『アステカ』は1985年にPC88用として、日本ファルコムから発売されました。
ファルコム最後のコマンド入力式のADVであり、アダルトゲームでもありました。
<ストーリー>
舞台はメキシコの片田舎になります。
マヤ・インカ文明の謎を解き明かすのが目的という、遺跡発掘を題材にした冒険物の作品でした。
私はどちらかというと、ADVは推理ゲームってイメージが強かったのですが、世界的に見れば冒険物こそがADVの王道でもあったわけでして。
もちろん、私も冒険物は好きでしたし、特に本作がテーマとするマヤ・インカ文明なんてのは、それだけでとてもワクワクしてきます。
内容自体はファルコムだけに十分面白かったのですが、本作は、どちらかというとゲーム性重視でもあったので、ストーリー単独で名作足りうるほどでもなかったのかなと。
とはいえ、後述するように本作はアダルトゲームですから、アダルトゲームという範囲の中では抜群に良かったのですけどね。
<グラフィック>
まず、日本ファルコムは、本作の前に発売した『デーモンズリング』で、グラフィックの瞬間表示を実現しました。
知らない人用に補足しますと、当時のADVのグラフィックは、今のようにパッと画面に表示されるのではなく、画面が切り替わる度にいちいちその場で絵を描いていており、それが常識だったのです。
だから画面が瞬間で表示されるってだけでも驚きだったわけですね。
今風に言うならば、ショボイPCでネット上の重いページを開いているような感じです。
もちろん単にインパクトがあるだけでなく、すぐに行動ができるのですから、操作性・快適性が抜群に良く感じられ、テンポも良くなるメリットがあります。
ただ、瞬間表示というと誤解しそうなのですが、瞬間表示にも程度の差はあるわけでして。
今だって、ロード時間の長さで大分変わりますからね。
『アステカ』では、マルチウインドウ機能が付加されたことで描画速度が向上し、その瞬間表示に磨きがかかることとなり、『デーモンズリング』より更に表示が速くなったのです。
舞台が舞台だけに、絵を見ているだけでも楽しかったわけですが、これが瞬間で表示されるのですから、楽しさは更に増すってものです。
グラフィック面に関して、もう1つ付け足しておくと、本作では、劇画っぽい絵でアダルトな画像も表示されることがありました。
この絵を実用に供した人がいるのかは謎ですが、分類としてはアダルトゲーム扱いになるのでしょうね。
<ゲームデザイン>
ゲームとしてのジャンルはコマンド入力式のADVでした。
ここにも特徴が2点ほどありまして、1つ目はコマンドの複数入力に対応していたことにあります。
というのも、従来のADVは、1つの指示しかできませんでした。
つまりコマンドを打つ→反応が返ってくる→コマンドを打つ・・・の繰り返しです。
しかし、このような構造は、トライアル&エラーで試行錯誤しているときは構わないのですが、やることが複数にわたり分かっている場合には、一回に一つのコマンドしか打てないと、少々面倒に感じてしまいます。
しかし、『アステカ』では複数入力で一気に進めることができますので、快適性が増し、面倒さから解放されたのです。
このシステムの発展形というか、システムの理念としては、今日のオートモードに通じるものがあるように思います。
同様に本作の場合、「回想」することで、プレイヤーのこれまでの軌跡を辿ることもできました。
これは、今風に言えばバックログになるのでしょうか。
本作では、まだ十分に使いこなせたとは思えないのですが(なお、私は今でもバックログを不要に感じるくらい使わない派なので、バックログが大事だと考える人には本作でも有効に感じたかもしれないし、ここの捉え方は異論はあると思います)、後に通じる発想が出てきたという意味では興味深いなと思いますね。
もう少し練ったものをもう一本くらいだしてくれれば良かったのですが、入力式はこれで最後だったので残念でした。
ゲームデザインでは、もう1つ特徴的な点がありました。
当時のADVは、いろんな場所に移動し、移動した先でアイテムを入手しながら先に進むことが多かったのですが、本作でも、その比重が高かったんですね。
