『真説 神谷右京2』は1995年にPC98用として、アルテシアから発売されました。
PC98用としては最後の作品であり、神谷右京シリーズを代表する作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
本作は、真説神谷右京シリーズとしては2作目になります。
もっとも、その前に同人として、「大江戸探偵神谷右京シリーズ」が2作ありますので、それらの作品も含めますと、トータルでは4作目になります。
シリーズの大雑把な紹介は以前にしているのですが、もう一度下に転載しておきます。
「神谷右京シリーズは正式な作品としては、リメイクを除けば、おそらく6作品が発売されたと思います。
『真説 大江戸探偵神谷右京』と『真説 神谷右京2』がPC98で発売され、3~6作目までがWIN用としての発売でした。
その最大の特徴はセミフィクションであり、これはノンフィクションとフィクションとが混ざった作品ということを意味していました。
ノンフィクションとはどういうことかというと、同シリーズのシナリオの原作を担当した藤堂信昭氏は、当時現役の弁護士だったのです。
それで自身が携わった実際の事件を守秘義務に反しない範囲で題材とし、アレンジを加えてゲーム化したのが、神谷右京シリーズだったのです。
まぁセミフィクションと言っても、これがまたややこしいのですけどね。
例えば『真説 大江戸探偵神谷右京』と『真説 神谷右京2』の2つ、つまりPC98版の2つは、確か40%がノンフィクションで、残りがフィクションだったはずです。
それ以降の3~6作目は「真・真説」と呼ばれており、それらは2%がフィクションで、残りはノンフィクションだったそうで。
つまり名称変更や分岐でフィクションが混ざるだけで、それ以外は実話ベースだったということですね。
そして更にややこしいことに、PC98時代には『大江戸探偵 神谷右京』と、『大江戸探偵 神谷右京2』という2作品がありました。
この2作品は『真説 大江戸探偵神谷右京』より前の発売であり、TAKERUという自動販売機だけで販売されていました。
面倒なので、以後はTAKERU版と書いてしまいますが、真説以降が18禁であったのに対し、TAKERU版は一般販売であり、内容もTAKERU版は完全にフィクションで、価格も低価格での発売という違いがありました。
当時のアダルトゲームを掲載した書籍でも、『真説 大江戸探偵神谷右京』以降は載っているのですが、TAKERU版は載っていません。
おそらくTAKERU版は、同人としての扱いだったのでしょう。
シリーズとしても真説からカウントされていますので、TAKERU版は前史的な扱いとなるのでしょうね。」
<感想>
さて、真説シリーズの4作目である『象牙の塔』は、一応は別物として扱われているのですが、実質的にリメイクと考えることもできます。
何故かというと、元となる事件が2作目である本作と同一だからです。
その元となった事件なのですが、これは少し説明が必要となるでしょうか。
現在の貸金業法は改正を経て、2007年からその名称が用いられるようになりました。
元は「貸金業の規制等に関する法律」という名前であり、昭和58年11月1日に施行されました。
いわゆる「サラ金規制法」です。
そして同法施行に伴うかのように、他殺とも自殺ともつかない形で、債務者が死亡する事件が多発するようになります。
本作の被害者もまた、サラ金の債務者であり、右京はその真相に挑むことになるのです。
さて、サラ金に伴う債務整理であるとか、任意整理という言葉が登場し、物語の題材として扱われる辺り、どこかしら時代的なものを感じますが、まぁ普通の推理ADVではあまり見かけない題材でしょうね。
ちなみに、小説の『火車』が92年ですし、その辺の時期には熱い題材だったのでしょう。
もっとも、神谷右京シリーズの場合、後の実質リメイクの「象牙の塔」はもちろんのこととして、本作より前にも同人版の2でも債務整理関連が扱われていましたから、比較的馴染みのある題材とも言えます。
題材自体が推理ADVとしては珍しい上に、上記の様に、当時現役弁護士であった藤堂さんがシナリオを担当しているので、法的な観点から更に専門的に描かれており、他の推理ものとは全然異なる雰囲気となっております。
この傾向は、まだ同人版の1ではそれ程顕著でもなかったのだけれど、同人版の2辺りからハッキリしてきた感じですかね。
ギャグとかにも「法学部あるある」みたいなネタもあり、法律等に全く縁のない人に面白さが伝わるのか、作品の内容を完全に理解しきれるのか分からないというおそれもあります。
