『蝶の毒 華の鎖』は2011年にWIN用として、アロマリエから発売されました。
現時点では、最も楽しめた乙女ゲームでしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
百合子の誕生日に催されたパーティー。
野宮家は子爵とは言え困窮しており、それは精一杯の見栄の宴だった。
娘を深く愛する父が無理をして盛大な祝いをしてくれたのだ。
内情を知る幼なじみの秀雄に呑気なもんだなと揶揄され、集まった華族たちに嘘寒い世辞を言われ、百合子は耐え切れず逃げ出そうとしていた。
舞台は大正時代の東京。
百合子は由緒ある華族の家に生まれながら、呪われた運命に翻弄されてゆく。
<感想>
本作は、いわゆる成人向けの乙女ゲーになります。
乙女ゲームですので、まず第一には女性ユーザー向けなのでしょう。
もっとも、本作はストーリーが優れた作品ですし、Hシーンも女性と男性で行われるわけですから、女性主人公の男性向け作品と大差ないですし、男性ユーザーでも十分にプレイできると思います。
さて本作のストーリーは、概要に書いたように大正時代を舞台としつつ、ミステリー仕立てで進行します。
仕立てというのは、一応事件は発生するのですが、個別EDを見ているうちに真犯人は分かってしまいますし、制作側もあえてそこを強調しようとはしていないと思うからです。
犯人は誰かというよりも、その事件の背後にある人間関係、そこには様々な確執や愛憎劇が繰り広げられるのであり、そういう部分を見て欲しいってことなんでしょうね。
この部分は、端的に言えば凄く良かったですね。
あまり捻ったり奇抜なことをしていないので、一見すると地味に見えるかもしれませんし、その展開は王道ともいえるのかもしれません。
しかし、一見王道風なのについ読み込んでしまうわけで、王道路線が好みでない私が満足したのだから、これは上手かったと言うしかないのでしょう。
ただ、これはストーリーそのものより、テキストとキャラの魅力があったからこその満足感かもしれません。
テキストは耽美かつ流麗な文体で、癖はないとは思うものの、何故か惹きつけられるんですよね。
さりげない一文にとても淫靡さが漂っていたりして、久しぶりにテキストでゾクリときましたよ。
エロゲーのHシーンとかで短い場合には不満もあったりするのですが、短いのが不満に感じるのは1つ1つの文章に魅力がないからであり、だから量も伴わないと満足できないってことでもあるんですよね。
本当に良いテキストであれば、たとえ短くてもグッとくるものがあるわけで、忘れかけていたその感情を思い出しつつ、久しぶりに一文一文を噛み締めるように読んだノベルゲームでした。
本作は単純なボリュームという面ではそれほど多くもないのですが、逆に無駄な水増し文章もなく、ギュッと濃縮されていたように思います。
ここら辺にも好きな物を作ったという作品性が現れており、水増し文章でボリュームを増やすような、最近の商品としてのエロゲーとは異なる気質を感じ取れましたね。
そして何より、キャラが皆生き生きしていたのが良かったです。
主人公は没落華族の子爵令嬢なのですが、大正時代ということもあり活発さも兼ね備えています。
設定としてだけのありきたりなお嬢様や活発さではなく、それらがゲームを通じた行動の端々から伝わってきます。
だからこそ、とても魅力的に感じられるのです。
ルートによっては家の伝統に縛られ、身分差や近親といった恋愛に悩むことになります。
それはそれで十分に良かったのだけれど、他方で女探偵ルートのように活発さが前面に出てくるルートもあり、個人的にはその部分が非常に気に入りました。
まぁ、私の場合、漫画やアニメであった『はいからさんが通る』とか大好きでしたからね、
そういうのが好きなのでしょう。
陰湿でじめっとしたルートもあれば、清涼剤ともなる爽やかなルートがあるという、ルート間の多彩さも魅力なのであり、それによって主人公の人間性にも深みを増したと言えるのでしょう。
また主人公だけでなく、男性陣も良いキャラが多かったです。
一代で成り上がった傲慢な成金男に、妖しさと儚さを併せ持った美麗な兄、幼馴染で真面目な軍人でなおかつ眼鏡に、異国の血が流れたハーフの美形執事、そして使用人である身分違いの園丁。
単純な設定面は、皆が好きそうで、いかにもなキャラが多いかと思います。
でも、これまたテンプレな設定に収まることなく、良く深みが描けていたように思います。
個人的には斯波が好きですかね。
一見するといやみな成金なのですが、そのひた向きで一途な純粋さには心を打たれましたよ。
これらのキャラの魅力を引き出した大きな要因としては、バッドEDの使い方の上手さもあったのでしょう。
そもそも、綺麗にまとまる個別のハッピーEDより、個別のバッドEDの方が印象に残るのも多かったりしますし。
