殺人ロマン紀行 恋の長野慕情

1991

『殺人ロマン紀行 恋の長野慕情』は1991年にPC98用として、ハート電子産業から発売されました。

ADVの可能性を広げるという意味で、ゲームデザイン面において見るべきところの多い作品でしたね。

<概要>

ゲームジャンルは、詳しくは後述しますが、ポイント&クリックをベースとした、変則的なADVになります。

古い作品ですので、まずはあらすじから。
主人公はファッション界のトップブランドに勤めるOL。
ある日、自身の勤める会社の社長が失踪してしまいます。
揺れる会社に嫌気が差した主人公は、3人の仲間とともに長野のスキー場に行くことに。
ところが、向かった先は社長の故郷に近い場所であり、やがて社長失踪に絡んだ連続殺人事件に巻き込まれてしまうことになります。

詳しくは以前に簡単なリプレイを用意しましたので、そちらを読んで下さい。
<リプレイ> PC98 殺人ロマン紀行 恋の長野慕情 その1

<感想>

主人公がOLで仲間も皆女性ですから、今のアダルトゲーム的視点で考えると非常に珍しいと感じられるでしょう。
しかもOLで、年齢が高めのお姉さんたちばかりですし。
仲間同士の旅先で事件に巻き込まれるというサスペンスものであり、恋愛要素が希薄な点でも、今とは大きく異なります。
設定面では今のアダルトゲームにはほとんど無いタイプですので、今のエロゲに慣れている人ほど、かえって新鮮に楽しめるかもしれません。
グラフィックについても、キャラは可愛いですし、ますます好印象です。

ストーリーそのものは結構強引なところもありましたし、特に秀でたものでもなかったと思います。
それでも新鮮さがあったことから、純粋なテキストの出来以上に楽しむことができました。

それともう一点、個人的に本作がかなり好きなのには理由がありまして。
例えばADVにおいて、今でも主人公に自分を感情移入させる人はいると思いますが、昔はもっとその傾向が顕著だったように思います。
主人公はプレイヤーの分身であり、主人公≒プレイヤーだったのです。
それが長い年月の間にノベルゲーが普及していき、それに伴い主人公の内面を描く作品が増えるようになり、少しずつ主人公とプレイヤーの分離が図られていって、今日に至るわけですね。
つまり本作が発売された当時は、主人公≒プレイヤーの構図が今以上にはるかに強かったのです。

そこに登場したのが本作で、女4人が主人公ですし、途中で視点が変更されたり、プレイヤーの扱うキャラが代わったり、主人公の内面描写がなされたり、ワイワイと群像劇っぽく盛り上がる光景というのは、従来のADVの構図とは大きく異なり、凄く異質に見えたのです。
当時は男性プレイヤーが多かったのもありますし、主人公≒プレイヤーであるがゆえに、主人公の心理とはプレイヤーの心理であり、そのため主人公の心理を描写するということが非常に少なかった時代でしたからね。
したがって、本作は、従来のADVの構図を完全に消し去る新鮮な存在でもあったのです。
個人的には、そこに本作の魅力を見出したというわけなのです。

<ゲームデザイン>

上記のようにストーリーにおける設定面でも新鮮でしたが、もっと凝っていたのはシステム面でした。

ハート電子、或いは後のインターハートもそうなのですが、ここのブランドの作品には、ちょっと風変わりなゲームが多いです。
この当時は育成SLGを多く作っていた印象が強いのですが、そのハート電子が定番たる推理ADVを作ってみたらこうなった、そして案の定、定番っぽい構造ではなくなったというのが本作なのです。

ゲームジャンルは基本的にはポイント&クリック(P&C)式のADVです。
あちこち画面をクリックするタイプですね。
国産初のP&C式と呼ばれる作品が本作と同じ91年発売とされていますので、本作が元祖でないにしても、ほぼ同時期の作品と言えますし、まだまだ新鮮さは感じられたと言えます。

