『海からくるもの』は2003年にWIN用として、rougeから発売されました。
広崎さんが復活したということで、期待した作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・かりそめの平和に疑問を持つ二人の男が、それを突き崩す力を欲していた。
怠惰な生活の中、学校を恐怖で染めてやろうとする少年、友紀。
そして、彼の秘めた力を追う街のチンピラ滝沢。
彼らは、まだ自分達が見えない思惑に生かされていることを気が付いてはいなかった。
力を求め自らを暴力の中に投じる二人は、やがて、人々から闘争本能と憎しみを奪った者の正体を知る。
すべてが、発掘される遺跡のテクノロジーで作られた世界。
野を駆ける人類をわずか数百年で文明社会に成長させた先史人類ノイルマギ。
人々はまだその恩恵の中で暮らしていられたが。
彼らは滅びへの道もまた、人々に用意していた。
<感想>
広崎悠意さんは、PC98までのゲーマーならまず知っている人であり、エルフの蛭田さんやアリスのTADAさん程ではないにしても、その次くらいには有名だったんじゃないかな。
PC98末期だけを見ればシーズの剣乃さんがいるのだけれど、短期間で作品数も限られていますからね。
長期にわたり多数の作品を作ってきた広崎さんの方が、それこそPC88時代からやってきたような古参ユーザーになればなるほど、おそらく馴染みがあったと思います。
だから本作が発売された当時においては、広崎さんを知らない人なんてモグリだろとか思ったものですが、最近は知らない人も増えてても仕方ないのかな。
まぁ近年も一応小規模ながらゲームは作り続けているものの、調教SLGを中心に売れ筋とは明らかに異なる路線ですから、ゼロ年代後半以降に始めた人が知らないとしても仕方ないのかもしれません。
ただ、現状はともかくとして、かつては最大手ブランドの中心として活躍し、非常に有名だったということは確かなのでしょう。
その広崎さんですが、WINDOWSの時代になってからは、97年に『虜2』を作った後、所属していたD.O.をやめたこともあって、しばらくゲームがありませんでした。
本作は『虜2』以来の完全新作であり、広崎ファンにとっては復活というだけでも嬉しかったものです。
ここからが厄介な部分でもあるのですが、広崎さんはライターであり、原画であり、ゲームデザイナーでありと、実に多才な方なんですよね。
だからファンと言っても、どこに魅力を感じていたかも人それぞれであり、当然ながら反応も変わってくるのだと思います。
まぁ本作発売時には、かなり期間も空いていましたからね、
昔の広崎ファンの場合、そもそも既にエロゲを引退してしまい、それで知らなかったって人も多そうに思いますが。
さて、ある意味、広崎さんの一番の中心を担うのが、原画としての側面なのでしょう。
しかし残念ながら、本作の原画は広崎さんではありません。
その点だけでも少し残念ではあったものの、それでも本作の原画も教室シリーズで有名な真木八尋さんですので、個人的にはこれはこれで楽しめるだろうと期待したものです。
だから原画が異なるのは十分想定内だったし、テキストが画面全体を覆うタイプの作品だということも、事前に理解していましたから、そこまでだったら気にならなかったはずです。
しかし本作は、キャラがドアップで表示されることが多く、どうも状況がいまいち伝わってこないし、プレイしていて妙に圧迫感があるしで、グラフィックとシナリオの相乗効果が薄く、グラフィック部分には良い印象が持てなかったです。
また、広崎作品と言えば、虜シリーズのようにゲーム部分が優れている作品もあります。
妖獣戦記シリーズもSLGでしたしね。
しかし本作は、普通のノベルゲーです。
いや、普通のノベルゲーなら普通には楽しめたのでしょうが、本作にはパラメーターのようなものがあって、その増減で選択肢にも影響が生じ、これが無用な難易度の上昇にもつながっていたわけでして。
ちょっとゲームデザインという観点からは、疑問を抱いてしまいました。
結局のところ本作は、広崎さんの持つ多くの魅力の中でも、ライターとしての側面しか楽しめない作品と言えるのでしょう。
そのストーリーなのですが、ストーリー自体は良かったと思います。
ただ、過去の代表作ほどではないし、演出が乏しいことも相まって、地味で盛り上がらない展開が続きますので、凝った世界観のわりには楽しさに反映しきれていなかったのかなと。
まぁ、ストーリーは終末系+SFに陵辱と鬱を混ぜたような感じなので、ジャンル的には好きそうな人も多そうに思うのですけどね。
当時人気のあったセカイ系を広崎さん流に表現したらこうなった・・・とも言える作品でしょうし。
だから、気に入る人も当然いるとは思うのです。
WIN以降のシナリオ重視作品なんて呼ばれるものも、結局は萌えキャラとかキャラゲーとしての存在がまず第一にあって、その上でのシナリオ重視ですからね。
萌えキャラのいない本作の場合、その段階で合わないって人もいるのでしょう。
それと、若干描写がアッサリ気味なので、最近のように過剰に書かないと理解してもらえない風潮の中では、あまり受けないようにも思います。
したがって本作は、ストーリー重視作品であることは間違いないのだけれど、シナリオ重視と称する萌えゲーユーザーには、あまり相性の良くない作品とも言えるのでしょう。
<評価>
総合では佳作でしょうか。
もし本作が名もない新人の作品であったならば、隠れた良作と言えたかもしれません。
しかし過去の代表作を知っていると、あらゆる面でもの足りなさを感じてしまいます。
まぁ、ある要素だけでも突出した「らしさ」があれば、満足できたのでしょう。
しかし、こういう作品は他所でも作れるように思うわけで、これは広崎さんにしか作れないだろと思わせるような「らしさ」が、この作品では少し薄く感じられたのが、本作に対する印象の薄さの最大の理由かもしれませんね。
とりあえず本作に関しては、数年ぶりにまた広崎作品をプレイすることができたことだけでも十分であり、同時に一番大きな意義だったように思いますね。
ランク:C(佳作)
Last Updated on 2025-08-24 by katan