バッドEDは当然不幸な方向に話が進むわけですが、降って湧いた不幸ではなく、愛情の暴走が招いた結果だったりするわけです。
これにより、そのキャラの内面がより一層鮮明に表れてきて、深みが増すわけですね。
ただ、ここは若干注意を要する人もいるかもしれないですけどね。
というのは、バッドでのHシーンは結構マニアックなんですよ。
ちょっと成人向けも気になるかもっていう純情(?)な女子には、ちょっと刺激が強いかもしれません。
乙女ゲーなので絵的には抑えられていますが、男性向けの陵辱モノよりも刺激的なシーンもありますので、男性向けエロゲーに耐性の全くない女性にはきついと思うのです。
まぁ、そのギャップやマニアックさが、個人的には興奮できて良かったのですけどねw
いや、何か最近アダルトゲームやっても反応しなくなってきてね、もう終わったか自分?とか思ったりもしたのですが、久しぶりにニヤニヤしながらHシーンを堪能できました。
そういうわけで、久しぶりにゲームのストーリーで満足できました。
これはね、今の男性向けエロゲー市場の在り様では作れないですよ。
乙女ゲーという市場だからなしえたんでしょうね。
ラノベで富士見や角川に飽き飽きし始めた頃に、『流血女神伝』を読んで衝撃を受けたことがありました。
まさにあんな感じでしたね。
その他の点では、CGも差分抜きで110枚と価格からすれば十分だし、量だけでなく質も満足できました。
また、サウンドも非常にマッチしていました。
特にRitaさんの歌うOPは良かったですね。
さらに、次の選択肢までシーンごとスキップできるなど、システムも十分といえるでしょう。
<評価>
ほぼすべての面で優れた作品であり、総合でも文句なしに名作といえるでしょう。
本作は基本的には乙女ゲーですので、第一には女性が楽しむものなのでしょう。
もっとも、上記のように結構男性向け寄りな構造でもありますし、絡みも男女間ですからね。
これは男性でもかなりいけるように思います。
萌えゲーで満足できている間ならば、あえて手を出す必要はないかもですが、最近のゲームはストーリーが物足りないであるとか、テンプレゲーは飽きたと不満を感じ始めている人であれば、文句を言いながら萌えゲーに手を出すよりも、目先を変えてこういうゲームをやった方が、得るものが多いのではないでしょうか。
ランク:AA(傑作)
Last Updated on 2024-12-16 by katan
コメント
個人的なことなんですが、私は最近、兄にADVゲームを貸す機会が増えました。
兄は乙女ゲームをプレイしたこともなく、そこまでこのジャンルに興味がなかったようなのですが、『蝶の毒 華の鎖』をプレイしたらもの凄く楽しめていたようでした。
ひょっとすると、今まで遊んできたADVゲームで一番面白いかも知れないというレベルだったそうです。
私は、実はまだこの作品は未プレイです。
『月ノ光 太陽ノ影』がとても楽しめたので蝶毒もすぐにでもプレイしたいのですが、たぶん、この作品をプレイしてしまうと、他の乙女ゲームが楽しめなくなる気がしていて。
BLでも『神学校』を最初にプレイしてしまい、他のゲームのハードルが高くなってしまったので、その教訓もあり蝶毒は後にとっておこうかなと考えています。
話は変わりますが、『流血女神伝』を今日、思い切って全巻購入しました。
以前、SNSでkatanさんにおすすめして頂いてから、ずっと帝国の娘以外の本も集めたいと思っていたのですが、全巻集めると結構な金額になるので迷いがありました。
ただ、どうしても続きが気になるし「思い立ったが吉日」迷いは消えました。
ゲームも本も充実した数になりまして、『流血女神伝』を最後に買い物は一旦打ち止めにします。
打ち止めにしないと、たぶん残りの私の人生でゲームや本を消化できるか怪しいもので 笑
流血女神伝を読み終えた時に、またお話ができたら嬉しいです。
>メガドラさん
結局のところ、私も女性向け作品で歴代最高得点はこの作品になります。
また、2011年以降のADVで、本作より上の点数をつけたものは1本しかありません。
それくらい素晴らしい作品だったと思います。
『月ノ光 太陽ノ影』が楽しめたのであれば、本作も確実に楽しめると思いますし、素晴らしい作品とはいえ、もう13年前の作品になるので、なるべく早めにプレイした方が良いかなとは思います。
まぁ、最初に良い作品をプレイしてしまうと、次が困ってしまうというのも分かりますけどね。
そういう意味では、乙女ゲーでは『すみれの蕾』(2009)は早めにプレイした方が良いかもしれません。
乙女ゲーの最高傑作と呼ぶ声もあちこちで聞かれる一方で、様々な作品をプレイすると、あまりその良さが分かりにくくなるタイプの作品ですので。
『流血女神伝』、全巻購入しましたか。
カリエの波乱万丈な人生を、十分に堪能していただければと思います。