校時代の、10年の間における印象的な場面だけを扱ったという感じで、期間的には長期になるけど、飛び飛びに描かれています。
意味のある特徴的なイベントのみを扱うことで、だれさせることなく綾子と零の特徴と関係性の変化を描いたわけですね。
本作の1周目では、綾子が学校の先輩との恋に陥ります。
その頃、綾子の周りでは殺人事件などが連続で発生し、少しずつ事件の被害者は綾子に近づいていくわけで・・・ってのが大雑把な内容でして。
2周目は、零との恋愛が描かれるのだけれど、その場合には零の母親を殺した犯人を捕まえる目的も加わるので、それで恋愛サスペンスとなるわけですね。
テキストは好みの問題と言えばそれまでなのだけれど、私はライターである松竹梅さんの文章が合うようなので、個人的には非常に楽しめました。
実はデビュー当初は知らなくて、新しい作品から順に遡っていったのだけれど、設定が複雑でボリュームが多い後の作品と異なり、本作は現代が舞台でボリュームも少ないこともあってか、逆に一つ一つの文章に気が配られているようで良かったです。
本作の場合、綾子の何気ない一言が後半で活きてきたりと、伏線もしっかりしているのだけれど、それ以上に何気ない一言がグッとくるんですよね。
日記とかでも、ほんのちょっと付け加えられた綾子の一言で、綾子の本音が伝わってきたり、二人の日常が想像できちゃうような。
心の機微というのかな、そういうのを感じられるテキストって稀なので、非常に印象的でしたね。
本作は終盤まで大きく盛り上がるイベントはないし、イベントが飛び飛びで進行しますので、大雑把なストーリーの流れだけを追うと良さが分りにくいのかなと。
行間を読むことで味の出てくる作品であり、ちょっとした一言で書かれていない行間が容易に想像できるわけでして。
だから実際のボリューム以上に感じることができたし、キャラの魅力も伝わってきて凄く良かったです。
そういう意味では、あまり焦ってストーリーを読み進めない方が良いのかもしれませんね。
さて、次にゲームの構造に入っていきますが、本作は好きなキャラを攻略するのではなく、あくまでもストーリーを読むということで、これは男性向けなら珍しくないのだけれど、乙女ゲーとしては珍しいのかなと。
その点で私は男性向け作品っぽく感じたのだけれど、男性向け作品っぽい点は他にもありまして。
例えば女性向け作品は好きなキャラを攻略して、そうでないキャラは無視ってのも十分にありえます。
男性向けでも90年代の恋愛ゲームには、そういうのが多くて、俺は一番好きなヒロインしか攻略せんって猛者もいたのだけれど、ゼロ年代に入ると全クリア必須とかって面倒な作品も増えまして。
全クリア必須作品も細かく見れば幾つかの構造があるのですが、その中に、1周目は強制バッドエンドで、2周目でクリアできるというものがあります。
本作は1周目には選択肢もなく、強制的にバッドエンドに行くわけで、これは男性向けでは珍しくないものの、女性向けでは比較的珍しいと言えます。
そのため、この構造に慣れていない人も多いと十分に予想できますし、衝撃を受けた人も、逆に反発を感じる人もいろいろいるだろうなと思います。
ところで、1周目強制BADという構造に関しては、基本的に私は否定的です。
プレイヤーの創意工夫により先に進めるのがゲームなのに、強制BADなんてゲーム性を放棄しているようにしか見えないですから。
こういう構造の某作品に対しノベルの理想形とか言う意見を見て、馬鹿だろコイツと思ってしまいましたしねw
でもね、基本的にであって、完全否定するわけではないのです。
ちゃんと配慮がなされていれば良いのですよ。
上記のように、本作1周目では綾子は先輩との恋に陥ります。
綾子によって心が救われ、やがて綾子が自分の全てになっていく零。
自分と綾子との障害になる奴は・・・ってことで、その結果としてヤンデレが爆発したのが1周目なんですね。
でも、エンディングのタイトルが「if」とハッキリ表示されるので、これは主人公ないしプレイヤーが零のことをきちんと見ていなかったら、こういう結末になりうると、一つの可能性を示したにすぎないのです。
だから、そうならないようにプレイヤーは気をつけろと。
いわばチュートリアルみたいなものなのでしょう。
そして、2周目になるのですが、私が強制BADを嫌う理由の一つに、長時間の既読スキップが馬鹿馬鹿しいというのがありまして。
男性向けでボリュームが多いと、既読スキップ時間も馬鹿にならないですから。
本作は低価格でボリュームも少ない作品ですので、その問題は生じませんでした。
また、1周目強制BADで、2周目ハッピーだけとなると、結局ライターの書いた物を順に読まされているだけのようで、それが私は癪に障るわけですよ。
少しはプレイヤーの意思も反映させろやって。
本作も放っておいたら零君がヤンデレ爆発させちゃいますからね、日常に潜む零君のちょっとした信号にこちらはピリピリしちゃうところに加え、全部零君の言いなりとなったら、やっぱり同様の不満を持っていたでしょう。
しかし、本作は1周目が強制BADなだけで、2周目からは別に全クリア必須の作品でもないわけでして。
そして綾子の接し方、プレイヤーの行動如何によって、零君は黒髪の青年と、金髪兄ちゃんの2種類に分岐していきます。
この構造は良かったなと思いますね。
ストーリーを通じて、零の世界の中心が綾子になることは十分に分るのだけど、綾子(プレイヤー)の接し方次第で、零君はいかようにも変化するのだと、こちらの意思も反映させられる複数の可能性を用意し、それをプレイヤーに選ばせることで、単に読むのを強制されることから脱却できましたし、それでいて、コイツ(零)は私が何とかせねばという想いが更に強まってくるんですよね。
綾子は零に翻弄されっぱなしなので、主導権は終始、零が握っているように見えるのだけれど、実は根っこはこちらにあるという。
ストーリーの自然な流れという観点だけならば、黒髪バージョンだけでも構わないのかもしれません。
しかし、最初に強制BADを置きつつも、その後に複数の選択肢を残しておいたのが、私は重要ポイントなのだと思いますね。
グラフィックも、一枚絵は良かったです。
特に1周目最後の返り血に染まった零とか。
ただ、価格を考慮しても少し枚数が少なかったかな。
まぁ本作は一般PCゲーなので、Hシーンとかないですからね。
これでアダルトものだったら、Hシーンに何枚か割かれるわけで、価格相当の枚数からHシーン分を引いたら本作の枚数だろうなということで、イベント部分のCGは極端に足りないわけではないですけれど。
<評価>
総合でも名作といえるでしょう。
本作は一般的な乙女ゲーとは異なるストーリー重視作で、それで少し人を選ぶ面はあるし、一見すると地味にみえるかもしれません。
しかし、構造的にも物語的にも細部に配慮が行き届いた作品であり、小粒だけど非常に良く出来ているなと思わされた作品でした。
低価格作品でボリュームも少ないだろうし、エロもないだろうしと、敬遠しなくて本当に良かったです。
ちなみに、作品のイメージを掴むという点では、公式サイトに行くと良いかもしれませんね。
特に物語概要の文章の書かれている所をクリックすると・・・
あの変化にはビックリでした。
いや、実はこれはパッケージ版の表と裏を載せただけだし、しかも私は知ってからクリックしたので、それ程でもなかったのだけれど、パッケージとか事前情報とか何も知らずに、何気なしにクリックした人はビックリしたでしょうね。
ランク:A-(名作)
Last Updated on 2024-12-21 by katan
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