『Ash.(アッシュ)』は1994年にPC98用として、姫屋ソフトから発売されました。
姫屋ソフトはアダルトゲームと一般向けが混在していたのですが、本作は一般向け扱いになります。
<感想>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
もっとも、今のように誰かのルートに入って~というタイプではなく、主人公の行動によって物語が幾通りにも枝分かれするタイプのゲームで、つまりはこの頃に急激に増えていったゲームブックタイプの作品ですね。
ノベルゲーム自体は80年代からもあるわけですが、脚光を浴びるようになったのは90年代に入ってからでした。
ただ、当初の私は、ノベルゲームに懐疑的な立場でもあったわけでして。
マルチストーリー・マルチエンドと言えば聞こえは良いのですが、ようはゲームブックですからね。
安く買えるゲームブックで十分じゃんよって思ったのです。
もっとも、全てがゲームブックもどきだったわけではなく、中には何倍もの対価に見合ったものを提供した作品もありました。
この頃の作品に限って見ても、『河原崎家の一族』はアダルトで淫靡な世界を絵でもって示してくれましたし、『かまいたちの夜』は本物の推理作家による本物のミステリーを示してくれました。
これらは従来のゲームブックで得られるものではなく、だからこそ対価の分、或いはそれ以上の価値があったわけです。
さて、本作は、RPGによくあるようなファンタジー世界を舞台とし、主人公は流れの冒険者の1人となります。
そこから自分の選択により様々な職業に転じたりしていくわけです。
ある意味、とってもTRPGっぽいですよね。
プレイしてまず思うことは、雰囲気が良いよねってことです。
絵柄が好みと言えばそれまでなのですが、このグラフィックの感じが好きだったんですよね。
ただ、ここが判断のあやってものでして。
グラフィックが良いのであれば、それを前面に押し出せば長所と言えますし、ゲームブックにはない価値を示すことができるのです。
しかし、画像を見て分かるように、映像の枠はおまけのように小さいです。
このゲームの方針からして、グラフィックは出来るだけ廃してって方針だったんですよね。
だからあえて目立たないようにしたのかもしれませんが、これではグラフィックを十分に堪能することができないし、高く評価もできないです。
それこそ、字面だけで勝負するならゲームブックでも事足りるわけで、PCゲームとしての存在価値が疑われてしまいます。
とはいえ、ノベルゲームは読む時間が大半ですからね、ストーリーが良ければそれだけで満足しちゃうものです。
そもそも、この年は多くのノベル系ゲームが発売されたのですが、ファンタジー物はほとんどなかったわけでして。
本作もそれで興味を持ったわけですが、珍しさがあるものですから、基本的には新鮮な気持ちで楽しめたように思います。
しかし、ストーリーだけで本当に勝負できるほど優れていたかとなると、ちょっと疑問も残るわけでして。
ボリュームもあまりありませんでしたし、ストーリーの分量的にもRPGのそれと大して変わらないでしょう。
ファンタジーもののノベルゲームとしての珍しさはあったものの、TRPGやCRPGとは異なったメリットを出せたかとなると、どうしても疑問が生じてしまいます。
<評価>
総合的には、佳作ってところでしょうか。
否定的なことも多く書きましたけどね。
ただ、これと似通ったゲームはまだないよなって意味では新鮮でしたし、雰囲気が良いこともあって普通には楽しめちゃいましたからね。
たぶん結構好きな人もいると思いますし。
内容的には決して悪くはないし普通には楽しめる、でもゲームブックやTRPGとの違いが何かあるのか、そこに対価の開きを埋めるだけのものはあるのかという疑問は残る、そんな作品の1つでもありましたね。
ランク:C(佳作)
Last Updated on 2024-10-02 by katan
コメント
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これは結構覚えているな
憩いの我が家亭と赤竜亭で赤竜亭を選び「ボウヤのくる所じゃねぇんだ」と言われて笑われながらそのまま立ち去り、我が家亭でアルバイトをしてたら借金だらけの店を押しつけられ…
ゴブリンの王になったり、衛兵の辻斬りに殺されたり、吸血鬼と戦ったり、町はずれの小屋の庭に埋まっているものを掘り起こしたりした。
この主人公基本的にあまり強くないのがリアルだった。
街に来るまである程度腕が立つつもりでいた人的な。
社会に出たらまず最初に学ぶべきは身の程だと思った。
ゲームブックといえばまさにその通りな気がする。
しかし、対価の開きはこれにはじまったものではないような。
当時から既に平均8800円。それに見合う内容のゲームがどれだけあったか…
コストパフォーマンスでは書籍にだいたい負けるんじゃ…
ゲームの利点は自発的に楽しむことが容易な点かなぁ。
ある程度ユーザーの方も協力しないと埋まらない開きか…
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安価で映画のDVDが手に入る現在と異なり、昔は映像作品は高価でした。この頃はレーザーディスクを収集したりもしていましたが、映画だと1万円近くしましたから。どこに価格分の価値を見出すのかは人それぞれかもしれませんが、個人的には上記の理由からグラフィックに力を入れたものは満足度につながりやすかったし、その傾向は古い年代ほど強くなります。
また絵があってそこにプレイヤーの介入できる要素があるとなると、それこそ映画やアニメではできないゲームだけの特権になります。優れた演出に独自のゲーム性が備わった場合には大きな満足度につながりましたし、高い価格に見合うだけの価値を感じ取ることができました。
ここで言うなら佳作というのは元を取れたという意味であり、私は多くの作品で満足しています。だから買い続けるわけですしね。
逆に他媒体で満足できてしまうようなものは、そこに価格分の価値を見出すことはあまりできません。だから必然的に私の評価も低くなりがちです。
例えばストーリーだけが良いという作品もありますが、どれだけストーリーが良くてもそれだけでは傑作には絶対にしていませんから。それこそ本を読めってことです。
ノベル系のゲームに関しては、例えば当初のサウンドノベルなんかに対しては私はかなり否定的です。絵をできるだけ廃して想像力に委ねるのであれば、それこそゲームブックで十分ですから。
このゲームに関しては、コンピューターゲームの枠内という意味においては類似の作品はないでしょう。だから視野をそこに限れば高く評価されることになります。
しかし本分で書いたように、私は本作で得られるものは他媒体で得られると思ったがゆえに辛めになったのであり、辛めになった理由付けで対価の開きを挙げざるを得ないと判断したからあえて書いたまでです。
本分の繰り返しになりますが、この作品の絵とそこから伝わる雰囲気は好きでした。だからここをもっと全面に出していたら、個人的にはもっと評価していたでしょうね。