また、制度なども現在と当時では異なっているので、今の知識がそのまま妥当するわけでもないのですが、それでも本作では、専門的な部分や馴染みの薄そうな部分には、きちんと用語辞典がありますので、それを読めばストーリー自体は理解できると思います。
本作は、如何せん現実の事件を元にしていますし、他の名作推理ADVのような露骨に盛り上がる展開はなく、人によっては盛り上がりに欠けると感じ、地味に見えるのかもしれません。
また、主人公である右京は親父臭く、よく冗談も言いますので、若いユーザーにうけにくい部分もあるでしょう。
だから他の推理ADVと同じ様な楽しみ方、例えば文字で表現されたストーリー本筋だけを追うとか、主人公の言動だけを追いかけるというのでは、この作品・シリーズの良さは理解しきれないと思います。
すなわち、本作及び同シリーズにおけるサブキャラ(被害者など)は、他の作品のようにストーリーや主人公のために用意されたものではありません。
各キャラが現実にそれぞれの人生を歩んできたわけで、その人にとっては自分こそが主人公なのです。
もちろん、本作自体は右京視点で描かれるわけですし、作品内で描かれるのは一部だけにすぎません。
しかし、だからこそ被害者らが発した少ないセリフの中に、その人の人生観が刻まれているわけでして。
サブキャラの一言一言から深い意味やその奥のバックボーンを感得し、一文一文シナリオをじっくり味わえるという点では、ADVの中でも最高峰の作品ではないでしょうか。
自分自身もそうだったのですが、若い頃はハッタリの効いた派手なストーリーや、トリックのある作品などを凄いと思いがちです。
だからこういう作品はむしろ、年をとってからの方が良さが分かるように思いますね。
このシリーズを今からプレイする人がいるか分かりませんが、もしプレイするのであれば、単にテキストを追うだけではなく、何故そういうセリフを言ったのか、彼女らの歩んできた人生に想いを馳せながら読んでいくと、より楽しめるように思います。
<ゲームデザイン>
シリーズ過去作と比べた場合、おそらく最も改善されたのがゲームシステムなのでしょう。
同人版の2作は、難易度低めのコマンド選択式ADVでした。
PC98の真説1作目もコマンド選択式だったのですが、こちらは難易度が非常に上がっており、同じコマンドを何度も選択する必要がありました。
それを良しとする人も当時は少なからずいたのでしょうが、私自身は総当たりと揶揄されるような徒に面倒なのには否定的です。
したがって真説1は、猟奇性が飛躍的に増したことでストーリー上のインパクトは凄かったのですが、そのゲーム性の悪さが大きなマイナスとなっていました。
他方で本作なのですが、こちらはノベル系ADVとなっています。
したがって、基本的にマウスクリックで読み進めるだけとなります。
また、本作はマルチエンディングであり、選択肢は分岐ポイントにだけ登場しますので、選択肢の出てくる数も少なく、より一層読み進める感覚になります。
当時はノベルゲーも流行していたのですが、マルチストーリーマルチエンディングADVとして、多数の分岐とそれに伴う多数の選択肢がウリにされることが多かったです。
つまり現在主流となっているような選択肢少なめの、ストーリーを読み進めることに重点を置いた作品は少なく、したがって本作のような読み進めることに重点を置いた作品構造の作品は、当時では珍しかったと言えるでしょう。
ちなみに、選択肢は2択であり、間違えるとバッドENDになりますが、当時多かったようなすぐにENDというのではなく、かなり読み進めた後にENDとなります。
攻略という観点からは、選択肢の場面でセーブしておくべきでしょうね。
真説1のコマンド選択式とかは面倒なだけだし、後のシリーズ作品はノベルゲーではあるものの、例えば最後の「贖罪」なんかは、自力クリア困難なほどに難しかったですからね。
ストーリーに集中しつつも、選択に応じて適度に物語が分岐する本作辺りが、ゲーム性という観点からは一番バランスが良かったかもですね。
まぁ、だからといってゲーム部分で大きくプラスになるわけではないですが、シリーズ他作品がゲーム部分でマイナス評価されやすい物ばかりなだけに、それがない本作は相対的にシリーズの中では良い方となるのでしょう。
<グラフィック>
ある意味、一番変動が激しかったのがグラフィックかもしれません。
同人版は、キャラも背景も普通のADVっぽい感じでした。
特徴としてはエルフのADVのように、オブジェなどに細かいアニメーションが加わっていたことが挙げられ、個人的にはそういう動きのある作品は大好きです。
しかし、商業化によって何故か、この演出部分は退化してしまいます。
また、背景は実写を加工したものになりました。
