『君と彼女と彼女の恋。』は2013年にWIN用として、NitroPlusから発売されました。
テーマに関しては、これまでの経験次第で全く見え方も変わってくる作品なのかなと感じた作品でした。
ただ、二者択一とメタ構造、それらを表現するために採り入れたシステムのかみ合わせが致命的に悪く、センスのない作品でしたね。
<概要>
本作は、Alternative(二者択一)ADVと題されていますように、美雪とアオイの二人のヒロインのどちらを選ぶのかという、恋愛もののノベル系ADVになります。
また同時に、その選択の適否を直接プレイヤーに問いかける、メタ的要素の含まれた作品でもありました。
これ、あれだね、セーブ&ロードが自由にできなくて、バグがあって、自己満足なところがあって、短くて、再プレイが困難でこの画面を見るのはおそらく一度きりだろうなって、何か妙に既視感があるなと思ったら、昔のPC98時代のクソゲーと似ているんだ。
またそういうのに限って、見た目(グラ・演出)とかは良かったりするし。
ある意味、懐かしかった。
・・・まぁ、もちろん半分冗談なのですが、半分は本気だったり。
なお、今回は、いつもより長めな上に書いている内に否定的な点が思ったより増えたので、読んでて楽しくはないかもしれません。
<感想>
ストーリー面に関しては、幾つかに分解して考えられるのですが、まずは恋愛ものとしての側面、すなわち2人のヒロインのどちらを選ぶのかということからみていきます。
この点に関しては、正直読んでいて眠かったです。
好きな絵柄ということもあり最初は良かったものの、大した盛り上がりもないためにだれてくるのです。
もっとも、その辺りは、自分に合うか否かという主観的な問題でしかないのでしょう。
だからそれほど大した問題ではありません。
むしろもっと客観的に判断しうるような部分で問題があったのかなと。
まず、本作は1周目が美雪ルートで固定されています。
アオイを狙っていた人ならプレイしていて違和感もあったでしょうが、美雪狙いだとやたら短い作品だったねで終わってしまいます。
ユーザーにはいろんな人がいます。
昔は、その作品の中で最も好きなヒロインをクリアして終わりという人も、少なからずいたものです。ゲームをどう遊ぼうがユーザーの自由ですから、そういう考えも十分ありうるのでしょう。
むしろ恋愛ゲーに関しては、その方が誠実さすら感じます。
そうなると本作は、そのような誠実なユーザーには短い駄作で終わってしまい、その後のギミックに気付かないままになってしまいます。
本作が2周目で他のヒロインを選ぶユーザーを小馬鹿にするのが主目的であれば、あまり問題はないのかもしれません。
しかし、一人のヒロインを大事にすることを主目的にするのであれば、美雪だけを攻略して終わりたいと願うユーザーというのは、本来最も目的に合致したユーザーのはずです。
そのユーザーが楽しみを逃しかねない構造は、はたしていかがなものかと。
作品全体を楽しむには他のヒロインを攻略しなければならず、その時点で一人のヒロインにだけ想いを向けるユーザーの意思は反故されます。
二者択一がヒロインを選び出すことの重要さを意識させたいのであれば、既に選んでいるユーザーに反対の行動を促すような構造自体、自己矛盾を含んでいるように感じてしまいます。
仮にその点はいったんおいておくとしても、1周目の美雪ルートを経ることで、もう一人のヒロインであるアオイよりも美雪への思い入れは高まります。
その後のイベントにしてもそうなのですが、イベントの質・量共に、製作者の美雪への愛情は感じられても、もう一人のアオイへの愛情があまり感じられません。
そもそも、本作はあまりボリュームがありません。
後述するように、メタ的な要素だの何だのと加わってきますので、選択材料としての恋愛に関するイベントは更に短くなります。
しかもキャラはありがちなテンプレキャラですから、そこからきちんと内面を掘り下げる前に選択を迫られるのです。
はたして、それで究極の選択と言えるのでしょうか。
本気で2人のヒロインのどちらを選ぶのか悩ませたいのならば、甲乙付けがたい、とびっきりの美女を2人用意すれば十分なのです。
良い女は度量も大きいですから、二股も浮気も許すって女もいるでしょう。
でも仮に女性の方が許しても、いや俺にはお前しかいないのだと、そう思わせるほどの魅力を有した最高の美女を2人用意する。
