『trade▼off 完全版』は2012年にWIN用として、The Dungeon In Yarnから発売されました。
アダルトゲームで久しぶりに、「ADV」として楽しめた作品でしたね。
<概要>
詳しくは後述しますが、基本的なゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
いたって平凡な学生、割下惣二は、新たな生活が始まってまもなく、“超能力を発見できる超能力”を持った少女 佐倉夕子と出会う。
テレキネシスやテレポートを使う先輩たち、能力はないが明るく人懐こい夕子の妹のあすみ、アルビノの少女長尾春乃、ノリのいいクラスメイト相川実……などとも交流が始まり、楽しくなり始める。
……そんな折、昨年末から超能力者が犯人ではないかと噂される傷害事件が多発していることを知る割下。
超能力者の存在を身近に知っている割下と相川は、佐倉夕子たち超能力者と今後どう接して良いのか困惑する。
そしてついに事件が発生。犯人の疑いがかけられる春乃。何者かに襲われる相川。
超能力者を探す夕子の本当の理由。
ヒロインと共に超能力を乗り切る、痛快学園長能力ノベルアドベンチャー。
<グラフィック>
もう15年以上前になるのですが、洋ゲーのADVで『アトランティス』(1997)という作品がありました。
世界中でもかなり売れたみたいですが、この手のADVとしては日本でも、かなり売れたのでしょうね。
日本でも3作目まで移植されています。
『アトランティス』の最大の特徴は、実写のような美麗なCGのまま、360度全方向にグルリと見渡せるという構造にありました。
あれは、衝撃的だったな~
ラオックスで体験版をプレイすることができたので、何度も試しに行きましたから。
360度自由に見渡せるっていうのは、本当にそこに自分がいる気になれますし、臨場感も物語への感情移入も全然違ってきます。
これからのADVはこれが当り前になるのだと未来に夢を見ていたのが、今から15年以上前の1997年のことでした。
もちろん、3Dということで言うならば、ポリゴンで立体的に表現する方法もありますし、アクション系とかでは一般的な手法になっています。
確かにアクション系をはじめ、敵の出てくるゲームとか、一歩進むことにも緊張感のあるゲームならば、ポリゴンを用いての3D化は大いに意味があるのでしょう。
しかし純粋なADVの場合、直接移動させることに時間稼ぎ以上の意味がない場合がほとんどで、立体化して実際に移動させても、ゲームが間延びするだけです。
むしろ移動を如何に簡略化させるのか、ストレスを感じないようにさせるのか、ADVの場合はそちらの方が大事になってきます。
だから安易にポリゴンで立体化すべきとも思えないのですが、だからと言ってグルリと全方向を見渡せる臨場感を捨てるのは、ちょっと勿体ないです。
360度パノラマ画像なら、グルリと自由に見渡せつつも、移動の煩わしさとも無縁なわけでして。
少なくとも純粋なADVには、有効な手法だと思います。
世界で最も売れたADVの『MYST』でも、3作目と4作目でこの手法が用いられていますしね。
本作では、視点変更パネルにより、視点を動かすことができます。
全方向360度ではなく、角度は少し狭く限られてはいるのですが、ほぼ全ての場面で上下左右に視点を動かすことができます。
動かせる視点の範囲や操作性の点では洋ゲーよりはるかに劣るので、どうしても不満も残ってしまうのですが、それでもやっぱり良いですね。
自分の目線でゲームを進行できますので、自分が主人公と同化したように感じられ、昨今のノベルゲームより格段に感情移入ができます。
詳しくは後述しますが、この目線変更をゲームにもきちんと活用し、ゲーム性の向上にも貢献させていますし、加えて忍び寄る恐怖を表現するなど演出としても上手く活用しています。
ただ単にシステムを導入するのではなく、複数の使い方により、余すことなく活かしきろうとする姿勢に非常に好感が持てます。
アダルトゲームのグラフィックはワイド化だの高解像度化だのばかり進みますが、それだけが進化の方向性ではないはずです。
恋愛ゲーだって、この目線変更による演出は効果的に使えます。
例えば『六ツ星きらり』のサイティングモードのように、主人公の見るという動作によりヒロインに対する好意を示すなどが挙げられるでしょうか。
ましてや探索要素のある推理ゲーとかでは、あちこち「見渡して」探すという部分とパノラマ画像は非常に相性が良く、私には必須とすら思えるのですけどね。
必要な部分に必要な要素を取り入れる姿勢があるのならば、推理モノにはもっと普及して良いはずであり、だから現状に不満があるわけで。