そして、そのアイテムは購入する場合もあるのですが、予算に限りがあったので、そこら辺でも考える必要があったのです。
この縛りはかなり厄介で、総当り防止の機能も伴い、難易度もかなり高くなりました。
<感想・評価>
総合的では名作としておきます。
ちょっとマイナス判定したくなるくらい難しかったり、良作とするか悩みましたけどね。
ただ、ADVの在り方として、ゲームデザインやシステム的に見るべき所があり、個人的にはいろいろ興味深く感じられたものですから。
まぁ、当時はあんまり意識していなくて、小粒な良作くらいに思っていたんですけどね。
後に良く考えたら、あれは凄かったなと、再評価した感じです。
最後に、光栄の黒歴史とかはよくネタにされるのですが、不思議とこちらはあまりネタにされないですよね。
でもPC88・PC98時代のPCゲーと言えば、真っ先に出てくるのがファルコムでしょうし、名作・良作だらけだったんですよね。
ファルコムの同じ85年の『ザナドゥ』なんかPCゲーの国内売上歴代1位で、いまだにその記録は破られていないみたいですし。
一般ゲーメーカーの大手が、過去にアダルトゲームも作っていたという括りで見た場合、その中で出来の良いものをとなると、むしろこっちを紹介すべきでしょうに。
たまにアダルトゲームの歴史や変遷という趣旨で、各年の作品が数個ずつ紹介される企画を目にすることがあります。
そういうのを見ると、最近の作品は売上よりもユーザの評価が高い物が選ばれがちで、少し前の年代になると、売上の良かった物が選ばれがちです。
更にその前になると、ネタにしやすそうなものが選ばれているので、知らない人には昔はこんな酷いのがあったのかと笑えて良いのでしょうが、選別基準に少し悪意があるよなといつも思ってしまいます。
85年ですと、ネタとして挙げやすく、そして実際に良く挙げられるのは、『マイロリータ』や『天使たちの午後』でしょう。
しかし、ゲームとして優れている作品を選ぶのであれば、『軽井沢誘拐案内』や本作が選ばれるべきでしょうに。
個人的な記事の有用度の判断基準ではありますが、85年で軽井沢や本作を取り上げていないような記事は、ハッキリ言って参考にならないと思うんですよね。
ランク:A(名作)
中古PC-8801 SR mk2ソフトアステカ
Last Updated on 2024-05-27 by katan
コメント
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中高生時代「ベーシックマガジン」の紹介記事で見ていた憧れのゲームの数々が、このサイトを読んでいると色々とよみがえります。しかも、現在のゲームまでカバーされている現役のゲームファンであるというのが驚きです。昔に戻ったというか、昔が今のような気分で、時を忘れて大変楽しませて頂いております。
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ありがとうございます。
少数の作品については熱く語るサイトはあるけれど、
幅広い年代・多数の作品を扱うサイトが少ないことから、
このブログを始めたんですよね。
そのため、(記事の)質より(作品数という)量を重視することになり、
それでも好きな作品は厚めに書いているつもりですが、
どうしても中身の非常に薄い記事も多数ありまして。
時間を見つけては少しずつ修正していっているのですが、
中々最近はその時間も取れないんですよね。
また幅広い年代の作品を扱っていますが、
各作品は当該作品の発売時の状況を前提に書いているつもりです。
そのため、後の作品と優劣の比較をすることはタブーであるとして、
毎回頭の中をリセットして気持ちを切り替えながら書くのですが、
その切り替えに時間がかかるようになってきて、
最近は年を感じてしまいます。
まぁADV・RPG・SLGなどの非アクション系に関しては、
掲載作品数も増えていますし、
カタログ代わりに思い出すきっかけだったり、
新しい作品を知るきっかけとして利用してもらえれば、
こちらも嬉しいです。