たったそれだけでも、プレイヤーは深く悩まされるものです。
ゲームにおいて、二人の内のどちらかを選ぶことを迫る作品はこれまでにもあり、その中で凄いと感じた作品は各自異なりうるかもしれません。
その辺は、完全に好みの問題でもありますから。
だから具体的な作品名は何でもかまわないのですが、少なくともその作品はプレイヤーに悩ませるほどの、大きな魅力を持った女性を2人用意できたということなのでしょう。
アダルトゲームのキャラは見た目はどれも可愛いですからね、数ある中でも自分にとびっきりの美女に見えるかというのは、そのキャラの掘り下げの深さにもかかってくるのだと思います。
それを怠った時点で、この作品は二者択一の本質を見誤っています。
加えて、仮に一人が最高の美女であっても、それだけではユーザーは悩みません。
他方との差があるならば、魅力的な方を選ぶだけですから。
悩むというのは、等価的な魅力を持った存在が2つあり、その中の1つしか選べないから悩むのです。
本作は1周目を固定したり、イベントの質に差異を設けるなど、質的にも分量的にも等価的な存在とは思えません。
本当にヒロイン選びで悩ませたいのなら、こういう偏った作りにするとは思えないのですが。
だからメタ要素など他の部分がメインに見えてしまい、「ヒロインを選択する」ことがオマケに見えてしまうのです。
ついでに、本作に含まれている不意打ち寝取られは、個人的には嬉しかったですが、単純に嫌がる人もいるでしょう。
私のように興奮して喜んでしまうのも、逆に嫌悪するのも、方向性は逆でも主観的な好みで判断するという点では同じです。
しかし他方で、客観的に作品の方向性によって判断する人もいると思います。
その場合、どちらのヒロインを選ぶのかという作品において、不意打ち寝取られが必要だったのかは疑問が残ります。
これもメタ的要素で語られる内容からは意味もあると言えますので、やっぱり二者択一でヒロインを選びだすという目的の作品ではないのでしょう。
その点で、事前の看板に偽りがあるように感じてしまいます。
次に、本作はメタ的構造も有しており、後半ではプレイヤーに直接話しかけてきます。
メタ構造ってだけで、にわかオタクにはありがたがられる傾向がありますが、個人的には今更その構造というだけで評価できるとは思っていません。
もっとも、プレイヤーを物語の中に引きずりこむことは、時として強烈な一体感や、まさか自分も関わるとはという驚きにもつながりうるといえるでしょう。
有用性が認められる場合があることから、メタ構造自体を否定するつもりはありません。
結局は使い方如何ってことですね。
本作の場合、キャラに恋愛ゲームにおけるキャラの役割を重ね、常に露骨にそういう雰囲気を匂わせていますので、そのうち何らかのメタ的要素が絡んでくることは容易に予想できます。
そのため「驚き」という観点からは、少し弱くなってしまいます。
まぁメタ的構造のゲームは初めて触れると衝撃を受けやすいので、初心者には驚きを与えられたかもしれませんけどね。
もっと問題なのはその使い方です。
本作の場合、ヒロインが直接プレイヤーに話しかけることで、セーブ・ロードを繰り返し複数のヒロインに手を出すユーザーを諌めてきます。
経験上、こういう構造だとメッセージ性が強いとか言い出す人が出そうですが、そもそも昔から散々言われた今更な既存の内容をそのまま出されても、そこにライター独自のメッセージなんてないでしょうに。
初心者なら初めて考えたよって人もいるかもしれませんが、古参の方なら今更その説教?と呆れるだけでしょう。
まぁ2chのまとめサイトに対してもメッセージ性が高いとか言い出すのなら、これでもメッセージ性があると言えるのかもしれませんが。
2chでなされる過激な討論をヒロインの口から言わせた方がよっぽど濃いですし、この程度の内容でユーザーが満足すると言うのであれば、その内2chまとめサイトならぬ2chまとめエロゲなんてのも出てきそうですよね。
また、仮に多少のメッセージ性を認めるのだとしても、一流の物書きなら物語内でのキャラの行動を通してこちらに伝えるものです。
それは時に行間を読ませるものであったり、比喩や婉曲的な方法だったりしますが、自然に物語の中に溶け込んでいるにもかかわらず、それでも痛烈なまでに伝わってくるものが優れた作品なのでしょう。
