『デイグラシアの羅針盤』は2015年にWIN用として、カタリストから発売されました。
某ゲームのオマージュとして話題になった作品でした。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・水深700mの海底に沈んだ潜水艇を舞台に描かれるSFサスペンスADV。
「どうすれば、彼女たちは生きてあの海を出ることができたのか。
もし、違う選択をすれば、結果は変わっていたのか」
2033年8月1日、深海遊覧船は水深700mの海底に沈んだ。
一瞬にして失われた50名の生命。
残された者たちは、閉ざされた深海で生存への道を模索する。
だが、その水底には、彼らが予想もしなかった脅威が潜んでいた。
“二人の生存者”の片割れは、繰り返す記録と記憶の果てに、彼女たちを救うことができるのか。
「生存者を決めるのは、あなたです」
これは正解のないノベルゲーム。
<感想>
「~のオマージュ」という売り方は、果たしてどうなのだろうかと、まっ先にそんなことを考えたものでした。
元の作品が大好きな人にはハードルを高くするだけだし、元の作品を低く評価している人からすると、あんなもん真似てどうするんだとか、あんなの超えたと言われても、だからどうしたとしか思えんとなるわけで、どっちにしろ評価の観点からはプラスにはならないよなとか思ったりも。
まぁ売上第一に考えるのならば、良い宣伝文句なのでしょうが。
実際、本作は『EVER17』のオマージュとの触れ込みだったのだけれど、上記のあらすじにあるように、確かに導入部における設定こそ似てはいるものの、その後に展開されるストーリーは全然異なり、むしろ別の作品に似ているわけでして。
本当にベースにした作品は別にあるけれど、セールスのためにあえて有名な作品の名を持ち出したようにしか思えず、ちょっと疑問に感じてしまいました。
っていうか、安易に『EVER17』と比べる人、釣られ過ぎでしょ、みたいな。
まぁ、自分がショップの店員だったら、こういうのの方がプッシュしやすいのは確かでしょうが。
それに、例えばE17が驚きの真相と怒涛の伏線回収で、ラストに衝撃と爽快感を与える作品であったのに対し、本作は一部伏線回収がなされていなかったりもありますし、それ以上に全てをハッキリさせ爽快感やカタルシスを与えるのではなく、プレイヤーに考えさせる考察系の作品でして。
つまり、そもそも両者はストーリーとしてのベクトルが異なるのであり、本来は比較対象にすらならないはずなんですよね。
方向性が異なるから楽しめるかも好みにより当然変わってくるのでしょうが、とりあえず深海を舞台にしたサスペンスものとしては、個人的にはこちらの方が面白かったかな。
様々な情報や知識を満遍なく散りばめてありますし、読み応えのあるシナリオだとは思います。
ただ、ちょっとシナリオがくどいというのか、小説のような書き方でもありまして。
これは単純に読みにくいと感じる人もいるかもしれませんが、そういう主観的な問題は人によっては重要なんだろうなと思いつつも、個人的にはあまり関係ないと思っています。
むしろ問題なのは、グラフィックやサウンドなどの、ゲームとしての他の要素をあまり考慮していない作りであることで、グラフィック等が貧弱なことと相まって、シナリオだけの作品という印象が強まってしまうことなのです。
上記のあらすじに「生存者を決めるのは、あなたです」とありますが、選択肢もなく一本道で周回する作品ですからね。
尚更、読まされている印象が強くなり、ゲームである必要性を感じなくなってしまうのです。
個人的には、こういう部分は印象が悪くなってしまいますね。
もっとも、後半で一部ゲームらしい仕掛けがありますので、悪い印象は相殺されてはいますけれど。
それと、周回するということもありますし、通常会話がイマイチであることから、読んでいてだれます。
途中ずっとだるくて、終盤だけ盛り上がる、何かそういう真似なくて良い部分だけオマージュ元と似ているようですねw
まぁこの辺は、テキストが気になるのかとか、キャラへの愛着が持てたのかという点などから、個人差はあるでしょうが。
本作は考察が好きな人向けの作品なのでしょうが、更に言うならば、ゲームにおける選択肢と現実の関連性とかに興味のある人だと、更に楽しめるのでしょう。
そのテーマを掘り下げるだけで、幾らでも書けそうですしね。
自分も書こうと思えば書けるのだろうけれど、題材的にまたこれかと既視感の方が強く、気が乗らないので他所に任せます。
ただまぁ、ストーリーやキャラの描写を犠牲にしただけあり、選択肢を意識させるということの盛り込み方に関しては、上手かったように思いました。
だからこそ、キャラ重視の人ではなく、考察好き向けとも言えるのでしょうね。
<評価>
個人的には、得られるものがなかったかなということもあり、総合では低めになっています。
演出やシステムなど弱さという部分だけは同人ゲーらしさがあるのに、本来同人の魅力足りうるべき個性の面が、いろんな作品の継ぎ接ぎ以上の物を感じられず、少しもの足りなく感じてしまったものですから。
また小説っぽさを感じさせるテキストでありつつ、これ小説を良く読む人ほど、得られるものは少ないだろうなと思ったのもありますしね。
もっともこの価格で、このボリュームで、しっかり纏めているわけですから、そう考えるとコスパは良いとも言えますし、佳作以上でも良いのかもしれませんけどね。
とりあえずオマージュ云々は関係ないので、低価格で纏まった内容のノベルゲーをやりたいというならば、その観点からは良いとは思います。
特に上記のようにノベルゲーの構造と現実の関係性について、他の作品とかで触れたり考えたりした経験がない人ならば、得られるものも大きいと思いますしね。
ランク:D(凡作)
Last Updated on 2024-09-23 by katan