本作はまだまだ改良の余地はあるものの、それでもこれだよな~こういうゲームを待っていたんだよと、十分な満足感を得ることができました。
まぁ、途中までの体験版が2006年で、詳しくは知らないのだけれど、開発期間はもっと長いようですしね。
ちょっと完成までの期間が長すぎたために、画質がショボく見えてしまうのが少々残念でもありますけどね。
でも、画質が物足りなくても良い演出はできるのだと、現在のアダルトゲームの多くと異なる方向性を示せた点は評価すべきなのでしょう。
<ゲームデザイン>
基本はノベルゲームになります。
つまり普段は読み進めつつ、たまに選択肢が出てくると。
本作はそれに加え、何かを探し出すような場面とかで、画面内のオブジェクトやキャラをクリックさせる要素が加わります。
これは常時クリックできるものではないので、そのためポイント&クリック式のADVとは言えないのでしょう。
ノベルゲーが基本であって、必要な場面にだけ画面クリックの要素を取り入れたということです。
P&Cとして細かいことを指摘することも可能なのですが、野暮ってものですかね。
優れたP&C式ADVより面白さの点で物足りないのも事実だけれども、上述の視点変更と組み合わさることで、視点を変更しないとクリックすべきところを見逃したりしますので、中々に攻略の歯ごたえはあります。
そのため、難易度の高いアダルトゲームを求める人にもオススメです。
それよりも、まずは直接クリックさせた方が良い場面で、画面クリックの要素を取り入れたことを評価したいです。
必要なところに必要なシステムを入れるべきとは常に書いていますが、本作の製作者からはその姿勢が一貫して伝わってくるんですよね。
だからクリックさせた方が良いところはユーザーにクリックさせるし、作中でミニゲームがあるときはユーザーが自らミニゲームをやると。
他にも目線変更で小さいキャラの目線に合わせると好感度が上がったり、Hなところを見てるとHポイントが増して、後のHシーンに影響したり。
全部が完全に機能したとまでは言えないでしょうし、一つ一つはちょっとした工夫程度のものではあるのですが、全体で見ると細部まで考えて作っているなと。
一つ一つは大それたシステムではなくとも、ここはこうする方が良いと思えるところで必要な対応を取ろうとしているわけでして。
あぁ~これはADVを本当に分かっている人が作っているのだなと、国産ADVで久しぶりに素直に感心できました。
<感想>
公式のジャンル名に「痛快学園超能力」とありますが、学園を舞台としつつ、ルートによりサスペンスや異能など変化しますので、わりと何でもありな雰囲気の作品です。
本作のように様々に変化するタイプは一昔前には多かったものの、最近では見かけなくなってきています。
そのため今の流行りの路線とは言えないのでしょうが、逆に一昔前の雰囲気の方が好きな人には向いているのでしょう。
ストーリーそのものは特別秀でているというほどでもないかもしれないけれど、キャラの掛け合いは凄く楽しかったですね。
テンポが良いので、どんどん進める気になれます。
そこにアクセントとしてゲーム性や演出が加わりますので、やっていて、とにかく楽しいって感じられる作品ですね。
<評価>
未完成のままで終わる同人作品も多い中で、時間がかかろうとも完成させたことは、単純に凄いと思いますね。
まぁ、ちょっと遅すぎた発売ということで、本作が同人であることからも、グラフィックの質とか物足りない部分もあるでしょう。
しかし「国産」のADVとして純粋に楽しめた、私が普段から求めていることに近付けたということで、これは名作といえるでしょう。
アダルトゲームの初心者は、自分が欲しいと思う物を買えば良いし、悩んだらランキング上位の作品を買っとけば良いのでしょう。
また現在の主流のノベルゲーがとにかく楽しいと感じられている人ならば、あえて本作をプレイする必要はないのかもしれません。
でも、現状に何かしらの不満がある人、普段プレイしている作品とは異なる切り口に触れて、自分の中の「引き出し」を増やしてみたい人がいるならば、まずはこの作品をプレイすることをオススメします。
本作には、他のアダルトゲームに「ある」物は「ない」かもしれないけれど、逆に他のアダルトゲームに「ない」物が「あり」ます。
それはきっと、プレイした者にとっての新たな出会いとなるはずです。
ランク:A(名作)
Last Updated on 2024-11-29 by katan
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