直接こちらに話しかけるなんてのは、本来数段劣る手法でしかありません。
だから、他のクリエイターは、やらないのですよ。
物語内で描けない、直接言わなければ伝えられないのであれば、着ぐるみでも着せて評論会でもやれば十分です。
本作のように新鮮味のない今更な話で直接プレイヤーに説教しても、それは創作物としては最悪の方法でしかありません。
誰だったか忘れましたが、今のユーザーは全く行間を読んでくれない、全部いちいち書かないと理解してくれないと言ったライターがいました。
その時はユーザーを舐めるなとも思ったものですが、こういう手法が凄いと思われるようであれば、ライターに馬鹿にされても仕方ないのでしょうね。
本作ではメタ的要素を通して、選ばれなかった方のヒロインについても考えさせられます。
この辺りは、たぶん人によっては一番熱く語りだすのでしょうが、個人的には無意味に感じるところでもありますし、意味があるにしても昔に散々言われたことと何ら変わらない内容ですので、今更感の方が強くなってしまいます。
まぁ初めて考えたよという初心者の方はいるかもしれませんけどね。
他方で一人を選んだはずなのに他のヒロインも選ぶようなプレイヤーに対し、ヒロインは実力行使で歯向かってきます。
この点に関しては、製作者による1つの意思表示とは言えるのでしょう。
しかし、物語が創作であることは誰でも知っている自明のことです。
嘘なのは知っていても、そこを割り切って感情移入し、まるで本当のことのように楽しむものが物語というものなのでしょう。
だから他のゲームのヒロインは、例え瞬間的で架空のものであっても、プレイヤーにとってその存在は真実にもなりえます。
しかし本作のように最初からゲームのキャラであることを強調し、選ばれなければ終わりみたいなことを言われると、あぁ~あんたは偽物なのだねと嫌でも思わされるわけで。私にとっては今までやったどの恋愛ゲームよりも、極めて存在の軽いヒロインに見えてしまいました。
それと、後半ではエンドレスエイトの如く、似たような光景をループさせられます。
ここはシステム面と相まって単なる作業に感じられ、単純にだるかったです。
<ゲームデザイン>
まずジャンルはノベル系のADVです。
上述のように1周目が美雪限定なので、もしかしたらそれだけで終わり続きに気付かない場合もあるでしょう。
一応2周目に入り、片方のENDを見れば、それで一応終わりなのでしょうけどね。
しかしどうもこの作品は、期間限定のイベントなども含まれているようで、まぁ私は面倒なのでやる気は起きませんけれど、やり込みゲーのように、気になる人は何度もやった方が楽しめる作品なのだと思います。
本作は繰り返して遊ぼうとするプレイヤーを諌めるような内容ですが、ゲームとしては馬鹿正直に誰かのENDを見て終わりという、1回だけで終わるユーザーよりも、繰り返して遊んだユーザーの方が楽しめてしまいます。
言わばインチキしたユーザーの方が楽しめる構造に、矛盾を感じてしまいます。
選択を重視したいのであれば、初回限定イベントを増やすとか、そういう方向性で作った方が良いと思うのですけどね。
次に、これは上述のストーリーとも関連する話なのですが、普通のゲームでヒロインに同じ展開が待ち構えていれば、展開やENDが同じで手抜きとか文句を言われてしまうでしょう。
でも、後戻りできない1度きりの物語というのであれば、他方の展開は知らないはずですからね。
美雪固定からの物語だけではなく、最初にアオイハッピーを迎えた上でのその後の物語を、例え同じような展開でも構わないから入れるべきだったのかなと。
とにかく両者の差を埋めて偏りをなくさないと、このヒロインを選んだというより、消去法で選んだだけみたいになってしまいますから。
それから、本作には既存の多くの恋愛ゲーや、そのユーザーを揶揄した要素があります。
風刺の効いた作品があっても構わないと思いますから、そのような作品自体を否定するつもりはありません。
そしてそのような趣旨であるならば、典型的な電波キャラとか、テンプレな優等生幼馴染キャラを用意することも意義があるのでしょう。
だから揶揄という観点からは、美雪やアオイという存在は意味があります。
しかし本当に恋愛ゲーとしてヒロインの選択で悩ませたいのであれば、テンプレなキャラたちを用意する必要性がありません。
