『手垢塗れの天使』は2016年にWIN用として、あかべぇそふとすりぃから発売されました。
枕営業をするヒロインの物語ということで、いかにも今っぽい作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
ステージでスポットライトを浴びて輝くアイドル──
そんな子供の頃からの憧れだったアイドルへの夢を叶え、新人アイドルとしてデビューした如月嶺衣奈。
しかし、彼女の思い描く輝く舞台への道は遠く、泣かず飛ばずのまま、たいした仕事もない現状が続いていた。
華々しい活躍をしている同じ事務所のアイドルたちと自分を比べ、差を感じないのにこの状況はなんなのかと憤る嶺衣奈は、事務所のプロデューサーに直談判を行う。
プロデューサーは怒りと焦りを隠せない嶺衣奈を見て、面倒がりながらも1つの言葉を投げかける。
「繋ぎは作ってやる──あとは自分で何とかするんだな」
突き放すようなその言葉をいぶかしむ嶺衣奈。
理解が及ばないまま連れていかれたのは、彼女一人では入ることすらためらうような高級ホテルのレストランだった。
そこで待っていたのは、有名企業の重役である一人の男。
自らを彩るドレス、舐めまわすような視線。
輝かしい舞台に上がるために、今自分が何をしなければいけないのか。
そして、彼女はその身を捧げる決意とともに、『アイドル』としての道を歩き出す──
<感想>
簡単に言ってしまうと、本作は枕営業をするアイドルの話になります。
題材的に抜きゲーと勘違いする人もいるのかなと思いますが、シナリオは和泉万夜さんなので、どちらかというとストーリーを楽しむ作品になります。
一昔前の表現で言えば、ダーク系に分類される作品でしょうね。
今は少なくなったタイプの作品ですし、純愛以外でストーリーも楽しめる作品を求めているのであれば、楽しめる確率は高くなるでしょう。
まぁ良くも悪くも、いかにも「今」っぽい題材ではあるのだけれど、個人的には時代性を反映した作品には好意的であります。
こういう時代性を反映した作品は、数年後には後のユーザーから古臭いとか言われやすいですが、そういうのこそ実は、その時々の先端の題材だったりしますからね。
だから私は好意的なのです。
もっとも、他所で決定的と言える作品が出てしまうと、それ以降の作品は二番煎じとか思われてしまいやすいのですが、まだこの手のジャンルで決定的と言える作品もないので、題材的には狙い目なのだと思います。
それでいて、本作のシナリオは和泉万夜さんですからね。
テキストは安定して楽しめましたし、途中までは面白かったです。
原画も個人的に好きな絵柄でしたし、その点でも満足でした。
ただ、面白くて光る部分もあっただけに、逆に惜しい部分が目立ってしまった作品でもあったのかなと。
まず、ストーリーに関しては、自ら枕営業を行うことを選択し這い上がっていくヒロインが、その目的もキャラクター性もハッキリしていて、単純に読んでいて楽しかったです。
しかし、本作がロープライスの作品であることも関係してか、後半が少し単調であったり、肉付けが薄い部分もあったりで、後半の楽しさは少し弱かったように思います。
次に、個人的には一番の問題点と思う部分でもあるのですが、ゲームデザインに関してですね。
本作は選択肢もなく、完全に一本道の作品になります。
もし本作のヒロインが誰とでも寝るビッチであったならば、一本道でも大した違和感はなかったのかもしれません。
しかし、本作のヒロインは誰とでも寝るビッチではなく、アイドルとしてのし上がっていくために、利用できる奴は利用しようというキャラなのです。
次から次へと偉い役職の人が出てくる、アイドルとして成功するために、こいつとは寝た方が良いのか、その判断はユーザーに委ねた方が良かったのではないでしょうか。
選択肢を用意して、こいつと寝たらこういう結果になった、そいつと寝たらそういう結果になったと、選択に応じた結果が描かれていれば、格段に面白くなったはずです。
単にテキストを読むだけでは、そこら辺のビッチの物語とかわらないですし、目的の下にHをするヒロインの個性も殺してしまいます。
プロデューサーとディレクターのどっちの仕事になるのか分かりませんが、この作品を面白くしたいと思うのであれば、作品外の余計なことに気を回すよりも先に、まずトータルでのゲームデザインこそ考えるべきでした。
本作はグラフィックもシナリオも良いはずなのに、それらの良さをゲームデザインのせいで、活かしきることができなかったように感じました。
また、細かい部分としては、本作には副音声システムがあります。
ヒロインがHの最中に話す言葉とは別に、内心の本音を副音声として聞けるシステムになります。
本作の題材ないしヒロインの性格からは、このシステムを入れること自体は良かったと思います。
私はいつも、必要なところに必要なシステムを入れろと言ってますが、これなんかはまさにそう言えますからね。
ただ、入れるところまでは良かったのですが、使い勝手の悪さから、良さを十分に発揮できなかったように思います。
テキストと音声が一致しないという演出は、エロゲでもたまに見かけますが、最初からそういう演出でも良かったんじゃないかなと、個人的には思うのですけどね。
<評価>
ブランドとしては、違う意味での実験を行うつもりだったかもですし、そのためのロープライス作品だったのかもしれませんが、その実験のためにこの原画とライターを使ってしまったのは、非常に勿体なかったのかなと。
本作をフルプライス作品として企画し、全体のボリュームや分岐などを増やすなどしていれば、目に見えて格段に面白くなっていたはずです。
もちろん、本作の段階でも面白いとは言えるのですが、もっと面白くなることが明確だっただけに、惜しいよな、勿体ないよなと思ってしまった作品でした。
ノベルゲーはストーリーさえ良ければという人もいるでしょうが、そうではないのだと、ストーリーの良さを生かすも殺すも、ゲームデザイン次第なのだと再認識させる作品でした。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2024-09-02 by katan
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