『days innocent』は1999年にWIN用として、inspireから発売されました。
百合テイストの漂う、雰囲気ゲーですね。
<概要>
inspireは、後年の作品は同人ゲーになっていたようですが、本作とか最初の頃の作品は商業作品でしたし、本作もいわゆるフルプライスの作品になります。
あらすじとしては、舞台となるのは田舎にあるお嬢様学校。
主人公格になるのは、そこに編入してきたちょっと病弱な女の子。
キャラの多くは女の子であり、彼女らの日常を堪能する作品になります。
百合ゲーと言っても間違いではないのでしょうが、百合が定着する前の作品ということもあり、露骨に百合を意識しているわけでもないので、基本的には田舎を舞台とした雰囲気ゲーって感じですね。
<ゲームデザイン>
ジャンルはマップ選択式のADVなのですが、リアルタイムになっています。
つまり全体マップが表示され、プレイヤーはその中から移動先を選ぶのですが、その間がリアルタイムになっているんですね。
もっとも、時間の流れは大雑把ですし、イベントがある場合にはアイコンが表示されますし、目当ての子を追い続けていれば攻略できますので、特に難しいということはないと思います。
上で「主人公格」という表現をしましたが、本作はいわゆる群像劇スタイルであり、明確な主人公は存在しません。
プレイヤーは主人公と異なる視線で、彼女らの物語・日常を眺めるという構造になります。
それがゲームデザインにも反映されており、プレイヤーは移動先を選ぶ、即ちイベントを見るか否かを選択するだけです。
よって、通常の会話部分では選択肢も登場しません。
リアルタイムの導入という言葉だけをみると戸惑う人もいるかもしれませんが、基本的には、むしろ他のADVよりも簡略化された構造といえるのでしょう。
この、ちょっとアレンジを加えることで一見すると新鮮に見えるのだけれど、実際は従来のシステムより簡略化され単純になっているという傾向は、理由はよく分からないのですが、99年は相対的に多かったのかなと。
例えば『守り神さま』とか『P17N』とかですね。
いずれにしろデザインの独自性を重視する人なら好意的に見られるでしょうが、完成度や狭義のゲーム性を重視する人の場合だと、通常のADVやノベルゲーよりも味気なく感じる可能性が高いでしょう。
個人的には、こういう変化の試み自体は好意的に捉えたいとは思います。
しかし何で99年の作品って、見た目だけの新鮮さだけで、中身が伴わない作品が多いのだろうと、全部が全部この作品の責任ではないものの、ふとそんなことを思ったものです。
<感想>
群像劇のようなスタイルは、当時は珍しかったですね。
今の完全な読み物形式で育った世代には違和感がないかもしれませんが、当時だと、特にコマンド入力式やコマンド選択式時代にバリバリやってきたような人ほど違和感を覚えたかもしれません。
RPGだと分かりやすいのですが、ファミコンで育ったおっさん連中の中には、主人公=プレイヤーって認識の人が結構多いでしょ。
ムービーとか増えて、主人公の物語を眺めるって構造の作品が増えると、それだけで拒否反応を示してしまう人もいるわけで。
ADVだって同様で、昔になればなるほど、主人公とプレイヤーの存在ってイコールに近い関係だったわけでして。
そういう認識が強い人ほど、群像劇のような主人公の定まらないゲームというのは、とても不安定で落ち着かないものになったのではないでしょうか。
個人的には群像劇スタイルは珍しいなとは思うものの、主人公とプレイヤーの分離された構造は何度も見かけていましたので、特に違和感はなかったのですけどね。
たぶん今の若い人なら、あまり気にしない部分だと思うのですが、ベテランほどひっかかる可能性があることは確かなのでしょう。
ストーリーは、ハッキリとこれというものがあるわけでもなく、百合っぽさの漂う人間関係であるとか、田舎の雰囲気であるとか、考えるより感じろって作品ですね。
いわゆる雰囲気ゲーになりますので、理屈ぬきに合う合わないは出てくるのかなと。
とはいえ、田舎も百合も嫌いな人が手を出すとは思えませんから、大概の人は満足できると思いますけどね。
それに、ライターも業界の中では文章力が高い部類だと思うので、それで雰囲気に浸れる人も多いでしょうし。
ところで、雰囲気ゲーとなると、そこに浸らせてくれるだけの環境が必要になります。
キャラデザは、ちょっと特殊な雰囲気なので、好き嫌い分かれそうですね。
ただ、本作の持つ、好き嫌い分かれそうな雰囲気ゲーという特徴はCG1枚を見るだけでも伝わるという意味では、特徴を示せているように思います。
個人的には、淡い雰囲気は良好なのですが、1枚絵は、ちょっと枚数が少なかったですね。
雰囲気ゲーは絵や音からくるものも大事だよねって思う人、つまり私みたいな人間の場合、これではちょっと浸りにくいです。
それと、微妙に使いにくいシステムもさることながら、基本的な会話部分とHシーンでのテキストの方向性の違いなど、細かい部分でこちらの余韻を壊しかねない部分があったわけでして。
気にせず雰囲気にはまり続けることができた人は幸せだったのでしょうが、どこかしらで気になり気持ちが寸断されてしまう可能性は高いのかなと。
その辺が、熱烈なファンがいる一方で、世間一般の評価という面では必ずしも高くない理由でもあるのでしょう。
<評価>
一言で表現するならば、ちょっと特殊な雰囲気ゲーとなるでしょうか。
属性が合う人なら楽しめる確率は高いと思うのですが、雰囲気に酔わせ続けるのに支障となりうる部分もあり、個人的にもひっかかった部分もあることから、総合では佳作としておきます。
まぁ細かい部分なんか気にならないっていうのであれば、属性が合えば楽しめる可能性は高いのでしょう。
また、起伏のあるストーリー性の高い作品が好きな人には合わないでしょうが、まったりとテキストを楽しむのが好きな人には非常に向いているでしょうし、好きな人の気持ちは分かる作品ではありましたね。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2025-01-15 by katan