製作者が何を一番重視したいのか知りませんが、「二者択一」と「既存作品の揶揄」の両方を1つにしたのは、組み合わせとして失敗だったとしか思えないです。
この絵で純粋な恋愛ゲームにした方が、よっぽど楽しめたでしょう。
組み合わせから来る違和感という点では、メタ構造とパッケージの関係もあります。
後述するように本作はセーブ・ロードが途中から封じられ、片方のENDを見ればもう片方は楽しめないようになっています。
制限されることで1つの物語しか見られないのであれば、映画やアニメでも構わないでしょう。
でも、「作中で選択させること」が加わることで、ゲームでしか表現できないのだと言われれば、一理あるように思えます。
その点に説得力を持たせたいのであれば、「作中で」という部分を大事にすべきだったのでしょう。
本作はメタ構造により作品の外にいるユーザーも関与させます。
加えてパッケージを開け自分が写る銀紙を見せることで、その時点から物語始まっているように感じさせてしまいます。
単なるメタゲーであれば、パッケージを開けたときから始まってすげぇ~と、単純にそう思えたかもしれません。
逆にメタ要素を廃して作品は作品の中だけで勝負と言われてしまえば、上記の見解もなるほどなと思えたかもしれません。
しかしユーザーを関わらせ、パッケージを開けた段階からと言うのであれば、純粋な作品内で話を終わらせないのであれば、話は別なのです。
作品内に限られないというのであれば、現実も巻き込むというのであれば、似たような経験は幾らでもしているよねって。
人生がやり直しのできないドラマであるという当たり前の話もそうですが、もっと限定して創作物を選ぶときだってそうです。
あの女優の出ているドラマと、この女優の出ているドラマのどちらを見ようか。
あのキャラの出ているアニメに置き換えても、他の物でも何でも良いです。
ブームに遅れたくないから頑張って最初の数話は全部見ても、体力的に時間的に限界があるから、途中でどれを視聴し続けるか選択します。
時間も金もありあまっている暇な方なら全部見るって方法もあるでしょうが、普通の人はどの物語に接するかすらも取捨選択から始まり、途中までは知っていても結末を知らない作品なんて多数あるはずです。
その経験と同じことを現実とリンクさせつつゲームで繰り返されても、決して凄いとは思えません。
少なくともゲームでしか得られない体験とは言えないでしょう。
ゲームでしか得られないことを強調したかったのであれば、勝負はあくまでも作品内ですべきであり、現実と関わらせるべきではありません。
メタ要素を用いた物語を選ぶべきではなかったし、この物語やパッケージとの組み合わせは良くなかったとしか思えません。
また、根本的なジャンル選択の話になるのですが、製作者が純粋にある人物の物語を読ませたいのであれば、ノベルという手段は有効的なのでしょう。
ADVの最初期はコマンド入力式から始まり、そこから選択式など多くの形に派生していきました。
形はいろいろあるのですから、言いたいことに最も適した形を選べば良いのです。
80年代に最初にノベル云々を言い出したときも、これからはゲーム性ではなくストーリーが大事だと考えるから、ストーリーを読ませるのに適したノベルという手段を採ったというわけです。
アダルトゲームにも個性的な主人公はたくさんいますし、その個性を存分に読み取ってもらいたいというのならば、確かにノベルというのは有効的なのでしょう。
しかし、無数のヒロインをとっかえひっかえ攻略する、節操のないプレイヤーに警笛を鳴らしたいのであれば、そもそも主人公≒プレイヤーと感じさせやすいシステムにすべきでしょう。
それは移動させたり能動的に主人公を分身として動かせるタイプのADVでも、或いは恋愛SLGの形でも何でも構いませんが、少なくともノベルより適した形態は他に幾らでもあったでしょう。
何でここでノベルにする必要があったのか、何よりも製作者が狭い檻に閉じ込められているように感じます。
例えば従来のコマンド選択式では駄目だ、だからノベルにするというのも、1つの決断なのでしょう。
10年ほど前に洋ゲーで、従来のADVは死んだ、新しいADVを作ると社長が宣言し、発売後結局大して変わってねぇ~じゃんって少しボコられていましたが、社長の姿勢自体は間違っていないと思うのです。
問題提起だけならユーザーでも誰でもできるわけで、そこから先を形にするのがクリエイターです。