またRPG風のマップが表示されますので、移動は直接移動させることになります。
こういう形式は例えば恋愛モノとかだと鬱陶しいだけですが、推理モノ、特に足で稼いで進めるタイプの作品には適しているように思います。

これに加えて、ゲームシステム自体ではないのですが、演出というか、見せ方という意味でのシステム面も少し凝っていました。
まずはテキストが縦書きになっていて、和風な本作には合っていましたね。
しかもキャラごとにテキスト欄が別途用意されていました。
縦書きが複数という構造は少し賛否分かれるかもしれませんが、それでも一応は本作だけの特徴とは言えるのでしょう。

また、マルチウィンドウタイプのレイアウトになっていて、必要に応じて複数のウィンドウが用いられ、基本画面の上に大きな絵が表示されたりもしました。

1つ1つを見ると斬新とまで言える部分は少なかったのでしょうが、当時のADVにおいて考えうる、様々な手法が盛り込まれ、場面に応じて用いられていたように思います。
PC98時代の推理物の中でも、含まれる要素の多さは屈指のものでしょう。
したがって、個々の要素を部分的に判断すると斬新とは言えなくても、全体の印象となると、こういうゲームはなかったよなと感じられるのです。

問題はそこからです。
普通はここまで揃っていたならば、面白くなって然るべきだと思うのですけどね。
そこがまぁ、ハート電子クオリティとでも言いましょうか。
WIN初期のインターハートのゲームをよくやる人なんかは、おそらく分かるかと思うのですが、発想は良いのに何でここまで残念な仕上がりになるのかなと。
例えばP&C部分だと、エルフの作品だと、わりとアバウトなクリックでも反応しますし、いろんなところで反応してくれたりもします。
また、その内容も面白いですしね。
ところが本作の場合だと、クリックできる場所が少ないうえに、ピンポイントでクリックしないと反応もしてくれません。
関係ないところをクリックすると、何もないどころか、他を見てくださいと文句を言われる始末です。
万事がこの調子ですからね、その作り込みの甘さのために、いざプレイしてみると、それ程面白いとまでは感じられないのですよ。

<評価>

作り込みの観点からは課題も残りましたが、物語内の必要に応じて適時アレンジし、いろいろやっているという姿勢や工夫は、私はとても良いことだと思います。
ストーリーの設定も相まって、基本的に誰がプレイしても新鮮な感覚で飽きずにプレイは出来るでしょう。

例えば今のノベルゲームでも、仮に同じシナリオなら、カットインが頻繁に入ったり立ち絵が動き回る方が飽きずに楽しめますよね。
それと同じような感覚です。
確かに本作のシステムは、ゲームとしての面白さの追求の観点からは、若干物足りなさも残りましたが、シナリオに応じてシステムや見せ方が変わることにより、少なくとも効果的な演出としての機能は果たしました。
それにより、純粋なテキストの質以上に楽しむことができたのです。

総合的には良作ってところでしょうか。
異質な雰囲気が印象深い作品でしたので、主観的には評価以上に大好きな作品でもありますし、きちんと作りこんでいれば化けたかもしれないだけに、勿体無いゲームでしたね。

このゲームが面白いかと聞かれたら、難しい面もいろいろあるでしょう。
いや、私自身は主観的には名作並にかなり好きなのですが、広く他人に薦める気になるかと問われると判断に苦しむってことですね。
しかし例え同じシナリオでも、少しでも面白く伝えるためにゲームという形式の中で一体何ができるのか、そのために何かをやろうって姿勢やちょっとした工夫は、今でも通じるものが多いと思います。

ADVにとってストーリーはとても大事なもので、それでストーリーの良いゲームが評価されるのは分かります。
でも、ストーリーさえ良ければ満点みたいな風潮は、それはそれでちょっと違うように思うわけでして。
そういう意味では、このゲームから学べることは一杯あるように思うのです。

ランク:B(良作)


恋の長野慕情

Last Updated on 2024-08-21 by katan

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