リアル志向の強い同シリーズでは、その手法もありなのでしょうが、動きが減ったことは少なからず残念でもありました。
まぁ、真説1が首チョンパから始まったことで非常にインパクトがあり、それを超えることはないだろと思っていたら、本作ではシルエットでナニをいじるアニメーションから始まり、違う意味で衝撃的ではありましたがw
もっとも、真説1は、背景だけが変更されており、キャラデザは同人版の延長上にありました。
しかしこの真説2では、実写加工の背景に合わせて、キャラデザもリアルっぽく変更されています。
その変更に対する評価は、何を求めるかで意見が分かれるのでしょう。
背景とキャラの一体感とか、総合的な完成度を重視するのであれば、真説1より真説2の方が良いとなるかと思います。
本作の方が違和感なく馴染んでいるのは間違いないですから。
・・・ただ、美少女ゲームと考えた場合には、何とも地味なキャラデザなんですよね。
美少女ゲーム的に可愛いと思えるかという観点からは、真説1までの頃のキャラの方が可愛かったわけで、個人的にはとても複雑な気分でもあります。
<実写>
さて、上記のように、本作の背景は実写を加工したものになります。
そのような手法は、個人的にはあまり好きではない方なのだけれど、本作に対しては特別な思い入れもありまして。
最初はぼかして書いた方が良いのかなと思ったのだけれど、制作協力でバッチリ名前が出ていますし、読めば誰でも分かる内容でもあるので、伏せる理由もないのかなということで実名で書いてしまいますね。
作中では別名になっているものの、主人公の右京は、早稲田大学法学部の出身となります。
早稲田法学部を出て司法試験に合格し、藤堂さんはそのまま弁護士になったのだろうけれど、作中の右京は司法修習を受けずに探偵になったという設定なのでしょう。
一応補足しておくと、司法試験に合格してもすぐには弁護士にはなれず、今なら一年、当時は二年の司法修習期間を経て、その後の、いわゆる二回試験と呼ばれる試験に合格した後に、弁護士・裁判官・検事のどれかになれるのです。
ヒロインの一人である東京地検のハンコも、右京と大学時代の同期ということなので、早稲田の法学部時代の同期ということになるのでしょうね。
そして右京の下でボランティアで働いている美奈子は、現役の学生であり、右京らの後輩になります。
したがって、美奈子は早稲田の学生という設定になるのですが、本作では右京が美奈子に会いに学校を訪れるシーンがあります。
そして法学部の大教室として8号館の301教室が出てくるのですが、実写画像が加工されてぼかしてはあるものの、これが旧8号館の301教室そっくりなんですね。
事務所入り口のボックスの様子なんかもそうですし、見ていると懐かしい気分に浸れる人もいるのではないでしょうか。
ちなみに、その8号館も、老朽化に伴う改築が2005年に終了し、今は立派な新しい建物になっていますからね。
現在の姿しか知らない人だと何も分からないかもですが、法学部の使用していた旧8号館の映像も貴重になっているだけに、当時を知る人には懐かしく映るかもしれません。
余談ですが、旧8号館の301教室は最後の方は冷房もありましたが、その前は冷房がなかったのです。
学生は本格的に暑くなる前に夏休みに入りますので、あまり大きな影響はないかもしれませんけどね。
当時は旧司法試験の試験会場にも使用されていまして。
その旧司法試験の一番の修羅場である論文試験が、7月後半の最も暑い時期にあり、この会場でも行われていたのです。
今の資格試験のように空調が整っているわけでもなく、試験も二日間で計12時間ありました。
しかも、窓の類も、試験中はすべて締め切られてしまいます。
したがって、問題だけでなく暑さとの体力勝負でもあり、過酷な環境の中での闘いでした。
荷物を大量に入れたリュックを背負い、疲労と行列から集団でのろのろと階段を歩む姿には、「ドナ ドナ ドナ ドナ~」という歌詞がピッタリはまったものです。
右京やハンコは既に通った道であり、美奈子もいずれ通る道なのでしょうね。
<評価>
シリーズの持つ独特な雰囲気・長所はそのままに、前作の短所がなくなったということで、トータルとしては素晴らしい作品となりました。
如何せん古い作品ではありますし、いろんな意味で玄人好みな作品なのでしょうが、今になっても他に類を見ない特徴を有したシリーズでもあります。
また、人によっては更に思い入れの深まる作品でもありますので、今でもなお、その魅力は全く色褪せない作品と言えるでしょうね。
ランク:AA-(名作)
Last Updated on 2024-11-02 by katan
コメント