作品発表や宣伝の事前の段階で問題提起をし、その答えを自身の作品で表現する。
その答えに共感が得られれば賞賛されるのだろうし、でなければ上記の社長のように文句を言われてしまうと。
クリエイターも大変だなとは思いますが、そういう世界なのだと思います。
本作は既存の枠内で問題提起をしただけであり、それは事前段階で済ませられるはずだよねと思うわけで。
ノベルゲーに不満があるのならそう宣言しても構わないから、違う形を示せば良いのでしょうに。
「先」の段階にすらも至っていないように感じてしまうから、不満を感じてしまうのです。
まぁあくまでもノベルという枠内での話で考えても構いませんが、本作は途中でセーブ・ロードが封じられます。
もっとも、途中まではセーブ・ロードできますし、封じられた後も中断したり再開できますからね。
実質的な支障は特にないのでしょう。
支障が生まれるとすれば、片方をクリアすれば、もう片方をクリアできなくなるということです。
各自思うことはいろいろあるかもしれないけれど、細かい部分は割り切ってプレイしていると思うのですよ。
現実は後戻りできないのだけれど、ゲームなら1つの結末を見た後に違った結末も見ることができる。
それだって1つのゲーム性なのでしょう。
特に紙芝居と揶揄されがちな今日のノベルゲーにあっては、数少ないゲーム性の1つと言えるのでしょう。
本作はそれを奪っているわけですね。
この点でゲームの利点が奪われてしまっています。
もっとも、後戻りできない体験をさせるよと、例えば完全リアルタイムゲームみたいなのを提示されれば、そういう理念もありだよねと共感するユーザーがついてくるでしょう。
本気でこの題材を扱い、後戻りできないことに正面から挑むのであれば、発売前の宣伝・紹介の時点から言えば良いのです。
何故、ドッキリのような姑息な手段を使うのか。
私は後戻りできない、選択に重みを持たせるという作品もありだと思いますが、こういう正面から挑まない手段が適切とは思えません。
選択の重みという側面から考えた場合、こういう制限して片方を選べば他方は選べないというのが、果たしてゲームとして良かったのかも疑問は残ります。
ここは私の好みかもしれませんが、把握しきれないほどの選択肢・自由度があり、一度見た展開は見たくても二度と見られないくらいの選択の幅があった方が、ここまでくる時間を考えたらこの迎えた機会は最初で最後なのだと、深く考えたものですけどね。
そういう自由さから生じる重みの方がゲームらしく思えますし、唯一であるという本作中の美雪の設定とも合致するように思うのですけれど。
それと私は物語を楽しむのが目的で、その物語を効果的に楽しませるのが、選択肢という手段なのだと思っているのですけどね。
本作の場合は手段である「選択肢」の重みを強調しようと、そのために物語の部分を犠牲にしてしまっています。
キャラの言動などが全部そっちに向かってしまい、何故ヒロインは主人公を好きなのかとか、主人公は何故そこまで頑なに拒むのかとか、物語的に大事な部分が曖昧で、最後の選択に都合良く誘導させられている感があるわけでして。
その時点で目的と手段が逆転し本末転倒な気もしてしまいます。
結局プレイヤーは後戻りできないという名の「ナイフ」を、突きつけられることになります。
確かに、ナイフを突きつけられれば緊張感は増すでしょう。
しかしブス2人を前にどっちか選べと突きつけられても、そこにある緊張感はナイフの怖さからくるもの。
時間が経てばナイフの怖さは覚えていても、選ぶ対象の存在は薄まってしまうでしょう。
魅力的な女性を2人用意するからこそ、そしてどちらかを手放さなければと悩むからこそ、その2人がいつまでも記憶に残るのでしょうに。
それともキャラは一切関係ない、ただひたすら「選択肢」の重みだけを追求したかったのでしょうか。
でもそれなら、ロシアンルーレットでも良さそうな気もしますけれど・・・
もう1つ加えると、そもそも後戻りできないってことで、そんなに選択肢の重みを考え出すものなの?って思いもあります。
まぁ私より年数も経験もある古参の方や、或いは同程度の経歴の方が初心に戻れたよと言うのなら、それはそれで可愛げもあって良かったですねとなるのですけどね。
でも、それに該当する人は決して多数ではないでしょう。
皆、そんなに惰性で舐めてゲームをやっているの?
私は年齢的にも経歴的にも、飽きたのならさっさと引退しろよと言われてしまう世代なのでしょう。
でも、このゲームやって選択肢の重みを考えさせられましたとか、そんな舐めてる奴にだけは、とやかく言われる筋合いはないよなって思いますね。
仮にセーブ・ロードを制限し、後戻りできない手法もありだとしましょう。
別にその手法も完全否定するつもりはありませんから、例えばリアルタイムゲーみたいな必然性であるとか、或いはそこに熱意がこもっていれば、少なくとも私は納得してしまいます。
本作の場合、ノベルゲーという作品の構造上、封じる必要性が感じられないのはまぁ、ここは大目にみておきましょう。
それならそれで、せめて熱意という面でもう少し徹底して欲しかったなと。
例えば過去に、全てのテキストをきちんと読んで欲しいからと、文字スピードの変更機能をあえて取り外したブランドもありました。
セーブ・ロード禁止と同様の便利な機能をあえて外したのです。
結局は余計なことすんなと叩かれる方が圧倒的に多かったのですが、バイナリでもいじらない限りどうにもなりませんので、これはこれで徹底しているのでしょう。
プレイ中にいらいらしたのも確かですが、熱意自体は少しは伝わってきました。
本作は一方のEDを見れば他方は見られないという建前はありますが、再インストールすれば大丈夫で、それどころかセーブデータを退避させれば、それだけでもう片方もできてしまいます。
やっちゃ駄目よと言われて素直に全員が頷くのはお子様までで、18歳以上にもなればセーブデータ退避ぐらい誰でも考えるでしょうに。
別にここで大人の純粋さ云々を問題にするつもりはないですが、少なくとも制作側はユーザーの善意のみに頼りきるのではなく、理念があるなら掲げるだけでなく、きちんと対応しなければ商品として問題があると言われても仕方ないでしょう。
いっそのこと半額で発売して、認証か何かを利用して、本当に片方だけしかプレイできないとかであれば、それなりに評価できたのですけどね。
CGなどから選ばれなかった方が消えることで、徹底ぶりをアピールしたかったのかもしれません。
しかし、上記のストーリー部分とも関わるのですが、そもそも興味のないヒロインのCGなんて後から見ようと思わないですからね。
選択で悩まなかったユーザーにとっては、消えたから何って感じしかしないですし。
それより、先にもっとこだわるべき部分があるだろうと。
ついでに初回がUSBオンリーなのも本作に必然性が感じられない以上、これも自己満足でしかないでしょう。
まだ何かあるかもしれないけれど、大好きという作品でもないのに、これ以上労力を割きたくないので、この辺にします。
<グラフィック>
グラフィックは好みもあるでしょうが、私はこういう絵柄は大好きです。
可愛いく柔らかい丸みを帯びた中にもむちっとしたエロさもありますしね。
この作品、唯一の収穫でもありました。
もちろんエロ重視の作品ではありませんので、ハードなシチュとか、とにかくエロを重視する目の肥えた方には、本作のエロだけでは足りないかもしれません。
しかしこの絵でエロ重視作品を新たに作ればと思うと、その作品ならやりたくなりますし期待したくなります。
また本作の特徴となりそうなのが演出面でして。
強制終了後の再起動までが演出だったりで、そこにセーブデータ改変までもかかわってきますので、これは驚かされた人もいるのではないかと。
ただ、グラフィックが変化する作品ってのもありますし、ここで生じるセーブデータの改変なんてのも既にあります。
使い方は本作の方が上手いかなとも思いますが、新鮮さがあまりないので、衝撃度にも限界があります。
まぁ、仮に初めてであっても、勝手にセーブデータを改変することが良いとは思えないのですけどね。
それこそ制作側が事前に示したルールを自らひっくり返す行為であり、根本的にゲームとして駄目だと思ってしまいますし。
もっとも衝撃度や評価の度合いは各自差があるとは思うものの、ここは長所とは言えるのでしょう。
しかし演出における強制終了を効果的に印象付けたいのであれば、それこそシステムの安定を何より優先させるべきだったでしょうに。
今はパッチが出たので改善されましたが、本作は強制終了するバグもあり、人によってはかなり頻繁にある様子。
それだけでも、バグゲーとしてどれだけ批判されても仕方ないでしょう。
エンドレスエイトよろしく内容面で戻されるは、バグで戻されるはで、人によっては苦痛な無限ループになりかねないでしょうし。
私はバグには寛容な方なので、マイナスへの減点はしませんけどね。
しかし演出で落ちたのだかバグなのだか分からないような状況になってくると、当初演出を評価した点についてのプラス分はかなり消えてしまいます。
<評価>
グラフィック面には良いと思えるところもあったのですが、それ以外、特にストーリーとゲームデザイン面で駄目な作品でした。
特に、メタ視点でプレイヤーに直接説教するなんてのは、創作物としては最低でしょう。
まぁ、百歩譲って、そこは価値観次第だとしても、二者択一とメタ構造の双方を入れようとして、ストーリーが矛盾してしまいっていますし、本作の採用したシステムも、上記テーマを語るうえではベクトルが逆だったりするわけで、食い合わせが非常に悪いのです。
何を考えてこういう組み合わせにしたのか、ただただセンスがなかったとしか思えません。
好き嫌いの分かれる作品というのも当然あり、どれだけ好きという人がいても、この属性が嫌いと言われてしまえば、それは仕方ないなというケースも多々あります。
私はそういう好き嫌いの分かれる個性の強い作品は、その時点での自分の好みとはあっていなくても、
こういうのもあるのかと認めてしまうことも多いのですけどね。
そのせいでギリギリ名作と書いた作品より、良作と1つ下げた作品の方に思い入れがあったり好きだったりと、逆転にも似た現象が多々起きてしまうのですけれど・・・
本作はそれ以前に、どの方面から見ても中途半端だから楽しめないのです。
ここだけを特化してくれればという部分は、幾つもあるのですけどね。
その中途半端さからか全体的に手抜き感があり、他のクリエイターにお披露目会をやったり、パッケージの外装にこだわる暇があるのなら、もっと作り込めたんじゃないかなと。
とにかく、自己満足だけが前面に押し出されたような作品でした。
最後になりますが、これって凄く保守的なゲームですよね。
私は間違っても挑戦作とか意欲作とは言えないと思うわけでして。
未知の分野に挑戦するのであれば、ベテランはいないわけですから、スタートラインは一緒です。
初心者向けと言うとぬるい作品を連想されることもあるのですが、本当に挑戦した作品は同時に初心者向けでもあると思うのですよ。
また、既存の枠ではなく、新規層を開拓する作品のことを言うのだと思います。
今はありふれた萌えゲーだって、最初はアニオタ層を獲得する契機となった、立派な挑戦でもあったのです。
本作を初心者向けと考える人はいるでしょうか?
いないと思いますよ。
ある程度エロゲをやって、エロゲはこういうものだと思い込んでいるような人を対象にしているのであり、完全な新規に向けた作品ではありません。
ちょっと言葉遣いが紛らわしいので、ここから改めて整理します。
まず完全な新規を入門者とし、そこそこ経験した人を初心者とします。
本作はエロゲはこうだという思い込みがなければ通じないため、入門者向けではないのでしょう。
しかし、有名作だけやって勝手に思い込みができたような、そういう人の思い込みを利用する初心者向けなんですよね。
それでいてベテランユーザーには今更それかという程度の既知の内容ばかりで、内容面で新しさを感じさせる作品ではありません。
あぁベテランというのも、言葉がややこしいなぁ。
この場合、年数や作品数は関係ないですから。
ここ10年ほどの同じような構造のエロゲだけを積み重ねても、下手に思い込みをこじらせかねないですから。
数や年数は少なくとも、異なる構造を経て既に考える機会を設けていれば、とりあえずここでは初心者でないという意味でのベテランとしておきます。
いずれにしろ今はまっている、入門者を抜け出た位の初心者を対象にした、極めて内向きな作品なのですよ。
今のお笑い界も内輪ネタで盛り上がって互いに褒めあっているだけ、という批判を見たことがあります。
本作を褒めることはそれと同じことであり、エロゲという枠の中にはまりきった人の中だけで騒いでいるようなもの。
こういう内輪ネタのような作品を、私は挑戦とは全く思えない。
まぁ挑戦や意欲作と思えないだけで、内輪ネタなら内輪ネタでそれに徹した作品ならありなんですけどね。
私も先日まで「SAN値ピンチ」で楽しんでたタイプですしw
でも、そういう作品でもないから、結局どういう方向からも中途半端な作品に見えてしまうのです。
ちなみに、じゃあ初心者なら皆楽しめるかというと、そうでもないのでしょう。
紙芝居とも言われるノベルゲーに全く何の疑問も抱かない人も稀でしょうし、各自何かしら思うことはありつつも、割り切ってプレイし、ストーリーだのキャラ萌えだの求めるものを得ようとプレイしている人も、多いと思います。
そういう人だと、やっぱり楽しめないでしょうね。
本来作品の批判はしてもユーザー批判は駄目なのでしょうが、この作品が半分はテンプレ作品を作る他社とユーザー批判のようなものなので、1つだけ加えておきます。
私は「ぼくのかんがえたえろげのこうぞう」を語りだす人が一番苦手です。
大抵はゼロ年代辺りからのノベルゲーの代表作の共通点にすぎないので、「えろげ」はこういうものだと言われても、それ以外のもあるだろうにと思ってしまうのです。
これはギャルゲ・エロゲの構造・お約束を逆手に取った作品だとか言われても、構造やお約束って何だよ、お前の思い込みでしかないだろと思ってしまうわけで。
でも、そういうことを言い出す人は他人の意見も聞かないことが多いから、言っても話が通じないのですよ。
百聞は一見にしかずではないですが、本作はそんな人の目を覚まさせるのには好都合でして。
これでもやっとけと、もし投稿サイトに点を投じるなら満点つけるかもしれません。
まぁ狭い範囲内だけでも盛り上がれるのなら、それはそれでも良いのかもしれませんけどね。
何か考えるきっかけになったのなら、作品としては駄目でも、そのユーザーにはそれでも十分なのかもしれません。
名作しかプレイしたくないって人もいるかもしれませんが、クソゲーから得られる教訓ってのもあると思いますしね。
ただ、これ以上内側を向いて内部だけで盛り上がり、それでこの先があるのかと閉塞感のような息苦しさを感じた作品でした。
冒頭でPC98時代を思い出したと書きましたが、世間的に評判の悪い作品でも、私は何かやろうとした姿勢の見える作品には、甘いと思われようとも比較的評価しているし、好きなんですよね。
本作は一見すると似ているのだけれど、切り開くのではなく、方向性が完全に内側に向いてしまっているわけで、個人的に最も気になったのもそこなのかもしれませんね。
ランク:E-(駄作)
Last Updated on 2024-11-03 by katan
コメント
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エロゲーは昔からメタやループを縦糸にした自己批評的な作品で溢れかえってたと思うんですが、なんでこの作品を挑戦作みたいに褒める人が多いんでしょうね。 言う通りでむしろ保守的な作品だと思います。
ここまで直球に描いたのは史上初かもしれませんが(それにしたってHAINゲーとかあるけども)、
今作の根本にあるギャルゲー的世界観に対する疑問は大抵のプレイヤーが一度は思った事のある様なありふれた発想であって、
だからこそこれまで誰もやらなかったんだろうなとしか思えません。
なのでこの記事には一つだけ疑問点もあって、「ある程度エロゲをやって、エロゲはこういうものだと思い込んでいるような人を対象にしている」のではなく、
「実際にエロゲをした事はないけど、アニメやネット小説でギャルゲー的世界観に親しんでいて、エロゲはこういうものだと思いこんでる人」が対象で、
それこそが「ぼくのかんがえたえろげのこうぞう」を語りだす人の正体なんじゃないかと思いますね。
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>IVさん
そもそも最初期のADV自体がメタ的な構造なので、メタ的構造をいちいちとりあげるのは、夏って暑いんだぜと言い出すくらいナンセンスなことなんですよね。
ヒロイン問題にしても、古くは89年の『トワイライトゾーン3』から真正面で扱っていますし。
ご指摘のとおり、
> ギャルゲー的世界観に対する疑問は大抵のプレイヤが一度は思った事のある様なありふれた発想であって、だからこそこれまで誰もやらなかったんだろうなとしか思えません
というのは、これはまさにそうだと思います。
あとはまぁ、エロゲって全然知らない人はイメージすらもちようがないので、記事のような記載にしました。
ただ、近年はエロゲを扱っているアニメやラノベとかも出てきていますし、ギャルゲーもエロゲからの移植が多かったりするので、「実際にエロゲをした事はないけど、アニメやネット小説でギャルゲー的世界観に親しんでいて、エロゲはこういうものだと思いこんでる人」というのもいるのかもしれませんね。
もっとも、プレイもしたことないのに、思い込みだけであれこれ語りだすような人の思考回路は、私には理解できないし、理解したくもないですね。